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法人が青色申告をするメリットは?手順や個人との違いについて解説

最終更新日: 2024年10月31日

会社を設立したら、税務署に青色申告の承認申請書を提出しましょう。法人の確定申告の方法には青色と白色がありますが、節税メリットが大きいことから法人の90%以上が青色申告を選択しています。

法人が青色申告を行うメリットや個人事業主との違い、青色申告承認申請書の提出方法、確定申告の手順を詳しくまとめました。

この記事を監修した税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

 

法人の青色申告とは?個人や白色申告との違い

法人は事業年度ごとに確定申告を行うのが原則です。確定申告の方法には「青色申告」と「白色申告」があります。青色申告には個人事業主が行うイメージが強いですが、国税庁の資料によると、法人の青色申告普及率は約90%(※)に達しています

青色申告とは納税者が青色申告書を用いて申告をする制度です。帳簿の備え付けと複式簿記での記帳を行う代わりに、欠損金の繰越控除や繰戻還付をはじめとする、税制面の優遇を受けられます

「個人の青色申告とは何が違う?」「法人の青色と白色の違いを詳しく知りたい」という人のために、法人の青色申告の詳細を解説します。

個人の青色申告との違い

個人の青色申告は個人に課せられる「所得税」を申告するのに対し、法人の青色申告は法人に課せられる「法人税」を申告します。法人税とは法人の所得(益金から損金を引いた金額)にかかる、国税の一種です。

青色申告を行うためには、個人・法人ともに「青色申告の承認申請書」を事前に提出する必要があります。個人の提出期限は青色申告の承認を受けようとする年の3月15日が原則ですが、法人は会社設立後3カ月以内、または青色申告で申告書を提出する事業年度開始の日の前日まです。

青色申告で享受できる「赤字の繰越期間」も異なります。個人が3年のところ、法人は10年(2018年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額は9年)赤字を繰越可能です。なお個人には65万円までの「青色申告特別控除」がありますが、法人に特別控除はありません。

法人の白色申告との違い

法人における青色申告と白色申告の大きな違いは、「帳簿付けの難易度」「節税効果」「事前の届け出の必要性」です

青色申告の帳簿付けは、複式簿記が基本です。簡易簿記である白色申告よりも事務作業が多く、不慣れな人は手間がかかるでしょう。

一方で青色申告では白色申告にはない、以下のようなメリットを享受できます。

  • 赤字(欠損金)を翌年以降の黒字と相殺できる
  • 赤字を前年度の黒字と相殺できる
  • 30万円未満の減価償却資産を一括で経費にできる
  • 設備投資をしたときに一定の控除がある

このメリットを受けるために、青色申告を行う際は事前に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。白色申告の場合、届け出は不要です。

法人が青色申告を行うメリット

青色申告は白色申告と異なり、いくつかの税制上の優遇措置を受けられます。適用対象が中小企業に限られる制度もあるため、事前に把握しておきましょう。

法人が青色申告で得られる4つの節税メリットを詳しく解説します。

赤字を翌年以降の黒字と相殺できる

法人税の計算において、課税所得が赤字になった場合、その金額を「欠損金」と言います。以下の条件を満たす法人は、欠損金を翌年以降の黒字と相殺することが可能です

  • 欠損金額が生じた事業年度に青色申告書で確定申告をしている
  • その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出している

この制度を「欠損金の繰越控除」と言います。

欠損金の繰越控除が適用される期間は、10年間(2018年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額は9年)です。

繰越欠損金額が200万円で、その事業年度の繰越欠損金控除前の所得金額が150万円と仮定しましょう。この場合、150万円が損金の額に算入され、その事業年度の所得金額は0円となるため、法人税の支払いは生じません。

なお、繰越欠損金控除前の所得から全額控除できるのは資本金1億円以下の中小企業のみで、大企業は控除上限が繰越欠損金控除前の所得金額の50%までと定められています。

赤字を前年度の黒字と相殺できる

欠損金が生じた場合、欠損金の繰越控除ではなく「欠損金の繰戻還付」を選択するという手もあります。

具体的には欠損金が生じた年の前事業年度の所得に欠損金を繰り戻し、納付済の法人税額の還付を受けられる制度です。

欠損金の繰戻還付が受けられるのは、原則として「資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の中小企業者等」です。適用されるためには、以下の要件を満たさなければなりません。

  • 還付所得対象の前事業年度から欠損事業年度まで、連続して青色申告の確定申告書を提出している
  • 欠損事業年度において、青色申告の確定申告書を提出期限までに提出している
  • 上記の確定申告書と同時に、欠損金の繰り戻しによる還付請求書を提出している

30万円未満の減価償却資産を一括で経費にできる

以下の要件を満たす法人であれば、30万円未満の減価償却資産を取得して事業に用いたとき、取得価額に相当する金額を損金の額に算入できる「少額減価償却資産の特例」を受けられます

  • 適用対象法人:青色申告法人である中小企業者および農業協同組合等で、常時使用する従業員の数が500人以下
  • 対象資産:取得価額が30万円未満の減価償却資産
  • 対象資産の限度額:1年間(12カ月)で、取得価額の合計額のうち300万円まで

減価償却資産とは建物や機器装置、車両など、時間の経過とともに価値が減少すると考えられる固定資産です。本来、固定資産の購入費は減価償却費として一定の年数に配分して計上しますが、特例制度によって一括計上すれば利益を圧縮でき、その年の節税につなげられます。

なお適用を受けるには上記の要件に加え、少額資産を取得した事業年度に取得価額を損金算入し、確定申告書に「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」を添付する必要があります。

設備投資をしたとき一定の控除がある

資本金が3,000万円以下の中小企業者等は「中小企業投資促進税制」の対象となり、一定の設備投資を実施した際に「税額控除」または「特別償却」のいずれかを適用できます

税額控除と特別償却の限度額は、それぞれ以下の通りです。

  • 税額控除の場合:基準取得価額の7%相当額
  • 特別償却の場合:基準取得価額の30%相当額(通常の減価償却費とは別枠)

対象となる資産は機械および装置・測定工具および検査工具・ソフトウェア・貨物自動車・内航船舶で、取得価額や重量などの要件が設けられています。

対象業種が指定されているため、国税庁または中小企業庁のWebサイトで事前に確認しましょう。

法人が青色申告をする際の手順と提出期限

法人が初めて青色申告をする際には、どのような手順で手続きを進めればよいのでしょうか?申告期限に遅れないように、一連の流れと書類の提出期限を確認しておきましょう。

青色申告承認申請書の提出から、申告書の作成・提出まで、順を追って説明します。

青色申告承認申請書を提出する

青色申告の承認を受けようとする法人は、納税地の所轄税務署長に「青色申告承認申請書」を提出しなければなりません

提出期限は青色申告によって申告書を提出しようとする、事業年度開始の日の前日が原則です。ただし設立初年度の普通法人については、設立の日以後3カ月を経過した日か当該事業年度終了の日のうち、いずれか早い日の前日までに提出します。

実際のところ会社設立の直後の時期を決算月とする法人は少なく、設立の日以後3カ月を経過した日までが期限となるケースが大半です。

詳しい提出方法は『「青色申告承認申請書」の書き方と提出方法』で解説します。

日々・月々の記帳を行う

法人が確定申告を行うには、当期の記帳を全て完了させる必要があります。決算前にまとめて帳簿に記載しようとすると、膨大な時間と労力が費やされるため、記帳はできるだけその都度行いましょう。

青色・白色にかかわらず、帳簿は発生主義が基本です。発生主義とは収入や支出が確定したタイミングで記帳する方法で、実際に金銭のやりとりがあったかどうかは関係ありません。

簿記には簡易簿記と複式簿記の2パターンがありますが、法人の青色申告では、複式簿記を用います。記帳には会計ソフトを利用するのが望ましいでしょう。

決算書の確認・作成をする

当期の記帳が全て完了したら、決算整理仕訳を行い、決算書を作成します。「決算整理仕訳」とは取引が当期間に該当するかどうかを、判断するプロセスです。当期分と来期分に整理した上で、帳簿に最終修正を加えます。

決算書は経営成績や財務状態を表す書類で、以下のようなものが含まれます。

  • 貸借対照表
  • 損益計算書
  • キャッシュ・フロー計算書
  • 株主資本等変動計算書
  • 個別注記表
  • 事業概況説明書
  • 勘定科目内訳書

特に重要なのが貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書の3つで、一般的には「財務三表」と呼ばれています。

法人税申告書を作成する

決算書を作成したら、法人税等(法人税・法人住民税・法人事業税)と消費税の、申告書の作成を行いましょう。法人税申告書は「別表」と呼ばれる帳票から構成されます。複数の別表から構成されており、明細書や付表を合わせると、その数は100種類を超えます。

申告ソフトを使えば税務申告に必要な申告書一式を自力で作成できなくはないですが、申告書の作成は本来、骨が折れる作業です。限られた時間の中で間違いなく申告するなら、税務のプロである税理士に依頼するのが最も効率的でしょう。

なお法人税の申告期限は各事業年度終了の日の翌日から、2カ月以内です。たとえば決算日が8月31日であれば、申告期限は10月31日です。期限日が税務署の閉庁日(土日・祝日)の場合は、その翌日が期限となります。

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提出書類を適正に保存する

確定申告をした法人は、帳簿と取引に関して作成・受領した書類を保存する必要があります。ここでいう保存とは、物理的に帳簿書類が存在するだけでなく、税務職員にいつでも提示できる状態であることを指します。

保存対象となる帳簿・書類は以下の通りです。

帳簿の一例
  • 総勘定元帳
  • 仕訳帳
  • 現金出納帳
  • 売掛金元帳
  • 買掛金元帳
  • 固定資産台帳
  • 売上帳
  • 仕入帳
書類の一例
  • 注文書
  • 契約書
  • 領収書
  • 棚卸表
  • 貸借対照表
  • 損益計算書

保存期間は原則として、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間、繰越欠損金がある場合は最大10年間です。

保存方法には書類として保存する方法と、データで保存する方法があります。

「青色申告承認申請書」の書き方と提出方法

青色申告を初めて行う際は、納税地を所轄する税務署長に「青色申告承認申請書」を提出するのがルールです。

青色申告承認書は申請のフォームが決まっています。国税庁のWebサイトからダウンロードするか、税務署の窓口で入手しましょう。

申請書の書き方と提出方法を解説します。

青色申告承認申請書の書き方

青色申告承認申請書の記載例
青色申告の承認申請書(出典:国税庁)

まず項目に沿って、以下の内容を記載します。

  • ①申請書を提出する年月日と、所轄の税務署名を記入します。所轄の税務所や管轄区域が分からない場合、国税庁サイトを使って調べられます。
  • ②登記した住所、会社の電話番号を記載します。固定電話がなければ、携帯電話番号を記載しましょう。
  • ③株式会社や合同会社も含めた正式な法人名を記入し、フリガナをふります。なお②③は正式な情報であればゴム印でも問題ありません。
  • ④13桁の法人番号を記入します。法人番号は設立登記完了日の2稼働日後に郵送で通知される番号です。設立直後でまだ通知されていない場合、空欄でも構いません。
  • ⑤法人の代表者氏名を書き、フリガナもふりましょう。法人の実印を押印し、代表者住所も記載します。
  • ⑥定款に記載している事業を書きます。資本金又は出資金の金額は、登記簿謄本に載っている金額を書きましょう。
  • ⑦青色申告を提出開始する事業年度を記載します。法人設立直後の場合、会社設立日から決算日までとするのが一般的です。
  • ⑧チェックに該当する場合、チェックボックスに✓を入れます。会社設立直後の人は、上から2つ目にチェックを入れ、会社設立年月日を記入しましょう。
  • ⑨「帳簿組織の状況帳簿名」「その帳簿形態」「記帳する時期」を記載します。帳簿名には、必ず作成する「総勘定元帳」を記入しましょう。帳簿の形態は「会計ソフト」や「Excel」などです。記帳の時期は「毎月」「3か月に1回」「年に1回」または「毎日」「週に1回」「随時」などと記入します。ここに記載する内容は予定のため、実際の記帳方法やタイミングが変わっても問題ないです。
  • ⑩会計ソフトを利用する場合、「電子計算機利用」に丸を付けましょう。
  • ⑪税理士に作成代行を依頼した場合、税理士本人が署名して押印する欄です。税理士が関与していない場合は、空欄で問題ありません。

青色申告承認申請書の提出方法

申請書が書けたら、税務署に提出しましょう。

青色申告承認申請書の提出方法は、以下の3パターンから選択できます。手数料は無料で、申請書以外の添付書類はありません。

  • 税務署に持参する
  • 郵送する
  • e-Taxで電子申請する

税務署に持参もしくは郵送で提出する際は、「提出用」と「控え用(コピー)」の2部を提出しましょう。

税務署に持参する場合、税務署の窓口に提出すると、受付印が押された控えをその場で返却してもらえます。

郵送の場合は控えを返送してもらうための「返信用封筒」を同封しましょう。普通郵便でも構いませんが、レターパックや簡易書留で送った方が安心です。

法人が青色申告を行う際の注意点

青色申告は節税効果が高いですが、慣れていないと手間がかかる点に注意しましょう。また帳簿書類の提出を拒んだり申告書の不備が続いたりすると、青色申告の承認自体が取り消される可能性があります。

複式簿記に慣れていないと手間がかかる

青色申告では複式簿記で記帳を行います。簡易簿記の経験しかない人は、記帳に時間と労力が費やされてしまう点に注意が必要です。

複式簿記では1つの取引を、「借方」と「貸方」の2つの勘定科目に分けて記帳します。取引を1つの科目だけで記載する簡易簿記は、お金が増えた(減った)理由が分かりにくいのがネックですが、複式簿記ではお金の出入りが一目瞭然です。

会計・経理の担当者がいない場合、複式簿記の基礎知識を身に付け、会計ソフトなどで記帳し自力で申告するか、税理士にサポートを依頼する手があります。

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提出不備が続くと、申請が取り消される場合も

以下のように青色申告書を提出するにふさわしくないと判断された場合、青色申告の承認が取り消される可能性があります

  • 帳簿書類を提示しない場合
  • 帳簿書類の備付けなどについて、税務署長の指示に従わない場合
  • 隠ぺい・仮装の事実に基づく不正所得金額が50%を超える場合
  • 2事業年度連続してその提出期限内に申告書の提出がない場合
  • 相当の事情がある場合
  • 電子帳簿保存法の要件に従っていない場合

青色申告の承認の取消通知書が届くと、取消通知を受けた日から1年間は再申請ができません。しばらくは青色申告の税制面のメリットを享受できなくなってしまう点に、注意が必要です。

電子帳簿保存法について

電子帳簿保存法は帳簿・書類を、電子データで保存することを認める法律です。「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3つの保存区分があり、保存方法について一定の要件を設けています。

災害などによる事情がないにもかかわらず、電子帳簿保存法の要件に従っていない場合、青色申告の承認が取り消される可能性があるため、注意が必要です。

なお2024年1月1日からは、「電子取引データの電子保存」が義務化されます。所得税・法人税について帳簿・書類を保存する義務のある者が、「保存が必要な書類」に相当する電子データをやりとりした場合、その電子取引データを保存しておかなければなりません。

監修税理士のコメント

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

「青色申告」と聞くと個人事業主の確定申告を思い浮かべる方が多いと思いますが、法人の申告にも白色と青色があります。 帳簿の作成が大変にはなりますが、税制的なメリットが大きいので、特別な事情が無い限りは青色申告がオススメです。

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法人の確定申告は青色申告と白色申告のいずれかを選択できます。白色申告は事務作業の負荷が少ないですが、税制面の優遇を受けられません。

欠損金の繰越控除や繰り戻しによる法人税額の還付などが受けられる点を考慮すると、多少の手間がかかっても、青色申告を選択するのが賢明でしょう。会計ソフトを使えば、複式簿記による記帳や確定申告のハードルはグッと下がります。

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この記事を監修した税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

安田亮(公認会計士・税理士・1級FP技能士)1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応等を経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。