失業保険を受け取ると「給与の代わりにもらっているのでそのお金は収入になるのでは?」「確定申告が必要なのでは?」と心配になる方も多いのではないでしょうか。
結論として失業保険の受給金額は税務上非課税であり、確定申告の必要はありません。しかし、いくつかのケースでは確定申告によって還付金を得られる可能性があります。確定申告をするべきかどうかの判断基準について、わかりやすく解説します。
この記事を監修した税理士
越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山
失業保険の受給金額分は確定申告の必要なし
退職してしまうと会社で年末調整を受けることができません。そのため収入があれば確定申告をする必要があります。
しかし失業保険の受給金額は税務上非課税所得であり確定申告の必要はありません。一方で社会保険の被扶養者になるかどうかの判断では収入として扱われるので注意が必要です。
失業保険は非課税所得
失業保険は「雇用保険法第十二条」で税務上課税されないと規定されています。所得税も住民税もかかりません。
そのため失業保険の受給分を確定申告をする必要はないのです。もし他に所得があったり何らかの理由で確定申告をする場合でも、この失業保険の受給分の金額は確定申告書に記載不要です。また税務上の扶養の判断基準になる年収にもカウントされません。
社会保険の被扶養者になる場合は収入の扱い
失業保険は税務上非課税ですが、社会保険の扶養については注意が必要です。社会保険の扶養と税務上の扶養は要件がまったく異なります。
社会保険の被扶養者になれるかどうかは、原則として今後1年間の収入の見込みが130万円未満であるかという基準で判断されます(細かな扶養の判断基準は、所属する健康保険組合等によって異なりますので確認が必要です。また勤務先の規模の要件によっては106万円の基準もあります)。
そしてこの判断基準の収入には、失業給付の金額も含まれます。社会保険の被扶養者は「生計を維持されている者」という考え方のため、失業給付を含めた実質的な収入で判断されることになり、税務上の扱いとは異なるので注意が必要です。失業給付の基本手当日額が3,612円を超えた時点で被扶養者にはなれない健康保険組合が多いでしょう。
失業保険の受給後に確定申告をしたほうがよい3つのケース
失業保険自体は税務上非課税所得であり確定申告が必要ありません。しかし還付金を得られるため、確定申告をしたほうがよいケース、確定申告をすべきケースがあります。
年内の再就職をしておらず年末調整を行えなかった場合
まず年の途中で退職し失業保険を受給して、年末時点ではどこにも勤務せず年末調整をしていないケースです。この場合、確定申告をすると所得税の還付を受けられる可能性が高くなります。
なぜなら退職するまでの給与からは所得税が源泉されているものの、年末調整をしていないので実際の年間の所得に対応する所得税の負担と異なっており、多くの場合払いすぎている状態だからです。
この場合は確定申告をすれば払いすぎた所得税を還付してもらうことができます。保険料控除などの控除がある場合は特に還付になると考えられます。
ケースによっては還付額が小さかったり稀に還付にならなかったりすることもあるので、試算した上で確定申告をするかどうか検討するとよいでしょう。
失業中のアルバイトで収入があった場合
失業保険受給中でもアルバイトをすることができます。働く日数や時間によっては失業保険の金額が減額されたり、支給日が遅れたり受給不可になるので注意が必要ですが、税務上はいずれにしてもアルバイトで得た収入は全て課税対象です。原則として確定申告が必要になります。
失業中に支払った社会保険料を再就職先に通知し忘れた場合
失業保険受給を得て再就職をした場合、年末の時に再就職先に在籍していればそこで年末調整を受けられます。年末調整をすれば基本的には確定申告の必要はないのですが、もし失業中に支払った社会保険料を再就職先に通知し忘れた場合は、確定申告によって所得税を還付してもらえます。
失業中でも国民年金、健康保険の負担はあります。会社の給与から天引きされていた社会保険料は会社側で把握してもらえますが、自分で支払をしたものは会社に通知しないと把握されず、年末調整の時に控除してもらえません。失念しやすいので注意しましょう。
確定申告を行う手順
確定申告は「確定申告に必要な書類を揃える」「必要項目を確定申告書に記入」「確定申告の期限までに提出・納付を済ませる」の手順で行います。ここでは確定申告をスムーズにするために、確定申告に必要な書類の準備や確定申告について確認していきます。
確定申告の必要書類を揃える
確定申告をするには、まず確定申告に必要な書類を揃えることが大切です。書類が不足しているとスムーズに確定申告ができません。
必ず必要な書類 | ・確定申告書
・源泉徴収票 ・印鑑 ・マイナンバー ・運転免許証など本人確認ができる書類や写など |
該当する場合に必要な書類 | ・生命保険料、国民年金保険料などの控除証明書
・還付金を受け取る銀行口座の通帳 |
住所や氏名等が変更になった場合に必要な書類 | ・住民票や運転免許証など
・変更後の氏名と同じ口座名義の通帳 |
確定申告は年末調整とは違うので、年末調整時に会社に提出している「扶養控除等申告書」「保険料控除申告書」「配偶者控除申告書」の用紙は不要です。
用紙は必要ありませんが、生命保険料や国民年金保険料などの控除証明書がある場合は、各種の控除証明書が要ります。生命保険料控除証明書などは再発行を依頼すると時間がかかるので、控除証明書を大事に保管しましょう。
確定申告で還付があった場合は、本人名義の通帳に還付されます。結婚などで氏名が変わり、源泉徴収票と確定申告時の氏名が違う場合は注意してください。確定申告時の名義の口座が必要です。
必要項目を確定申告書に記入
確定申告書の用紙は税務署でもらうか国税庁のホームページから印刷ができます。作成は手書きでも可能ですが、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」を利用して作成した方が簡単でしょう。
確定申告書には住所や氏名、生年月日などの基本情報と給料の収入金額や所得金額などを記入項目があるので、記入漏れが無いようにしましょう。
確定申告の期限までに提出・納付を済ませる
確定申告書は退職した翌年の3月15日までに提出・納付が必要となり、提出や納付期限をすぎると無申告加算税や延滞税などが発生することがあるので、期限までに提出・納付を済ませるようにしましょう。
提出時期 | ・2月16日から3月15日 |
提出・納付期限 | ・3月15日 |
提出方法 | ・書面にて持参や郵送
・e-Taxを利用した電子申告 |
納付方法 | ・納付書を使った現金納付
・ダイレクト納付やインターネットバンキング等を利用する電子納税 ・延納 ・振替納税 |
還付時期の目安 | ・確定申告提出後の約1ヶ月から1ヶ月半程度の期間
・電子申告で提出した還付申告の場合は約2週間から3週間程度の期間 |
確定申告書の提出方法は書面で提出する方法と電子申告をする方法の2種類があります。どちらの方法でも提出が可能なので、自分にあった方法を選択するとよいでしょう。
還付であれば税金の納付はありませんが、納付になった場合、確定した税金の納付が必要です。税金の納付方法は納付書を使った現金納付が一般的ですが、現金納付以外にも電子納税や振替納税などの納付方法があります。
振替納税は事前に申請をすると、申請した口座から引き落としされるので便利な制度です。しかし転居などで所轄税務署が変更になると再度申請が必要になるので、一度だけの申告であれば振替納税を利用しなくてもよいでしょう。
失業保険の受給資格者
失業者の最低ラインの生活を守るために支給される失業保険には受け取るための条件があります。その条件を以下でみていきましょう。
失業保険の受給資格
失業保険を受給するには、雇用保険に加入している人の離職である必要があります。雇用保険の加入対象となるのは、労働者を雇用する事業所で65歳未満で雇用された人で、正社員や、31日以上雇用されており(あるいは雇用される見込みがあり)週20時間以上働くパートタイム従業員が対象です。
この条件を満たしていた人が、離職からさかのぼって2年以内に被保険者であった期間が通算12カ月以上あると、失業保険を受給することができます。会社の事情による離職ややむを得ないと判断される事情による離職の場合は、離職からさかのぼって1年以内に被保険者であった期間が通算6カ月以上あれば失業保険を受給できます。
専業主婦(夫)は基本的に対象外
失業保険の給付は基本的に「今後働く意思がある人」に限られるので、専業主婦(夫)は失業保険の受給対象者になることはできません。
妊娠などで退職した場合
失業保険を受けられる期間は、離職した次の日から1年間という期間が決まっています。しかし、妊娠や子育てを理由に30日間以上職業につけない場合は、特例として、数年たってからでも失業保険を受けられます。
妊娠による退職などの事情を持つ人たちのために、受給延長措置が設けられており、その年数は、最大で4年です。30日以上職業に就けなくなった日の翌日から申請が可能ですので、早めに手続きをしましょう。早期に提出していただくことが望ましいですが、平成29年の申請期間の改正以降、延長後の受給期間の最後の日まで申請が可能になりました。
ただし、申請期間内であっても申請が遅ければ、満額の失業保険を受給できない可能性があるので注意してください。
失業保険と扶養
失業保険は課税対象になりませんが、それは税法上の話です。扶養と一言で言っても、扶養には健康保険や年金の扶養と税法上の扶養があります。この2つの扶養はよく混同されるので違いと、失業保険と扶養の関係についてご紹介します。
扶養に入りながら失業保険はもらえるのか
扶養には健康保険や年金の扶養と税法上の扶養の2つがあり、それぞれ扶養の条件が違います。健康保険や年金の扶養は年収130万円、税法上の扶養は年収103万円が基準です。健康保険や年金の扶養は見込みで判断、税法上の扶養は確定金額で判断になるのがポイントです。
健康保険や年金の扶養は、1日あたり3,612円以上の失業保険の受給になると扶養から外れます。失業保険をもらった時や年収が130万円になると扶養から外れるわけではないので注意しましょう。
一方、税法上の扶養は給与のみの場合年収103万円以下であれば扶養になります。見込みではなく確定で判断するので健康保険や年金の扶養と混同しないようにしましょう。
失業保険の不正受給は確定申告でバレるのか
失業保険の不正受給は当然悪いことですが、確定申告をすることでバレるのかどうか、不正受給の具体例とともに紹介します。
バレる可能性は少ない
確定申告をしても失業保険の不正受給がバレる可能性は少ないです。
確定申告は税務署の管轄であり、申告の内容をハローワークと連携している訳ではありません。このため申告してもそれがハローワークに伝わる可能性は少ないといえるでしょう。確定申告だけでなく、再就職先で年末調整をした場合も同様にバレる可能性は少ないといえます。
今後マイナンバーが普及して税務署とハローワークの連携が取れるようになることも考えられますが、現状はまだといったところです。
不正受給の具体例
失業保険の不正受給には次のようなケースが多いです。
- アルバイトなどの収入を得たが申告しなかった
- 就職したにもかかわらず申告しなかった
- 自営を始めた、またはその準備をしたことを申告しなかった
- 就職日や求職活動の実績を偽って申告した
- 傷病手当金などの支給を受けたが申告しなかった
失業保険は求職中の人が生活費の心配をせずに就職活動をするためのお金です。求職中ではない、職が決まっている、又は収入があって不正に多く金額をもらう、といったことは禁止となっています。
発覚したらリスク大!不正受給はNG
確定申告をすることでは失業保険の不正受給はバレにくいものの、ハローワークの調査や他人の通報などによりバレる可能性は他にいくつもあります。
もしバレた場合にはペナルティとして、以下のような処置が取られます。
- 支給停止
- 返還を求められる
- プラスして受給した金額の2倍の納付が命じられる
返還、納付がなされないときは最悪差し押さえなどの処分もあります。このように不正受給のペナルティはかなり厳しいものになっているので、絶対にしないようにしましょう。
故意だけでなく、過失の場合でもペナルティは厳しいです。就職日の誤りなどで意図せずに不正受給となってしまうこともあるので、気になるところは自己判断せずにハローワークに確認をしましょう。
監修税理士からのコメント
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以上、失業保険受給時の確定申告の取り扱いについてご紹介しました。
失業保険自体は税務上非課税ですが、還付金を得るために確定申告をした方がよいケース、収入があるために確定申告をすべきケースがあります。ご自身の状況を確認し、確定申告をするかどうか検討してみましょう。
確定申告に関して内容や手続面に不安がある方は税理士へ相談することもおすすめです。
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この記事の監修税理士
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