弁護士として事務所を運営している人には、毎年決まった期間に確定申告を行う義務があります。しかし記帳や申告書の作成などやることが多く、「どこから手を付ければいいかわからない」とお悩みの方は多いと思います。


この記事では、弁護士の確定申告について、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
自身で事業を行う弁護士は確定申告を行う義務がある

自身で事務所を開いて事業を運営している弁護士は、原則として確定申告を毎年行う必要があります。ただし事務所に雇われている弁護士の場合は、一部の例外を除いて確定申告を行う義務は発生しません。
最初に、弁護士で確定申告をする必要があるケース・不要なケースを紹介します。
弁護士で確定申告が必要なケース
ご自身で事務所を運営している弁護士の場合は、赤字が出ていない限りは確定申告をする義務が発生します。
ただし赤字が出ていても、確定申告をすれば損失分を来年以降に繰り越せるメリットがあります。
また事務所に雇用されていて年末調整を受けていない弁護士も、確定申告を自分で行う必要があります。
弁護士で確定申告が不要なケース
確定申告が不要なのは、以下のような弁護士です。
- 事務所に雇用されていて年末調整を受けている弁護士
- 事務所に雇用されていて、弁護士としての給与以外の収入(副業収入など)が年20万円未満な弁護士
- 年末調整で対応できない控除を利用したい弁護士
雇用されている弁護士は、ほとんどのケースで確定申告が不要になります。
弁護士の確定申告における経費はどこまで認められる?
支払う税金を少しでも減らすためには、事業に関わる支出を経費として計上することが欠かせません。しかし「どこまでが経費として認められるの?」と疑問に感じている人もいるでしょう。
そこでここでは、弁護士業務において認められる経費の項目について解説します。
弁護士の必要経費
弁護士の必要経費として認められる主な支出を以下にまとめました。
| 経費カテゴリ | 詳細説明 |
| 事務用品費 | 筆記用具、印刷用紙、ファイルなどの事務用品購入費 |
| 通信費 | 電話、インターネットの使用料金 |
| 事務所運営費 | 家賃、水道光熱費、メンテナンス費 |
| 交通費 | 顧客訪問や法廷への移動費用 |
| 雑費 | 小口現金での雑多な支出 |
| 図書購入費 | 法令集、判例集、専門書籍の購入費 |
| 研修費 | 法律研修やセミナー参加費 |
| 会議費 | 会議室レンタル費、会議用の備品購入費 |
| 接待費 | ビジネスミーティングなどに伴う飲食費 |
| 法的費用 | 訴訟支援の外部専門家費用 |
| 減価償却費 | オフィス設備、家具、コンピュータ機器の減価償却費 |
| 保険料 | 職業責任保険、事務所所在地の保険 |
ただし税法の変化や支出の具体的な内容によって、上記に該当しても経費と認められない可能性もあります。経費として認められるか迷う支出がある場合は、一度税理士や商工会に相談して確認してもらうのがおすすめです。
経費にならない可能性のある支出項目
逆に以下の項目は、経費にならない可能性が高いので注意しましょう。
- 所得税や住民税などの税金
- 各種保険料
- 損害賠償など罰則的な支出
弁護士の売上を計上するタイミング
確定申告をするためには、事業において発生したお金の流れを帳簿につける必要があります。
そこでここでは、弁護士業務で発生した売上を計上するタイミングについて解説していきます。
顧問契約の場合:料金を受け取ったタイミングで計上する
長期的な契約を結んでいるクライアントからの入金があった場合、料金を受け取ったタイミングで計上しましょう。
たとえば「1月分の料金を前年の12月に振り込む」というフローなら、前年12月が計上のタイミングになります。
単発契約の場合:契約を結んだ日に計上する
単発での依頼の場合、契約を締結したその日に支出を計上しましょう。過去の地裁判決においてもこのような事例が出ています。
弁護士の確定申告に必要な帳簿の付け方

帳簿の付け方は大きく分けて以下の2種類があります。
- 単式簿記:白色申告に対応した帳簿。節税効果はないが記帳が簡単。
- 複式簿記:青色申告に対応した帳簿。記帳が難しいが最大65万円の控除を受けられる。
これから帳簿を付け始めるなら、最大65万円の控除を受けられる「青色申告」に対応した複式簿記で付けるのがおすすめです。
弁護士の複式簿記記帳は、事件ごとの着手金・成功報酬、立替経費など通常の個人事業主より複雑になりがちです。しかし、以下の4つのステップを踏んで日々の取引を丁寧に仕訳すれば、青色申告特別控除を最大限活かしたうえで、正確に事務所経営の状況を把握できます。
- 取引を把握して仕訳を考える
- 仕訳帳に記入する
- 総勘定元帳へ転記する
- 試算表を作成して月次チェックを行う
ここからは、弁護士の方向けに、青色申告に対応した複式簿記で帳簿をつける方法をステップ形式で解説します。
ステップ1.取引を把握して仕分けを考える
取引内容を整理する
| 確認する書類/データ | 具体例 | ポイント |
|---|---|---|
| 領収書・レシート | 事務所家賃、光熱費、文房具、図書費、通信費など | 弁護士の事務所経費か、依頼者に立替している経費かを区別する |
| 請求書 | 外部専門家への支払いや備品購入 (PC・オフィス家具など) |
借入金で支払う場合、未払金や買掛金を用いるのかを判断する |
| 通帳・カード明細 | 着手金や成功報酬の振込記録、クレジットカード引落の履歴など | 入金日と金額が事件ごとに紐づくか要確認。 プライベート支出が混在していないかにも注意 |
| 事件メモ・契約書 | 各事件の着手金・報酬体系、立替費用の有無など | 「事件Aで1月に着手金○万円」「事件Bの成功報酬○月に受領予定」といった形で管理 |
ポイント
- 弁護士業務では、立替経費(印紙代・交通費など) と 事務所経費 が混在しやすいので、書類の段階で分けておくと後の仕訳が楽になります。
- 着手金は入金時点で事業収入として計上するケースが多いですが、契約形態によっては前受金処理を検討することもあります。
勘定科目を決める
| 主な勘定科目 | 弁護士業務での典型的な使い方 | 事例 |
|---|---|---|
| 事業収入 | 着手金、成功報酬、顧問契約料など | 事件A着手金30万円、事件B成功報酬50万円など |
| 立替金 | 依頼者が本来負担すべき費用を一時的に弁護士が支払った場合 | 裁判所への印紙代、遠方出張時の宿泊費・交通費(依頼者精算) |
| 図書費 | 法律書・判例集の購入費用 | 新刊六法・判例集の購入、データベース月額利用料を「図書費」で一括管理する事務所も |
| 事務所賃借料 | 事務所の家賃 | 毎月10万円など固定的に支払う家賃 |
| 通信費 | インターネット回線、固定電話、携帯電話料金 | 弁護士の業務用スマホ代・電話代 |
ポイント
- 立替金は弁護士の経費ではない点が最大の特徴。後日、借方:現金/貸方:立替金で相殺するまで注意深く管理。
- 備品の購入額が10万円以上の場合、減価償却資産(備品)として処理し、耐用年数に応じて償却する必要があります。
ステップ2.仕訳帳に記入する
仕訳帳の基本構造
| 日付 | 摘要 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1/5 | 事件A 着手金入金 | 普通預金 | 300,000 | 事業収入 | 300,000 | 着手金。契約上、入金時に収益計上。 |
| 1/10 | 事件B 印紙立替 | 立替金 | 10,000 | 現金 | 10,000 | 後日、依頼者に請求する。事件B対応。 |
| 1/12 | 判例集購入 | 図書費 | 8,000 | 普通預金 | 8,000 | ○○出版社 新刊判例集。事務所備品でない範囲。 |
| 1/15 | 事務所家賃 | 事務所賃借料 | 100,000 | 普通預金 | 100,000 | 1月分家賃 |
- 借方(左)と 貸方(右)の組み合わせで1つの取引を表現。
- 摘要欄に「事件A」や「事件B」といった事件名を入れると、後日仕訳を見返す際に迷いにくい。
ポイント
- 成功報酬の場合も同様に「現金/普通預金(借方)=事業収入(貸方)」で計上。
- 毎日、あるいは週単位で記入すると溜め込まずに済み、月末や決算時に慌てるリスクを抑えられます。
立替経費の仕訳例
| 場面 | 借方(左) | 貸方(右) | 金額 | 摘要(例) |
|---|---|---|---|---|
| (a) 印紙代を弁護士が立替払い | 立替金 | 現金 | 10,000円 | 事件Bの印紙代。 後日依頼者から回収予定。 |
| (b) 依頼者から印紙代を回収 | 現金 | 立替金 | 10,000円 | 事件Bの立替金回収。 これで立替金が消える。 |
ポイント
- 立替時点で経費(費用)に計上しないのがポイント。「事務所経費」ではなく、あくまでも「他人に対する貸し」として扱います。
- 回収もれがあると収益にも費用にもならないまま残るので、補助簿を活用すると便利です。
ステップ3.総勘定元帳へ転記する
仕訳帳を基に、勘定科目別に入出金・増減を集計します。たとえば「普通預金」の総勘定元帳は以下のようになります。
| 日付 | 摘要 | 借方(入金) | 貸方(出金) | 残高 |
|---|---|---|---|---|
| 1/1 前期繰越 |
– | – | 500,000 | |
| 1/5 | 事件A 着手金入金 | 300,000 | 800,000 | |
| 1/12 | 図書費支払い | 8,000 | 792,000 | |
| 1/15 | 事務所家賃支払い | 100,000 | 692,000 |
- 仕訳帳の「日付・摘要・借方・貸方」を科目ごとに整理し、最終残高を把握。
- 「事業収入」の総勘定元帳、「立替金」の総勘定元帳なども同じ要領で作成します。
ポイント
- 月末や決算期末に口座残高と突き合わせて、食い違いがないか確認。
- 依頼者への立替金が残っていないか、「立替金」勘定の残高を合わせてチェックすると回収漏れを防止できます。
補助簿・補助元帳の作成(必要に応じて)
弁護士業務は事件単位での管理が多いので、補助元帳で細かく記録すると情報を見失いにくくなって便利です。
| 補助簿の種類 | 内容 | 弁護士業務での活用例 |
|---|---|---|
| 立替金補助簿 | 立替金を事件別・依頼者別に管理する | 「事件A:印紙3,000円 / 事件B:印紙10,000円 / 事件C:出張交通費5,000円」など一覧化 |
| 売掛金(未収報酬) | 事件完了後もまだ受け取っていない報酬額を整理する | 成功報酬が発生しているのに、入金タイミングが先になる場合など |
| 買掛金(未払金) | クレジットカードの支払いや分割払いなど、今後支払う予定額 | オフィス家具やパソコン購入、外部専門家への報酬をカード決済した場合 |
ステップ4.試算表を作成して月次チェックを行う
仕訳帳 → 総勘定元帳でまとめた勘定科目ごとの借方・貸方の残高を一覧にしたものが試算表です。
貸方合計と借方合計が一致しているかを確認し、ミスや漏れを早期に発見するのが主目的になります。
| 科目 | 借方残高 | 貸方残高 |
|---|---|---|
| 普通預金 | 692,000 | |
| 現金 | 50,000 | |
| 立替金 | 10,000 | |
| 図書費 | 8,000 | |
| 事務所賃借料 | 100,000 | |
| 通信費 | 5,000 | |
| 事業収入 | 800,000 | |
| 元入金 | 600,000 | |
| 合計 | 865,000 | 1,400,000 |
※上表はあくまで一例です。実際は借方・貸方合計が同額になるよう最終的に調整します。
弁護士業務の合間にこまめに記帳することは大変ですが、記録を溜めこまずに行うことで確定申告前の負担を大幅に軽減できます。また、会計ソフトを活用すると、帳簿作成の手間を大幅にカットすることができてとても便利です。
おすすめの会計ソフトについては、下記の記事でご紹介しています。
弁護士が自分でe-Taxによる確定申告を行う手順【準備編】
確定申告書の提出方法はいくつかありますか、中でもオンラインで完結できる「e-Tax」で提出するのがおすすめです。
確定申告をe-Taxで行う方法には「マイナンバーカード方式」と「ID・パスワード方式」の2種類があります。
マイナンバーカードを使ってログインする方式が「マイナンバーカード方式」、マイナンバーではなく専用のID・パスワードを使ってログインする方式が「ID・パスワード方式」です。
e-Taxを利用するにあたって事前に準備するものは、マイナンバーカード方式とID・パスワード方式で異なります。
確定申告をe-Taxで行う場合には事前に利用者識別番号を取得する必要があり、マイナンバーカード方式では電子証明書が必要になります。
以下ではこれらの取得方法も含めて確定申告をe-Taxで行うときの準備と、必要書類を紹介するので、初めてe-Taxを使う場合にはやり方を確認して実際に手続きを行って下さい。
利用者識別番号の取得する
マイナンバーカード方式とID・パスワード方式のいずれの場合でもe-Taxを利用するためには利用者識別番号(半角16桁の番号)の取得が必要です。
ただし実際にe-Taxを使って確定申告をするときに利用者識別番号の入力が必要になるのはID・パスワード方式だけです。
マイナンバーカード方式ではマイナンバーカードを読み込めばe-Taxを使えて確定申告ができるので利用者識別番号を入力する必要はありません。
マイナンバーカードがない場合の取得方法
マイナンバーカードを持っておらずID・パスワード方式でe-Taxの利用申請をする方は以下のいずれかの方法で利用者識別番号を取得して下さい。
- Webから利用者識別番号を取得する
- 税務署に行ってID・パスワード方式の届出を作成・送信する
- 書面を郵送して利用者識別番号を取得する
1のWeb申請では以下のサイトから開始届出書を作成・提出します。
2の税務署に直接行って届出を行う方法では税務署職員による本人確認が行われるので運転免許証などの本人確認書類を忘れずに持参して下さい。
3の書面申請で使う用紙は以下のサイトからダウンロードが可能です。必要事項を記入して税務署に郵送しましょう。
マイナンバーカードがある場合の取得方法
マイナンバーカード方式でe-Taxの利用申請をする場合はマイナンバーカードとICカードリーダライタを用意して以下のサイトから手続きを行います。
「マイナンバーカードの読み取りへ」ボタンを押して表示される画面に従って手続きを進めて利用者識別番号を取得して下さい。
また確定申告書等作成コーナーの「ID・パスワード方式の届出」から申請して利用者識別番号を取得することもできます。
電子証明書の取得する
申告データを送信する際、データを利用者本人が作成して改ざんされていないことを確認するために電子署名が必要になります。電子署名に関連して事前に取得しておかなければいけないのが電子証明書で、書面取引における印鑑証明書にあたるものです。
ただしID・パスワード方式でe-Taxを利用する場合は、事前に本人確認が行われているため電子証明書による電子署名は不要になります。そのため電子証明書を取得する手間はかかりません。
マイナンバーカード方式ではマイナンバーカードに登録された電子証明書を使用します。マイナンバーカードの交付申請をする際に次の3つのパスワードを設定して下さい。
- 署名用電子証明書:英数字6文字以上16文字以下。申告等データに電子署名を行う際に使用
- 利用者証明用電子証明書:数字4桁。e-Taxにログインする際に使用
- 券面事項入力補助用:数字4桁。マイナンバーカード方式の利用開始時において4情報(氏名・住所・生年月日・性別)を読み取る際に使用
必要書類を入手する
確定申告を行うにあたって、以下の書類や情報も準備しておきましょう。
- 領収書や請求書・帳簿
- 源泉徴収票(給与がある場合)
- 控除証明書類
日々の業務で発生する経費や売上に関する書類は、時系列順に整理しておく必要があります。特に着手金・成功報酬など弁護士特有の請求タイミングを把握し、収入としてしっかり記録してください。
事務所に雇われていて給与を受け取っている弁護士は、勤務先から発行される源泉徴収票を用意します。給与所得以外に事務所運営の報酬がある場合は、給与所得と事業所得を分けて申告する必要があるので注意しましょう。
また、社会保険料控除や生命保険料控除、地震保険料控除などを受けるために必要な証明書を時期までに手元に揃えておきましょう。
弁護士業務の経費として扱えるものは多岐にわたります。接待費や交通費などは、業務上の支出であることが明確になるよう領収書やメモをしっかり保管しておきましょう。
弁護士が自分でe-Taxによる確定申告を行う手順【書類作成編】
申告書類の作成手順は下記のとおりです。
- e-Taxの確定申告書作成画面にログインする
- 収入金額を入力する
- 所得控除を入力する
- 青色申告決算書・収支内訳書を作成する
- 作成した確定申告書を確認する
- 作成した確定申告書を送信する
- 納税手続きを行う
ここからは、e-Taxによる申告書類の作成方法を解説します。
e-Taxの確定申告書作成画面にログインする
確定申告書等作成コーナーから確定申告書の作成画面を開きます。マイナンバーカード方式であればマイナンバーカードの暗証番号が、ID・パスワード方式であれば利用者識別番号とパスワードがログインの際に必要です。
マイナンバーカード方式の場合
- マイナポータル連携の準備:事前にICカードリーダライタやスマートフォンの対応アプリを用意し、マイナポータルの登録が済んでいるとスムーズに申告が行えます。
- 署名用電子証明書のパスワードを確認:通常、マイナンバーカード取得時に設定した英数字6〜16桁のパスワードが必要です。
- ログインとパスワード入力:e-Taxの作成コーナーで「マイナンバーカード方式」を選択すると、リーダライタやスマホのアプリによる読み取り画面に移行します。案内に従いパスワードを入力すればログインできます。
ID・パスワード方式の場合
- 利用者識別番号とパスワードの準備:事前に税務署で本人確認を行い、16桁の利用者識別番号と指定したパスワードを受け取っておきます。
- 作成コーナーからログイン:e-Taxの作成コーナーで「ID・パスワード方式」を選択し、利用者識別番号・パスワードを入力してログインします。
マイナンバーカード方式は、署名用電子証明書の期限やパスワードの失念に注意が必要。ID・パスワード方式は電子証明書が不要ですが、初回登録時に税務署に行く手間があります。自分の状況に合った方法を選びましょう。
収入金額を入力する
「収入」と「所得」を混同せず、まずは収入金額(売上)を正確に把握し、その後に必要経費を差し引いて所得金額を確定する流れが基本です。弁護士業務は時期や案件によって入金方法が異なるため、事前に帳簿や領収書の整理を徹底しましょう。
収入の入力ポイント
顧問契約の報酬
毎月定額で受け取る顧問料は「入金のあったタイミング」で売上計上するのが基本です。入金日と契約書の日付が異なる場合は、事前に経理ルールを明確にしておきましょう。
単発案件の着手金・成功報酬
単発案件では、契約時に着手金を受け取り、成功時に報酬金を受け取るケースがあります。地裁判決により、単発業務では契約締結日に計上すべき と判断された事例もあるため、実務上は「契約書の取り交わし日」を基準に記帳するケースが多いです。
法テラス対応案件の精算
法テラスを通じた報酬の場合、入金時期が大きくずれることがあります。売上計上と実際の入金のズレを把握しておかないと、後で経理が混乱する可能性があります。
所得控除を入力する
所得控除は、所得税の計算上非常に大きな節税効果 をもたらす重要な項目です。必ず証明書類と照合しながら入力し、控除漏れや入力ミスを防ぎましょう。
経費に計上できるか微妙な場合は、必ず領収書にメモを書き込むなどしておき、後で税理士や商工会に確認できるようにしておくと安心です。
経費の入力ポイント
事務所家賃・光熱費・通信費
事務所を賃貸している場合は家賃、水道光熱費、インターネット通信費などを経費に計上できます。自宅兼事務所の場合は使用割合に応じて「家事按分」します。
消耗品・事務用品
筆記用具やファイル、印刷用紙などの購入費用は「消耗品費」に計上できます。金額が大きな機器や家具の場合は減価償却が必要です。
旅費交通費
裁判所に出向く際の電車代・タクシー代などは事業にかかった経費として問題なく計上できます。地方出張の宿泊費や出張先での移動費なども同様です。ただしプライベートな旅費と混同しないよう注意 しましょう。
接待交際費(会議費)
クライアントとの打ち合わせや情報交換で発生した飲食費などは、接待交際費(会議費)として認められる場合があります。ただし 飲食費を計上する際は必ず目的・相手先・日付・金額を記録 しておきましょう。
青色申告決算書・収支内訳書を作成する
申告方法として、青色申告を選択している場合は「複式簿記」で帳簿を付け、確定申告書と合わせて「青色申告決算書」を提出します。要件を満たせば最大65万円の控除が受けられるため、節税上のメリットは大きいです。
ただし、しっかりと記帳をしていなかったり、申告期限を過ぎたりすると65万円控除が認められないケースがあります。期限と帳簿管理には最新の注意を払いましょう。
青色申告決算書・収支内訳書を作成のポイント
勘定科目
売上(報酬)の科目は「事業収入」、通信費や旅費交通費などの科目も一般的な個人事業主と同じ考え方で処理します。
減価償却
10万円以上の備品や機器を購入した場合は、耐用年数に応じて減価償却を計上します。例えば パソコンは耐用年数4年、事務所家具は耐用年数5〜8年 程度が一般的です。国税庁の耐用年数表を参照して正確に計算しましょう。
貸倒損失や売掛金の扱い
弁護士業務では、依頼者からの報酬が回収不能になる(貸し倒れ)可能性がゼロではありません。貸倒損失として計上する場合には、法律上請求不可能になった事実 が確認できる書類(債務名義の執行不能など)を揃えておく必要があります。安易に「回収できないかも…」という理由だけで貸倒損失にするのは認められません。
作成した確定申告書を確認する
必要事項を入力したら、所得控除や各種控除証明書の内容を反映し、最終的な納税額または還付額を確認します。自動的に所得税額や復興特別所得税、住民税などの算出が行われます。ただし、以下の点は自分でもチェックしましょう。
主な所得控除の確認ポイント
社会保険料控除
国民年金保険料や国民健康保険料を支払っている場合は、支払金額の全額が控除対象です。証明書や領収書が必要になるので紛失しないよう注意。
生命保険料控除・地震保険料控除
それぞれ証明書を受け取って、上限を把握したうえで入力します。過去の保険契約の場合、新制度・旧制度どちらが適用されるかによって控除額が変わることがあります。
小規模企業共済等掛金控除
弁護士として個人事業主扱いの場合、小規模企業共済・iDeCo(個人型確定拠出年金)などへの掛金は全額所得控除となります。掛金証明書の金額を正しく入力してください。
税額計算の確認ポイント
事業所得の計算ミス
経費や売上の入れ忘れ・重複入力がないか。
各種控除の反映漏れ
小規模企業共済など、適用漏れがないか。
所得税額と消費税の勘違い
年間売上高1,000万円超の弁護士は消費税申告も検討が必要です。消費税申告が必要な場合、別途フォームに入力します。
作成した確定申告書を送信する
作成した申告書に問題がなければ、税務署宛に送信して手続きは完了となります。
なおデータファイルをパソコンにダウンロードしておけば、確定申告書等作成コーナーを使って後からデータを読み込むことができて画面上で申告内容を確認できるので便利です。
たとえば申告データを保存しておいて損失の繰越額を確認できるようにしておけば、翌年にe-Taxで確定申告をする際に損失繰越額をすぐに確認できて所得税の計算がしやすくなります。
納税手続きを行う
所得税の納付は確定申告の期限までに終える必要があり、e-Taxでは確定申告書の提出だけでなく納税手続きも行えます。納税方法は下記の通りです。
- ダイレクト納付:事前に口座情報を登録しておけば、ワンクリックで納付が完了します。振替日を指定することも可能。
- クレジットカード納付:スマホやパソコンから納付できるため手軽ですが、納付額に応じた決済手数料 が発生します。
- 窓口納付・ATM振込:金融機関の窓口やATM、税務署で直接支払う方法。領収証書が発行されるため、納付を証明する必要がある場合は便利です。
税金の納付方法にはいくつかありますが、ダイレクト納付は、e-Taxによる簡単な操作で預貯金口座からの振替によって納付できるもので、以下のサイトからダウンロードできる「ダイレクト納付利用届出書」等を事前に提出して申請をしておくと利用できて、大変便利です。
e-Taxを使って申告データを送信すると、メッセージボックスに「 納付区分番号通知」が届くので、通知を開いて「今すぐに納付される方」又は「納付日を指定される方」のいずれかを選択して、事前登録した預金口座から納税額を振り込む仕組みです。
なおセキュリティ対策の観点から、個人納税者に係るe-Taxのメッセージボックスの閲覧には原則としてマイナンバーカード等の電子証明書が必要になります。しかし納付区分番号通知については電子証明書なしで閲覧ができるので、ID・パスワード方式を利用している人でも通知内容を確認できてダイレクト納付が可能です。
また納税の方法にはダイレクト納付以外のやり方もあり、クレジットカードで納付する方法や金融機関又は税務署の窓口で現金で納付する方法などで納税することもできます。
確定申告の手順については以下の記事で詳しく解説しています。こちらも参考に手続きを進めてみてください。
確定申告についてわからないことがある場合はどこに相談する?
確定申告についてわからないことがある場合は、以下3つのいずれかに相談するのがおすすめです。
- 税理士の無料相談を利用する
- 青色申告会・商工会議所で相談する
- 税務署に相談する
税理士の無料相談を利用する
税理士への相談は、初回のみ無料で実施してもらえるケースが多いです。個別具体的な質問には答えてもらえませんが、答えの決まっている一般的な質問には回答をもらえます。
税理士を選ぶ際は、弁護士への支援実績があるかどうかをチェックしましょう。税理士によって得意分野は異なるからです。
青色申告会・商工会議所で相談する
個人事業主で青色申告会や商工会議所に登録している場合は、青色申告会などでも確定申告の相談ができます。
青色申告会や商工会議所で確定申告の相談をしたい場合は、対応する窓口を尋ねましょう。
確定申告の時期には窓口が混雑することが予想されるため、時間に余裕をもって訪問するのがおすすめです。
また、青色申告会や商工会議所では税理士や弁護士、ファイナンシャルプランナーなどの税やお金に関するプロフェッショナルを紹介してもらえることもあります。
確定申告の時期だけではなく、普段から経営などの悩み事を相談するようにすると良いでしょう。
税務署に相談する
税務署に相談する方法には以下の4種類があります。
- チャットボットに質問をする
- 国税相談専用ダイヤルにかける
- 事前予約のうえ税務署の窓口へ行く
- 確定申告の時期に設置される申告相談会場へ行く
それぞれメリットや特徴が異なるので、自分に合った方法を選びましょう。詳しくは以下の記事で詳しく解説しています。
確定申告の手間を減らしたい弁護士は税理士へ依頼しよう
弁護士の業務は多忙で、確定申告にまで手を回す余裕がない場合も多いでしょう。そんな時は確定申告の手続きを税理士へお願いするのがおすすめです。
顧問契約とスポット契約の違い
税理士との契約方法には、以下の2種類があります。
- 顧問契約:長期的な契約。日々の記帳作業の代行や資金繰りについてのアドバイスをもらえる。
- スポット契約:単発の契約。確定申告の手続きのみ依頼できる。
確定申告の手続きだけ代行してもらいたいなら、スポットでの契約にすることで依頼費用を抑えることができます。
ミツモアならたった数分で最大5名の税理士から見積もりをもらえる
ミツモアを使えば、いくつかの質問に答えるだけで、最大5名の税理士から見積もりをもらえます。税理士を選ぶ手間が大幅に減るので、「誰を選べばいいかわからない」とお悩みの人におすすめです。
弁護士の確定申告は前もって計画的に進めよう
弁護士の業務は多岐にわたるため、確定申告のための記帳作業を毎日行うのは難しいかもしれません。しかし直前期にあわてて準備を進めると、計算や記載にミスが発生してしまうリスクが高まります。
もし確定申告の準備に手を回す余裕がないなら、税理士を頼って効率的に手続きを進めましょう。
