働き方改革により労働基準法が改正され、2019年4月1日から、従業員に年5日の年次有給休暇を取得させることがすべての企業の義務になりました。
これに対応していくためには、そもそも年次有給休暇という制度がどのような仕組みであるのかを理解したうえ、社内における運用方法を決定しなければなりません。
また、実際に運用していくためには就業規則による規定が必要です。
年次有給休暇って?
年次有給休暇とは、一定の要件を満たす労働者に対して、心身の疲労を回復させることを目的に有給で付与する休暇のことで、その運用方法などについては労働基準法に定められています。
労働基準法では、使用者(事業主や経営責任者など)は労働者に有給休暇を与える義務があり、労働者には原則として自身が希望する時季に有給休暇を取得する権利があることが定められています。
法律で定められた労働者の権利
労働基準法第39条第1項において、使用者は労働者に対して年次有給休暇を与えなければならないことが定められています。
対象となる労働者の要件(雇い入れから6か月後であるなど)も定められていますが、これについては後ほど解説します。
- 労働基準法第39条第1項
使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。
時季は労働者が指定できる
労働基準法第39条第5項においては、使用者は年次有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならないことが定められています。
ただし、労働者が請求した時季に取得させることが業務の都合により難しい場合には、使用者の方で他の時季に変更することが可能になっています。
- 労働基準法第39条第5項
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
請求権の時効は2年
労働基準法第115条においては、労働者の有給休暇の請求権は時効により2年で消滅することが定められています。
このあと説明しますが、年次有給休暇は労働者の勤続年数に応じて毎年定められた日数を付与していくことになっています。
時効の起算日は、この労働者に付与した日になりますが、ある年に付与した日数がその2年後の付与日まで残っている場合には、時効で消滅するということです。
- 労働基準法第115条
この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。
年次有給休暇の対象者と日数
年次有給休暇は、すべての労働者に付与しなければならないわけではなく、雇い入れから6か月を経過しているなど一定の要件を満たす労働者がその対象になります。
この要件を満たす労働者は、基本的に正社員とパート・アルバイト従業員に分けられますが、それぞれ所定労働日数や勤続年数に応じた付与日数が定められています。
年次有給休暇の付与対象者
年次有給休暇の付与対象となるのは、下記①、②の要件をともに満たす労働者になります。
①雇入れの日から起算して6か月間継続勤務していること。 ②上記期間の全労働日の8割以上出勤していること。 ※その後については、継続勤務1年ごとに前1年間の全労働日の8割以上出勤していること。 |
パート・アルバイト従業員についても、この要件を満たしている限り、付与対象になります。
原則となる付与日数
正社員(一般的なフルタイム労働者)に対する付与日数は、雇い入れ日からの継続勤務年月数により、下記のとおり定められています。
継続勤務年月数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月以上 |
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
まず、雇入れから6か月が経過した時点で10日を付与し、その後は1年経過ごとに表に記載の日数を付与しなければなりません。
付与日数は、6年6か月経過時点で最大20日となり、これ以降は毎年20日付与していくことになります。
所定労働日数が少ない労働者に対する付与日数
パートタイム・アルバイト従業員のように1週の所定労働時間が30時間未満である労働者に対する付与日数は、1週または1年の所定労働日数よって異なり、それぞれ、雇い入れ日からの継続勤務年月数により、下記のとおり定められています。
①1週の所定労働日数が4日または1年の所定労働日数が169日から216日
継続勤務年月数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月以上 |
付与日数 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
②1週の所定労働日数が3日または1年の所定労働日数が121日から168日
継続勤務年月数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月以上 |
付与日数 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
③1週の所定労働日数が2日または1年の所定労働日数が73日から120日
継続勤務年月数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月以上 |
付与日数 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
④1週の所定労働日数が1日または1年の所定労働日数が48日から72日
継続勤務年月数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月以上 |
付与日数 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 |
働き方改革で何が変わったの?
2018年6月29日に働き方改革関連法が成立し、労働基準法のほかいくつかの労働関係法が改正されました。
改正事項には、「時間外労働の上限規制」など様々なものがあり、2019年4月1日から企業規模も考慮して順次施行されています。
その中でも、年次有給休暇の年5日取得義務については、2019年4月1日から企業規模を問わず施行されており、速やかな対応が求められています。
年次有給休暇の年5日取得義務
対象となる労働者や求められる対応などは次のとおりです。
対象となる労働者 | 年次有給休暇が10日以上付与される労働者 ※管理監督者を含む。 |
年5日の時季指定義務 | 労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に時季を指定して5日取得させなければならない。 |
時季の指定方法 | 労働者の意見を聴取し(義務)、その意見を尊重して時季を指定するよう努めなければならない。(努力義務) |
年次有給休暇管理簿の作成・保存 | 労働者ごとに、時季・日数・基準日を明らかにした書類(年次有給休暇管理簿)を作成し、3年間保存しなければならない。 |
なお、労働者が自ら申し出て取得した日数や、労使協定で取得時季を定めて付与した日数(このあと説明する「計画的付与制度」によるもの)については、義務化された「年5日」から控除できることになっています。
就業規則による規定は義務!
年次有給休暇の年5日取得義務について、社内で運用していくためには就業規則による規定が必要です。
これは、年次有給休暇などの休暇に関する事項は、労働時準法において、始業・終業時刻や賃金の決定方法などとともに就業規則に必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)とされているためです。
就業規則には、通常の有給休暇に関する記載に続いて、時季指定の対象となる労働者の範囲や時季指定の方法などを記載します。
違反した場合の罰則
対象となる労働者に年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合や、使用者が時季指定を行うことについて就業規則に記載していない場合には、30万円以下の罰金を科せられることがあります。(前者の場合には、人数×30万円が罰金となりますので注意が必要です。)
ただし、違反の事実をもっていきなり罰金を科せられるというわけではなく、まずは是正勧告を受けることが一般的です。
年次有給休暇の計画的付与制度を導入する場合
年次有給休暇について、会社側で時季を定めて取得させる制度としては、年5日の取得義務が導入される前から「計画的付与制度」というものがあります。
この制度によって取得させた年次有給休暇の日数は、義務化された「年5日」から控除できることになっているため、あらためて注目を集めています。
計画的付与制度ってなに?
計画的付与制度とは、労働者の年次有給休暇の付与日数のうち5日を超える分については、労使協定(従業員の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で締結される書面による協定)を締結することで時季を定めて計画的に与えることができるという制度です。
なお、ここで言う「5日」とは、労働者が自由に取得できるように残しておくためのもので、義務化された「年5日」とは切り離して考える必要があります。
3つの付与方式
計画的付与制度には、大きく分けて次の3つの付与方式があります。
①事業場全体の休業による一斉付与方式 | 一定期間、事業場全体を休業にして、全従業員に年次有給休暇を付与する。 |
②班・グループ別の交替制付与方式 | ➀の方式が難しい事業場などで、班・グループ別に交替で年次有給休暇を付与する。 |
③年次有給休暇計画表による個人別付与方式 | 個人の希望を反映した計画表を作成し、それに基づいて年次有給休暇を付与する。 |
従業員の自由度が一番高いのは③になりますが、個別対応になるため、管理が煩雑になるというデメリットがあります。
一般的には、お盆や年末年始、また、暦の関係で休日が飛び石になっている場合に、➀や②を組み合わせて長期休暇とする企業が多く見受けられます。
導入のための手続き
計画付与制度を導入するためには、就業規則による規定と労使協定の締結が必要になります。
就業規則による規定内容および規定例については次のとおりです。
就業規則による規定内容 | 「5日を超えて付与した年次有給休暇については、従業員の過半数を代表する者との間に協定を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的に取得させることとする。」など。 |
労使協定で定める事項および協定例については次のとおりです。(この協定は労働基準監督署へ届け出る必要はありません。)
労使協定で定める事項 | ①計画的付与の対象者(あるいは対象から除く者) ②対象となる年次有給休暇の日数 ③計画的付与の具体的な方法 ④年次有給休暇の付与日数が少ない者の扱い ⑤計画的付与日の変更 |
まとめ
年次有給休暇の年5日取得義務については、すべての企業において2019年度から対応していかなければならず、違反した場合には罰金の適用もあり得ます
まだ就業規則も見直していないような場合には、社会保険労務士などの専門家に依頼して早急に対応することをお勧めします。
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