税金の負担を減らすことができる医療費控除は、確定申告のときにぜひ活用したい制度です。
医療費控除は、予防・美容・健康促進のための費用など対象外もあります。一方で通院のための交通費といった、治療のために欠かせない費用は控除の対象です。
この記事では医療費控除の対象になる費用と、対象外の費用、申請方法まで具体的に紹介します。確定申告前にぜひチェックしてください!
また市販薬の購入費を控除できる「セルフメディケーション税制」についても解説します。
この記事を監修した税理士
竹田健司税理士事務所 - 東京都豊島区南池袋
医療費控除とは?控除金額や対象者をチェック
医療費控除とは、家族が病気の治療のために払ったお金の一定部分が、課税対象になる所得から控除される(差し引かれる)制度です。
医療費はときには高額になることがあり、家計の大きな負担になります。その負担を減らすのが医療費控除で、確定申告することで控除を受けることが可能です。
医療費が10万円を超えると控除される
医療費控除では、1年間の医療費が10万円(※)を超えた分を所得から控除できます。※総所得が200万円以下の人は、所得の5%
つまり年収が400万円の方が15万円分(一時金や保険金は対象外)の医療費を実際に払った場合、「15万円-10万円=5万円」が医療費控除額です。年収400万円の方は所得税額が20%、住民税は一律で10%のため、所得税から1万円の還付と、住民税から5000円の減額を得られます。
最高で200万円までが控除対象となるので、家族が大きな病気をして大金がかかった年などは税金の負担を大きく減らすことが可能です。
家族の医療費も対象になる
医療費控除は「生計を同一にする家族」全員の医療費を合算した額で申請します。「生計を同一にする」とは一緒に暮らしていると読み替えることができ、共働きや子どもが就職している場合も対象です。
家族の分の医療費を合わせて、一番所得の多い(課税率の高い)人が申告すると良いでしょう。
医療費控除を受けるには確定申告が必須
医療費控除を受けるには、確定申告をしなければなりません。
年末調整では医療費控除を受けられないため、会社員であっても自分で確定申告を行う必要があります。
医療費控除は、費用が発生した翌年から5年以内であれば申告できます。申告し忘れた年度があったら、領収書などを保管しておきましょう。もちろん1年以内の合算金額が控除対象で、年度をまたがって合算することはできません。
【一覧表】医療控除の対象になる費用、ならない費用
医療費控除の対象になる費用とならない費用を一覧にしました。
【医療控除の対象】 | 【医療費控除の対象ではない】 | |
診察代 |
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入院費 |
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交通費 |
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義手・義足など |
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健康診断 |
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予防注射 | ー |
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美容医療 |
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マッサージなど |
※健康保険が適用される場合(要確認) |
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出産費用 |
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歯科費用 |
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眼科費用 |
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介護費用 |
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入院・治療・通院代は主に控除対象
医療費控除の対象は病院に払ったお金だけではありません。それ以外の、治療に必用不可欠な費用も控除されます。
診察費・治療費は医療費控除の対象
医療費の中核となる、診察費(初診料、再診料、検査料)と治療費(薬代、手術代)は、もちろん医療費控除の対象です。健康保険が適用される医療費の自己負担分はすべて医療費控除の対象になります。
通院のための交通費は医療費控除になる
病院に通うための交通費も医療費控除の対象になります。電車やバスでは通院できないような病気やけがの場合は、タクシー代も控除対象です。
ただし、次の場合は控除の対象外です。
- 自家用車で通院するときのガソリン代、駐車場代
- 定期券で通える範囲内の病院への通院
予防・美容・健康促進関係は基本対象外
治療ではなく予防にあたるもの、健康診断や美容医療は医療費控除の適用外です。ただし治療行為に近い場合は、保険適用されることもある点に注意しましょう。
予防注射や健康診断は控除対象外
予防注射は医療費控除の対象外です。また一般的に健康診断も対象外ですが、重要な疾患が見つかった際は、控除の対象になる場合があります。
なおサラリーマンは会社が健康診断やメタボ診断の費用を負担するので、控除を考える必要はありません。
美容整形、美容皮膚科も基本的に対象外
美容医療にあたる整形やレーザー治療は医療費控除の対象外です。
ただし外傷によってできたあざやシミ、生まれつきあって消えないシミは対象になることもあります。この場合は美容医療というより治療行為にあたるでしょう。
治療のためのマッサージ・ハリ・お灸は要確認
リラクゼーション目的のマッサージや整体、お灸は医療費控除の対象ではありません。ただし治療のために通っている場合が、こちらも医療費控除の対象となるケースもあります。医師や保険会社によく確認しましょう。
出産費用は控除対象
妊娠、出産にかかった経費はもちろん、不妊治療や流産、妊娠中絶の費用も医療費控除の対象になります。
出産の定期検診は医療費控除の対象
出産に関する次のような費用はすべて医療費控除の対象になります。
- 妊娠中の定期検診(交通費含む)
- 流産した場合の手術費、入院費
- 母体保護法に基づく妊娠中絶の費用
- 病院での出産費用(入院費含む)
- 助産師による分娩の介護料
中絶や不妊治療は医療費控除になる
上記の中で少し説明が必要なのは母体保護法に基づく妊娠中絶です。これは「母体の保護以外の目的(経済的な事情など)で妊娠中絶した場合は、医療費控除を受けられない」という意味ではありません。
資格のある医師が法律に違反せずに行った妊娠中絶は、すべて医療費控除の対象になります。しかし、例えば妊娠22週目に入ってから母体が健康なのに中絶するなどの違法な中絶は、医療費控除の対象になりません。
また、子供を作りたいができない場合に受ける不妊治療も医療費控除の対象になります。対象となる不妊治療には、人工授精、体外受精、卵子凍結保存、通院交通費などが含まれます。
緊急時のタクシー代は控除対象
出産に関わる緊急時で電車やバスなどの公共交通機関を使えず、タクシーで病院に向かった場合は、医療費控除の対象となります。
ただし出産のために実家に帰る際の交通費は医療費控除の対象外です。またカルチャーセンターなどでの無痛分娩の受講料も、医療費控除の対象ではありません。
国から支給される出産一時金は出産費から差し引く
出産すると国から42万円の「出産育児一時金」が支給されます。この一時金は個人の手に渡るのではなく、出産した医療機関に直接支払われる仕組みです。
出産費用は通常55万円ほどですが、個人が支払うのはそこから出産一時金の42万円差し引いた13万円ほどとなります。したがって医療費控除に算入できるのは、実際に支払った13万円と交通費などです。
もちろん親戚や友人からもらった祝い金などは差引く必要はありません。勤めている会社独自の規定による出産祝い金も、差し引かなくて大丈夫です。
歯科・眼科は治療行為であれば控除対象
高額になることもある歯の治療。歯や目の治療は、美容目的でなければ健康保険が適用されない治療費も医療費控除の対象になります。
インプラント・入れ歯は医療費控除になる
歯科の医療費で「どっちだろう?」と迷う人が多いのは、全額自費治療になるインプラントです。インプラントは健康保険が適用されませんが、医療費控除の対象になります。
入れ歯も、健康保険が適用されない材質でも医療費控除の対象です。ただし国税局は「一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額」が対象、としているので、あまり高価な素材の入れ歯は対象外と判定される可能性があります。
国税局はその目安として、「現在、金やポーセレンは歯の治療材料として一般的に使用されている」ので控除の対象になるとしています。(国税局ホームページ)
ホワイトニング・美容目的の歯列矯正は医療費控除にならない
美容目的の歯列矯正、ホワイトニングは控除されません。ただし、不正咬合(咬み合せの不良)の治療のためや、発育中の子どもの歯列矯正は控除の対象です。
歯医者さんで奨められることが多い歯石除去の費用は控除の対象外です。
視力回復の手術・治療は控除対象
視力回復のためのレーシック手術は医療費控除の対象です。
白内障手術の先進医療(多焦点レンズ)は、健康保険の適用外ですが、医療費控除の対象になります。
斜視、白内障などの手術後に治療のために短期間使用するメガネ・コンタクトレンズの費用も控除されます(医師の処方箋が必要)。
普段使用するメガネ・コンタクトは対象にはなりません。
介護保険適用の介護サービスは主に控除対象
介護にかかる費用でも医療費控除を受けられるケースがあります。主に、介護保険を適用できる介護サービス費用が対象です。
医療費控除対象となる介護サービス
医療費控除を受けられる介護費用には、次のようなものがあります。
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ただしこれらすべてが無条件で医療費控除の対象というわけではありません。たとえば以下のように、それぞれ条件が設定されています。
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一定の施設や居宅サービスなども対象
上記の施設介護サービス代と居宅介護サービス代について、詳しく見てみましょう。
1、施設介護サービス代
【介護費・食費・居住費として施設に支払った金額の半分が医療費控除対象】
【介護費・食費・居住費および診療や治療に必要な特別室(個室など)の使用料として施設に支払った金額の全額が医療費控除対象】
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2、居宅介護サービス代
医療費控除の対象 | 医療費控除の対象にならない |
【A:医療系サービス:自己負担額の全額(利用限度額を超えた分も含む)が控除対象】
【B:福祉系サービス:Aと併せて利用する場合、利用限度額内の負担額が控除対象】
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医療費控除を確定申告する方法
実際に確定申告をして、医療費控除を受けるための流れを4ステップで紹介します。ここでは給与所得のある会社員を例に見ていきましょう。
確定申告に必要な書類を用意
医療費控除を確定申告で申請するには、次の書類を準備しましょう。
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確定申告書・医療費控除の明細書は、税務署または国税庁のHPからダウンロードして取得しましょう。また「確定申告書作成コーナー」を利用する場合は、ネット上で作成できます。
「医療費控除の明細書」とは医薬品購入のレシートや病院の領収書などをまとめて作成する書類です。医療費の金額や病院名などを記載します。
「医療費通知書(医療費のお知らせ)」は健康保険組合など、医療保険者が発行する書類です。医療費通知書がある場合、医療費控除の明細書の記入を省けるケースがあります。
給与所得者の場合、源泉徴収票も用意しておきましょう。
確定申告書・医療費控除の明細書に必要事項を記入する
源泉徴収票に沿って、確定申告書に給与所得などを記入していきます。詳しくはこちらをご確認ください。
医療費控除の明細書にも、領収書を確認しながら氏名や病院名称、費用などを記入します。詳しくはこちらをご確認ください。
また「確定申告書作成コーナー」を利用すれば、画面上の案内に従うだけで入力が完了しますよ。
税務署へ書類を提出する
書類を作成し終えたら、所轄税務署へ確定申告書と医療費控除の明細書を一緒に提出します。控除のための還付申告のみの場合は、費用発生の翌年1月1日から5年間であればいつでも申請可能です。なお個人事業主などが確定申告と同時に行なう場合は、2月16日~3月15日の間に行いましょう。
確定申告書の提出方法は次の3つです。好きな方法を選びましょう。
(1)税務署へ直接出向いて提出する
(2)税務署へ郵送して提出する
(3)e-Tax(電子申告)
税務署に出向く時間と手間がかかってしまいますが、確定申告書の書き方でわからないところを直接聞けます。
税務署へ出向く時間と手間がかからず、税務署の開庁時間を気にする必要もありません。一方で、郵送にかかる費用(郵便代)がかかってしまいます。
PCやスマホを使って、自宅から確定申告書を提出できます。期間中であれば24時間いつでも提出できますが、マイナンバーカードやカードリーダー、e-Taxの使用申請などの事前準備が必要です。
還付金を受けとる
税金の還付がある場合は申請後1~2か月後に、指定した口座へ還付金が振り込まれます。また住民税の減額がある場合、申告した後の6月より、住民税に反映されるでしょう。
セルフメディケーション税制とは?
セルフメディケーション税制とは「処方箋なしで買える市販の薬の購入費」を医療費控除の対象として認める制度です。
たとえば花粉症の薬である抗ヒスタミン剤を、病院でもらう人もいるしドラッグストアで買う人もいるでしょう。この場合、病院でもらう人は医療費控除、ドラッグストアで買う人はセルフメディケーション税制の対象となります。
「軽い病気なら病院に行かずに市販の薬で治そう」という人が増えれば、国にとっては健康保険の財政負担を減らすことができるため、2017年に制定されました。医療費控除と同様に、確定申告をすることで控除を受けられます。
1万2000円を超えた分が控除される
医療費控除では10万円を超えた金額が控除されますが、セルフメディケーション税制では1万2000円を超えた分が控除されます。適用の条件がぐっと下がるのです。
1年間の医療費の自己負担分が10万円を超えることはあまりなかった人でも、セルフメディケーション税制なら活用できる機会が増える身近な税制だと言えます。
定期検診を受けていることが条件
医療費控除でセルフメディケーション税制を選ぶためには、会社や健康保険組合が実施する定期検診やがん検診を受けていることが条件に定められています。
セルフメディケーション税制には「健康管理や病気の予防に一定の取り組みをしている人に適用される」という趣旨があるためです。
自営業の人なら自治体から案内が届く定期検診やがん検診がこれに当たります。
約1,800の市販薬が対象
セルフメディケーション税制の控除の対象になる市販の薬は、厚生労働省が認定した約1,800の商品です。薬の種類でいうと「スイッチOTC医薬品」(医師による処方薬からドラッグストアで購入できるOTC医薬品に転用された医薬品)が該当します。
厚生労働省はこの対象商品をホームページの「セルフメディケーション税制対象品目一覧」で公開しており、かつ、対象標品にはパッケージに次のようなマークが印刷されているので、店頭でも確認することができます。
また購入したときのレシートにも対象商品であることが明記されており、申告するときはこのレシートが必要になるので大切に保管しておきましょう。
対象になるのは病気を治す薬で、サプリメントなど健康増進や病気予防の商品は対象外です。
【注意】医療費控除と併用できない
セルフメディケーション税制は医療費控除の特例として位置づけられており、医療費控除と同時に申告することができません。どちらか有利な方を選んで申告しましょう。
一般的に言うと「できるだけ病院には行かず、軽い病気は市販の薬で治す」という家庭はセルフメディケーション税制を選択する方が有利です。
家族に小児や高齢者がいて病院にかかる機会が多いという家庭は、従来の医療費控除が有利になる可能性が高いでしょう。
【注意】控除額の上限は8万8千円
セルフメディケーション税制の控除額の上限は88,000円です。めったにないことでしょうが、1年間に10万円を超える対象薬品を購入しても控除されるのは88,000円だけである点に注意しましょう。
監修税理士のコメント
竹田健司税理士事務所 - 東京都豊島区南池袋
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