歯医者で支払った医療費は、確定申告における医療費控除の対象です。医療費控除を活用することで所得税が戻ってくるだけでなく、翌年の住民税の負担も軽減されます。
しかし歯医者で支払った料金すべてが、医療費控除の対象になるわけではありません。また制度を正しく理解していないと、修正するために余計な手間もかかってしまいます。
「歯医者の治療費分の医療費控除を受けて節税したい」あなたのために、医療費控除の概要ややり方、戻ってくる還付金の計算例を解説します。
この記事を監修した税理士
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
歯医者での治療費は医療費控除の対象【医療費負担の軽減に】
歯医者などの医療機関での医療費が一定額を上回った場合、確定申告における医療費控除の対象となります。医療費控除を活用することによって、所得税と住民税の負担が減少し、実質的な医療費の負担も軽減するのです。
実際いくら戻ってくる?医療費控除の例
まずは医療費控除を活用することで、税金がいくら戻るのかのイメージを作りましょう。
例えば「年間所得=500万円」「年間の歯医者での医療費=50万円」であるとします。この場合に医療費控除の申告をすると、所得税の負担が「約8万円」軽減されます。給与所得者の場合は、この金額が還付されるということです。更に住民税に着目しても、税額負担が「約4万円」減少します。
なお個人事業主の場合、税額が発生する可能性がありますが、医療費控除の分だけ課税所得が低く算出され、結果として税負担が減少していることになります。詳しい計算方法や原理は後述します。
医療費控除とは
医療費控除とは年間で一定額の医療費(主に10万円以上)を支払った際に、確定申告をすることで課税所得が減少し、税金の負担が軽減される制度です。
医療費控除を受ける場合、個人事業主の方はもちろん、会社員などの給与所得者であっても確定申告を行う必要があります。通常会社員が受ける年末調整では、医療費控除が対象となっていないためです。
医療費控除は通常の病院での医療費の他に、歯医者での治療費や、処方箋なしで購入できる薬局での風邪薬などにも適応することができます。
家族の分も含まれる
医療費控除の対象となる医療費は、自分自身の医療費の他に「家族の為に支払った医療費」も含まれます。具体的には「子どもの歯医者での治療費」や「両親の入院費」なども本人が代わりに支払っているのであれば、医療費控除の計算に参入してもよいということです。
またここで言う家族とは、生計を一にしている「6親等以内の血族」「3親等以内の姻族」が該当します。わかりやすく言えば配偶者や子供、孫、両親、祖父母、兄弟姉妹などです。
また仮に同居をしていない場合であっても、生計を一にしていれば医療費控除の対象となります。例えば「大学生の子供に仕送りをしている」「別居しているが本人の仕送りで生活している両親」などが該当します。
医療費が1年間で10万円を超えた場合が対象
医療費控除は多くの場合「年間10万円」以上の医療費を支払った場合に対象となります。例えば「歯医者で支払った治療費が30万円」の場合「30万円-10万円=20万円」が所得から控除されるという仕組みです。
もし生命保険や社会保険などで補填される金額(医療保険の入院一時金・出産育児一時金など)がある場合は、それらを医療費から差し引いた後の額が10万円以上でなければいけません。
また年間の総所得が200万円未満の場合、医療費が「年間の所得金額×5%」を超えていれば、医療控除を受けることが可能です。
過去5年分まで申告可能
「数年前に10万円を超える歯医者での治療費を支払ったがもう手遅れ?」という方もいるでしょう。しかし申告を忘れていた場合であっても、翌年の1月1日から5年間は確定申告を行うことができます。
具体的は平成29年分の医療費控除の確定申告であれば、令和4年12月31日まで手続きが可能です。しかし「今は急がなくても5年間は大丈夫」と考えてしまうとそのまま忘れてしまう可能性もあるため、今後納期限が到来する分については期限内に申告を行うのが理想です。
また5年間遡って申告をしてよいのは「還付申告」の場合である点に留意しましょう。個人事業主で税額が発生する場合であっても5年間遡って申告することができますが、延滞税や加算税が発生するため、期限内に申告を行うことが大原則です。
1度確定申告を行っている場合は「更正の請求」
中には「1度申告を行っているが、その際に歯医者の医療費控除を受けるのを忘れた」という方もいるでしょう。しかし原則として、1度確定申告を行った後にもう1度確定申告をすることはできません。(期限内での再申告であれば「訂正申告」という形で可能です)
もし期限後に還付の再申請をしたい場合であれば「更正の請求」という、確定申告とは別の手続きが必要となります。詳細は以下のページを参考にしてください。
医療費控除対象の判断基準
支払った治療費が医療費控除の対象になるかどうかは「治療目的であること」、そして「金額が一般的な水準より著しく高額でないこと」を満たすかどうかで判断します。どちらか一方でも満たさないと判断されれば、医療費控除の対象でなくなります。
「治療目的であること」とは、単なる検診や美容目的でないことです。見た目を良くするためだけに行う行為は医療費控除の対象にはなりません。
「金額が一般的な水準より著しく高額でないこと」は、その支払いが高額かどうかではなく、同じ内容の治療をした場合の相場と比較して極端に高額でないことです。例えば、インプラントの治療を行うと1本10万円を超えるような高額となりますが、一般的な水準と比べて極端に高いのでなければ医療費控除の対象に含めることができます。
医療費控除の確定申告について詳しく知りたい方は下記の記事を参考までにご覧ください。
自由診療も医療費控除の対象になる
自由診療による治療費は医療費控除の対象にならないのではと勘違いしている人がいるかもしれません。
例えば、虫歯の治療を保険適用内で行うと、銀を使うことが一般的です。ところが、金やセラミック(ポーセレン)を使って治療をする人もいます。金やセラミック(ポーセレン)を使って治療をすると、健康保険の適用がなく自由診療として治療費が高額になってしまいます。しかし、金もセラミック(ポーセレン)も歯の治療材料として一般的に使用されているため、医療費控除の対象になります。
他にも、インプラントや義歯など、歯医者で支払う医療費の中には自由診療となるものが多くありますが、これらも治療のために支払われるもので、一般的な水準に対して著しく高額でなければ医療費控除の対象になります。
医療費控除によっていくら戻るのか
医療費控除によって軽減される税金は「所得税」と「住民税」です。所得税は申告後に還付され、住民税は翌年の負担額が減少します。それでは実際に歯医者などの医療機関で支払った医療費について、医療費控除を活用すると、税負担がどのくらい減少するのでしょうか。
医療費控除の計算方法
医療費控除の計算方法は以下の通りです。
医療費控除額=歯医者などで支払った医療費-各種保険で補填される金額-10万円 |
この金額が所得から差し引かれて税額の計算が行われます。そして元々の税額と、医療費控除を踏まえた税額の差額が還付の金額です。なお年間の所得が200万円未満の場合は「支払った医療費-各種保険で補填される金額-(所得×5%)」となる点に留意しましょう。
所得税は所得が増えれば税率が上がる累進課税を採用しているため、具体的にいくら戻るのかはその人の所得によって異なります。例えば「課税所得=500万円」の場合、所得税額は20%となるため「医療費控除の額×20%」が還付される金額です。一方で「課税所得=300万円の場合」税率が10%となるので「医療費控除の額×10%」が戻ってくる計算となります。
他方で住民税の計算方法は「医療費控除額×10%」です。住民税は所得税とは異なり、税率が一律のため所得によって左右されません。所得税の詳しい税率については以下のページを参考にしてください。
実際にはいくら戻る?計算してみよう
具体的な数値を出して、医療費控除で軽減される額のシミュレーションをしてみましょう。例として年間の収支が以下のような方がいるとします。
- 年間の所得金額:600万円
- 歯医者などで支払った医療費の額:70万円
- 各種保険で補填された金額:10万円
- 医療費控除以外の特定の控除なし
このケースの医療費控除の金額は50万円です。(70万円-10万円-10万円)
そして、所得が600万円の場合における所得税額が20%であるため、所得税の還付金額は「10万円」となります。計算方法は以下の通りです。
医療費控除の額×税率=50万円×20%=10万円 |
また住民税は「5万円」軽減されます。住民税の税率は所得に左右されず、多くの場合10%であるため、計算方法は以下のようになります。
医療費控除の額×10%=50万円×10%=5万円 |
つまりこのケースの場合、所得税と住民税を合わせると「15万円」の税負担が軽減されるということです。なお住民税は還付になるのではなく、その年の6月からの住民税の金額が減少します。
歯医者の治療費で医療費控除に含まれるもの・含まれないもの
歯医者での医療費は原則として医療費控除の対象となりますが、一部含まれないものも存在します。あくまでも病気の治療が目的である支出しか医療費控除に参入することができないのです。
ここでは医療費控除に含まれる治療・対象外の治療を解説します。特に自費で行うセラミック治療については勘違いも多いため、しっかりと確認しましょう。
医療費控除に含まれるもの
勘違いされることが多いですが、歯医者での治療は「自費治療」や「矯正治療」であっても医療費控除の対象となっています。具体的は以下の表に記載されているものは医療費控除の対象です。
【歯医者の治療で医療費控除に含まれるものの具体例】
※1 一部対象外の場合あり ※2 美容目的の治療の場合は医療控除の対象外 ※3 デンタルローンの利子は対象外 ※4 交通機関を使用した時の費用 (自家用車のガソリン代や駐車場代は含まない) |
また自費治療であっても基本的に控除対象となりますが「病状に応じて一般的に支出する水準を著しく超える金額」は医療費控除の対象にならないため注意しましょう。
医療費控除に含まれないもの
歯医者での治療費は幅広く医療費控除の対象となっていますが、一部医療費控除の対象に含まれないものも存在します。
【歯医者の治療で医療費控除に含まれないものの具体例】
※症状から見て急を要する場合や、公共交通機関の利用ができない場合は医療費控除の対象 |
「見た目を美しくする目的の治療」は基本的に医療費控除の対象外だと覚えておきましょう。
セラミックは治療法によって異なるので注意
通常、歯医者でセラミック治療をした際は全額自費での治療であっても、病気の治療として認められれば控除対象となります。
しかし美容目的など、病気の治療として認められない場合は医療費控除の対象とはならない点に注意が必要です。またセラミック治療を行った際の費用が「一般的に支出される水準を著しく超える」と認められる場合も、医療費控除の対象として認められません。
セラミック治療も医療費控除の対象ですが「治療目的」で「一般的に支出される水準の金額」の治療に限られる点に留意しましょう。
医療費控除申請のやり方
歯医者などで支払った医療費は「医療費控除の明細書」を作成し、確定申告書に添付することで医療費控除を受けることが可能です。しかし医療費控除の明細書を作成する上で注意するべきポイントが数点存在します。
ここでは医療費控除のやり方や、セラミック治療の際の医療費控除の明細書の書き方を解説します。
申請内容・金額を確認する
医療費控除の手続きは、1年分の医療費の領収書を整理する所から開始します。領収書の医療費が本当に医療費控除に算入できるものかを確認し「医療を受けた方」「歯医者や病院の名称」ごとにまとめましょう。その後支払った医療費を合計して、10万円(所得が200万円未満の方は「所得×5%」)を超えていることを確認します。
この際に各種保険で補填される金額がある場合は、医療費の合計額から差し引いて計算を行います。また年を越して治療を行っている場合であっても「医療費を実際に支払った日」を基準に計算する点に注意しましょう。
領収書をまとめたら、その内容を基に「医療費控除の明細書」を作成します。そして作成した明細書を、確定申告書に添付することで手続きが完了します。なお電子申告を行う場合は、直接打ち込んで手続きができるため、書面で記載する必要はありません。
確定申告書を記入する
実際に確定申告書を提出することで、医療費控除の手続きが完了します。医療費控除の明細書で算出された「医療費控除額」を確定申告書一表の「医療費控除」に転記して税額の計算を行いましょう。
申告手続きの期間は、原則2月16日から3月15日です。前述した通り、還付申告の場合は5年間の猶予がありますが、個人事業主の方は期限内申告を厳守しましょう。
また紙での申告だけでなく、インターネット上での電子申告も可能です。電子申告をすることによって、歯医者などで発生した医療費を直接打ち込めるだけでなく、税額の計算も自動で行ってくれるため、申告手続きがより簡易になります。また個人事業主の場合は、青色申告特別控除を満額受けるための条件ともなっているため、ぜひ活用してください。
セラミック治療費の書き方も通常手続きと同様
全額自費のセラミック治療であっても通常の手続きと同様です。自身が受けた歯医者でのセラミック治療が控除対象であることを確認した後に領収書をまとめて、通常の医療費と一緒に医療費控除の明細書を作成します。
この際「医療費のお知らせ」が届いている場合は、医療費控除の明細書に添付することで、記載や計算を省略することが可能である点も覚えておきましょう。
歯医者の医療費控除を申告する際の注意点
歯医者の治療費を医療費控除として申告する際にはいくつかの注意点が存在します。領収書の取扱いや、治療費をローンやクレジットで支払った場合の集計期間について見ていきましょう。
領収書の提出義務はないが5年間の保管が必要
平成29年分の確定申告から、医療費控除を申告する際の領収書やレシートの提出義務がなくなりました。
領収書やレシートの金額をもとにして「医療費控除の明細書」を作成し、確定申告書に添付します。この場合、領収書やレシートの原本は少なくとも5年間、納税者自身で保管しておかなければなりません。
また、平成29年分の確定申告から明細書の代わりに協会けんぽや各健康保険組合が発行する「医療費のお知らせ」を添付することも可能となりました。領収書やレシートの保管がきちんとできていない場合は、この「医療費のお知らせ」を保管しておくようにしましょう。
治療費をローンやクレジットで支払った場合の集計期間
医療費控除の対象となる医療費は、支払った日を基準に1月1日から12月31日の1年分を集計します。しかし、ローンを組んだ場合は、患者が支払うべき治療費の全額を信販会社がいったん立て替えて支払い、その立替分を患者が分割で信販会社に返済していくことになります。
この場合、信販会社が立替払いをした日にその金額が医療費控除の対象になります。この場合患者本人はまだ支払っていないため注意が必要です。これはクレジットカードの場合も同様です。
高齢者も医療費控除を受けるためには確定申告が必要
高齢者の方で公的年金の収入金額が年間400万円以下の場合、年金以外に20万円以上の所得がなければ確定申告をする必要はありません。ところが、医療費控除の適用を受ける場合には確定申告をする必要があります。
医療費控除の対象となるのは、医療費の年間支払額が10万円または総所得金額の5%のいずれか低い方を超えた部分となります。
例えば、65歳以上の方で公的年金の年間収入が300万円の場合、総所得金額は180万円となるので、医療費の額が9万円を超えた場合にその超えた部分を医療費控除として申告することができます。
歯医者の治療費は確定申告で医療費控除の申請をしよう!
歯医者で支払う治療費の多くは医療費控除の対象です。
歯医者での支払いは自由診療で高額になるケースも多いため、確定申告をすれば還付が受けられる可能性があります。医療機関や薬局で受け取った領収書やレシートはこまめに保管して確定申告に備えましょう。
監修税理士からのコメント
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