国民年金は所得控除の対象であり、控除を受ければ支払う所得税を少なくできます。しかし厚生年金とは異なり、所得控除を適用するには年末調整か確定申告で金額を申請しなければなりません。
この記事では「手続き方法は?」「実際にいくら戻るのか」「いつからいつまでの支払が対象か」「控除証明書が間に合わないがどうすればよいのか」といった国民年金にまつわる確定申告の疑問点について解説します。
この記事の監修税理士
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
国民年金は確定申告でいくら戻る?控除を受けて賢く節税しよう
国民年金は「社会保険料控除」のひとつなので、所得金額から差し引いて節税につなげられます。いつからいつまでの支払いが対象なのか、また実際にいくら戻るのかを計算例とあわせて解説します。
国民年金は社会保険料控除のひとつ
国民年金はいくつかある所得控除のなかで「社会保険料控除」のひとつです。
所得控除の金額は所得金額から差し引けるので、結果的に所得税を少なくできて節税につながります。生命保険料控除などと異なり、国民年金の支払金額は全額が所得控除の対象になるため、忘れずに申告をしましょう。
家族の国民年金も支払っている場合はその分も加えて控除がとれます。国民年金基金に加入している方はそちらも全額が控除対象なので合わせて申告してください。
また社会保険料控除の対象となる保険料は他にもあります。社会保険料控除の詳しい説明や申告の仕方はこちらの記事も参照してみてください。
社会保険料控除の対象は「その年の1月1日から12月31日まで」
社会保険料控除の対象となる国民年金は「その年の1月1日から12月31日まで」に支払った分です。例えば「12月分」ではなく12月に実際に納付した金額になりますので注意してください。
もし未納分があれば12月31日までに納付をしましょう。そうすればその年の社会保険料控除の対象にできます。
国民年金の確定申告でいくら戻るのか
国民年金の支払を確定申告で所得控除した場合、いくら戻るのでしょうか。所得税は以下のように計算します。
【課税される所得金額】
所得金額-所得控除=課税される所得金額 |
【所得税の金額】
課税される所得金額×所得税率=所得税の金額 |
所得税は累進課税になっており、税率は所得によって異なります。
節税できる金額のみを計算したい場合は、所得控除の金額に所得税率をかけるだけで計算できます。以下で実際に計算してみましょう。
実際に計算してみよう
「所得金額が200万円」「国民年金の支払額が年間で19万円」の人を例にあげて計算してみましょう。
国民年金を控除しておらず、基礎控除以外の他の所得控除もないケースの所得税の金額は以下のようになります。
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国民年金の支払額19万円を所得控除した場合は以下のようになります。
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両者の差額は9,500円となり、この金額が節税できた金額になります。
節税できる金額のみを計算したい場合は国民年金の支払額19万円に所得税率5%をかけるだけでも計算できます。
(所得税はさらに復興特別所得税が2.1%プラスされますがここでは考慮しません)
課税される所得金額が減れば、所得税だけでなく住民税も減額されますので、節税の効果はさらに大きいといえるでしょう。
国民年金の社会保険料控除を受けるのに必要な書類
確定申告書の記入欄は多く、国民年金保険料の額をどこに書いたらいいかわからないかもしれません。また自分で支払った保険料をどのように申告するか、初めての人は想像もつかないのではないでしょうか。ここでは国民年金保険料の申告の仕方を紹介します。
国民年金申告には「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」が必要
国民年金保険料の控除は、事業の確定申告をする際に必要書類を添付することで行うことができます。必要書類は日本年金機構から社会保険料(国民年金保険料)控除証明書が送付されますので、この証明書を確定申告書と一緒に提出します。
社会保険料控除は1月1日から12月31日までに納付した保険料を翌年の確定申告で申告します。「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」は10月ごろに作成され、11月初旬に発送されます。
控除証明書の発送は「11月上旬と2月上旬」
控除証明書の発行に関しては以下の通りです。
発行時期 | 対象者 |
11月上旬 | 1月1日から9月30日までの間に国民年金保険料を納付された方 |
2月上旬 | 10月1日から12月31日までの間に国民年金保険料を納付された方 |
控除証明書が届かず間に合わない場合は「領収書を添付」
「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」は毎年送付されますが、この控除証明書(ハガキ)を紛失した場合や届かない場合には、領収書(領収印のあるもの)の添付でも問題ありません。
また「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」は申請により再発行してもらうことができます。ユーザーIDを取得している場合はねんきんネット経由で再発行を申請でき、ねんきん加入者ダイヤルや年金事務所でも申請することが可能です。
確定申告書の書き方
確定申告書の第二表に社会保険料控除の額を記入する欄があります。
確定申告書に記入する控除額には注意が必要です。作成日10月の控除証明書は、作成日時点での納付額と12月31日までに納付した場合の見込額が記載されています。
その場合、控除証明書の「見込額」に記載されている金額を使用します。作成日10月の控除証明書でそれ以降納付していない場合や翌年2月の控除証明書の場合は、記載されている「合計額」がそのまま控除額となります。
※確定申告書にはAとBの2種類がありましたが、2023年1月より統合され1種類となりました。現在の仕様はもともと個人事業主が使用していたB様式に近い形式です。 |
インターネット(e-Tax)で確定申告できる!
確定申告は昔ながらに手書きで作成して提出することができますが、e-Taxと呼ばれる電子申告で確定申告することもできます。
e-taxを利用するためには、必要なネット環境とマイナンバーカード、また読み取り用のスマホかICカードリーダライタが必要となります。本人確認のための電子証明書を取得する必要もあります。
またe-taxを利用しない場合は、ネット上で確定申告書を作成し、プリントアウトした確定申告書を税務署に郵送することもできます。
なお令和2年分の所得(確定申告は翌年令和3年)から、e-Taxによる確定申告又は電子帳簿保存を行わないと、青色申告特別控除額65万円は適用できず、55万円になったことに注意が必要です。
年末調整で忘れた国民年金控除!確定申告で対応可能
年末調整で忘れた国民年金控除は、3月15日までに自身で確定申告を行うことで対応することが可能です。確定申告に慣れていない場合でも、確定申告書作成コーナーを利用することで簡単に申告できますよ。
期限は原則「3月15日」まで
年末調整で控除を失念した場合、まず年末調整をやり直してもらうことを考えるかもしれません。実際やり直しは可能ですが、最長でも翌年の1月31日までです。ただ1月31日は勤務先が法定調書や給与支払報告書を提出しなければならない期限でもあります。
そのようなときは3月15日までであれば、確定申告をすることで控除を適用できます。急がずにかつ勤務先に気兼ねすることなく手続きできるのでおすすめです。
確定申告に慣れていない方でも、国税庁の確定申告書作成コーナーを利用すると便利です。該当事項を選択していくだけで自動的に申告書を作成してくれます。源泉徴収票を用意しその金額を入力したうえで、国民年金の支払金額を所得控除の欄に入力しましょう。
3月15日を過ぎてしまった場合でも諦めないでください。5年間は還付申告をすることで控除をとることができます。還付申告は手続としては確定申告と同じで、提出できる期間はその年の翌年1月1日から5年間です。
配偶者の国民年金もまとめて申告可能
国民年金保険料の控除は自身だけでなく、配偶者や子供などの家族分もまとめて控除することが可能です。国民年金保険料の支払額は全額控除できますので、必ず確認しておきたい疑問のひとつです。
家族分もまとめて申告して効率よく
国民年金保険料を社会保険料控除として控除する場合、配偶者や子どもなどの保険料を納めたときには、納めた人が確定申告をすることができます。
家族分の保険料も控除の対象となりますので、忘れずに申告しましょう。「生計を一にする」家族に限りますので注意が必要です。
国民年金の追納分や前納分も申告可能
前述したように所得控除の対象となるのは「その年の1月1日から12月31日まで」に納付した国民年金です。しかし過去の追納分や翌年の前納分も支払った年の所得控除の対象になります。ここでは追納分・前納分の申告方法を解説します。
追納分の申告方法
国民年金の免除や猶予制度により国民年金を支払っていない方や、払わねばならないのに払っていない期間がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような場合であっても、あとから納付すると年金の受取額を増やすことができ、この支払分も支払った年の所得控除の対象となります。
追納分の確定申告は通常の手続き同様、支払った全額を確定申告書に記入します。ただし追納分はその年の控除証明書だけでなく、追納分の領収書も必要となるため、追納分の保険料も控除したい場合は、しっかり追納分の領収書を保管しておきましょう。
前納分の申告方法
国民年金は6ヵ月分、1年分、2年分を前納することができます。そして前納した分は全額支払った年の所得控除の対象です。
なお2年前納の場合は、支払った年に控除するか、各年に控除するかを選ぶことができます。
この選択は特に届出などの必要はなく、控除を受けたい年分を社会保険料控除証明書を添付して申告すれば大丈夫です。社会保険料控除証明書は年分で分けられるようになっているので、必要な部分を切り離して利用します。
前納の場合支払ったときには多く所得控除をとれますが、翌年は支払がないので控除ができません。2年前納の場合は控除する年が選べるので、所得の水準を見ながら控除金額を決めるとよいでしょう。
国民年金の前納で保険料をお得にしよう!
国民年金保険料は、毎月支払う方法のほかに、半年払いや年払いも選ぶことができます。まとめて支払うと割引がありますが、2年前納制度ではさらに割引されます。
2年前納制度はどのくらいお得なのか、2年前納制度を利用するための方法について解説します。
2年前納制度を利用しよう!【割引あり】
国民年金保険料には前納制度があります。特に2年分の前納は割引率が高く、国民年金保険料を安くおさえることができます。口座振替の割引額が15,760円、現金とクレジットカードの割引額が14,520円となっています。
また社会保険料控除では、2年分支払った年に全額控除するか、2年に分けて控除するか選択することができます。所得が多い年にまとめて控除することができますので、節税目的で活用できます。
手続きの方法
口座振替による2年前納税度を利用するためには、「国民年金保険料口座振替(変更)申出書」を口座のある金融機関に届けます。年金事務所への持参又は郵送でも可能です。いずれも申込期限は毎年2月末となっています。
クレジットカードの場合は、「国民年金保険料クレジットカード納付(変更)申出書」を年金事務所へ持参又は郵送します。申込期限は毎年2月末です。
なお現金の場合は、年金事務所に申し出ます。
支払い方法【カード・現金・口座引き落とし】
平成29年4月から口座振替だけでなく、現金とクレジットカードによる納付が可能となりました。割引額を参考に、ご都合のいい方法を選びましょう。
追納分の申告について
国民年金の保険料について、学生納付猶予制度や免除制度などを利用した未納の期間がある場合、その保険料をあとで納付することを追納といいます。追納分も確定申告することで控除することができますので、忘れずに申告しましょう。
確定申告は税理士への依頼がおすすめ!
確定申告は税理士の本業と言ってもよいでしょう。確定申告は自分自身でするか、第三者であれば税理士資格が必要となりますので、税理士へ依頼するかどうか検討してみてください。
ここでは税理士へ依頼するかどうか検討する人のために、税理士に依頼するメリットや選ぶポイントを紹介します。
確定申告で税理士に依頼するメリット
ここでは国民年金保険料を確定申告する方法を解説しましたが、出来るだけ節税するためには、青色申告特別控除の要件を満たす必要があります。
収入に関わるすべての取引を正規の簿記の原則にしたがって記帳しなければならないという要件があります。一つひとつの支払についてどの勘定科目を使用するか考えなければなりませんし、仕訳の経験がない人にとっては、かなり時間を要する作業となります。
減価償却の方法も、要件を満たせば特例を適用できるなど、知識があれば節税効果を得ることができるケースがあります。
確定申告を税理士に依頼することで、費用はかかりますが、本業に集中できるため、結果的に売上にも貢献できるのではないでしょうか。
税理士を選ぶポイント
税理士を選ぶポイントは、もちろん税理士へ支払う報酬は気になりますが、確定申告の業務経験が豊富かどうかが重要です。慣れている税理士ほど、ミスが少なく、修正申告の可能性が少なくなりますので、報酬だけでなく、経験や人柄など総合的に判断しましょう。
監修税理士からのコメント
風間公認会計士事務所 - 東京都品川区南品川
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