一生のうちにマンションの買い替えを経験することは多くありません。住宅は高額な買い物なので、後悔はしたくないものです。
マンションを買い替えたあとに「こんなはずじゃなかった」とならないためには、事前に買い替えの流れや注意点を把握しておくことが大切です。
本記事ではマンション買い替えを検討するタイミングや流れ、住宅ローンが残っている場合の買い替え方法などを解説します。
監修者
髙杉義征(セカイエ株式会社元執行役員/宅地建物取引士)
株式会社日京ホールディングスの元取締役、セカイエ株式会社の元執行役員を経て、現在は株式会社ミツモアの事業部長として全体を統括。一貫して不動産業界に携わり、不動産仲介会社、不動産管理会社、不動産テック企業での経験を有する。不動産売却希望者と不動産会社をマッチングするサービスでは、執行役員として事業立ち上げからグロースまでを担当。また、不動産関連のセミナーやライブ配信にも登壇している。
ライフステージの変化はマンション買い替えのきっかけになる
マンションを買い替える理由は人それぞれですが、子供の進学、独立、転職、介護などライフステージの変化がきっかけになることが多いです。
結婚や出産で世帯人数が増えたり、逆に子供が独立して家を出たりしたのであれば暮らし方が大きく変わるので買い替えを検討するのは理解しやすいでしょう。
他にも子供の学資金の捻出のために、現在の住まいよりもローン返済の負担が少ないマンションへの買い替えを検討することもあります。
マンションを買い替えるときの流れ
マンションを買い替えるときは、今の住居を売ってから新居を購入する「売り先行」と新居を購入してから今の住居を売却する「買い先行」の2つの進め方があります。
大まかなメリット・デメリットは以下の表をご覧ください。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
売り先行 |
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買い先行 |
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売り先行の場合
売り先行でマンションを買い替える場合、一般的な流れは以下の通りです。
- 現在住んでいるマンションを売却する
- 仮住まいに引っ越す
- 新居の売買契約を結ぶ
- 新居の引き渡し
- 新居に引っ越し新生活を始める
マンションを売ってから新居を購入できるので資金繰りの計画がしやすく、売り急ぐ必要が少ないため希望売却額に近い価格で売却できるのがメリットです。
一方で仮住まいを用意しなければならないことや2回引っ越さなければならないことから細かな出費も大きくなります。引越しに関しては地域密着型で作業料金が手ごろな業者を利用すると料金を抑えられます。
売り先行の場合は住み替えローンが利用できるのも見逃せないポイントです。住宅ローンが残っている物件は抵当権を金融機関が有しているので、完済するまでは自由に売却できません。しかし住み替えローンを利用すれば住宅ローンの残債分と新居の購入資金をあわせて借りられるので、住宅ローン返済中でも家を買い替えられます。
買い先行の場合
買い先行でマンションを買い替える場合、一般的な流れは以下の通りです。
- 新居を購入する
- 新居に引っ越す
- 旧居の売却活動を始める
- 旧居の売買契約をし引き渡す
新居を購入してから旧居を売却するので、引越しが1回で済むことと新居に妥協をしなくて済むことがメリットです。
ただし思うように売却活動が進まずに売り急いでしまうリスクや、ダブルローンによる金銭的負担などのデメリットがあるので、買い先行で住み替えるのであれば一定以上の財力が必要です。旧居のマンションが人気のあるエリアや物件であれば新居が決まってからでも売りやすいので買い先行でも問題なく売却できるでしょう。
買い先行でマンションを買い替えるのであれば、「買い替え特約」を結べないか売主に打診しましょう。
買い替え特約とは旧居の売却が期間内にできなかった場合、新居の購入契約を破棄するという特約です。特約を結べたら万が一旧居の売却が難航しても違約金を払わずに契約解除ができます。
しかし新居の売主が個人の場合は物件を売却できないというリスクを抱えることになるので、特約に応じてくれない可能性が高いです。売主が法人であれば比較的交渉の余地があるので、売主が個人か法人かは忘れずにチェックしましょう。
住宅ローンが残っているマンションを買い替えるには?
住宅ローンは契約者本人やその家族が住むことを前提にしているので、原則的にはローンが残っている状態だと買い替えができません。
そのため住宅ローンが残っているマンションを買い替えるには以下2つの方法のどちらかを選んで、残債分を工面する必要があります。
関連記事では住宅ローンがあるけど引っ越したい場合の注意点ややることを解説しています。あわせてご確認ください。
住宅ローンの残債を一括で返済する
マンションの住宅ローンが残っているときは売却額で一括返済することが一般的です。ローンを完済できないと抵当権を抹消できないので、ローン残債が売却額を上回る場合は自己資金を持ちだして完済しなければいけません。
抵当権とは債権者が担保として不動産を差し押さえる権利のことです。この場合債権者とはローン融資を行っている金融機関のことで、ローン返済が滞ったときに不動産を差し押さえて競売にかけ、優先的に金銭的救済を受けられるようになっています。
抵当権を解除しないままだと、ローンの返済が滞ると新しい購入者が家を失うことになってしまいます。そのため抵当権が残ったままの住宅はそもそも売却できません。
住み替えローンを利用する
住宅ローンの残債が売却額と自己資金よりも多い場合は住み替えができません。しかし住み替えローンを利用すれば、住宅ローンの残債分と新居購入費用をいっぺんに借りられます。
住み替えローンを利用するメリットはローンの一本化ができるので金銭の流れが把握しやすいことです。
一方デメリットは借入額が高額になりやすく、審査が厳しい点と売却と購入の決済日を同日にする必要がありスケジュール管理が難しいことです。
売れやすい中古マンションの特徴
マンションを買い替えるときは今のマンションをなるべく高値で売却したいですよね。
中古マンションの中でも売れやすい物件には特徴があります。売れやすい条件を確認してみましょう。
築10年ほどの築浅物件
マンションの価格は新築が最も高く、築年数が経過すればするほど下がっていきます。値下がりの幅は一定ではなく、築後30年まで比較的ハイペースに値下がりします。
築30年を超えると成約価格の値下がりは止まり、築36~40年では多少値上がりします。リフォームやリノベーションにより付加価値が生まれたため成約価格が上昇したと考えられますが、新築での成約価格の2分の1以下の金額です。
築10年までの新しい物件であれば成約価格の値下がりの影響は小さいです。
中古マンション購入者の立場から考えると、築12年までであれば35年の住宅ローンを組めます。住宅ローンの借入期間は法定耐用年数をもとにしています。
多くのマンションは鉄骨鉄筋コンクリート造や鉄筋コンクリート造で、法定耐用年数は47年です。もし築年数20年のマンションを住宅ローンを利用して購入するのであれば、耐用年数から築年数をマイナスし、借入期間は27年となります。借入期間が短くなれば月々の返済額が高額になってしまうので、人によってはマンション購入を諦めてしまいます。
築年数10年前後であれば住宅ローンの借入期間を最長の35年に設定できるので人気が高いです。
角部屋や日当たりの良い部屋
角部屋や日当たりが良い南向きの部屋はマンション売買だけでなく、賃貸物件を探すときも人気の高い条件です。
特に角部屋は騒音被害に悩まされづらく、窓が多いことから日当たりや風通しがよく、さらに家の前を他の住民が通らないことからプライバシーを気にする人からも人気が高いです。
実際にマンションの分譲でも角部屋から入居が決まることも多く、中古マンションでも同様の傾向があります。
周辺環境が良い
スーパーが徒歩圏内に複数ある、緑豊かな公園があり休日に出かけやすいなど周辺の環境が良い中古マンションは売れゆきが良い傾向があります。
周辺環境の良さはどちらかというとファミリー層が重視することが多いです。公園のほかにも図書館や博物館、科学館などの文化施設が周辺にあれば教育に力を入れている家庭のニーズを満たせる可能性があります。
マンションを売却せずに賃貸物件にできる?
現在所有しているマンションの周辺環境や物件そのものの良さから、売却するのではなく賃貸物件にして家賃収入から住宅ローンを返済できないか考えるかもしれません。
住宅ローンは契約者やその家族が住むことを前提に、低い金利での貸し付けを行っています。賃貸物件として利用するには投資用ローンなどに切り替えなくてはなりません。住宅ローンよりも金利が高く、返済期間も短くなる傾向があります。
住宅ローンのまま賃貸物件として貸し出してしまうと、金融機関からローン残債の一括返還を求められる可能性があります。
賃貸物件に変更することも可能ですが、知識や金銭的余裕が必要なのであまり現実的でないと言ってよいでしょう。
マンションの買い替えで必要な税金と費用
マンションを買い替えるときは、旧居の売却時と新居購入時のそれぞれで税金や費用がかかります。
必要な税や費用について、必要になるタイミング別に解説します。
- 譲渡所得税
- 仲介手数料
- 印紙税
- 登録免許税
- 住宅ローンの一括返済手数料
- 不動産取得税
- 仲介手数料
- 印紙税
- 登録免許税
- 引越し代
- ハウスクリーニング代
売却時にかかる税金・費用
マンションの売却時にかかる税金と費用は以下の5項目です。
- 譲渡所得税
- 仲介手数料
- 印紙税
- 登録免許税
- 住宅ローンの一括返済手数料
譲渡所得税
譲渡所得税は売却で利益を得た場合に課税されます。簡単に説明すると、売却価格が購入費用を上回ると課税対象になります。譲渡所得の計算方法は以下を参考にしてください。
取得費用とは購入時の価格を指します。譲渡費用は主に売却活動でかかった費用のことです。
マンションを売った時にかかる税金や譲渡所得税がかからないケースについて、詳しく知りたい方は関連記事もご確認ください。
仲介手数料
マンションを売却したときの仲介手数料は、売却関係費用で大きなウエイトを占めます。
仲介手数料は上限額が法律で決まっているので、売却額の目安が分かれば簡単に料金を求められます。査定額をもとに計算し、仲介手数料のおおよその額を確認すると資金繰りでの失敗を減らせるでしょう。
仲介手数料の上限を求める方法は以下の通りです。
※売却額が400万円以上の場合
例として、マンションが1000万円で売却できたときの仲介手数料を計算してみましょう。
あとから消費税率をかけるのが面倒であれば、3%の部分を3.3%、60,000円の部分を66,000円として計算できます。この方法でも正しく仲介手数料を計算できます。
印紙税
印紙税は不動産売買契約書など、特定の書類にかかる税金です。取引金額によって納める額が変わります。
2027(令和9年)3月31日までに作成される不動産売買契約書に関しては軽減税率が適用されています。軽減税率適用後と本来の納税額を抜粋し、表にまとめたのでご覧ください。
契約書に記載された金額 | 軽減税率 | 本則税率 |
---|---|---|
500万円を超え1000万円以下 | 5,000円 | 10,000円 |
1000万円を超え5000万円以下 | 10,000円 | 20,000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 30,000円 | 60,000円 |
1億円を超え5億円以下 | 60,000円 | 100,000円 |
登録免許税
登録免許税は登記手続き時に課税されます。登記手続きを司法書士に依頼するのであれば、登録免許税のほかに司法書士へに依頼料も発生します。
登録免許税の下限は1,000円です。司法書士への依頼料は個人差があるものの、30,000~50,000円ほどかかります。
住宅ローンの一括返済手数料
金融機関によっては住宅ローンを一括で返済するときに手数料がかかることがあります。
たとえばオリックス銀行では、住宅ローンの一括返済手数料を以下のように定めています。
区分 | 借入日からの経過期間 | 繰上返済解約金基準 繰上返済元本金額に対する適用料率 |
---|---|---|
固定金利期間 | 全期間 | 2.00% |
変動金利期間 | 1年以内 | 2.00% |
変動金利期間 | 1年を超え3年以内 | 1.50% |
変動金利期間 | 3年を超え5年以内 | 1.00% |
変動金利期間 | 5年を超える | 0.50% |
手数料がかからない金融機関もあります。
新生銀行グループのアプラスでは一部繰上返済、全額繰上返済ともに手数料不要と明記しています。ただし振込で返済する際の振込料金は負担する必要があるので注意してください。
購入時にかかる税金・費用
新居を購入したときにかかる税金や費用は以下の4項目です。
- 不動産取得税
- 仲介手数料
- 印紙税
- 登録免許税
仲介手数料と印紙税、登録免許税は売却時にかかるものと同一の内容です。
不動産取得税
不動産取得税は不動産を取得したときに課税されます。有償・無償を問わず課されますが、相続で得た場合は課税されないなど一部例外もあります。
課税される額の計算式は以下の通りです。
税率は不動産の種類によって異なります。
土地・家屋(住宅) | 家屋(非住宅) | |
---|---|---|
税率 | 3/100(3%) | 4/100(4%) |
なお2027(令和9)年3月31日までに宅地等を取得した場合、取得した土地の課税標準額は価格の2分の1になります。
場合によってかかる費用
マンションの買い替えで必要になることがある費用は以下の2項目です。
- 引越し代
- ハウスクリーニング代
仮住まいを用意して買い替えをするのであれば、引越し代は旧居から仮住まいへ、仮住まいから新居へ引っ越すときの合計2回分が必要になります。
ハウスクリーニング代が必要になるのは、水回りなどの汚れが通常の掃除だけでは落としきれない場合です。
引越し代もハウスクリーニング代も工夫次第で料金を抑えられます。どちらも相見積もりを取って複数の業者を比較検討し、料金とサービス内容に納得できる会社に依頼しましょう。
マンションを買い替えるときに利用できる税の特別控除・特例
居住用の不動産を取得するときには税の特別控除や特例を適用させられることが多いです。
特別控除や特例の中でも、適用者が多い代表的なものを3件紹介します。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
マイホームの売却に関する控除の中で知名度が高いのが、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」です。一般的には「3000万円控除」や「マイホーム控除」と呼ばれることが多いです。
特別控除の適用要件のうちポイントとなるのは以下の3つです。難しい要件ではないので、多くの人がこの控除を利用できます。
- 自分が居住している建物や土地・借地権を売却すること
- 売主と買主が身内や内縁関係など特別な関係でないこと
- 他の特別控除を利用していないこと
マイホームを売ったときの軽減税率の特例
マイホームを売却し、5つの要件すべてに当てはまる人であれば、長期譲渡所得の税額を通常よりも低い税率で計算できます。これを「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」といいます。
特例を適用させるための要件は以下の通りです。
- 日本国内にある自分が住む家屋や家屋とともに敷地を売る
- 売った年の1月1日時点で売却した不動産の所有期間が10年を超えている
- 売った年の前年および前々年にこの特例の適用を受けていない
- 売った家屋や敷地に関して他の特例の適用を受けていない
- 売却した相手が親子や夫婦など特別な関係がある人でない
4番目の条件に関して、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は重ねて適用できます。
【新規適用終了】特定の居住用財産の買換えの特例
2023(令和5)年12月31日までに特定のマイホームを売却し、新しいマイホームを購入したときは譲渡益に対する課税を将来に繰り延べる特例を適用できました。これを「特定の居住用財産の買換えの特例」といいます。
この特例が適用されると、マイホームの買い替えで譲渡益が発生してもその年分での課税はなく、将来マイホームを譲渡したときに課税されるようになります。
この特例を適用させる要件は以下の通りです。
- 自分が住んでいる家屋や家屋とともにその敷地や借地権を売る
- 売った年、その前年および前々年にマイホームに関する他の控除を受けていない
- 売買したマイホームはどちらも日本にあること
- 売却代金が1億円以下
マンションの買い替えを成功させるために気をつけること
マンションの買い替えは一生に何度も経験するものではないので、後悔がないように進めたいものです。
スムーズに買い替えを進めるために気をつけるべきことを2点紹介します。
無理のない買い替えプランを立てる
売り先行・買い先行のどちらで買い替えを進めるにせよ、重要なことは無理のない買い替えプランを立てることです。そのためには売りたい物件の売却相場を把握しなければなりません。
売却相場を知るためには不動産業者の査定を受けるほか、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」を参照しましょう。不動産情報ライブラリでは不動産の成約価格や取引価格の検索ができます。
相場観を把握できたら、仲介手数料や印紙税などの料金を概算し実際に買い替えに利用できる金額はどのくらいかを計算しましょう。
マンションの買い替えは売却額がいくらになるか分からないことには動き出せないので、できるだけ正確な額を見積もっておく必要があります。
中古マンションの売買が得意な不動産業者を選ぶ
マンションを売却するときは不動産業者と媒介契約を結んで、購入希望者を仲介してもらうことが一般的です。
このとき媒介契約を結ぶ不動産業者が中古マンションの売買に不得手だと、売却活動が思っているように進まずにもどかしい思いをするかもしれません。
中古マンション売買が得意かどうかは査定後に見極められます。査定額の根拠や売却活動の具体性をしっかり説明できる不動産業者や担当者であれば安心して仲介を依頼できます。
マンションを買い替えるときは無理のない計画を立てるのが重要
マンションを買い替えるときはライフステージに大きな変化が起きていることが多いので、売却や新居の購入に時間をかけたくてもかけられないことがあります。
査定額をもとに諸費用の計算をし、無理のない範囲で購入できる物件のあたりをつけましょう。
不動産売却時の査定は簡易査定と訪問査定の2種類があります。まずは物件の情報だけで行う簡易査定で複数の業者からの査定を待ちましょう。
査定が揃ったらその査定額の根拠や売却戦略について尋ね、最も納得の行く業者と媒介契約を結べば売却活動で後悔することが少なくなります。