日本に存在する企業のうち99%の割合を占めている中小企業。日本の経済を支えているのは、数多くの中小企業といっても過言ではありません。
中小企業の税率は、大企業と比べて優遇されています。例えば、法人税や地方法人税、法人事業税、法人住民税などは、資本金額や所得金額によって税率が異なります。また法人税における「軽減措置」があるため、積極的な設備投資や雇用促進がしやすい仕組みになっているのです。
中小企業の法人税の仕組みや法人税率の計算方法、中小企業の軽減措置についてわかりやすく解説します。
この記事を監修した税理士
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
中小企業の法人税は所得金額で税率が変わる
中小企業者等の法人税率は、その年の所得金額が800万円以下であれば「19%」です。そこからさらに租税特別措置によって、税率が「15%」まで軽減されます。この租税特別措置は、令和4年(2022年)度末まで延長適用されることが決定しています。
区分 | 所得金額 | 税率 |
大法人 (資本金1億円超) | - | 23.2% |
中小法人 (資本金1億円以下) | 年800万円超 | 23.2% |
年800万円以下 | 19% (15%) |
軽減税率が適用されるのは「中小法人 (中小企業者)」のみで、資本金が1億円以下などの要件を満たしていなければなりません。
所得が800万円を超える場合の税率は「23.2%」
所得金額が800万円を超える中小企業の法人税率は「23.2%」です。
よく勘違いされるのは、所得金額が800万円を超える企業は「所得金額×23・2%」の計算式によって法人税を算出されると思われている点です。実際は「800万円を超えた部分の法人税率が23・2%」というだけで、所得が800万円以下までの部分は15%で計算します。
例えば、今期の法人所得金額が1,000万円の場合は「800万円×15%」+「200万円×23.2%」の計算式によって、法人税が計算可能です。
法人税法の「中小法人」は資本金1億円以下
法人税法における「中小法人等」とは、資本金が1億円以下もしくは資本などを有しないものを指します。
ただし、各事業年度終了の時において一定の法人は中小法人から除かれます。中小法人から除かれる一定の法人とは、保険業法に規定する相互会社や投資法人、資本金が5億円以上である法人に完全に支配されている法人等です。
例えば、資本金が5億円の大法人に株式の80%を保有されているA社(資本金1億円)を考えてみます。
このA社は株式の1/2以上を大法人に保有されているので、措置法上の中小企業者にはあたりませんが、完全に支配されているわけではありません(株式を100%保有されているわけではない)。そのため法人税法上の中小法人等には該当します。
特に親会社が存在する場合の中小法人の判定には留意しましょう。
法人税をかけられる所得は「益金-損金」
法人所得は以下の計算式によって算出できます。
益金-損金=法人所得 |
学校や簿記の勉強では「収益-費用=利益」という計算式に当てはめて計算しますが、この考え方は会計上(企業会計原則)の考え方です。法人税法上(以後:税務上)では「益金-損金=所得」という用語が使われます。「益金」は会計上の収益、「損金」は会計上の費用と考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
ただし、益金や損金においては、税務上の収益や費用にならないものがあります。
例えば、接待交際費が1,000万円かかった場合。会計上は800万円を超えた200万円の部分も費用として計上しますが、税務上だと200万円を損金として計上できません(損金不算入)。つまり、会計上と税務上でズレが生じるため「税効果会計」によりこのズレの部分を解消するのです。
このような損金不算入部分の数字は、会社の規模によっても異なるため、どういった費用が「損金不算入」になるのか、または「益金算入」になるのか、気になる方は国税庁のホームページから確認してみてください。
中小企業の法人税額の計算例
中小法人の年間所得が「500万円」と「1,200万円」の場合のそれぞれで、法人税額の計算がどのように異なるのかを紹介します。なお、ここでは中小法人の軽減税率(特例)を利用することとします。
年間所得500万円の普通法人の場合
【法人税額の計算式】
500万円×15%=75万円 |
この場合は資本金1億円以下かつ、年間所得800万円以下です。そのため、500万円の所得については、すべて法人税率15%が適用されます。
年間所得1,200万円の普通法人の場合
【法人税額の計算式】
800万円×15%+(1,200万円-800万円)×23.2%=212.8万円 |
このケースでは資本金1億円以下ですが、年間所得が800万円超となります。
よって、1,200万円の所得のうち、800万円以下の部分については、法人税率15%となり、800万円を超える部分は、法人税率23.2%となります。所得のすべてについて23.2%の税率でないことに注意しましょう。
欠損金繰越控除と欠損金繰戻還付における優遇措置
法人の課税所得を計算した結果、マイナスになった場合は法人税の支払いはありません。この税務上の赤字のことを「欠損金」といいます。
青色申告法人が受けられる「欠損金繰越控除」や「欠損金繰戻還付」についても、中小法人には優遇措置がなされています。
欠損金繰越控除とは
欠損金繰越控除制度とは、欠損金が発生した翌年度以降、10年間(平成30年3月31日以前終了の事業年度に発生した欠損金までは9年間)にわたって繰越した欠損金を課税所得から差し引ける制度です。
過去の所得のマイナスと当期のプラスを相殺できる制度と考えるとよいでしょう。赤字の累積を持っておいて黒字が出たら相殺できるため、法人税の負担軽減につながります。
例えば、課税所得が次のとおりだったとしましょう。
2018年度:△100万円
2019年度:△150万円 2020年度:200万円 |
2020年度は黒字なので、本来であれば法人税額を求める流れになります。しかし、その前年までに累計250万円の繰越欠損金があるので、2020年度は課税所得ゼロとなり法人税は発生しません。累計赤字の250万円が黒字の200万円を上回るため、税負担がなくなるわけです。
中小企業は繰越控除限度額が無制限
欠損金繰越控除の制度を適用するためには、次の3要件すべてを満たす必要があります。
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ここで欠損金が生じた年度は、青色申告が必須というのがポイントです。大法人にも欠損金繰越控除は適用できますが、繰越された欠損金のすべてを利用できるわけではありません。欠損金繰越控除限度額については、資本金1億円超の大法人についてはその利用に限度が設けられています。
2019年3月期以降の確定申告ですと、大法人は「控除前所得の50%についてのみ」繰越控除の対象となります。中小法人であれば控除前所得の全額が繰越控除の対象となるので、大法人に比べて優遇される点といえるでしょう。
欠損金繰戻還付とは
欠損金に関連したもうひとつの制度で、欠損金繰戻還付という制度があります。欠損金繰戻還付とは、欠損金が生じた場合に、前年度に支払った法人税のうちの欠損金相当分を還付してもらう制度です。
例えば、前年の法人税は下記のとおり、前年の所得金額に占める欠損金の割合によって還付されます。
前事業年度(還付事業年度) 所得金額 800万円(法人税額 120万円=800万円×15%)
当年度(欠損事業年度) 欠損金額 200万円 還付税額 30万円 = 120万円×(200万円/800万円) |
これら2つの制度は長期的な視点からは同様の効果となりますが、短期的な視点、実際に現金を得られるという資金繰りの観点からは繰戻還付の方が有利になるケースが多いです。
欠損金繰戻還付は中小企業のための制度
欠損金繰戻還付を適用するためには、次の3要件すべてを満たす必要があります。
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欠損金繰戻還付を適用できるのは、資本金が1億円以下の中小法人または解散等の事実が生じた場合ですが、資本金1億円以下の法人であっても、資本金5億円以上の企業の子会社については対象外となります。
欠損金の繰戻還付制度は収益が安定しない中小法人で、来期以降の黒字化が難しい場合や当期のみ欠損金が出てしまった場合などには効果があり、資金繰りに悩む中小法人を救済するための制度と言えます。
繰越控除と繰戻還付のいずれかを選択できる
欠損金繰越控除と欠損金繰戻還付はどちらか一方だけしか利用できません。
繰越控除は「将来支払う税金を減らす」制度であり、繰戻還付は「過去支払った税金を返してもらう」制度です。繰越控除の利用は当期の課税所得がプラスの場合であり、繰戻還付の利用は当期の課税所得がマイナスの場合です。そして、繰越控除については10年間有効でもあります。
2つの制度の選択については、資金繰りとも非常に密接な関係がありますが、貨幣の時間価値等を考慮すると、将来の税額が減少する効果よりも、過去の現金を取り戻せる繰り戻し還付の方が有利と言えます。
また、将来の事業年度で必ず所得を計上できるとも限らないので、リスクヘッジのためにも繰戻還付を選択すべきと言えます。テクニカル的な部分もあるので、信頼できる税理士などに相談し、早めの資金繰り対策を立てておくとよいでしょう。
中小企業が受けられる租税特別措置
中小法人で適用要件を満たしていれば、さまざまな租税特別措置を受けられます。
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租税特別措置の適用を受けるための要件は「過去3年間の平均の課税所得が15億円以下」です。この条件は平成31年4月より適用され、過去3年間の平均所得金額が15億円を超える事業者(適用除外事業者)は除外されることになりました。
研究開発税制(一般型(旧称:総額型)の税額控除率)
研究開発税制とは、研究開発を行なった事業者が支払う試験研究費の一部を、法人税または所得税から税額控除できる制度です。中小企業者等は控除額が優遇(中小企業技術基盤強化税制)されるため、納める税金が少なくなります。
控除上限は原則25%ですが、ベンチャー企業は最大40%の控除上限が認められています。
所得拡大促進税制
所得拡大促進税制は、従業員に支払う給与や賞与が前事業年度比1.5%以上増加した場合に、増加した金額の15%を法人税または所得税から控除できる制度です。ただし所得拡大促進税制を受けるためには、青色申告事業者でなければなりません。
また新しく雇用した従業員分は増加分として認められず、あくまで既存従業員の給与等が1.5%以上増加していることが重要です。
所得拡大促進税制の一定の要件に該当し、全事業年度比が2.5%以上増加している場合は、増加分の25%まで税額控除を受けられます。
中小企業投資促進税制
中小企業投資促進税制は、定められた機械装置等の取得価格に対して、30%の特別償却または7%の税額控除が選択できる優遇制度です。
ただし、7%の税額控除の適用を受けるためには、会社の資本金が3,000万円以下または、個人事業主である必要があります。
中小企業経営強化税制
中小企業経営強化税制は、一定の設備等の取得を即時償却または、取得価格の10%を税額控除できる制度です。
中小企業経営強化税制を利用するためには、経営力向上計画に基づく、中小企業等経営強化法の認定を受ける必要があります。また、資本金3,000万円超1億 円以下の法人については、10%の税額控除ではなく、7%の税額控除が適用される点にも注意してください。
特定事業継続力強化設備等の特別償却(BCP)
特定事業継続力強化設備等の特別償却は、一定の器具や備品、建物付属設備などを取得した場合に、取得価格の30%を特別償却または、7%の税額控除が受けられる制度です。
ただし、7%の税額控除の適用を受けるためには、会社の資本金が3,000万円以下または、個人事業主でなければなりません。
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例は、取得価格が30万円未満の減価償却資産を全額損金(全額必要経費)とすることができる制度です。
法人税を払ってない中小企業がある?
企業=利益を上げるのが当たり前と考えている方も多いのではないでしょうか。実は、日本企業の約6割が赤字企業であることが統計により発表されています。赤字企業が多い理由は、青色申告事業者の欠損金繰越控除の存在が大きな要因といえるでしょう。
現行の課税所得計算のルールは、中小企業の負担を減らす動きを積極的に行なっている結果ともいえます。中小法人に認められる租税特別措置を上手に活用し、適切な納税額を計上しましょう。
【まとめ】優遇措置を利用して法人税を正しく納めよう
中小法人は「中小企業者等の法人税率の特例」や「欠損金の繰戻還付」など、さまざまな優遇措置がなされています。法人税の軽減税率や各種制度を活用して、法人税を正しく納めましょう。
監修税理士からのコメント
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