確定申告で医療費控除を適用すれば、個人事業主はもちろん、会社員や年金受給者でも税金の還付が受けられる可能性があります。とはいえ必要書類の作成を難しく感じる方も多いのではないでしょうか。
「医療費控除をスムーズに申請したい」あなたのために、医療費控除の明細書や確定申告書の書き方をわかりやすく解説します。
この記事を監修した税理士
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
医療費控除の必要書類
医療費控除を受けるためには「確定申告書」はもちろん、「医療費控除の明細書」や「医療費のお知らせ」などの各種書類が必要です。準備をスムーズに進めるためにも、不足している書類がないかどうかを確認しながら全体の流れを確認しておきましょう。
1.医療費控除の明細書【記入・提出が必要】
医療費控除を受けるには「医療費控除の明細書」を記入したうえで、確定申告書に添付して提出しなければなりません。
「医療費控除の明細書」は、支払った医療費の金額と、保険などで補填された金額を集計し、医療費控除の対象となる金額を計算する書類です。そしてその金額を確定申告書の第一表に転記します。
「医療費控除の明細書」の用紙は国税庁の下記URLからPDF形式でダウンロードできます。
2.医療費のお知らせ(医療費通知)【利用した場合は提出が必要】
「医療費のお知らせ(医療費通知)」は医療機関に支払った医療費の額などを、健康保険組合等が保険加入者に通知するものです。
「医療費のお知らせ」には一定期間の受診記録がまとめられているので、合計金額を「医療費控除の明細書」の「1医療費通知に記載された事項」に転記します。支払った件数ごとに記載する必要がなくなるので手間を大きく省けます。
なお「医療費のお知らせ」を「医療費控除の明細書」の作成に利用した場合は、確定申告書に添付する必要があります。添付するだけでこの書類に何かを記載するものではありません。
利用するためには6つの記載事項が必要
確定申告に利用するためには、医療費のお知らせの書類に下記の事項が記載されているものでなければなりません。
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利用する際にはこれらの記載事項があるかどうか確認しておきましょう。
受信記録の期間に注意
「医療費のお知らせ」は1月から12月までの1年間の受診記録がすべて記載してあることが少なく、途中月までのことが多いです。発送日や頻度も加入している各健康保険組合等によって違います。
医療費控除は12月までの支払分が対象です。医療費のお知らせに載っていない分は、「医療費控除の明細書」の「2医療費(上記1以外)の明細」の欄に記載しましょう。
3.確定申告書【記入・提出が必要】
「医療費控除の明細書」で計算した医療費控除の金額を「確定申告書」に転記し、提出します。
確定申告書は確定申告を行なう際に必ず記入と提出が必要です。確定申告書は以下の国税庁のページからPDF形式でダウンロードできます。
4.源泉徴収票【提出不要】
会社員の方など「源泉徴収票」がある方は必ず保管しておきましょう。確定申告書に添付して提出する必要はありませんが、内容を見て確定申告書に数字を転記しなければなりません。
源泉徴収票は給与の支払者が発行する書類で、1年間の給与収入の金額、源泉所得税の金額などが記載されています。
給与の他にも退職所得、公的年金等の源泉徴収票もあります。年金受給者が医療費控除を受ける場合には公的年金等の源泉徴収票が必要ですので保管しておきましょう。
5.医療費の領収書やレシート【提出は不要だが5年間保存が必要】
医療費の領収証やレシートも、必ず保管しておきましょう。これがないと医療費がいくらかかったか集計できません。確定申告書への添付や提出は不要ですが、確定申告期限から5年間の保存が必要です。
領収証やレシートをもとにして「医療費控除の明細書」の「2. 医療費(上記1以外)の明細」に記載をします。前述したように医療費のお知らせ(医療費通知書)に記載があるものはこちらを利用できますが、その場合は領収書の分は記載しません。二重で記載してしまうことのないように注意しましょう。
該当する方のみ必要な書類【該当者のみ提出が必要】
以下の費用について医療費控除を受ける場合、該当する書類を確定申告書に添付して提出しなければなりません。
医療費控除を受ける費用 | 提出が必要な書類 |
寝たきりの人のおむつ代 | 医師が発行した「おむつ使用証明書」 |
温泉利用型健康増進施設の利用料金 | 温泉療養証明書 |
指定運動療法施設の利用料金 | 運動療法実施証明書 |
ストマ用装具の購入費用 | ストマ用装具使用証明書 |
B型肝炎患者の介護に当たる同居の親族が受ける同ワクチンの接種費用 | 医師の診断書 |
白内障等の治療に必要な眼鏡の購入費用 | 処方箋 |
市町村又は認定民間事業者による在宅療養の介護費用 | 在宅介護費用証明書 |
それぞれで必要書類が異なるので、受けたい医療費控除に応じて書類を用意するのがポイントです。
医療費控除の明細書の書き方
「医療費控除の明細書」は次の手順で記入していきます。
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なお「医療費のお知らせ (医療費通知)」を掲示または添付しない場合「1.医療費通知に記載された事項」に関する①~③の記載は不要です。その場合は領収書やレシートを元にして医療費の明細部分から記載を進めましょう。
医療費控除の対象になるのは病院での治療や薬代を中心とした疾病の治療に要するもので、予防や美容にかかったものは対象外です。
【①】医療費通知に記載された「自己負担の合計額」を記入する
①「医療費通知に記載された医療費の額」欄には、健康保険組合などの保険者が、被保険者(加入者)に対して送付する医療費通知に記載された「自己負担の合計額」を記入します。
【②】年内に払い終えた金額を記入する
②「⑴のうちその年中に実際に支払った医療費の額」欄に、年内に払い終えた金額を記入します。
なお医療費通知に記載されている医療費の合計額と、実際に支払った金額は異なる場合があります。医療機関などの窓口で支払う医療費合計は、10円未満の金額について四捨五入されているためです。
この場合、 医療費通知に記載されている金額と実際に支払った金額(領収書記載の金額)のどちらを記入しても差し支えありません。
【③】保険金などの給付を受けた場合は、その合計額を記入する
生命保険や損害保険などから受け取った保険金や給付金 (入院費給付金、出産育児一時金、高額療養費など)がある場合は、③「⑵のうち生命保険や社会保険などで補てんされる金額」欄にその合計額を記入します。
【④】医療費の明細を、領収書などを参考に記入する
④「2.医療費(上記1以外)の明細 」欄の各項に、その年中に自己又は生計を一にする配偶者その他の親族のために支払った医療費について、領収書から必要事項を記入します。
なお「領収書1枚ごと」ではなく「医療を受けた方」や「病院」などの単位で、まとめて記載することが可能です。通院費の支払先が乗り継ぎなどの場合で複数ある場合でも、まとめて記載してかまいません。
明細部分が記載できたら、それぞれの合計金額を「2の合計」および「医療費の合計」欄に記載しましょう。
【「1.医療費通知に記載された事項」で記載したものは記入できないので注意】
二重申請になることから「1.医療費通知に記載された事項 (図の①~③)」の各項で記載したものについては「2.医療費(上記1以外)の明細 」に記入できません。
たとえば「通院の際に使用した公共交通機関の交通費」など「医療費のお知らせ (医療費通知)」に記載されていない費用を記入しましょう。
【⑤】計算した値を控除額の部分に記入する
まずは④「2.医療費(上記1以外)の明細 」欄の最後で計算した合計額を⑤「控除額の計算」欄に転記します。
【転記する場所】
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そして(A)から(B)を差し引きした金額を「差引金額」(C)欄に記入しましょう。
「所得金額の合計額」(D)には申告書第一表の「所得金額」の合計額から転記します。そしてその金額に0.05をかけたものを(E)欄に記入してください。その後(E)欄の金額と「10万円」のいずれか少ない方の金額を(F)欄に記入します。
「差引金額」である(C)欄から(F)欄の金額を差し引いた金額が「医療費控除額」(G)です。
控除額の計算方法
具体例を挙げながら、控除額を実際に計算してみましょう。
支払った医療費から差し引かなければならない金額は「所得金額の5%(ただし、控除額が10万円を超える場合は10万円)」です。そのため控除額を決定づけるボーダーラインは「所得金額の合計が200万円」で、それぞれ計算式が異なります。
【所得金額が200万円以上の場合】
例えば所得金額が300万円、支払った医療費が40万円の場合を考えます。 300万円×0.05=15万円なので、15万円>10万円であることから、医療費控除の金額は40万円-10万円=30万円です。 |
【所得金額が200万円未満の場合】
例えば所得金額が100万円、支払った医療費が40万円の場合を考えます。 100万円×0.05=5万円なので、5万円<10万円であることから、医療費控除の金額は40万円-5万円=35万円です。 |
医療費が10万円以上でないと医療費控除がとれないと思われがちですが、所得金額が200万円未満の場合は10万円以下でもとれる可能性があるといえます。
エクセルの医療費集計フォームを使えば楽に作成できる
「医療費控除の明細書」に記載する際に、件数が多いとどうしても大変ですよね。
そのようなとき、国税庁の「確定申告書作成コーナー」で提供されている「医療費集計フォーム(エクセル)」を利用すると楽に作成できます。
入力する項目は「医療費控除の明細書」と同じで「医療を受けた人の名前」「病院や薬局などの名称」「医療費の区分」「支払った医療費の金額」「医療費のうち保険等で補填される金額」を記載します。エクセルなので金額の合計が左上に自動で出てくるので便利です。
国税庁の確定申告書作成コーナーでは、このエクセルを読み込んで確定申告書に自動で反映させることができます。確定申告書作成コーナーで作成した申告書はそのままe-Taxで提出することもできるのでおすすめです。
医療費控除の確定申告書の書き方
医療費控除の確定申告書の書き方を解説します。「医療費控除の明細書」で医療費を集計して医療費控除の金額を計算、そしてその結果を確定申告書第一表に転記していきましょう。
確定申告書第一表の書き方
「医療費控除の明細書」の「医療費控除額」(G)欄の数字を「医療費控除」㉗欄に転記します。
区分欄には、通常の医療費控除の場合は何も記入しません。セルフメディケーション税制による医療費控除の特例があり、これを選択する場合のみ「区分」の□に「1」と記入します。
会社員の方は源泉徴収票をもとにして、給与などの金額を転記します。
源泉徴収票の①~④が、上記の第一表の赤枠で囲った①~④にあたります。転記する箇所は複数あり上記の①~④だけではありませんが、確定申告書作成コーナーで作成すると指定された箇所を入力するだけで第一表に数字が登録されるので便利です。
確定申告書第一表における各種項目の書き方については次の記事でくわしく解説しています。ぜひ合わせて参考にしてみてください。
確定申告書第二表の書き方
第二表には各自が該当する事項を記載しますが、2022年(令和4年)分の申告書では医療費控除に関して記載する事項はありません。
令和元年分用以前の申告書では、第二表のなかで医療費控除について記載する箇所があります。過年度の申告をする場合には記載してください。
年金受給者の方は注意が必要
年金受給者が医療費控除を受ける場合は注意が必要です。医療費控除の金額とあわせて、年金や社会保険料の金額を記載しなければなりません。
源泉徴収票を用意して、年金などに関する情報を転記していきましょう。
支払金額と源泉徴収税額、社会保険料の額を申告書の第一表にそれぞれ転記します。
公的年金の「所得金額」は、収入金額から公的年金等控除額を差し引いて計算します。計算式がありますが、確定申告書作成コーナーで作成すると自動で計算してくれるので便利です。
e-Taxを用いるともっと楽に申請できる
e-Taxを利用すると、オンラインで確定申告書を提出できるので、とても便利です。
確定申告書作成コーナーで申告書を作成すると、所定の数字を入力するだけで、確定申告書第一表・第二表へ自動で転記可能です。さらにそのデータをe-Tax(電子申告)を利用して税務署に行かずに申告することができます。
書類を税務署に持参、郵送する手間が省けて楽なうえ、24時間いつでも提出ができるのも魅力です。
医療費控除の提出期限はいつまで?提出方法は?
「医療費控除の提出期限はいつまで?」と思う方も多いのではないでしょうか。確定申告期限が過ぎたらもう諦めなければならないと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、5年以内なら申告が可能です。
医療費控除の申告期限は5年以内
医療費控除は5年以内なら後からでも申告できます。
医療費控除の申告は「還付申告」と呼ばれます。確定申告がその年の所得を確定し、支払う税額を申告するものであるのに対し、還付申告は、既に支払った税金の一部を返してもらうための申告です。
還付申告については、確定申告の期間とは関係なく、申告したい年の翌年1月1日から5年間提出できます。例えば、2020年分の医療費控除について、2023年の5月に確定申告書を提出しても問題ありません。
ただし、1年分ずつまとめて提出する必要があります。例えば、2021年と2022年分を1度にまとめて申告することはできません。それぞれ1年分の医療費をまとめて、2つの確定申告書を提出することになります。
【持参、郵送するとき】税務署もしくは市区町村に提出する
確定申告書を提出する先は、所得税の確定申告書は税務署、住民税の市民税、県民税申告書は市区町村です。所得税の確定申告をした場合は自動的に市区町村にもそのデータが伝わるため、市区町村への申告は必要ありません。
また自治体によっては特例がある可能性があります。例えば横浜市では、給与所得のみの方で年末調整をされている方の医療費控除のみの確定申告については、2月16日から3月15日までの期間はお住まいの区の区役所でも受け付けています(土・日・祝日は除く)。
【e-Taxを使うとき】書類自体を提出する必要はない
e-Taxを使う場合は、書類自体を提出する必要はありません。確定申告書のデータをパソコンまたはスマートフォンで電子申告します。
e-Taxを使って医療費控除を申請する方法
e-Taxは税務署に持参や郵送をせずに、電子データで申告書を提出できるとても便利な方法です。医療費控除の場合、スマホからでもパソコンからでも申告が可能です。
e-Taxで医療費控除を申請する準備
e-Taxで申告する方法は2通りあり、それぞれで準備が異なります。
- マイナンバーカード方式
- ID・パスワード方式
マイナンバーカード方式
「マイナンバーカード方式」で医療費控除を申告する場合は以下のものを準備します。
- マイナンバーカードとパスワード
- マイナンバーカードを読み取るためのカードリーダーまたは読み取り機能に対応しているスマホ
ID・パスワード方式
「ID・パスワード方式」で医療費控除を申告する場合は、以下のいずれかの準備を進めてください。
- 事前に税務署へ行って「ID・パスワード方式」の届出をした後「利用者識別番号」を取得する
- 確定申告書作成コーナーからマイナンバーカードを使って「ID・パスワード方式」の届出をした後「利用者識別番号」を取得する
②の方法ではマイナンバーカードが必要です。「ID・パスワード方式」はマイナンバーカードが普及するまでの暫定的な対応とのことで、マイナンバーカードの取得が推奨されています。
【スマホ版】e-Taxで医療費控除を申請する手順
操作画面を参考にしながら、スマホでe-Taxを利用して医療費控除を申請する手順をみていきましょう。
「作成開始」を押すと、提出方法を聞かれます。
e-Tax以外に書面も選べますが、ここではe-Taxでの提出方法をご紹介していきます。
指示に従いログインすると、住所などの情報と源泉徴収票がある人はその数字を入力します。その後、医療費控除の数字を入力する画面になります。
「医療費控除の明細書」をスマホ上でデータを作成するか(上)、スマホでは合計額を入力して明細書は別途提出するか(下)の選択肢が出てきますので、どちらかを選択します。
上を選んだ場合でも、医療費のお知らせ(医療費通知書)から入力する場合は、前述したように医療費のお知らせ(医療費通知書)の書面自体を税務署への提出する必要があります。
こうした別途提出書類がある場合には、スマホで電子申告後に税務署へ郵送します。
「医療費のお知らせ(医療費通知)から入力する画面」と「領収書から入力する画面」のそれぞれがあります。件数が多いとスマホで入力するのは大変かもしれません。件数が多い場合はパソコンからの利用も検討しましょう。
【パソコン版】e-Taxで医療費控除を申請する手順
パソコンでe-Taxを利用して医療費控除を申請する手順をご紹介します。
まずは確定申告書作成コーナーから申告書を作成します。
作成開始を押し、提出方法を選びます。
画面の指示に従いログインした後、医療費の入力方法を選択していきます。
入力内容はスマホや書面と同じです。ただし別途提出書類がある場合にはスマホと同様に、電子申告後に書類を税務署へ郵送しなければなりません。
パソコンで提出する場合には、医療費集計フォーム(エクセル)の読み込みも可能です。
監修税理士からのコメント
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