従業員の意見や環境に合わせて変化する就業規則。
就業規則とは10人以上の会社で必ず定めている会社の中のルールです。策定したら労働基準監督署に届け出をします。
状況の変化に合わせて、内容をつど改定していくことが正しいですが、策定しっぱなしの会社も少なくありません。
あなたの会社はそんな事態になっていませんか?
就業規則を変更するのはどんなとき?
就業規則を変更するのは、社内のルールが変わったときです。それは、従業員たちと相談をし、変更することもあれば、労働に関する法改正により変更することもあります。
- 従業員と相談の結果、変更する
- 労働関係の法改正により変更する
昨今では育児・介護休業法での改定がありましたね。働き方改革も加わり、これからますます働き方は多岐にわたることでしょう。
4つの社内ルールの変更
①固定残業代制度の導入
一定の残業が発生しているとして、割増の労働賃金を支払う制度です。
「みなし残業代」とも言われています。その理由は、残業が発生していなくても、固定として支払うためです。
- 制服に着替える時間(たとえば朝10分、帰り10分)
- 業務開始時間前に出社をすること
上記も本来ならば労働時間とみなされます。
たとえ1日20分の着替えとしても、22日続けば7時間超え。1日の労働時間にも匹敵するのです。
適切な時間を計算し導入することで、従業員の満足度が大きく変わりますね。
②従業員の給与の項目を変更
月給、日給、時給など項目を変更する際には必ず、就業規則も変更します。変更する際に説明を十分行ったとしても、後々に監督署に相談されるケースもありますよ。
そういったトラブルを防止するためにも、個別に労働者と合意を得て、労働契約書・就業規則を変更しておきましょう。
③賃金体系を変更
例えば、経営の悪化などで、年齢や勤続年数で給与額を決定する年功給から、売上高から算出し支払う歩合給に変更するような時のことです。
2019年4月、終身雇用制度と年功序列制度の崩壊がささやかれました。ゆっくりと確実に時代は変わっています。それはわかっているものの、自身の会社で賃金形態を変更すると反発が大きくなりやすいので特に注意が必要です。過去には無理に変えた結果、裁判になった会社もあります。
④始業時刻・就業時刻や休日を変更
工場や加工場などに多いのが、人によって就業時間、労働時間、休日が異なる点です。労働契約書や口頭で確認はしているものの、就業規則には一切の記載がないことがありますね。
始業・終業の時刻は絶対的必要記載事項です。記載がまだの場合は、就業規則を変更しましょう。ただ、人によって始業・終業時刻が違う場合、すべて記載とすることは難しいでしょう。
そのような場合は、代表的な時間を記載し、あとは労働契約書にゆだねるように規定しておくと良いでしょう。休憩時間や休日についても同様です。
従業員の都合で一人、二人の時間が違うならば、就業規則まで変更することはありません。労働契約書で事足ります。
法改正対応時
平成25年:労働契約法の改正
平成25年、労働契約法に大幅な改正が入りました。事の発端は平成20年に起こり、長く尾を引いたリーマンショックの影響があります。株価がガツンと下がり、私たちの生活にもゆっくりと不況の波がやってきたのは記憶に新しいです。
この時に改正された内容は以下の3点です。
- 無期労働契約への転換
- 「雇止め法理」の法定化
- 不合理な労働条件の禁止
要約すると、有期労働契約の者を、契約更新などにより通算5年雇った場合、労働者の希望があれば無期労働契約にしなくてはならないというもの。
この改正は、リーマンショック時に起こった、派遣社員の雇止めやパート・アルバイトの一方的な解雇を防ぐ意味合いがありました。現実には、正社員を雇う余裕のない企業が派遣社員に頼っているのであって、正社員になれる人は限られてしまう事態に。
むしろ、5年経過する前に契約更新をストップ企業が多く、多くの派遣・契約社員が職を失ったり、部署替えがあったりと苦労した改正です。
平成27年:パートタイム労働法の改正
これは、企業におけるパートタイム労働者は重要な存在であるにもかかわらず、正社員との収入の差が大きいために改正されました。
改正のポイントは、
- パートタイム労働者の公正な待遇の確保
- パートタイム労働者の納得性を高めるための措置
- パートタイム労働法の実効性を高めるための規定の新設
仕事内容が正社員と同じにもかかわらず、パートタイマー契約を理由に給与が少ないなどを防ぐものです。厚生労働大臣は、問題のある事業主に対して勧告を行い、これに従わない場合、事業主名を公表できるようになりました。
平成29年:育児・介護休業法の改正
近年の待機児童問題と介護離職問題があり改正されました。
育児については、
- 有期労働者はすでに1年以上雇用されている場合、育児休業が取得できる
- 所定労働時間の2分の1単位で子の看護休暇が取得可能
- 育児休暇の対象が法律上の親子関係から特別養子縁組の監護期間中の子等まで範囲が拡大
以上の3点が改正。
介護については、
- 対象の家族1人に対し、通算93日まで3回を上限に介護休業を取得できる
- 所定労働時間の2分の1単位で介護休暇が取得可能
- 介護のための所定労働時間の短縮措置は介護休業とは別に、3年間の間で2回以上の利用が可能
- 対象家族1人につき、介護の必要がなくなるまで残業の免除が受けられる
以上の4点が改正されました。
助成制度対応時
就業規則変更の流れ
就業規則を整えておくことで、起こりうるトラブルの予防にもなります。
たとえば、SNSへの書き込みについてです。プライベートの情報と会社の情報の区別がつかない従業員により被害を被る会社が多くなってきましたね。あらかじめ会社にかかわる情報の書き込みの一切を禁止しておく、どういった内容を投稿してはいけないのか明確に定めておく等することで危険を減らせます。
ニュースなどで問題になっていることを、他人事と思うのではなく、次は自分の会社で起こるのでは?と危機感を持ち、予防線を張っておくことをおすすめします。
変更内容の検討と経営陣での承認
就業規則を変更する際には、まず担当部署(総務部など)にて変更を含めた草案を作成します。
気を付ける部分は、
- 法律に抵触していないか
- 適用される範囲を明確にしているか(社員、契約社員、パートタイマーなど)
以上の2点です。
出来ることならば草案を社会保険労務士に確認してもらい、問題がないかを見てもらうことをおすすめします。
問題がなければ経営陣に草案を提出し、承認をもらいます。
意見の聴取と意見書の作成
労働基準監督署への提出は、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、ない場合は過半数代表者から意見を聞き、まとめた意見書の提出も定められています。意見書とは、労働者たちの意見のもとに就業規則を作成したという証拠になるものです。そのために書面化しておきます。
決められた書式はありませんが、都道府県の労働局などでフォーマットを用意していることがあります。それらを使うと簡単に作成できます。
変更届の作成と書類の届け出
就業規則全文ではなく、変更部分のみを変更届に記載します。書類は都道府県の労働局でフォーマットを用意していますので、それを使用することでカンタンに作成できますよ。
書き方は変更する条文の番号を書き、条文の変更前と変更後を記載します。前と後を比べることができ、変更した後にも前の条文を確認できるようにしておきます。
作成が終わったら所轄の労働基準監督署や地方運輸局へ提出。
必要な書類については、後述にて詳しく説明いたします。
変更内容の周知
変更が終わりましたら、従業員への周知が義務付けられています。まれに従業員には都合の悪い内容で周知をしない経営者もおりますが、のちのトラブルや不信につながることでしょう。
周知方法には、従業員が必ず見る場所へ張り出したり、社内メールで配信したりする方法が一般的です。この方法で周知しなければならないということはなく、最終的に従業員全員に知ってもらうことが大切ですね。
必要な書類は何?
変更に必要な書類は以下の4つです。就業規則は会社に備え付けておく必要があります。提出用と保管用で2部ずつ作成しましょう。
- 新しい就業規則
- 意見書
- 就業規則変更届
- 新旧対照表(一部変更の場合等)
提出用は労働基準監督署内で保管され、もう1部は受付印を押され返却されます。社内で保管しましょう。
新しい就業規則
内容を変更した就業規則本体です。
一部変更のみの場合は新旧対照表を届出る方法も認められていますが、新しい就業規則を作ることがベターです。また、最新の就業規則として見やすくもなります。
労働基準監督署へ提出する際には、提出用と保管用で2部作製しましょう。
意見書
就業規則の変更について従業員の代表者から意見を聞いた証拠なる書類です。変更する際には必ず添付します。意見を聞くことにより、トラブルの防止にもなりますね。
決まった様式はありませんが、フォーマットは都道府県の労働局で用意しているので、それを活用すると楽に作成できます。書類に代表者から署名と捺印をもらい、変更内容について意見を聞きます。意見が何もない場合は、意見がない旨を記入します。
就業規則変更届
条文の変更内容と変更前を記入します。たいていは新旧で横に並んで記載され、比べることが出来るようになっています。
また、以下の項目さえクリアしていればどのような書式でもかまいません。
- 提出日
- 法人名
- 会社所在地
- 代表者名
- 変更前の条文
- 変更後の条文
しかし、作成に不安がある方は都道府県の労働局で用意しているフォーマットを活用したり、社会保険労務士に相談したりすることをおすすめします。
新旧対照表
就業規則のごく一部を変更する場合に使用します。就業規則そのものを作らず、この新旧対照表のみでも変更は可能です。しかし、枚数が多くなるとどれが最新の就業規則なのかわからなくなります。
作成するときは少し手間ですが、就業規則そのものを作成することをおすすめします。
様式は決まっていません。都道府県の労働局からフォーマットをダウンロードできます。
届出用書類は2セット必要
管轄の労働基準監督署に提出する際には、提出用と社内での保管用の2部必要です。1部だけ作成しないように気を付けましょう。
監督署に提出すると、提出用は監督署で保管となり、社内での保管用は受付印を押され返却されます。必ず保管するようにしましょう。
変更は会社の一存で行えるの?
就業規則の変更は、同意がもらえなくても行うことができます。しかし、使用者が一方的に就業規則を変更しても、労働者の不利益に労働条件を変更することはできません。従業員との信頼関係を壊すことであり、トラブルのもとになります。
就業規則を無理に変えて、裁判になった例もあります。
意見書があれば就業規則の提出は可能
労働者の代表者の意見書さえあれば変更届の提出は可能、そしてたいていは受理されます。これは従業員の意見を聞いて作成することは義務付けられていますが、従業員から同意を得ろとはなっていないためです。
しかし、あまりにも従業員に不利益な内容の場合は、労働局で受理をされても実際には拘束力がない場合もあります。最悪の場合、裁判に発展するケースも。
そうならないためには、変更に対する従業員の理解がカギとなります。
労働協約に反する場合は?
就業規則は、従業員の意見さえ聞けば作成は可能です。しかし、そのような就業規則には効力がなく、無効になったり裁判になったりすることがほとんどです。
効力の強さを順に並べると、以下の通りです。
- 法令(条例や規約)
- 労働協約(労働組合と使用者の労働条件等についての書面の協定)
- 就業規則(社内ルール)
- 個別の労働契約
たとえ、就業規則で勤務時間を10時間にしても、労働基準法では1日あたり8時間以内と定めています。そのため、10時間勤務は労働局が受理をしても、法律的にはアウト!違法です。
労働局が受理することと、就業規則に拘束力があり機能するかは別問題。ご心配な方は社会保険労務士にご相談ください。
一部社員が反対した場合は?
原則として従業員の意見は求められますが、全員の同意書を添付する義務はありません。
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
しかし、あまりにも従業員に不利益な内容だと後に裁判になったり、無効になったりする可能性があります。
就業規則の変更には、変更するだけの理由と合理性が求められます。会社の一方的な判断で変更することはご法度です。
実際の裁判例
就業規則の変更をめぐって実際に裁判になった例としてはクリスタル観光バス事件が挙げられます。
経営不振を理由に買収された観光バス会社。買収後、従業員に一切の通知なく就業規則を変更し、賃金の引き下げ、賃金形態を成果主義に変更しました。従業員の同意はまったく得ていませんでしたが、意見を聞いたということで労働局は受理してしまいます。
その結果、60歳以降の雇用延長も突然打ち切られ、打ち切り後の賃金支払いをめぐって裁判になりました。
本来ならば買収を行っている時点で会社と従業員の信頼関係は薄く、慎重に行うべきことです。
判決は、賃金形態を成果主義に変更する必要性は認められたものの、すぐに導入する切羽詰まった経営状態ではないと判断。原告の従業員が勝訴しました。
トラブルを防止するために
たとえば経営が苦しく就業規則を変えるなどは特に慎重に行うべきです。対象の従業員と繰り返し面談をし、お互いに譲歩できる着地点を探すことをおすすめします。
面談の際にはボイスレコーダーでやり取りの音声を録音しておく、個別に同意書を取るなどしておきましょう。万が一裁判になった際のセーフティーネットになりますよ。
まとめ
就業規則を整備しておくことで、
- 社内ルールを明確化
- 条件を満たせば助成金も受けられる
- 従業員の意見を聞く
- 草案を作る
この記事を監修した社労士
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