法人事業概況説明書は事業内容をはじめとした企業の概要を、詳細に記載する書類です。法人の業務や業況などを税務署に知らせるために作成します。
本記事では、法人事業概況説明書の概要から個別の項目の記載内容の書き方まで詳しく解説します。
この記事を監修した税理士
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
法人事業概況説明書とは
法人事業概況書とは法人税の確定申告の際に、申告書とあわせて提出する添付書類のひとつです。
法人事業概況説明書は税務署が法人の業務・業況などを毎年把握するための書類で、確定申告をスムーズに処理する目的があります。事業内容や従業員数、売上や取引状況などの項目を、決算期末時点の状況に基づいて記載します。
【主な記載項目】
|
提出が義務づけられている
法人事業概況説明書は平成18年の税制改正以降、毎年の提出が義務付けられています。あくまで努力目標なので、提出しない場合でも罰則は課されません。
ただし、法律により提出が義務付けされている文書ですので、書面や電話による督促が行われます。法人税確定申告書等と一緒に提出しましょう。
会社事業概況書との違い
法人事業概況説明書と似たような書類で「会社事業概況書」という書類があります。この書類も会社の概要を説明する書類です。
どちらの書類を提出するかは、税務調査を担当するのがどこかにより変わってきます。税務調査を税務署が担当する場合は、法人事業概況説明書、国税庁が担当する場合は、会社事業概況書を提出します。
原則として、資本金1億円を超える企業は国税庁が税務調査を担当しますので、資本金1億円以下の企業が法人事業概況説明書を提出するという理解で大丈夫です。念の為、税務署か税理士に確認すると安心ですね。
法人事業概況説明書の書き方
法人事業概況書には大きく分けて19の項目があります。項目数が多く複雑な印象ですが、実際の書き方はそれほど難しくありません。各項目の意味や基本をおさえれば無理なく作成できる書類です。
法人事業概況書の書き方について、項目ごとに詳しく解説します。
1.事業内容
「事業内容」は営んでいる事業について記載する欄です。詳細は裏面の「事業形態」という欄に記載するので、事業内容の欄は大まかな情報のみで問題ありません。
例えば、飲食店なら「日本料理店」「喫茶店」、専門サービス業なら「デザイン業」「経営コンサルタント業」のように記載します。
総務省が公開している日本標準産業分類を参考に記載するとわかりやすいです。
2.支店・子会社の状況
「支店・子会社の状況」には国内に所在する支店、営業所、出張所、工場、倉庫等(支店等)及び海外に所在する支店(海外支店等)の総数を記載します。
また、主な海外支店等の所在地国を記載するとともに、その海外支店等において勤務する従業員数を記載します。複数の国に海外支店等がある場合には、従業員数が多いものから2つ記載です。なお、海外子会社が複数の場合は、出資割合が高いものから2社まで記載します。
3.海外取引状況
「海外取引状況」については、海外取引の有無・状況を記載します。輸入取引または輸出取引がある場合には、輸入取引または輸出取引の区分ごとに主な相手国名及び取引商品名並びに取引金額を百万円単位で記載します。
4.期末従業員等の状況
「期末従業員等の状況」欄にはそれぞれの職種における人数を記載します。常勤役員以下の空欄には、該当する職種を記載します。
【職種の記載例】
|
「計のうち代表者家族数」欄には、期末従業員のうち代表者の家族の人数を記載します。記載するにあたって定義はなく、社会通念上の家族構成員で構いません。また、同居・別居は問われません。
5.PC利用状況
「PC利用状況」欄にはPCの種類や利用形態、会計ソフトの詳細、メールソフト名、データの保存先を記入します。会計ソフトの利用はクラウドによる利用も含まれるため注意が必要です。なおタブレット端末もPCに含まれます。
6.販売形態
インターネット販売など、電子商取引の有無について選択します。(1)「電子商取引」の欄の「有・売上」に該当する方は、販売に使用してるホームページについて(2)の「販売チャネル」を選択しなければなりません。
7.株式又は株式所有移動の有無
自社の株主の異動や、株主間の持株数の異動の有無を記載する欄です。異動があれば「有」の欄に◯をします。
会社法第774条の3第1項第1号に規定する株式交付子会社、もしくは株式交付親会社とする同法第2条第32号の2に規定する株式交付を伴う場合には「株式交付」の欄にも◯が必要です。
株主・株式数の異動がなければ、特に何も記載する必要はありません。
8.経理の状況
現金出納及び預金通帳の管理責任者の氏名を記載し、代表者との関係(親族か他人か)を表示します。
そのほか、試算表の作成頻度や源泉徴収対象所得の有無と種類、消費税課税売上高と消費税の経理処理の方法、社内監査の実施の有無等を記載します。
9.役員又は役員報酬の移動の有無
役員の移動や役員報酬額が異動したかどうかを選択します。
10.主要科目
「主要科目」の欄は決算書の決算額を確認しつつ、千円単位で記入します。貸借対照表や損益計算書から内容を引用するとよいでしょう。
申告調整がある場合には、「交際費」を除き、申告調整後の額を記載します。
11.代表者に対する報酬等の金額
同族会社の場合、代表者に対する「報酬」「貸付金」「仮払金」「貸借料」「支払利息」と代表者からの「借入金」、「仮受金」を記入します。単位は千円単位です。
12.事業形態
事業形態には、営む事業の詳細を記載します。項目は以下の3点です。
|
たとえば主に飲食業を営む企業が、自社で保有する不動産を賃貸に出している場合、不動産賃貸業について詳細を記載します。不動産賃貸業を営む理由などを記載すると、税務署が状況を把握しやすいです。
事業内容の特異性では、同業他社と大きく異なる点があれば記載します。飲食業であれば、ほかの飲食店にはみられない事業の進め方、もしくは他社では一般的でも自社では行っていない事業展開などがあれば記載します。特筆するべき事項がなければ空欄で問題ありません。
13.主な設備等の状況
機械装置、車両、店舗、倉庫など、事業に使用している主な設備等の状況について、その名称・用途・型・大きさ・台数・面積・部屋数等について記載します。
例えば飲食店であれば、店舗名・住所・床面積・椅子やテーブルの数・店舗に収容できる人数などを記載します。記載例は以下のとおりです。
【「13.主な設備等の状況」の記載例】
|
空調や調理用の機械など、固定資産の記載も必要です。
なお法人税申告書の添付書類である「勘定科目内訳明細書」の「固定資産の内訳書」に記載した内容は省略できます。
14.決算日等の状況
決算日の状況を記入します。売上や仕入などの締切日および決済日を記入してください。給料の場合は支給日を記載します。
15.帳簿類の備付状況
作成している帳簿類について記入します。ここでは以下のような名称のみの記載でかまいません。
【「15.帳簿類の備付状況」の記載例】
|
16.税理士の関与状況
税理士の関与状況について、氏名や住所、電話番号を記載します。
顧問税理士が存在している場合は、顧問税理士に依頼している事項の確認をとる方が良いでしょう。複数の税理士が関与している場合、主たる1名に関する内容を記載します。
17.加入組合等の状況
加入している組合や団体を記載します。団体名や役職名、営業時間や定休日を記載してください。記載のための情報を経理部門で得るのが難しい場合、ほか部門とコミュニケーションを取りながら進めるとよいでしょう。
18.月別売上高等の状況
期始から期末までの売上(収入)金額、仕入金額等の月別の状況を記載します。複数の売上(収入)がある場合、主な2つについて記載が必要です。
「源泉徴収税額」欄の右側にある空欄部分には、掲記以外の主要科目の状況を記載します。
「人件費」の欄には、その時の給与および賞与の支給総額を記載しましょう。役員に対するものも含まれます。
「源泉徴収税額」欄には「人件費」欄で記載した支給総額で、源泉徴収して納税するべき税額を円単位で記載します。なお年末調整によって過不足額を精算した場合は、精算後の金額を税額を記載してください。
「従業員数」の欄には、その月の給与および賞与の支給人数を記載します。役員も含まれる点に留意しましょう。
19.当期の営業成績の概要
経営状況の変化によって大きく影響した事項や、経営方針の変化による影響を受けた事項を記載する欄です。同様の内容を記載した書類を別で作成している場合、その書類を申告書に添付すれば、法人事業概況書の該当欄は省略できます。
たとえば飲食店の場合、店舗数を増やせば大きな影響を受けます。その際は「◯年◯月◯日 ◯◯店オープン」などの記載が必要です。
法人事業概況説明書の書き方のポイント
法人事業概況説明書は各項目の意味さえ押さえておけば、それほど難しくない書類です。しかし金額の単位や様式の年度については注意しなければなりません。
金額は単位に注意
金額を記入する欄には単位が必ず示されているので、それに従って記入しましょう。
金額を記入する欄のほとんどは「千円」単位です。しかし「18.月別売上高等の状況」欄の「源泉徴収の税額」欄は「円」単位で記入するなど、中には例外のケースもあります。千円未満の端数は切り捨てです。
金額はあくまで概要なので、合計も切り捨て分は無視して問題ありません。金額がマイナスのときは、その数字のひとつ上の桁の枠内に「-」もしくは「△」を付けます。
間違った箇所を訂正したい場合は書き損じた部分を二重線で消し、余白などを利用して正しい金額などを記載します。訂正印などは必要ありません。
完全支配関係の法人がある場合は出資関係図の提出が必要
法人が国内法人であり、かつ完全支配関係にあるほかの法人が存在する場合、法人事業概況説明書に「出資関係図」を添付して提出しなければなりません。
出資関係図とは法人とその法人との間に完全支配関係(注1)がある法人との関係を系統的に示した図のことを指します。
※注1)完全支配関係とは1.一の者が法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係として政令で定める関係(当事者間の完全支配の関係)又は2.一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係のことをいいます。(法人税法第2条第12号7の6) |
書式は手書きでもパソコン入力でもOK
書式は手書きでもパソコンでも可能です。事業内容など、数値以外の部分は毎年変わるものではないと思うので、その点では同じことを毎年書く手間を省けるパソコン入力がオススメです。入力の際にはエクセルを使うと便利です。
最新年度の様式を使用する
法人事業概況説明書を作成する際は、最新年度の様式を使いましょう。
法人事業概況説明書は様式によって内容に相違があります。最近では令和3年4月1日に改正がされました。最新版とひとつ前の様式には、以下のような違いがあります。
【7.株主又は株式所有異動の有無】
ひとつ前の様式は「有・無」の選択式でしたが、改正版の欄は「有」と「株式交付」の2種類です。異動があれば「有」に、かつ規定の株式交付を伴う場合は「株式交付」に◯をします。 |
毎年必ず改正があるとは限りませんが、最新の様式であるかは確認が必要です。
よくある間違い
法人事業概況書のよくある間違いと、間違いを避けるためにおさえたいポイントを紹介します。
【「資産の部合計」欄に記載された金額が「負債の部合計」欄と「純資産の部合計」欄の金額合計と一致しない】
法人事業概況書の自動作成ソフトを使うと、端数処理などの理由により金額が一致しないケースがあります。資産の額を負債と純資産の合計額と一致させるためには、手動での修正が必要です。 |
【「源泉徴収税額」欄の誤り】
年末調整で源泉徴収税額の精算をした場合は、精算後の金額の記載が必要です。源泉徴収税額が5万円、年末調整による超過税額が8万円であれば、「源泉徴収税額」欄は△3万円と記載します。5万円と記載するのは誤りなのでご注意ください。 |
また「金額がマイナスなのに頭に△をつけない」「法人事業概況書の単位は千円なのに円単位で記載してしまう」などの誤りも多く発生します。ケアレスミスは確認すればある程度防げるため、提出前のチェック体制を整えるのが効果的です。
法人事業概況説明書提出の時期・方法
法人事業概況説明書は法人税確定申告書を提出する際に、添付して提出します。
提出時期
法人事業概況説明書は法人税確定申告時の添付書類として提出します。法人税確定申告書は決算の翌日から起算して2ヶ月以内に提出します。3月31日決算の会社の場合は、5月31日が提出期限です。
提出方法
提出は、本社が所在する住所地の税務を管轄する税務署へ提出します。提出は持ち込み、郵送、電子、いずれかの方法で受け付けてもらえます。
なお法人事業概況説明書を提出する際は他の書類とホチキス止めなどをしてはいけません。申告書に挟み込んで提出してください。
法人事業概況説明書の作成を税理士に依頼する
税理士に依頼してみる
もちろん、法人税の確定申告は個人で行えないものではありませんが、その難易度は高く多くの時間が必要となるので、他の業務とのスケジュール調整が必須となります。そこでオススメなのが税務のプロである税理士に依頼することです。
税理士に依頼すると費用がかかりますが、法人税の確定申告では税務に精通していないと適用されるべき優遇税制が受けられず、本来よりも多く税金を支払ってしまう場合があります。また、複雑な税務について自社ですべてを把握することは非常に難しいです。
たとえば、資本金1億円以下の中小企業には法人税の優遇税制が用意されています。軽減税率の適用や交際費の損金算入といった優遇税制を適切に活用し、税金の払いすぎを防ぐことが重要です。確定申告業務を担当する社員の人件費、勉強に費やす時間や節税メリットをふまえると、税理士に依頼したほうがトータルで得だったというケースも多くあります。
税理士依頼のメリット・デメリット
税理士に依頼するメリットは何よりも楽であることです。法人事業概況説明書だけでなく、決算書、法人税申告書、勘定科目および内訳書、消費税申告書なども、まとめて依頼できるので確定申告業務の負担が大幅に削減できます。
税務に関して知識不足だと確定申告業務に時間をとられ人件費が余計にかかったり、利用できる優遇税制の適用が受けられないリスクもあったりしますが、税理士は税務のプロですので安心して任せることが出来ますよ。
監修税理士からのコメント
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
ミツモアで税理士を探そう!
税理士とのお付き合いは、そのときだけのものではなく、長期間に渡るものです。だからこそ、費用だけでなく、相性や対応の誠実さも、事前に十分に確認しておきたいですね。
そんな税理士選びにおすすめなのが、全国の税理士が登録しているマッチングサイト「ミツモア」です。地域と依頼したい内容に応じて、まずは見積もりが確認できます。その後、メッセージでのやりとりで担当業務の範囲やオプションなどを確認できるので、面談するのと同じように、税理士の人柄が見えてきます。
簡単!2分で税理士を探せる!
ミツモアなら簡単な質問に答えていただくだけで2分で見積もり依頼が完了です。
パソコンやスマートフォンからお手軽に行うことが出来ます。
最大5件の見積りが届く
見積もり依頼をすると、税理士より最大5件の見積もりが届きます。その見積もりから、条件にあった税理士を探してみましょう。税理士によって料金や条件など異なるので、比較できるのもメリットです。
チャットで相談ができる
依頼内容に合う税理士がみつかったら、依頼の詳細や見積もり内容などチャットで相談ができます。チャットだからやり取りも簡単で、自分の要望もより伝えやすいでしょう。
税理士に依頼するならミツモアで見積もり依頼をしてみてはいかがでしょうか?
この記事の監修税理士
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台