プロスペクト理論は、損失を避けたいと考えることで生じる、不合理な判断を説明するのに用いられる理論です。元々は投資行動の理論でしたが、現在ではマーケティングや人材育成にも活用されています。
この記事では、プロスペクト理論とはどのような理論なのかや身近な例、マーケティングや人材育成への活用方法を解説しています。
プロスペクト理論とは
プロスペクト理論は「不確実な状況での意思決定では、条件や状況によって認識が歪んでしまい、合理的な判断ができなくなる」ということを説明した行動経済学の代表的な理論です。
【プロスペクト理論で説明される心理作用】
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行動経済学者のダニエル・カーネマンが1979年に、非合理な投資家の投資行動を説明するために提唱した理論です。
その後、売上の向上や効率的な育成に繋がることから、マーケティングや人材育成の分野でも活用されるようになりました。
プロスペクト理論の身近な事例
プロスペクト理論の心理作用は「中間グレードの購入」や「金銭感覚の変化」など生活の身近なところでもみられます。
中間グレードの購入
中間グレードの購入は「人は利益よりも損失に過敏に反応する」という心理作用が現れた事例です。
複数の選択肢から商品やサービスを購入するときに、一番高いものや安いものを避けて、中間のグレードのものを購入したことはありませんか。
安い商品でも条件を満たしている場合、最も少ないお金で目的を達成できるのは、一番安い商品です。しかし多くの人は失敗のリスクを恐れて、少し高い商品を購入します。
金銭感覚の変化
金銭感覚の変化は「同じ金額の増減でも、扱う全体の金額が大きくなると喜びや悲しみが小さくなる」という心理作用が現れた事例です。
子供の頃と現在では、1,000円の価値は全く違うのではないでしょうか。これは扱える金額の総額が増えたので、1,000円の価値が相対的に下がったためです。
プロスペクト理論を構成する2つの関数
プロスペクト理論は「確率加重関数」と「価値関数」という2つの軸からできています。
確率加重関数
リスクが高い場合、確率が高い物事には過小評価をし、確率が低いときには過大評価をする傾向を表すのが「確率加重関数」です。置かれた状況や自分の抱く希望によって、確率の認識にズレが生まれがちであることを表しています。
例えば手術の成功率は90%と医師に説明を受けたケースで考えます。命に関わることのない手術であれば、成功率が90%であれば安心と考える人が多いでしょう。
一方、命に関わる重篤な病気の治療で手術をする場合、90%の確率を過小評価し、失敗確率を大きく捉えがちになります。
価値関数
「価値関数」は得をしたうれしい気持ちより、損をした悲しい気持ちを強く感じやすいことを示します。プロスペクト理論の基本である、損失を避けるという点につながる指標です。
同じ10,000円に対する気持ちの強さで比べると、もらったうれしさより、失った悲しさのほうを強く感じる傾向があります。そのため「できるだけ損をしたくない」という気持ちが働きます。
プロスペクト理論から分かる3つの心理作用
プロスペクト理論からわかる心理作用は「損失回避」「参照点依存性」「感応度逓減性」の3つです。
損することを嫌う心理「損失回避」
損をしたくない気持ちから、過度にリスクを恐れ保守的な意思決定を行うのが損失回避です。損失回避の心理が表れると、大きく得する選択肢より、損失を避けられる選択肢を選びます。
たとえば90%の確率で1,000,000円を受け取れるけれど、10%の確率で100,000円を支払わなければいけない選択肢Aと、100%の確率で100,000円を受け取れる選択肢Bでは、Bを選ぶ人が多いはずです。
Aを選んだときに発生するかもしれない、10%の損失を避けたいという損失回避による意思決定といえます。
主観的な価値が変動する「参照点依存性」
あるものの価値は主観的な価値であり、本人の意識する参照点からの距離で決まるのが、参照点依存性です。参照点からの距離が遠いほど、喜びは大きくなる傾向があります。
たとえば先方の担当者にあいさつができれば上出来と思っていた案件で、スムーズに商談が進み成約すれば、主観的な喜びはとても大きなものです。一方、成約して当然と考えている案件では、順調に成約してもそこまでの喜びは感じません。
どちらも同じように成約していますが、一方の参照点は「担当者へのあいさつ」でゴールまでの距離が遠く、もう一方の参照点は「成約」でゴールと同じ地点のため、喜びの度合いが異なります。
損失の大きさで感じ方が変わる「感応度逓減性」
同じだけの得や損でも、全体の大きさが大きいほど、主観的な喜びや悲しみが小さくなることを示すのが、感応度逓減性です。
同じ10,000円であっても、10,000円が0円になるのと、1,000,000円が990,000円になるのでは、10,000円が0円になる方が損失を強く感じる傾向があります。
得をするときも同様で、0円が10,000円になる方が、990,000円が1,000,000円になるより、喜びを強く感じやすいのが特徴です。
プロスペクト理論の活用例【マーケティング編】
「人は得より損を重視する」というプロスペクト理論の心理作用はマーケティング施策に活用できます。心理作用を上手く利用して売上向上を図りましょう。
【マーケティングへの活用例】
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無料・割引キャンペーン
無料・割引キャンペーンは顧客の「割引の機会を逃すともったいない」という損失を回避しようとする心理を利用した施策です。
キャンペーンを逃したときの損失を恐れるため、期間中の購入や契約に繋がりやすくなります。
ただしキャンペーンが終了すると、客足が遠のいてしまうデメリットもあります。そのため実施後の売上や利益を確認し、未実施だった場合と比較して経営判断をすることが重要です。
期間限定・人数限定
期間限定や人数限定、残り〇点といった文言も「機会を逃すことによる損失」を避ける心理を利用した施策です。
顧客は「今を逃したら二度と手に入らないかも」と感じるので、購買行動を後押しできます。
割引キャンペーンとの併用のほかに、扱える数や期間が限られているものを売りたいときに役立ちます。
ポイントサービス
ポイントサービスは「ポイント失効や利用しないことによる損失」を回避したい心理を利用した施策です。ポイントがある場合、消費者は使わないことによる損失を避けようと継続して利用しようとします。
またポイントに有効期限があると、失効による損失の回避を促すことも可能です。
ただし有効期限を短くしすぎると、何度も期限切れになります。すると「失効による損失」を避けるために、そもそも利用しなくなる場合もあるので注意しましょう。
返金・修理保証
返金や修理保証は「買い物の失敗による損失」を回避したい心理を利用した施策です。
消費者の不安を取り除くことで購入の敷居を下げられ、売上の増加につながります。
特に高額な商品や、使い心地の好みが分かれる商品、故障の可能性がある商品で有効です。
キャッチコピーへの活用
キャッチコピーでリスクを提示すると「商品を使わないことによる損失」を回避したい心理を利用できます。
商品を利用するメリットを、使わないデメリットに言い換えることで、損失回避のために購入してもらいやすくなります。
また競合他社と比較した自社製品の強みを、不安を煽るように記載するとより効果的です。
プロスペクト理論の活用例【人材育成編】
プロスペクト理論を人材育成へ活用することで、成長しやすい環境を整備やモチベーションの維持が可能です。
挑戦できる環境の整備
人は利益を得るより、損失の回避を優先します。そのため何も対策を打たなければ、失敗を避け、チャレンジに消極的な環境になってしまうでしょう。
挑戦できる環境を作るには、結果ではなく挑戦自体を評価する制度の導入が必要です。また評価する点数を見える化することで「何もしないより挑戦するほうが損失が少ない」という状態を作り、挑戦を促せます。
個別にノルマを設定してモチベーションの維持
ノルマを設定すると、達成できなかったときの損失を回避するために、モチベーションの維持ができます。
ただし全員が同じノルマを目指すと、感応度逓減性によって喜びを感じにくくなります。個人の能力に合わせたノルマ設定が重要です。
プロスペクト理論を活用して売上を上げよう
プロスペクト理論は、不確実な状況では合理的な判断ができなくなることを説明した理論です。「高い確率は過小評価、低い確率は過大評価すること」「得より損の方が強く感じる」という2つの軸から構成されています。
損失を避けるために人が不合理な判断をするたいと考えることで生じる、不合理な判断を説明するのに用いられます。たとえば損を嫌うあまり、人は得する選択肢を選ばないことがあります。
また同じだけの価値のあるものや状況を手にしても、そこまでの距離が近いと大きな喜びを感じられません。加えて損失や利益は、全体が大きいほどささいなことに感じられます。
人の感じ方を説明するプロスペクト理論は、マーケティングや人材育成で用いられています。上手に活用して売上の向上を図りましょう。
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