「日々の請求書や日報の入力作業に追われ、現場が疲弊している」「DXの必要性は認識しているが、何から手をつければよいか分からない」…そんな悩みを抱える中堅企業の管理者様は少なくありません。


実際に、バックオフィス業務担当者の47.3%が「デジタル化されていない業務に時間がかかる」と回答(※1)しており、中小企業の約74%がDXの初期段階で停滞しているというデータ(※2)もあります。
入力作業の削減は、単なるツール導入(点)ではなく、業務プロセス全体の最適化(線)で考える必要があります。この記事では具体的な削減方法の紹介に留まらず、「どの課題から着手すべきか」を判断するフレームワークと、投資失敗を回避するための「実践的ロードマップ」を徹底解説します。

「ツールを導入したが『ツールの隙間』の手入力が終わらない」「請求書処理やデータ入力の属人化を根本から解消したい」そのお悩み、解決策の「診断」から見直しませんか?入力作業の削減には、「AIによる作業の自動化」と、「BPaaSで業務ごとプロセスを任せる」という2つの主要なアプローチがあります。
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入力作業の削減は「4つの方法」と「4つのステップ」で実現できる

入力作業を効果的に削減するには、闇雲にツールを導入するのではなく、「業務改善」と「ツール活用」を組み合わせた体系的なアプローチが不可欠です。主要な方法は4つに分類され、成果を出す企業は例外なく4つのステップでプロジェクトを進めています。
入力作業を削減する「4つの主要な方法」
入力作業を削減する方法は、大きく4つのアプローチに分類されます。これらは、業務の「廃止・標準化」といった根本改善、「アウトソーシング」による外部委託、そしてRPAやAIを活用した「自動化・デジタル化」であり、課題の性質に応じて使い分けることが重要です。
- 業務プロセスの見直し: そもそも不要な入力作業の廃止、入力ルールの統一・標準化。
- アウトソーシング(BPO)の活用: データ入力業務そのものを外部の専門業者に委託。
- 定型作業の自動化(RPA/マクロ): PC上の繰り返し作業(コピペ、システム入力)を自動化。
- 非定型・紙業務のデジタル化(AI-OCR/システム連携): 紙帳票や手書き文字を読み取り、データ化。二度手間を根絶します。
失敗しないための「4ステップ・ロードマップ」
最も重要なのは「進め方」です。DXで「十分な成果が出ている」と回答した企業はわずか9.2%(※)に過ぎない現実からも、正しい手順を踏む重要性がわかります。
- STEP 1: 現状の可視化と課題の「診断」: どの作業に時間がかかっているかを棚卸しし、「効果の大きさ」と「実行難易度」で優先順位を付けます。
- STEP 2: 「0円」でできる業務改善: ツール導入の前に、フォーマット統一や入力ルールの徹底など、今すぐできる改善を行います。
- STEP 3: ツールの「スモールスタート」: 優先度の高い業務で、RPAやAI-OCRなどのツールを限定的に導入し、費用対効果(ROI)を検証します。
- STEP 4: 効果の評価と「横展開」: 小さな成功体験を基に、他部署への展開や、システム間連携(二度手間削減)へと進めます。
STEP 1:現状の可視化と課題の「診断」
多くの企業が失敗する最初の関門が、この「課題の特定」です。ここでは、ブラックボックス化した業務を可視化し、取り組むべき優先順位を「効果」と「難易度」の2軸で科学的に診断する方法を解説します。
課題の洗い出し:まずは「どこで」「誰が」「何を」入力しているか可視化する
最初のステップは、ブラックボックス化している業務の可視化です。バックオフィス業務の課題として「特定の人しかわからない業務がある(属人化)」が57.3%(※)にも上る通り、まずは全体像を把握しなければなりません。
以下の項目で、社内の入力作業をすべて洗い出してください。
- 部署名 / 担当者
- 入力対象(例:紙の請求書、Excelの日報)
- 入力先システム(例:基幹システム、会計ソフト)
- 所要時間 / 月
- 発生頻度(例:毎日、月末集中)
優先順位付け:「効果」と「難易度」のマトリクスで分類する
洗い出した作業を「効果」と「難易度」の2軸で分類し、取り組むべき順序を決定します。
- 縦軸(効果): 削減できる時間、関わる人数の多さ
- 横軸(難易度): 実行しやすさ(ルール変更の容易さ、関係部署の少なさ)
- 象限①【最優先:クイックウィン】(効果:大 / 難易度:低)
- 戦略: まずここから着手します。現場の協力も得やすく、早期に成功体験を積むことができます。(例:特定の部署内だけで完結する定型コピペ作業)
- 象限②【計画的に実施】(効果:大 / 難易度:高)
- 戦略: 全社的なルール変更やシステム導入が必要な本丸です。クイックウィンでROIを証明した後、経営陣を巻き込んで計画的に投資します。(例:全社共通の請求書フォーマット変更とAI-OCR導入)
- 象限③【後回し】(効果:小 / 難易度:低)
- 象限④【着手しない】(効果:小 / 難易度:高)
経済産業省の分析(※)でも、DX先進企業は「明確なKPI設定」や「挑戦を促す組織文化」を特徴としています。この「クイックウィン」から始めるアプローチは、まさに先進企業の成功パターンと合致するものです。
STEP 2:「0円」でできる業務改善

高額なツール導入の前に、まずは「0円」で実施できる業務プロセスの見直しに着手します。入力作業そのものの「廃止」、フォーマットの「統一」、そしてExcel機能の活用による「効率化」という3つの視点が、後のツール導入効果を最大化します。
① 不要な入力・転記作業を「廃止」する
「そのデータ入力は、本当に必要か?」「Excelと基幹システムに二重管理されていないか?」を徹底的に見直します。
バックオフィス担当者が自動化したい業務の筆頭は「データ入力・転記」(51.8%)(※)です。この「転記」作業、すなわち「二度手間」こそが現場の最大のペインであり、真っ先に廃止を検討すべき対象です。
② 入力フォーマット・ルールを「統一」する
入力作業が残る場合、そのルールを標準化します。特に紙帳票のフォーマット統一は、後のAI-OCR導入時に読み取り精度を安定させる上で極めて重要です。
- 取引先ごとにバラバラな請求書の受領方法(紙、PDF、EDI)を見直す
- 社内の日報や報告書のフォーマットを統一する
- 入力項目(全角/半角、日付形式)のルールを明確化し、可能な限りプルダウン選択式に変更する
③ Excel作業を「マクロ・関数」で効率化する
VLOOKUP関数やピボットテーブルによる集計自動化、あるいは入力フォームの作成によるミス防止など、Excelの標準機能やマクロ(VBA)だけでも大幅な効率化が可能です。
これらは初期費用・月額費用ともに「0円」から実行できる、最も手軽な「クイックウィン」施策です。ただし、作成者への依存(属人化)というリスクを内包しているため、あくまで局所的な改善と割り切るか、管理ルールを定める必要があります。
STEP 3:ツールの「スモールスタート」
STEP 1で診断した課題に基づき、ここで初めて具体的なツールの選定に入ります。RPA、AI-OCR、BPOなど主要な4つの方法を比較し、自社の課題解決に最適なソリューションを「小さく始めて大きく育てる」ための選定ポイントを解説します。
方法①:定型的なPC作業が多いなら「RPA (Robotic Process Automation)」
定型的なPC作業が多い場合、RPA (Robotic Process Automation) が最適です。これは、データ抽出、システム入力、コピペなどPC上の決まった操作をソフトウェアロボットが代行する技術です。
企業がRPAを導入する最大の理由が「手作業による業務が多い(入力・転記・登録など)」こと(※1)である通り、交通費精算のチェックや売上データの基幹システムへの転記といった業務に威力を発揮します。コスト感は、初期費用0円から数100万円、月額5万円程度からと幅があります。
選定時は、スモールスタート向きの「クラウド型」か、大規模・高セキュリティ要件向きの「オンプレミス型」かという提供形態、そして現場主導か情シス主導かで求められる「操作性」がポイントになります。また、「生成AIとの連携」も、非定型業務への対応を見据えた最新トレンドです。
方法②:紙の帳票・手書き文字が多いなら「AI-OCR」
紙の請求書や手書きの日報など、アナログ帳票の入力作業がボトルネックであれば、AI-OCRが強力な解決策となります。これは、AI技術で紙やPDFの文字を99%に近い高い精度で読み取り、テキストデータ化するソリューションです。たとえば製造業では、請求書だけでなく、図面、部品表、品質検査記録書など多様な書類に活用されています。
コスト感は初期費用0円から100万円、月額3万円からと、読み取り枚数に応じた従量課金制が主流です。選定におけるポイントは、2024年1月に完全義務化された「電子帳簿保存法」や「インボイス制度」といった法制度への対応機能です。あわせて、自社で扱う帳票(特に手書き文字)の読み取り精度をトライアルで必ず確認し、RPAや会計システムとシームレスに連携できるかも見極める必要があります。
方法③:非定型だがパターン化できる作業なら「Excelマクロ/VBA」
RPAを導入するほどではないものの、Excel内で完結する複雑な集計レポート作成や、パターン化された定型メールの自動生成といった作業には、Excelマクロ(VBA)が有効です。
最大のメリットは、初期費用・月額費用ともに「0円」であり、社内に知見を持つ人材がいれば即座に着手できる点です。これは局所的な改善における「戦術的」な選択肢と言えます。
ただし、その手軽さゆえに、作成者本人にしか修正できない「属人化」のリスクを常に内包しています。全社的な標準化には向かないため、あくまで管理可能な範囲での局所的な効率化と割り切り、ガバナンスを効かせることが重要です。
方法④:専門性が必要・物量が多いなら「アウトソーシング (BPO)」
データ入力業務そのものを、外部の専門業者に委託する(BPO)のも有力な選択肢です。特に、繁忙期だけの大量入力や、専門知識が必要なデータ処理など、自社リソースでの対応が困難な場合に適しています。コストは初期費用0円から、業務量に応じた月額5万円程度からが目安です。
選定時は、機密情報を預けるため、PマークやISMS認証といったセキュリティ体制の確認が必須です。また、単なる安さだけでなく、業務の品質(ミス率や納期)も重視すべきです。
BPO事業者が作業代行に留まらず、業務フローの再構築やマニュアル作成まで行い、属人化の解消に成功している事例もあります。単なる「作業の手」としてではなく、こうした「改善のパートナー」となり得るかどうかも、重要な見極めポイントです。
STEP 4:効果の評価と「横展開」

プロジェクトの成否は、スモールスタートの「その後」にかかっています。「なんとなく楽になった」で終わらせず、削減効果を具体的な数値で「評価」し、その成功体験をテコに他部署へ「横展開」する方法論を解説します。
① 効果測定(ROI)を徹底し、経営陣を説得する
「クイックウィン」で得た成果を、必ず定量的に測定します。これが、次の投資(STEP 1の象限②)を引き出し、プロジェクトを全社的なものへとスケールさせるための、経営陣に対する最強の説得材料となります。
何を測定するか
導入前に設定した「削減目標時間」に対し、導入後に「実際に削減できた時間」を測定します。
どう説得するか
削減時間を金額換算します。
- (例)サッポロビール株式会社: RPA活用で年間約5,700時間を削減。これは金額換算で約1,100万円に相当します。※1
- (例)某製造業: AI-OCR導入で月200時間の作業を45時間に短縮(78%削減)。※2
- (例)日野興業株式会社: RPA導入で月間170時間の作業工数を削減。※3
② 小さな成功を「横展開」し、全社的な成果につなげる
一つの部署での成功は、あくまでスタート地点です。その成功事例をモデルケースとして、他部署へ「横展開」します。
- 現場のメリットを強調する: 横展開の際は、コスト削減効果(経営層向け)だけでなく、現場の定性的なメリットも併せて伝えます。「残業がゼロになった」「煩雑な作業ストレスから解放された」といった現場の声は、他部署の協力を得る上で強力な武器となります。
- 推進体制を強化する: スモールスタートの知見を活かし、情シスや経営企画部が中心となって全社的な導入・管理ルールを策定し、ガバナンスを効かせながら展開します。
導入担当者が陥りがちな4つの失敗例と対策
最後に、DX推進企業の9割近くが成果に苦しむ現実を踏まえ、担当者が最も恐れる「投資失敗」を回避するためのチェックリストを提示します。ロードマップの各段階で、これらの「罠」に陥っていないか常に確認してください。
課題の特定があいまいで、高機能なツールを導入してしまう
DX推進の障壁として「予算の確保が難しい」は24.5%(※)を占めます。課題が曖昧なまま高機能なツールを導入することは、貴重な予算の無駄遣いに直結します。
〈対策〉
STEP 1の「課題診断」を徹底します。まずは「クイックウィン」(効果:大 / 難易度:低)の領域から着手し、小さな投資で確実な成果を出すことに集中してください。
現場の協力を得られず、「使われない」ツールになる
バックオフィス業務の最大の課題は「属人化」です。その業務を最もよく知る現場のキーマンの協力なしに、プロジェクトは成功しません。
〈対策〉
導入初期から現場のキーマンを巻き込みます。彼らの「手作業の辛さ」を理解し、ツール導入が「仕事を奪う」ものではなく、「煩雑な作業から解放する」ものであるというメリットを共有します。
自動化の対象業務が「頻繁に変更」され、ロボットが止まる
業務フロー自体が不安定なまま自動化を進めると、仕様変更のたびにロボットの修正が必要になり、かえって工数が増大します。
〈対策〉
まずは業務フローが安定・標準化されている業務から対象にします。これが、STEP 2(ツール不要の業務改善)を先に行うべき理由です。
「野良ロボット(属人化)」が生まれ、管理不能になる
手軽なExcelマクロや現場主導型RPAは、管理ルールがないと「野良ロボット」化します。作成者が退職した途端、誰もメンテナンスできなくなり業務が停止するリスクです。
〈対策〉
情シス(または推進部署)が、スモールスタートの段階から管理ルールを策定します。約6割の企業(※)がDX人材の大幅な不足を感じており、限られたリソースで管理するためにも、ガバナンスの仕組みが不可欠です。
まとめ:入力作業の削減は「診断」と「スモールスタート」から

入力作業の削減を成功させる鍵は、いきなり高機能なAI-OCRやRPAのカタログを取り寄せることではありません。
- まず自社の課題を「診断」し、優先順位を決めること。
- ツール不要の「業務改善(標準化・廃止)」から着手すること。
- ツールは効果の出やすい領域で「スモールスタート」し、ROIを証明すること。
- 証明したROIを基に「横展開」し、プロジェクト全体のリスクを管理すること。
入力作業の削減は、単なるコストカットではなく、優秀な社員を付加価値の低い作業から解放し、彼らの創造性を引き出すための戦略的な一手です。この記事で紹介したロードマップが、生産性向上プロジェクトを成功に導く一助となれば幸いです。
入力作業の削減に向けた「次の一歩」を踏み出しませんか?

入力作業削減の成否は「STEP 1:診断」と「STEP 3:スモールスタート」にかかっています。
しかし、「SaaS間の『隙間作業』が残っているが、AIやRPAで自動化すべきか?」「業務が属人化しているが、BPO(BPaaS)で丸ごと委託すべきか?」この「ソリューション選定」こそが最も難しく、DX失敗の最大の分岐点です。
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