「損益計算書では何が分かるの?」「着目するべきポイントは?」といった疑問を持ってはいませんか。
損益計算書の「利益」や「売上高」に着目することで、企業の事業規模や経営成績が分かります。
本記事では損益計算書の役割や読み取れる項目、経営への活かし方、作成方法等を解説しています。損益計算書の知識を深めれば、企業の経営状況がより深く理解できるため、正しく理解をして役立てましょう。
この記事を監修した税理士
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
損益計算書とは
損益計算書とは会社の利益が分かる決算書類です。一会計期間の収益や費用、利益が記載されます。英語で「Profit and Loss Statement」と書き、略して「P/L」とも呼ばれます。
損益計算書は決算期間(1年間や3カ月間)の収益の額や支払った費用、収益から費用を引いた利益を知るための書類です。「何に費用を使っているのか」「売上はどれだけ上がっているのか」「どのくらいの儲けになったのか」を読み取れます。
また複数の事業を行っている場合は、事業ごとの利益を読み取ることも可能です。
そのため損益計算書は会社の経営状況を分析したり、経営戦略を立てたりするうえで非常に重要な書類といえます。
損益計算書の書式は2種類
損益計算書には「報告式」と「勘定式」の2種類の様式があります。
報告式は大手企業の決算発表など、外部に公開される時に使用される形式です。
一方で勘定式は外部に公開される決算書としてはあまり使用されません。しかし費用の具体的な科目が分かりやすいため、企業によっては作成段階で使用されているケースがあります。
報告式
報告式の損益計算書は、当期純利益を「営業利益」「経常利益」「純利益」の3つの段階に分けて計算する方式です。
企業がどのような活動でどのくらいの損益を出したかが分かりやすくなります。そのため赤字が出た際も、どの項目が問題になっているのかが明確となります。
また上から下に数字を足し引きするだけで、当期純利益が求まるので、直感的に理解しやすい点も魅力です。
勘定式
勘定式の損益計算書は、様式の右側に収益、左側に費用と利益を計上する方式です。
勘定式の損益計算書では、費用の具体的な科目が分かりやすいので経営分析の役に立ちます。例えば一部の費用だけ過剰に多い場合は、その費用の削減により事業の利益率を向上させることが可能です。
勘定式は外部に公開する様式ではありません。しかし損益計算書の作成途中に取り入れることで、より事業をブラッシュアップしやすくなります。
損益計算書と貸借対照表の関係
損益計算書と貸借対照表はどちらも企業の経営状況を表す書類である決算書類です。しかし損益計算書には「一定期間の経営成績」を記載するのに対し、貸借対照表には「ある時点の資産や負債、純資産の状況」を記載します。
損益計算書 | 貸借対照表 | |
記載する情報 | 一定期間(主に1事業年度)における「売上高」「費用」「利益」の状況(経営成績) | ある時点(主に決算日)における「資産」「負債」「純資産」の状況(財政状態) |
経営分析において読み取れること |
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なお一見全くの別物に見える損益計算書と貸借対照表ですが、損益計算書の「当期純利益」で繋がっています。損益計算書の「当期純利益」は、毎期の決算処理により貸借対照表の「利益剰余金」に累積されます。
以下の記事では、貸借対照表の見方や経営分析の方法を解説しています。貸借対照表を用いた経営分析を行いたい方は参考にしてみてください。
損益計算書から読み取れる5つの利益項目
損益計算書では、会社の活動による利益を以下の5つに分けることで、会社のどのような活動でどれくらいの利益を出したかという分析が可能になります。
売上総利益
売上総利益は、売上高から売上原価を差し引いたもので、粗利益とも呼ばれます。
【売上総利益の計算式】
売上総利益=売上高-売上原価 |
例えば700円で仕入れた商品を1,000円で販売した場合、売上総利益は300円になります。
売上高
売上高とは会社の本業である商品やサービスの提供によって得られる合計金額です。商品を1,000円で販売した場合、売上高は1,000円となります。
売上原価
売上原価は、一会計期間に売り上げた商品の仕入れや製品の製造にかかった費用です。損益計算書では売上高の次に記載されます。
営業利益
営業利益は売上総利益から販売費および一般管理費を差し引いたもので、本業における経営成績が表されています。
【営業利益の計算式】
営業利益 = 売上総利益 - 販売費及び一般管理費 |
営業利益が大きいほど本業において少ないコストで利益を上げていることになり、優良企業かどうかを判断する目安になります。
営業利益を増やすポイントは、営業に費やす販売費及び一般管理費を削減することです。
販売費及び一般管理費
販売費とは、商品やサービスを販売するために必要な営業活動にかかる費用です。また一般管理費は、会社の運営や管理に必要な費用になります。
販売費の一例 | 一般管理費の一例 |
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経常利益
経常利益とは本業と本業外で得た利益のことで、事業全体の活動での経常的な経営成績です。営業利益に営業外収益を加算し営業外費用を差し引いて算出します。
【経常利益の計算式】
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用 |
経常利益を見ることで、会社が継続的に利益を上げる実力があるかを知ることができるでしょう。
営業外収益
営業外収益は会社の本業以外から得ている利益です。代表的なのは受取利息や受取配当金です。また余剰資金を投資して運用している場合もその成果は本業によるものではないため、営業外収益になります。
営業外費用
営業外費用は本業以外に支出した費用で、支払利息が代表的です。借入金がある場合は金利の支払いが発生しますが、これらの支出は営業外費用として計上します。
税引前当期純利益
税引前当期純利益は法人税や住民税などの税金を納める前の利益のことで、最終的な経営成績として計上されます。経常利益に特別利益を加え、特別損失を差し引いて算出します。
税引前当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失 |
特別利益
特別利益は本業とは関係なく、臨時的にまたは異常な要因によって発生した利益のことです。
不動産などを売却した際の「固定資産売却益」などが該当します。経常的な収益に加えると企業の収益力が高くなり評価を誤る可能性があるため、区別されています。
あくまで通常であれば発生しない臨時の利益であり、会社の経常的な業績を判断する目安にはなりません。
特別損失
特別損失は本業とは関係ないところで、一時的に発生した損失のことです。特別損失の一例としては不動産などを売却した際の固定資産売却損や、災害などによる損失があげられます。
特別損失は翌期以降も継続的に発生することがないのが特徴です。特別利益と同じく臨時的な損失であるため、会社の経常的な業績を判断する基準にはなりません。
当期純利益
当期純利益は会社が最終的に得る利益のことです。税引前当期利益から法人税や住民税、事業税など会社が納める税金を差し引いて算出します。
当期純利益=税引前当期利益ー(法人税、住民税及び事業税) |
法人税、住民税及び事業税
法人税は「法人税」と「地方法人税」を合わせたもので、どちらも国税です。
それに対し住民税及び事業税は地方税であり、各地方公共団体へ納めます。住民税は「道府県民税」「市町村民税」また事業税は「事業税」「特別法人事業税」を合計したものとなります。
ちなみに消費税は、決算時に未払消費税等として貸借対照表に計上するもので、税抜経理の場合は損益計算書には反映されません。
経営状況を読み取るための損益計算書の見方
損益計算書の5つの利益から、経営状況を知るための数字を4つ読み取ることができます。
以下の記事では、損益計算書だけでなく、貸借対照表やキャッシュフロー計算書を用いた財務分析の方法について解説しています。
売上総利益率(粗利率)
売上総利益率とは、売上高に対してどのくらい利益を出しているかがわかる指標になります。
売上総利益率=売上総利益÷売上高×100 |
売上総利益率が高いほど収益性があり、付加価値をつけた販売に成功していることがわかります。会社によっては薄利多売で利益を上げている会社もあるため、売上総利益率によって会社の戦略を知ることもできるでしょう。
売上総利益率は業種によって数字に開きがあります。製造業や小売業で20〜30%となる一方で宿泊業・飲食サービス業では60%台と高く、業種を考慮した判断が必要になるでしょう。
売上高営業利益率
売上高営業利益率は、本業でどのくらいの利益を上げているかが分かります。売上高に対する営業利益の割合で求められます。
売上高営業利益率=営業利益÷売上高×100 |
数値が高いほど本業の経営が良好ということになりますが、こちらの数値も売上総利益率と同じく業種間で異なります。
小売業や卸売業は1%台にとどまるのに対し、不動産業は8〜9%と高めです。比較する場合は、同業種間で行うのがよいでしょう。
売上高経常利益率
売上高経常利益率は、事業全体の活動から得た利益が売上高に対してどれだけの割合かを示すものです。効率よく経営を行っているかを知ることができます。
売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100 |
数値が高いほど経営状態が優良であることを表します。
損益分岐点売上高
損益分岐点売上高とは、売上高と費用がまったく同じ金額になるポイントのことです。実際の売上高が分岐点を上回れば黒字、分岐点に満たなければ赤字になります。
損益分岐点売上高=固定費÷{(売上高ー変動費)÷売上高} |
損益分岐点売上高を算出するには、まず損益計算書に表示されている費用を「変動費」と「固定費」に分類しましょう。
変動費:売上に比例して増加する費用で、商品仕入れ代、原材料費、販売手数料など 固定費:売上に関係なく発生する費用で、人件費、地代家賃、広告宣伝費など |
また売上高から変動費を引いた値を限界利益といいます。限界利益は固定費を回収のに、どのぐらいの販売数が必要になるかを確認する指標になる数字です。限界利益が赤字の場合は、利益を上げる力がないということになります。
損益計算書の作り方
損益計算書は以下の4ステップで作成します。
日々の取引を仕訳する
損益計算書を作る最初のステップは日々の取引の仕訳です。まずは、以下の例で仕訳を確認してみましょう。
【取引の例】
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上記の①~⑥の取引を仕訳すると以下のような仕訳帳が完成します。
複式簿記では費用の発生は借方(左側)に収益の発生は貸方(右側)に記載するのがルールです。
発生した費用の取消として1/10の返品の仕訳をしていますが、このように費用の取消は貸方に、収益の取消は借方に記載することで帳簿に反映することが可能です。
総勘定元帳に転記する
仕訳帳に仕訳を記録したら、次は仕訳帳の取引を勘定科目ごとに総勘定元帳に転記します。1月の取引を損益計算書の項目だけ転記すると以下の通りです。
このように累計した残高が表示される総勘定元帳を残高式元帳と言います。残高式元帳とは別に標準式元帳という形式の総勘定元帳もありますが、現在は累計残高が随時確認できる残高式元帳が主流です。
試算表を作成する
総勘定元帳を作成できたら次は全ての勘定科目を集計する試算表を作成します。取引の例の試算表を作成すると以下の通りです。
試算表にも、合計試算表、残高試算表、合計残高試算表という3つの形式があります。
もともと試算表は、人の手で集計していた頃に総勘定元帳へ仕訳帳の数字が正しく転記できているかどうかを確認するために作成されるものでした。
そのため勘定科目ごとの発生金額の合計や残高を試算表に集計します。上図は合計残高試算表で、現在は会計ソフトなどに仕訳を入力することで簡単に出力することが可能です。
損益計算書を作成する
試算表が完成したら、減価償却費の計算など決算整理を経て損益計算書を作成します。取引の例の数字を損益計算書の雛形に当てはめると、以下のようになります。
上記のように、取引の仕訳をしたものが総勘定元帳や試算表を経て収益や費用の項目ごとに集計されます。
実際の会社の損益計算書を作成する場合は、取引の数や集計する勘定科目も更に多くなりますが、基本的な損益計算書の作り方は変わりません。
損益計算書の作成はフォーマット利用がオススメ
損益計算書は経営分析に必要な情報がたくさん含まれているため、正確に作成することが不可欠です。
損益計算書の内容はわかっても、実際に作るとなると難しく感じるかもしれません。そんな場合には、会計ソフトやエクセルのフォーマットの使用がおすすめです。
また勘定科目の仕訳など判断が難しい場合は、税理士に相談するのも選択肢の1つです。
会計ソフト
会計ソフトで日々の記帳を行えば、自動的に損益計算書の作成ができます。作成が簡単なだけでなく、売上総利益率など経営分析の指標となる数値を自動的に計算することも可能です。
会計ソフトをお探しなら以下の記事もご覧ください。ミツモアでは、複数の会計ソフトを比較してあなたにぴったりの製品を探せます。
freee
freeeは簿記や経理の知識がなくても使えるクラウド会計ソフトです。請求書発行や経費精算、入金管理まで、経理に関わる業務を一元化できます。売上利益の分析なども、見たいときにいつでも数字を確認できるのが魅力です。
損益計算書だけでなく、貸借対照表も決算書類として簡単に作成できます。損益レポートでは好きな期間内の損益を確認でき、グラフで見やすく出力することも可能です。わからないことがあればチャットや電話でいつでも質問できるサポート体制があり、すぐ解決できるのもおすすめポイントです。
フリーウェイ経理Lite
フリーウェイ経理Liteは無料で使える会計ソフトです。インストールもバージョンアップもすべて無料。Windowsを使えるパソコン(Windows10、8.1)に対応しています。損益計算書などの決算書や各種帳票を作成でき、他の会計ソフトから出力したデータや、Excelで作ったデータを取り込めるのもメリットです。
マニュアルやFAQだけでなく解説動画もあり、初めて会計ソフトを使う人でも不安はありません。
たくさんある会計ソフトの違いがわからないという場合でも、こちらのソフトなら無期限で無料なので気軽に試しやすいでしょう。
弥生会計
弥生会計は本格的に経営分析をしたい人におすすめの会計ソフトです。決算書だけではわかりにくい数字をグラフ化して表示し、5期分の貸借対照表・損益計算書など財務諸表を比較することもできます。変動費と固定費を分類して損益分岐点の分析も可能です。
損益計算書は自動集計された数字が転記されるため、ミスの心配もありません。消費税改正など、法令・税制改正や様式変更にもしっかり対応するため安心です。
マネーフォワード
マネーフォワードは人工知能(AI)が搭載され、使うほどに学習して賢く便利になるクラウド会計ソフトです。WindowsとMacに対応し、スマホでも場面に応じて活用できます。
損益計算書も簡単に作成でき、決算書類では貸借対照表にも対応。減価償却費の自動仕訳や固定資産管理の作成も可能です。
金融機関システムを担当していたプロが構築しているためハイレベルのセキュリティが強み。定期的に外部セキュリティ評価会社の第三者評価を受け、改善も行なっています。
Excel
できるだけコストをかけずに損益計算書を作成したい場合には、Excelがおすすめです。テンプレートを使用すれば1から作る必要がなく、数値を入力すれば自動的に計算し、積み上げグラフなど視覚化できます。
以下のサイトでは業種ごとの損益計算書のエクセルテンプレートが無料でダウンロードできます。エクセルテンプレートをお探しの方は参考にしてみてください。
税理士
損益計算書の作成には税法の判断なども必要となるため、専門家である税理士の力を借りることは有効な選択肢の1つです。
損益計算書は見方や作り方を理解できても実際に作成するには難しい判断が付きまといます。
例えば仕訳する際の勘定科目の判定や営業外で発生した損益の処理方法などです。正確に行わなければ、その後の集計結果に影響を及ぼしたり、融資を受けにくくなったりする場合もあります。
判断に迷った場合はプロである税理士を頼ることで、適正な損益計算書作成のサポートをしてもらえます。また税理士に損益計算書の作成を依頼すると、最初の仕訳から損益計算書の完成までを丁寧にサポートしてくれるため、非常に心強い存在となることは間違いありません。
損益計算書を活用して経営分析を行おう
この記事では損益計算書の見方と経営分析の方法について解説しました。
損益計算書は一会計期間の収益、費用、利益の記載された決算書類で、以下の5つの利益が記載されています。
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また5つの利益を用いて「粗利率」「売上高営業利益率」「売上高経常利益率」「損益分岐点売上高」の4つの指標を読み取ることができます。
これらの指標を読み取り、経営の特徴や問題点を洗い出して、経営分析に生かしましょう。
監修税理士からのコメント
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