会社経営しており、今期ついに赤字になってしまった。
経営が黒字だった時は法人税を支払っていたが、赤字の場合でも支払う必要があるのだろうか?また、赤字になった時に利用できる特例制度はあるのだろうか?
この記事では、経営が赤字になった時の法人税や、その免除・還付の特例制度について詳しく解説していきます。
この記事を監修した税理士
EMZ国際投資税理士法人 - 東京都港区六本木
赤字になると法人税はどうなる?
今まで経営状態が好調で、赤字を経験するのが初めての場合は、当たり前のように支払っていた法人税の扱いがどうなるか知らない人も多いのではないでしょうか。
ここでは、赤字になった場合の法人税の取扱いについて詳しく説明していきます。
法人税はかからない
結論から言うと、会社の最終利益が赤字の場合、法人税を支払う必要はありません。
法人税は、一年間で得た利益を基に算出します。
利益が黒字の場合は法人税率を利益に乗じて法人税が算出できますが、赤字利益に税率を掛けても、法人税はマイナスになるので支払う必要がないのです。0円の場合も同じです。
法人税同様、利益を基に計算する地方法人税や事業税、地方法人特別税も、赤字の場合は支払う必要はありません。
赤字になってもかかる税金がある
前述した法人税等、利益を基に算出する税金は支払わなくていいのですが、赤字の場合でも発生する税金があります。
それは、消費税及び法人住民税(均等割のみ)です。
これらは、利益とは関係なく発生する税金のため、赤字の会社でも支払い義務があります。
特に法人住民税は、会社が存在している事に対して課税されますし、会社の規模(資本金等の額及び従業員数)によって支払額が異なります。
以下の表は、東京都に会社が存在する場合の法人住民税についてです。
資本金等の額 | 従業員数 | 法人住民税 |
1千万円以下の場合 | 50人超え | 140,000円 |
50人以下 | 70,000円 | |
1千万円超~1億円以下 | 50人超え | 200,000円 |
50人以下 | 180,000円 | |
1億円超~10億円以下 | 50人超え | 530,000円 |
50人以下 | 290,000円 | |
10億円超~50億円以下 | 50人超え | 2,290,000円 |
50人以下 | 950,000円 | |
50億円を超える場合 | 50人超え | 3,800,000円 |
50人以下 | 1,210,000円 |
資本金が多い企業は注意が必要
法人事業税は、資本金が1億円を超えるかどうかで、課税額が変わってきます。
資本金が1億円以下の会社は、所得割といって法人事業税も利益に基づき計算されるため、赤字の場合は支払うことはありません。
しかし、会社の資本金が1億円を超えると外形標準課税が適用され、所得割に加え、付加価値割と資本割の3つの課税基準に基づいて法人事業税が計算されます。
詳しく述べると、法人事業税の2分の1は所得割、残りの半分は付加価値割と資本割の二つで構成されている、ということです。
赤字の場合は所得割分は0円になりますが、会社が生み出す付加価値や資本金等の規模によって付加価値割と資本割分は課税される可能性があります。
資本金が多い会社は、赤字でも法人事業税を支払う必要があるということに注意しましょう。
前期に支払った税金の還付を受ける
当該事業年度に欠損金(赤字)が生じた場合に法人税等の繰戻し還付を受けられる制度があります。
還付請求できる条件は厳しく、タイミングを逃すと還付請求できない場合があるので、還付請求の条件を正しく理解しましょう。
以下で詳しく説明していきます。
前期が黒字の場合、還付が受けられる
前期決算では黒字だったが、今期に欠損金が生じてしまった場合に、法人税と地方法人税の還付を受けられる制度の事を「欠損金の繰戻しによる還付制度」といいます。
ただし、この制度は中小企業等の円滑な資金繰りを促すための制度であることから、対象法人を資本金等が1億円以下の中小企業等と制限しています。
そのため、資本金が多い大企業等は当該制度を利用することができないので注意が必要です。
還付を受ける条件
次に還付を受けるための条件を説明します。
還付請求ができる対象会社は以下の2つの法人に限定されています。
(1)青色申告書を提出する法人 ①還付所得事業年度から欠損事業年度の前事業年度までの各事業年度について、連続して青色申告書を提出していること。 (※「還付所得事業年度」とは、事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度のことをいいます。) ②欠損事業年度の青色申告書を期限までに提出していること。 ③青色申告書と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出すること。 (2)災害損失欠損金を有する法人 ①還付所得事業年度から欠損事業年度の前事業年度までの各事業年度について、連続して確定申告書(青色・白色を問わない)を提出していること。 ②欠損事業年度の確定申告書又は仮決算による中間申告書を提出していること。 ③②の申告書と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出すること。 |
以上が還付請求を受けるための基本的な条件になります。
しかし、この条件を満たしていても、後に示す中小企業以外の法人にこの制度は適用されていません。
ただし、この制度は、<中略> 中小企業者等の各事業年度において生じた欠損金額を除き、平成4年4月1日から令和2年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額については適用が停止されています。
中小企業等とは具体的に以下の法人を指します。
(1)資本金又は出資金の額が1億円以下の法人 ただし、資本金等が1億円以下の法人でも次に該当する場合は適用対象外です。 ・相互会社や外国相互会社、投資法人、特定目的会社、受託法人 ・大法人との間にその大法人により完全支配関係がある普通法人 ・100%グループ内の複数の大法人に発行済株式又は出資の全部を直接又は間接に保有されている法人(2)公益法人等又は協同組合等(3)法人税法以外の法律によって公益法人とみなされる法人 (※認可地縁団体、管理組合法人、団地管理組合法人、政党等、防災街区整備事業組合、特定非営利活動法人、マンション建替組合及びマンション敷地売却組合、に限ります。)(4)人格のない社団等 |
上記の中小企業等に該当する場合は、青色申告書を提出する法人と災害損失欠損金を有する法人と同様に、還付請求を受けることができます。
受けられる還付の金額
では実際に還付請求の金額はいくらになるのでしょうか。
還付の金額は以下のとおり計算されます。
還付金額=還付所得事業年度の法人税額×(欠損事業年度の欠損金額 / 還付所得事業年度の所得金額)
具体的な数値を基にシミュレーションしてみましょう。
・当期の欠損金額:600万円
・前期の還付所得事業年度:800万円
・前期の法人税額:120万円
上記の式に当てはめると、還付金額は以下のとおり計算されます。
120万円×(600万円 / 800万円)=90万円
今回のケースだと、90万円の還付を受けられます。
還付を受ける際の注意点
欠損金が生じた場合、還付請求というお得な制度を利用できることがわかって頂けたのではないでしょうか。
しかし、還付を受ける場合は次の点に注意してください。
・法人税のみの還付請求であり、地方税は還付請求できないこと
・還付請求の濫用防止のため、税務調査を受ける可能性があること
一点目は、あくまで法人税を対象とした制度であり、地方税は対象外ということです。
また、二点目は、還付請求の濫用防止のため、制度の適正利用を見る観点から税務調査を受ける可能性があることです。
還付請求の制度を活用する場合は、以上の点に注意し正しく利用しましょう。
赤字を次期に繰り越して持ち込む
当該事業年度に欠損金が生じた場合、欠損金の還付請求が受けられることは前述したとおりですが、それ以外の節税対策はないのでしょうか。
実は還付請求以外にも、節税対策になる制度があります。
ここでは、赤字が生じた場合に利用できる繰越制度について詳しく解説します。
次期で黒字の場合、赤字分が控除される可能性あり
欠損金が生じた年度は、その欠損金を翌年以降に繰越せる制度があります。
この制度を「欠損金の繰越控除制度」といい、欠損金が生じた年度の翌年に黒字になった場合、繰越した欠損金を控除できるため、納付する法人税の金額を抑えることができます。
このように、欠損金の繰越控除制度を活用することで、法人税を節税することができるのです。
控除を受けられる条件
しかし、この制度は欠損金が生じれば必ず利用できるものではありません。
当該制度を利用できる会社は以下の条件全てを満たしている法人になります。
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以上の条件全てを満たした法人が制度を利用できます。
また、欠損金が生じた事業年度以降に提出する確定申告書は、青色申告書又は白色申告書の種類は問いません。
あくまで、欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出することに留意しましょう。
繰越せられる期間は9年
欠損金を繰越せる期間には期限があります。
2008年4月1日から2018年3月31日の間に発生した欠損金は、9年間繰り越せます。
また、2018年4月1日以降は、平成28年度の税制改正により、10年間繰り越せることができるようになりました。
このとおり、欠損金を繰り越せる期間は税制改正によって頻繁に変わるので、税制改正がある場合は注意しましょう。
【具体例】赤字500万円、次年度からは200万円ずつの売り上げの場合
では実際に欠損金の繰越しはどのように行われるのでしょうか。
具体例を示して説明します。
当該年度の欠損金が500万円、次年度以降は200万円ずつの黒字を想定します。
分かりやすいよう下記の図を参照しましょう。
上記の図のとおり、0年に欠損金500万円が生じた場合、次年度1年には黒字200万円と欠損金500万円のうち、200万円と相殺することで、法人税の発生を防ぐことができます。
この時、欠損金の残りは300万円になり、当該金額を翌年度に繰越し、2年の黒字200万円と相殺でき、残りの欠損金100万円は翌年度以降も繰り越せるのです。
このように、欠損金の繰越控除制度を利用すると、翌年度以降の黒字と相殺し、法人税の発生を抑えることができます。
繰越控除額には上限がある
前述したとおり、欠損金の繰越控除制度を利用することで法人税の節税を図れることが分かりました。
しかし、繰越控除額には上限があり、控除限度額は法人の規模や事業の開始年度によって以下の違いがあります。
資本金が大きい大法人の場合は、欠損金を控除できる上限が変わってきており、年々、控除限度額が少なくなってきているのが分かります。
一方で中小企業や新設法人の場合は、所得の全額に対して欠損金控除が適用できるので、節税メリットが高く有利な制度であるのです。
財政を立て直す制度を利用する
いかがでしたでしょうか。
前述までの各見出しでは、会社が赤字になった場合の、法人税に関する具体的な制度を紹介してきました。
赤字になった時こそ税金を見直す
会社の利益が赤字になった場合は、法人税等が免除されるだけでなく、還付請求や翌年度以降に繰越控除することができ、法人税等の節税を図ることができるのです。
赤字になった時こそ節税するチャンスです。
ぜひ、今回紹介した制度を活用してご自身の税金を見直しましょう。
過度な節税による赤字化は要注意
一方で節税のために赤字化を過度に利用することには注意が必要です。
法人税等を逃れたいがために、下手に経費を上乗せしたり収入を過少に見せると脱税の疑いを掛けられますし、税務調査の対象になります。
当然、違法なことを行えば銀行融資も受けれなくなりますし、株主や従業員からの信用も損なうことになるので、制度は正しく利用しましょう。
特例を受ける際は一度税理士に相談をしましょう
今回の記事では、会社が赤字になった場合の法人税等の取扱いや節税の方法等を説明してきました。
ぜひ、これらの仕組みを理解して、会社の経営に役立ててください。
しかし、制度の特例を利用する場合の条件は複雑だったり、税務調査を受けるリスクも高くなります。
そのためにも、ぜひ、税理士に相談してみましょう。
税務のプロである税理士であれば、複雑な条件や税務調査のためのデメリットを解消することができるはずです。
監修税理士からのコメント
EMZ国際投資税理士法人 - 東京都港区六本木
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この記事を監修した税理士
EMZ国際投資税理士法人 - 東京都港区六本木