貸借対照表(バランスシート)とは、決算日時点の企業の財政状況を明らかにする決算書のことです。
貸借対照表の各項目の意味や、特定の指数の計算方法が理解できれば、経営分析に大いに役立ちます。客観的に問題点を把握できるため事業の改善ができ、業績向上にも繋がるでしょう。
貸借対照表の見方や経営分析の方法、指標の数字が悪かったときの対策まで、徹底的に解説します。
この記事を監修した税理士
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
貸借対照表(バランスシート)とは?各項目の読み方
貸借対照表とは決算日時点の企業の財政状況を明らかにする決算書です。会社がどのようにして資金調達を行い、どのように資金を運用しているかが把握できます。
様式の左側が資産の部で、右側が負債・資本の部となっており、左右の合計金額は必ず一致する点が特徴です。この特徴から「バランスシート」と呼ばれることもあり、英語読みで「BS」と記載する場合もあります。
また貸借対照表を「流動資産」「固定資産」「流動負債」「固定負債」「純資産」の5ブロックに分けて考えると、財政状況の把握が容易になります。
会社の所有する資産を表す「資産の部」
貸借対照表の様式の左側に記載されるのが「資産の部」です。企業が将来的に資金として使えるようになる資産や、現在保有している資産などが記載されます。
資産の部に記載される項目は、大きく分けると「流動資産」と「固定資産」及び「繰延資産」の3つです。通常は資産の部の上部に流動資産を、その下に固定資産、最後に繰延資産を記載する流れとなります。
流動資産
流動資産とは、短い期間で現金に変えられる資産です。1年以内に現金化できる資産や、仕入から販売、回収といった、営業サイクルの中で生じる資産が該当します。
また今すぐ現金として利用できる資産も流動資産です。一言で流動資産と言っても以下のように多岐にわたります。
【流動資産の例】
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固定資産
固定資産とは、1年以上の長期に渡り使用する資産や、現金化に1年以上を要する資産です。また固定資産は「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」に分けられます。
【有形固定資産の例】
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【無形固定資産の例】
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【投資その他の資産の例】
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有形固定資産とはその名の通り、形のある資産を指します。
一方で無形固定資産とは、実態はないものの価値を有する資産です。経済的な収益力や法的に認められた価値が該当します。
また投資その他の資産とは、有形固定資産にも無形固定資産にも該当しない固定資産です。企業の経営支配や取引関係の維持に用いられる資産が当てはまります。
繰延資産
繰延資産とは、本来費用として処理すべき項目であるが、償却手続きによる処理が認められている資産です。その特性から実際に現金化はできず、中・長期的に費用計上されていきます。
貸借対照表上は資産として計上されているものの、実際に企業が保有する資産と言えない点が特徴です。
【繰延資産の例】
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他人から調達した資金を表す「負債の部」
貸借対照表の様式の右上に記載される項目が「負債の部」です。企業が返済する義務のある負債や将来見込まれる支出、支払うべき対価などが記載されています。
負債の部の項目は2つです。返済期間の長さによって「流動負債」と「固定負債」に分かれます。支払期限の短い流動負債を上部に、返済までに期間のある固定負債をその下に記載します。
流動負債
流動負債とは、1年以内に支払期限が到来する債務を指します。比較的早く支払いを必要とするため、返済を意識した資金繰りが大切です。
直接的な借入金はもちろん、従業員から預かる「預り金」や役務の提供前に受け取る「前受収益」なども含まれます。
【流動負債の例】
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固定負債
固定負債とは、1年以内に支払い義務が生じない負債を指します。つまり返済に時間的な余裕がある負債です。長期に渡る借入金や、社債などが該当します。
【固定負債の例】
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返済の必要がない資金を表す「純資産の部」
貸借対照表の右下に記載される項目が「純資産の部」です。将来的に返済の必要がない資金である点が特徴で、純資産の額が大きいほど企業の安全性が高いことを表します。
純資産の部を大きく分けると「株式資本」と「株式資本以外」です。純資産の部の上部に株主資本を記載し、その下に株式資本以外を記載する流れとなります。
株主資本
株主資本とは株式の発行による出資で得た金額と、その出資を基に事業で得た金額を指します。また一言で株主資本と言っても、以下の4つの項目から成り立っています。
項目 | 内容 |
資本金 | 株主が会社に対して出資した金額
株式発行によって得た金額の2分の1以上を資本金とする必要がある |
資本剰余金 | 企業の資本取引から発生する剰余金
資本準備金とその他資本剰余金で構成される |
利益剰余金 | 損益取引から生じた利益の中から、配当などによって支出されない残額 |
自己株式(金庫株) | 企業が自社株式を買い取った金額 |
株主資本以外
貸借対照表の株式資本に該当しない以下のような項目を、株式資本の下部に記載していきます。株主資本以外の項目は多岐に渡りますが、純資産の部の大部分を占めるのは株主資本となります。
【株主資本以外の純資産の例】
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貸借対照表を用いた分析方法と改善への活用例
貸借対照表に記載された値から算出する各指数を用いることによって、経営分析や意思決定を行えます。具体的には各指数を用いて「同業他社との比較」や「自社の過去の期間との比較」を行います。
経営分析を正しく行えれば、客観的な視点で事業の問題点や改善箇所を把握できるため、積極的に取り入れましょう。
短期的な支払能力を見る指標
貸借対照表から「流動比率」や「当座比率」を読み取ることで、短期的な支払い能力を判断できます。仮に短期的な支払い能力がない場合、財政状況が危うく事業の存続に関わるため、早急な対応が必要です。
流動比率
流動比率とは流動負債に対して、どのくらいの流動資産を有しているのかを表す指数です。簡単に言えば「入ってくるお金と、支払うお金はどちらがどのくらい多いか」を表します。貸借対照表の流動資産を流動負債で割ることで算出できます。
流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100(%) |
例えば「流動資産:120万円」「流動負債:100万円」の場合における流動比率は「120%」です。
流動比率は割合が高いほど良い値とされています。流動比率が120%超であれば理想的な経営であると言えるでしょう。
反対に流動比率が低い状態は、流動負債に対して十分な返済資金が足りていないことを表しています。その場合は以下のような手段で流動負債の削減や、流動比率の増加を早急に行う必要があります。
【流動比率が低い場合の対策例】
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当座比率
当座比率とは貸借対照表の流動負債に対して、どのくらいの当座資産を有しているのかを表す指数です。
当座資産とは流動資産の中でもすぐに現金化できる資産を指します。具体的には「現金・預金」「売掛金」「受取手形」「一時保有目的も有価証券」などが該当します。
流動資産ではなく当座資産に着目すると、流動比率よりもより厳しい目線で短期的な支払い能力を判断可能です。当座比率は当座資産を流動負債で割って求めます。
当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100(%) |
例えば「当座資産:90万円」「流動負債:100万円」の時の当座比率は「90%」です。
一般的に当座比率は90%以上であれば、短期的な支払い能力が問題ないと言われています。一方で70%を下回っていると、支払能力に問題があると判断され、負債の支払いが困難になる可能性があります。
当座比率が低い場合は負債の返済が困難となる恐れがあるため、以下のような対策が必要です。
【当座比率が低い場合の対策例】
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長期的な安全性を見る指標
「自己資本比率」や「固定比率」「固定長期適合率」から長期的な安全性を判断できます。将来的に得られる資産と、支払うべき負債を考慮することで、経営を長い目で見て分析が可能です。
自己資本比率
自己資本比率とは総資本に対する自己資本の比率です。自己資本とは将来的な返済義務がない資本で「純資産」と同義です。自己資本率が高ければ資本のうち返済する額が少なく、事業が安定していると言えます。
自己資本比率は貸借対照表の自己資本(純資産)を総資本(純資産+負債)で割ると算出できます。
自己資本比率(%)=自己資本÷総資本×100(%) |
例えば「自己資本(純資産):500万円」「負債:1000万円」の場合の自己資本率は「33.3%」です。
自己資本比率の目安は業界によっても異なりますが、30%程度は必要と考えましょう。また50%以上あれば非常に良好であると言えます。しかし飲食業及び宿泊業については、自己資本比率が20%を下回るケースが多い点に留意しましょう。
自己資本比率が低いと長期的な安全性も低いと判断できるので、向上のために以下のような対策が必要です。
【自己資本比率が低い場合の対策例】
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固定比率
固定比率とは貸借対照表の自己資本(純資産)に対して固定資産がどの程度あるかを占める指数です。固定資産を自己資本で割ることで求めます。
固定比率(%)=固定資産÷自己資本(純資産)×100(%) |
例えば「固定資産:80万円」「自己資本(純資産):100万円」の場合、固定比率は「80%」です。
固定比率の目安は100%未満です。固定比率が100%未満であれば、長期的に保有する固定資産を自己資本だけでカバーできていることを表します。そのため長期的に見て経営が安定していると判断可能です。
固定比率が過剰に高い場合は、以下のように低下させるための対策が必要です。
【固定比率が高い場合の対策例】
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固定長期適合率
固定長期適合率とは貸借対照表の自己資本(純資産)と固定負債の合計額に対する、固定資産の割合です。収益を発生させる固定資産が適切に企業の資金で賄えているか否かを表せます。
固定長期適合率は固定資産の額を自己資本と固定負債と合計額で割って計算します。
固定長期適合率(%)=固定資産÷(自己資本(純資産)+固定負債)×100(%) |
例えば「自己資本:300万円」「固定負債:500万円」「固定資産:700万円」の場合、固定長期適合率は「約88%」です。
固定長期適合率の目安は100%です。100%を下回っている状態で、健全な経営状態と判断できます。一方で100%を上回っている場合は、注意が必要で、150%程度になると早急な対応が必要となります。
固定長期適合率が高い場合は「固定資産の削減」や「自己資本、固定負債の増加」を行い、比率を下げましょう。
【固定長期適合率が高い場合の対策例】
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貸借対照表と損益計算書との関連性
貸借対照表は損益計算書とも関連のある財務諸表です。貸借対照表と損益計算書の違いが分かると、書類や経営分析への理解が深まります。
損益計算書とは?貸借対照表との違い
貸借対照表と損益計算書の大きな違いは作成する目的です。貸借対照表は期末時点での財政状態を表す書類ですが、損益計算書は会計期間における経営成績を表すことを一番の目的としています。
損益計算書は会計期間における様々な利益を表しており、売上高から売上原価を引いた売上総利益(粗利)や、売上総利益から販売に要する費用などを差し引いた営業利益なども確認できる書類です。
以下の記事では、損益計算書の見方や経営分析の方法を解説しています。会社の利益がどのくらい出ているかや利益率を知りたい方は、確認してみてください。
当期純利益・繰越利益剰余金でつながる
貸借対照表と損益計算書はそれぞれの繰越利益剰余金と当期純利益でつながります。損益計算書では会計期間における収益から費用を引いて当期純利益を計算しますが、貸借対照表では利益によって増加した資産に対応する金額が当期に発生した繰越利益剰余金として表示されます。
そのため当期純利益と当期発生の繰越利益剰余金は以下の表のように一致するのが原則です。
貸借対照表の作り方
貸借対照表は、その作り方を把握することでより理解を深められます。日々の仕訳から貸借対照表作成までの流れを説明します。
日々の取引を仕訳する
貸借対照表の作り方は日々の取引を仕訳することから始まります。ここでは具体例として以下の6つの取引について確認してみましょう。
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これらの取引を仕訳した簡易的な仕訳帳は以下のようになります。
総勘定元帳に転記する
総勘定元帳は仕訳した取引を勘定科目ごとに記録する帳簿です。仕訳では、貸借対照表の借方(左側)にある資産は増加すると仕訳の借方に、減少する場合は貸方に記載するのがルールです。同様に貸借対照表の貸方(右側)にある負債と資本は増加を貸方に、減少を借方に記載し、損益計算書の項目については費用の発生を借方に、収益の発生を貸方に記載します。このように、取引要素ごとに仕訳するイメージを表すと以下のようになります。
仕訳を仕訳帳に記録できたら、それぞれの勘定科目ごとに総勘定元帳に転記すると総勘定元帳の完成です。上記の①から⑥の取引について現金を総勘定元帳に転記すると以下のようになります。
総勘定元帳は標準式元帳と残高式元帳の2種類あり、上の元帳は残高式元帳です。残高式元帳はすぐに残高が見えるように記載されているため非常に便利で、標準式元帳よりも多くのケースで利用されています。
試算表を作成する
総勘定元帳を作成できたら勘定科目ごとの借方貸方合計額とそれぞれの残高を試算表に転記します。以下の試算表は上記①から⑥の取引について作成した試算表です。
試算表にも合計試算表と残高試算表、合計残高試算表の3種類があり、上記は借方と貸方の合計額と残高が両方記載される合計残高試算表の形式です。
貸借対照表を作成する
試算表までの作成が終わると貸借対照表の完成は間近です。決算時の処理である減価償却費の計上など決算整理を考慮して試算表の数字を集計すると貸借対照表が完成します。今回はイメージを掴んでいただくために決算整理は無いものと仮定して、①から⑥の取引について貸借対照表を作成すると以下のようになります。
もちろん、実際の会社の貸借対照表はもっと多くの勘定科目が登場するため見た目はかなり複雑です。しかし、貸借対照表の概要や作り方を理解していると勘定科目が増えても基本的な構造は変わらないため、貸借対照表の中身についても同様に把握することができるようになります。また、法人の青色申告を行うためには厳密な帳簿付けから貸借対照表や損益計算書などの作成が必須です。
そのため、上記のような帳簿付けから貸借対照表作成までの流れは、押さえておかなければならないポイントのひとつです。
個人事業主が貸借対照表を作成する際によくあるトラブル
貸借対照表の作成に慣れない個人事業主の場合、完成したあとに左右の金額が一致しない、現金がマイナスになるなどのトラブルが発生することがよくあります。不一致の原因は勘定科目の位置が違っていたり、数値が間違っていたりなどさまざまです。慌てずに原因を探しましょう。
貸借対照表の左右の金額が一致しない
勘定科目の位置が間違っていると、金額が合わなくなります。「資産の部」に属するものは左側、「負債の部」と「純資産の部」に属する勘定科目は右側が原則です。正しい位置におさまっているか、確認してください。
たとえば、事業主借と事業主貸を間違えている、左側にするべき現金を右側にしているなど、仕訳の誤りや転記ミスの可能性があります。
各勘定科目の数値が正しいかを確認
数値の入力や転記が間違えている場合もあります。566を556にしてしまうなど、連続した数値は間違いやすいものです。数値の差が小さい場合は、このようなミスを疑ってみましょう。
数値の差が大きい場合、桁を間違えている可能性もあります。勘定科目として明らかにおかしい数値がないかチェックしてみてください。
総勘定元帳や仕訳帳で金額の誤りを修正
勘定科目と数値を確認して誤りの可能性がある勘定科目を見つけたら、仕訳帳の内容と勘定科目ごとに転記した総勘定元帳を確認して修正します。
総勘定元帳の勘定口座は各勘定科目の増減や発生の記録、金額などが日付順に記載されているものです。仕訳帳から転記する際に勘定科目を逆にしている、金額にミスがあるなどの誤りを発見できる可能性があります。
貸借対照表で現金がマイナスになる
貸借対照表の現金がマイナスになる原因として考えられるのは、現金の売上が漏れているか、現金払いなどの経費を二重に計上している場合です。
また個人事業主であれば、現金・事業主貸・事業主借の勘定科目を間違って使っている可能性もあるでしょう。現金は事業についてお金を使ったときに使う勘定科目、事業主貸や事業主借はプライベートで使用したときに使う勘定科目です。これらを使い分けられていない場合も考えられるので、確認してみてください。
貸借対照表を活用して経営分析を行おう
「貸借対照表」とはある一定の時期における会社の財務状況を表した決算書です。貸借対照表の内容を理解し指数の計算方法が分かると、経営分析に大きく役立ちます。
また貸借対照表を正しく作成するには、日々の記帳や各種帳簿の作成が必須です。日々の仕訳や記帳が正しく行われていないと、貸借対照表の作成時のトラブルに見舞われる恐れがあります。トラブルが起きてしまうと修正に不要な時間がかかるため、正しい作り方で、日々帳簿の作成を行いましょう。
貸借対照表は税理士にお任せ!
貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を作成するには帳簿付けや集計などの作業が必要です。現在は、会計ソフトに仕訳を入力するだけで簡単に貸借対照表の作成を行うこともできますが、処理の間違いがあると納税上のペナルティが発生する場合もあるため可能な限り厳密な処理を行う必要があります。そのため、会社の適正な会計処理を行うためには、プロフェッショナルである税理士に依頼することも有効な選択肢の一つです。
監修税理士からのコメント
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この記事の監修税理士
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