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家なき子特例についてわかりやすく説明 平成30年度の改正による影響とは?

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最終更新日: 2024年06月28日

亡くなった人の宅地を相続する場合、相続税評価額を最大80%も減らすことが出来る「小規模宅地等の特例」という制度があります。この特例を使えば、評価額を最大80%も減らすことが出来ますので、節税効果が非常に高い特例と言えます。特に地価が高い都心にお住まいの方には、効果絶大です。

皆さんの中には亡くなった人と同居していた人でないと、この特例が使えないとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、同居していなくてもこの特例が使えるケースがあります。それが「家なき子特例」と呼ばれているケースです。

今回は、宅地の相続税評価額を80%も減らすことが出来る「家なき子特例」について詳しく見てきます。今回の記事が、お持ちの不動産の相続税対策の検討の一助になれば幸いです。

この記事を監修した税理士

税理士法人better - 東京都中央区日本橋人形町

税理士法人better-東京都中央区 大下宏樹(おおしたこうき)代表社員 1982年香川県高松市出身。明治大学商学部卒業。会計事務所にて相続税申告業務を経験、大手監査法人勤務の後、相続税専門税理士法人better設立。 香川県で3代続く公認会計士・税理士一族の次男。3兄弟全員が同業。独自のシステムである「better相続」により、従来の高額でアナログなサービスを見直し、低額かつ定額の相続税申告を提供。

家なき子特例とは

家なき子特例とは
家なき子特例とは

まず、家なき子特例の概要について見ていきます。この特例は、要件を満たせば相続した宅地の評価額を80%減らすことが出来る制度です。

ここでは、

  1. 小規模宅地等の特例とは
  2. 家なき子特例とは
  3. 家なき子特例による評価減額

について見ていきます。

小規模宅地等の特例とは

小規模宅地等の特例とは、要件を満たせば宅地の評価額を最大で80%減らすことが出来るという特例で、「被相続人等の居住や事業に使っていた宅地」が対象です。この特例が出来たのは、被相続人の居住や事業に使っていた宅地に通常の相続税を課税すると、相続税額が膨大になり、居住用宅地や事業用宅地を売却しないといけない場合が多々発生してしまうからです。このような状況を回避するために、小規模宅地等の特例が設けられました。

家なき子特例は小規模宅地等の特例の一部で、「被相続人が居住に使っていた宅地」に対する特例になります。

家なき子特例とは

家なき子特例とは被相続人が住んでいた宅地に対する特例で、被相続人と同居をしていなくても使うことが出来ます。被相続人が事業に使っていた宅地や、被相続人が住んでいなかった宅地に対しては使うことは出来ません。

この特例の適用に必要な要件を満たせば、評価額を80%減らすことが出来ます。家なき子特例を使うための要件については、次項で説明します。

家なき子特例による評価減額

家なき子特例により、評価額の減額率やその限度面積は次の通りです。

  1. 相続税評価の減額率:80%
  2. 減額が適用される限度面積:330㎡

例えば、自宅の宅地が500㎡の場合、

  • 330㎡までは、評価額が80%減額
  • 残りの170㎡には減額なし

となります。

家なき子特例の要件と平成30年度の税制改正

家なき子特例の要件と平成30年度の税制改正
家なき子特例の要件と平成30年度の税制改正

家なき子特例は、被相続人と同居していなくても使うことができ、土地の評価額を80%減らすことが出来ます。この特例を使うためにはいくつかの要件をクリアする必要があります。ここでは、家なき子特例を使うために必要な要件について説明します。

また、平成30年度には税制改正が行われて要件が追加されていますので、この税制改正についても見ていきます。

被相続人に配偶者や相続人である同居親族がいないこと

家なき子特例は、被相続人が住んでいた宅地に限定した特例です。被相続人が住んでいた宅地を相続して、小規模宅地等の特例を使うことが出来る相続人は次の通りで、その中の一人が「家なき子」です。

  1. 配偶者
  2. 同居親族
  3. 家なき子

家なき子がこの特例を使うためには、被相続人に配偶者および同居親族がいないことが必要です。ちなみに、被相続人の配偶者や同居親族が相続放棄をすると相続人ではなくなりますが、その場合でも家なき子が特例を使えるようになるわけではありませんので注意しましょう。

相続開始前3年以内に三親等以内の親族や特別の関係がある法人の持ち家に住んだことがないこと

家なき子特例は、相続人に持ち家がないことが前提の制度です。ただし、持ち家がないというだけではなく、次の要件をクリアする必要があります。

相続開始前3年以内に、

  1. 本人または本人の配偶者
  2. 三親等以内の親族
  3. 特別の関係がある法人(主に被相続人やその親族が50%超の株式を所有している法人)

の持ち家に住んだことがないことが要件です。

相続開始前に居住している家屋を所有していたことがないこと

相続開始直前は本人の持ち家でなくても、その家屋を過去に一度でも所有したことがある場合は家なき子特例は使えません。例えば自分の持ち家を第三者に売却して「家なき子」となり、その後も住み続けていた場合は残念ながら家なき子特例は使えません。

相続した宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること

家なき子特例は、将来的にその相続した宅地に住むことを前提にしています。そのため、少なくとも相続税の申告期限までその宅地を所有していることが、家なき子特例の要件となっています。

相続税の申告期限前にその宅地を売却してしまった場合は、家なき子特例を使うことが出来なくなります。ちなみに配偶者に限っては、この所有継続の要件はなく、相続税の申告期限前に宅地を売却しても、小規模宅地等の特例が適用出来ます。

居住制限納税義務者又は非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと

聞き慣れない言葉ですが、「居住制限納税義務者」または「非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者」は、家なき子特例を使えません。ここでの要件は、日本に一時的に住んでいる外国人などに対する制限ですので、日本に住んでいる私たち日本国籍の人にとってはこの要件について特に気にする必要はありません。

納税義務者の説明は複雑なため、ここでは説明を割愛しますが、国税庁の資料の中の表「納税義務者の判定(特定納税義務者を除く)」が比較的分かりやすいので、参考までにご紹介します。

平成30年度の税制改正による家なき子特例の変更点

平成30年度の税制改正により、次のように要件が追加されています。

【改正前】

  • 相続開始前3年以内に、本人またはその配偶者が所有する家に住んだことがないこと。

【改正後】

 

改正前の要件に加えて、次の要件が追加されました。

  • 相続開始前3年以内に、三親等以内の親族や特別の関係がある法人の持ち家に住んだことがないこと。
  • 相続開始前に居住している家屋を所有していたことがないこと。

家なき子特例を悪用して、本人の持ち家を「親が買い取る」「子供に贈与する」などで、本人は家なき子となってこの特例を使う、という節税手法を使う人が出てきました。つまり、節税対策のために家なき子特例を使うことが出来る状況を意図的に作ることが行われ、問題となってきました。

このような節税方法は本来の家なき子特例の趣旨と違っていますので、これを防止する目的で平成30年度の税制改正で要件が追加されています。

家なき子特例の経過措置とは

平成30年度の税制改正は、原則、2018年4月1日以後に発生した相続や遺贈について適用されます。

しかし、この税制改正には経過措置が設けられており、2018年4月1日から2020年3月31日までの間の相続や遺贈については、改正前の要件を満たしていればこの特例を使うことが出来ることになっています。ただし、2018年3月31日時点で改正前の要件を満たしていることが前提となります。

2020年3月31日までの経過措置ですが、相続税申告期限が10ヶ月であることを考えると、現在相続手続きを行っている方の中にも、この経過措置を使うことが出来る方がいらっしゃると思います。対象になりそうな方は、経験豊富な税理士にご相談されることをお勧めします。

家なき子特例を受けるための手続きや必要書類

家なき子特例を受けるための手続きや必要書類
家なき子特例を受けるための手続きや必要書類

家なき子特例を使うためには、通常の相続税申告書と併せてこの特例の要件を満たしていることを証明する書類を提出します。

ここでは家なき子特例を使うための手続きおよび、この特例を使うために必要な書類について説明します。なお、今回は家なき子特例の申請に特化して説明することとし、相続税申告に必要な申請書や書類については説明を割愛します。

家なき子特例を受けるための手続き

家なき子特例を使うための手続きを見てきます。

提出時期

家なき子特例の申告時期は、相続税の申告時期と同じで10ヶ月以内です。当然のことですが、遺産分割が終わっていることが前提になり、遺産分割が終わっていないと、家なき子特例の申請はできません。申告期限内に遺産分割ができず、家なき子特例の申告ができない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を提出しておく必要があります。

この書類を提出しないと家なき子特例を初めとした小規模宅地等の特例だけでなく、配偶者の税額軽減などの優遇措置が受けらなくなります。

提出先

相続税申告書の提出先は、被相続人の住所地を所轄する税務署です。 財産を取得した人の住所地を所轄する税務署ではありませんので、注意が必要です。

家なき子特例を受けるために必要な書類

家なき子特例の申請は相続税の申請と同時に行ない、相続税申告書に添付する形で提出します。家なき子特例の申請に必要な書類は、次の通りです。

(1)小規模宅地等の特例(家なき子特例を含む)の申請書

家なき子特例を受けるために必要な申請書です。

  • 第11・11の2表の付表1(小規模宅地等についての課税価格の計算明細書)

なお、家なき子特例以外の小規模宅地等の特例も合わせて申請する場合は、次の申請書も必要になる場合があります。

  • 第11・11の2表の付表1(別表1)
  • 第11・11の2表の付表1(別表2)
  • 第11・11の2表の付表2
  • 第11・11の2表の付表2の2

(2)家なき子特例の添付資料

家なき子特例を申請するためには、上記の申請書に加えて、家なき子特例の要件を満たしていることを示す下記の書類を添付しないといけません。

①戸籍謄本または法定相続情報一覧図の写し

全ての相続人について分かる書類です。被相続人に配偶者や同居親族がいないことを証明するために必要です。

②遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し

申請者が特例を申請する宅地を相続している事を証明する書類です。

③住民票や戸籍の附票の写し

相続開始前3年以内の住所(変更履歴)を証明する書類です。

④相続家屋の登記簿謄本、借家の賃貸借契約書など

「相続開始前3年以内に三親等以内の親族や特別の関係がある法人の持ち家に住んだことがないこと」が分かる書類です。また、「相続開始前に居住している家屋を所有していたことがないこと」も併せて証明します。

⑤被相続人が老人ホームに入所していた場合

被相続人が老人ホームに入所していた場合でも、家なき子特例を使うことが出来ます。この場合は、次の書類が必要です。

(ア) 被相続人の戸籍の附票の写し(老人ホームへ住所を移したことが分かる書類)
(イ) 介護保険の被保険者証、障害福祉サービス受給者証、要介護認定証、要支援認定証などの写し(要介護認定や要支援認定などを受けていることが分かる書類)
(ウ) 施設への入所時における契約書の写しなど(法律で定められた福祉施設であることが分かる書類)

なお、平成30年度の税制改正により家なき子特例の要件が変更になったため、平成30年度の税制改正の前後で必要な書類が違います。特に、2020年3月31日までは経過措置も設けられていますので、注意が必要です。

なお、改正前の家なき子特例を利用する場合には、申請に必要な書類が違ってきますので、必要書類については所轄税務署に確認するか、経験のある税理士にご相談ください。

税制改正により家なき子特例を受けることができなくなったケース

税制改正により家なき子特例を受けることができなくなったケース
税制改正により家なき子特例を受けることができなくなったケース

上記で見てきましたように、平成30年度の税制改正で家なき子特例の要件が厳しくなりました。家なき子特例が使える状況を意図的に作り出して、節税対策に悪用するケースが出てきたためです。

ここでは平成30年度の税制改正により、家なき子特例が使えなくなってしまったケースについて見ていきます。

親族の持ち家に借り住まいしていた場合

改定前は、親族の持ち家に住んでいる場合でも、特例を使うことが出来ました。

しかし、改定後は「相続開始前3年以内に三親等以内の親族の持ち家に住んだことがないこと」という要件が追加されたため、三親等以内の親族の持ち家に借り住まいしていた場合は、家なき子特例を使うことが出来なくなりました。ちなみに法律上の親族とは、六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族のことをいいますので、住んでいる住居の持ち主が親族でも三親等以内でなければ、家なき子特例を使うことが出来ます。

持ち家を被相続人に売却してそのまま住み続けた場合

改定前は、持ち家を被相続人に売却してそのまま住み続けても、3年以上経てば特例を使うことが出来ました。

しかし、改定後は、「相続開始前3年以内に三親等以内の親族の持ち家に住んだことがないこと」および「相続開始前に居住している家屋を所有していたことがないこと」という要件が追加されたため、持ち家を被相続人に売却してそのまま住み続けた場合は、家なき子特例を使うことが出来ません。

親と同居している孫に持ち家を遺贈した場合

孫は代襲相続人や被相続人の養子でないと相続人ではありません。しかし、孫など相続人以外の親族が遺言書による遺贈によって相続する場合は、小規模宅地の特例(家なき子特例を含む)を使うことが出来ます。

改定前は親と同居している孫に遺贈しても、その孫は特例を使うことが出来ました。しかし改定後は、「相続開始前3年以内に三親等以内の親族の持ち家に住んだことがないこと」という要件が追加されたため、孫が三親等以内の親族の持ち家に住んでいた場合は、家なき子特例を使うことが出来ません。

なお、住んでいる住宅が借家の場合は、三親等以内の親族の持ち家に住んでいたケースに該当しませんので、家なき子特例を使うことが出来ます。

家なき子特例の判定に関するよくある疑問

家なき子特例の判定に関するよくある疑問
家なき子特例の判定に関するよくある疑問

これまでに、家なき子特例を適用するための要件を見てきましたが、実際にこの特例を使う際には、この特例を使うことが出来るのか、出来ないのか、迷うケースが多々あります。

ここでは家なき子特例が適用できるかの判定に関して、よく出くわす疑問について見ていきます。

海外にある親族の持ち家に住んでいた場合は?

三親等以内の親族の持ち家に住んでいた場合は、家なき子特例を使うことが出来ません。しかし、ここでいう持ち家は国内の持ち家が対象ですので、海外の持ち家に居住している場合は、家なき子特例の対象となり、この特例を使うことが出来ます。

被相続人が老人ホームに入居していた場合は?

被相続人が老人ホームに入居していた場合でも、次の条件を満たせば、家なき子特定を使うことが出来ます。

  1. 被相続人が要介護認定または要支援認定を受けている
  2. 被相続人の自宅を賃貸していない

老人ホームに入居中に自宅を他人に賃貸している場合、家なき子特例を適用した小規模宅地等の特例を使うことが出来ません。しかし、他人に賃貸している場合、貸付事業用宅地として小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。この場合の減額率は80%ではなく50%となり、限度面積は200㎡となります。

勤めている会社が所有するマンションや社宅に住んでいる場合は?

家なき子特例の要件の一つに、「相続開始前3年以内に特別の関係がある法人の持ち家に住んだことがない」という要件があります。務めている会社が「特別の関係がある法人」でなければ、家なき子特例の対象ですので、この特例を使うことが出来ます。なお、特別な関係がある法人というのは、主に被相続人やその親族が50%超の株式を所有している法人を指します(租税特別措置法より)。そのため、通常の会社員であれば問題はありません。

相続税の申告期限後にすぐに売却しても問題ない?

家なき子特例は、将来的に相続人がその居住用不動産に住むことを前提にしています。そのため、少なくとも相続税の申告期限まではその宅地を所有しておく必要があり、相続税の申告期限までにその宅地を売却してしまった場合は、家なき子特例を使うことが出来なくなります。

しかし、売却が相続税の申告期間後であれば、この条件に抵触しないため、問題なく特例を使うことができます。ちなみに、相続税の申告期限前に売買契約を締結した場合でも、 引き渡しが申告期限後であれば、特例が適用できます。これは不動産の譲渡は、引渡日に所有権が移転すると考えるからです。

また、小規模宅地等の特例が適用できる相続人の中に配偶者がいます。配偶者に限ってはこの所有継続の要件はなく、相続税の申告期限前に宅地を売却しても、小規模宅地等の特例を使うことが出来ます。

相続の土地の評価で困ったら税理士に相談を

相続の土地の評価で困ったら税理士に相談を
相続の土地の評価で困ったら税理士に相談を(画像提供:PIXTA)

税制改正により相続税の対象となってしまう方が増えていますが、その相続財産のほとんどが住居を中心とした不動産という場合が多いと思います。皆さんもご存知のように、家なき子特例を含む小規模宅地等の特例を使うことが出来れば、相続税額を大幅に減らすことができますが、特例を使うためには相続税の専門知識が必要です。

相続財産に不動産が含まれている、また、家なき子特例を含む小規模宅地等の特例などで節税を考えている方は、相続に強い税理士に相談することをお勧めします。

相続はケースバイケース個々の状況によって、相続税申告の税理士をはじめ、司法書士(不動産の相続登記)や弁護士(相続人間の争い対応)など数々の専門家が登場しますが、相続に強い税理士であれば、その税理士を通して他専門家との連携も可能です。

監修税理士のコメント

税理士法人better - 東京都中央区日本橋人形町

「小規模宅地等の特例」は改正の頻度が高い特例です。過去に節税対策を実施した後も、要件変更に該当しないか改正の都度検討する必要があります。適用できない場合の影響が大きいため、小規模宅地等の特例適用を相続税対策として検討している場合には、専門家にご相談することをオススメします。

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