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暦年贈与とは|相続税対策で押さえておきたい6つのポイント

最終更新日: 2022年05月27日

相続税を少しでも抑えるために、生前からできる節税対策には様々な方法があります。「暦年贈与」もその一つです。1人あたり110万円までは贈与税がかからないことを利用して相続税を節税します。

節税効果は大きいですが注意点がいくつかあり、間違えた方法をとると失敗する場合もあります。

この記事では、暦年贈与のメリット行なう際の注意点契約書の作成方法を解説します。暦年贈与のやり方や注意すべき点を理解して、税務署から指摘を受けない「正しい相続対策」をできるようになりましょう。

この記事を監修した税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

 

暦年贈与(れきねんぞうよ)とは

シニア夫婦と息子夫婦

暦年贈与とは1月1日~12月31日の1年間の贈与額が110万円以下の場合に、贈与税がかからない仕組みを使った贈与方法です。

非課税の範囲内で毎年贈与することで生前に財産を減らし、将来亡くなる人の相続税を節税可能です。暦年贈与を早めに始めれば、その年数分だけ節税額を増やせます。

暦年贈与は財産の受け渡しを行なうだけなので、法律で定められた手続きはありません。しかしやり方を間違えると、暦年贈与が認められず課税されることもあり、注意が必要です。

暦年贈与を行なうメリット

暦年贈与を行なうメリットは以下の3点です。

  • 相続財産を減らすことができる
  • 年間110万円までの贈与は贈与税が非課税
  • 相続争いを未然に防げる

暦年贈与を早くから行なうことで、生前に財産を減らし将来の相続税を減額できる可能性があります。相続税は一定の資産がある人にかかる税金であるためです。

また年間110 万円までの贈与であれば、贈与税だけでなく所得税や住民税も課税されません。

他にも相続争いを未然に防げる可能性があります。生前は仲が良い家族でも、いざ相続が発生すると揉めることが多くあります。生前贈与をしておけば、相続争いに発展する可能性を少なくできるでしょう。

ただし、ある程度、平等に生前贈与をしないと相続のときに結局揉める可能性があるので注意してください。

暦年贈与による節税効果

例えば親が財産7,000万円を子2人に渡す方法として「全額を相続で渡す場合と「暦年贈与による節税対策を生前に行なった場合の税額を比較してみましょう。

全額を相続で渡す場合

法定相続人が子2人であれば基礎控除額が4,200万円です。そのため課税対象金額は2,800万円(7,000万円 ー 4,200万円)になります。

子1人あたりの課税額は1/2の1,400万円で、適用税率15%かつ控除額50万円なので子1人あたりの相続税額は160万円になります。

子1人あたりの相続税額=2,800万円÷2×15%ー50万円=160万円

暦年贈与による節税対策を生前に行なった場合

一方で生前に子1人につき毎年100万円、2人合計で200万円を15年間(※)贈与した場合、3,000万円の財産を贈与しているため、相続税の課税対象は4,000万円(7,000万円-3,000万円)です。

これは基礎控除額である4,200万円以下なので相続税はかかりません。全額を相続で譲った場合と比べて子1人につき160万円、2人合計で320万円の相続税を節税できます。

(※)相続開始前3年以内の生前贈与は相続税の課税対象となる点に注意

相続時精算課税制度との違い

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から20歳以上の直系卑属(子や孫)に生前に贈与された財産のうち、2,500万円までは贈与税を非課税にする制度です。

ただし、贈与税が非課税になった金額は、相続税の計算に含まれます。

また暦年贈与とは併用ができないため注意が必要です。

他の贈与税非課税制度と併用可能

暦年贈与は以下の4つの贈与税特例制度と併用可能です。

  • 贈与税の配偶者控除
  • 住宅取得等資金の非課税制度
  • 教育資金の一括贈与
  • 結婚・子育て資金の一括贈与

ただし特例を併用して納税額がゼロになった場合は申告が必要になります。申告をしないと特例制度自体を利用できなくなるので、申告期間内に忘れずに手続きを行なって下さい。

暦年贈与を行なうときの6つのポイント

暦年贈与を行うときの6つの注意点

暦年贈与を行なうときはいくつかの注意点があります。

暦年贈与を行なうときの6つのポイント

これらのポイントを守って、子や孫などの次の世代に財産を正しく残しましょう。

毎年同じ時期・同じ金額での贈与は避ける

毎年同じ時期に同じ金額の贈与を行なうと、定期贈与とみなされる可能性があります。定期贈与とみなされると、過去に贈与をした分をさかのぼって相続税が課税される可能性があります。

定期贈与とは、一定額の贈与を毎年受けることが最初から決めてある贈与です。

定期贈与とみなされないコツは、贈与をする時期や金額の変更です。あくまであらかじめ決めていたのではなく、きまぐれに贈与をしたような形にしておきましょう。

贈与される側が口座を管理する

贈与する資金を振り込む口座を自身が管理していると「名義預金」と見なされる可能性があります。名義預金とみなされると管理している人の財産とみなされ、贈与は成立しません。

仮にその口座の名義が贈与を受けた人の名前だとしても、贈与をした人など実質的に他の人が口座を管理しているケースが名義預金に該当します。

夫婦や親子で暦年贈与を行なう場合は、配偶者や子が印鑑や通帳を保管していて「本人が実質的に管理している口座に振り込むことが大切です。

相続開始前3年以内の生前贈与は相続税の課税対象

相続や遺贈によって財産を取得した人に対して、相続開始前3年以内に生前贈与された財産は相続税の課税対象になります。これは亡くなる直前に財産を贈与して相続税を回避できてしまうと、課税の公平性が失われてしまうからです。

そのため相続税対象で暦年贈与を行なう場合は、相続開始3年前よりも前から行なわなければ意味がありません。暦年贈与による節税効果を活かすためには、少しでも早くから生前贈与を始めることが大切です。

孫への贈与は課税対象外

親が亡くなった時に子が存命であれば、孫は原則相続人になりません。そのため孫は3年以内の生前贈与加算の対象外です。

さらに孫に暦年贈与をすれば、本来「親から子」「子から孫」の2回の相続を経て財産が孫に渡っていたはずの所を「親→孫」に直接財産を渡せます。

財産が多くて多額の相続税負担が予想される場合には、相続税の課税回数を2回も減らせる孫への暦年贈与によって相続対策を行なうことも検討してみて下さい。

銀行振込など証拠が残る方法で贈与する

暦年贈与は銀行振込などの証拠が残る方法で行ないましょう。贈与自体は現金の手渡しでも可能です。しかし税務署から照会を受けた場合に備えて、証拠として預金通帳を提出できるようにしておくことがおすすめです。

預金通帳に記載があれば「いつ・誰から・いくらの贈与を受けたのか明確になります。また正しく暦年贈与を行なったことを示せる証拠は、贈与契約書以外に1つでも多くあったほうが安心です。

基礎控除は「贈与される人1人につき」110万円

暦年贈与で1年間に非課税になるのは「贈与する人1人につき」110万円ではなく「贈与される人1人につき110万円です。

例えば子が3人いて父が子へ贈与する場合は、子1人につき110万円の贈与まで非課税なので、年間で最大330万円まで贈与税がかかりません。

ただし、母や祖父母も同時に贈与する場合、子どもが受ける贈与額の合計が110万円を超えてしまうと課税されます。

贈与契約書の作成は必須

暦年贈与による相続対策では何年にも渡って贈与を行なうため、その度に契約書を作成するのは手間がかかります。

しかし、贈与契約書を作らずに口約束だけで済ませると、後々にトラブルが起きる可能性が高くなります。贈与の内容について言った・言っていないのトラブルにもなりかねません。

さらに贈与したことの証拠となる贈与契約書がないと、税務署から暦年贈与自体を否認される可能性もあります。

親からの生前贈与が単なる貸付金と見なされると、相続税が課税されてしまうので注意が必要です。トラブル回避や税務署対策の観点から贈与契約書の作成は必須となります。

ただし数年分の贈与をまとめて贈与契約書を作成すると、定期贈与とみなされます。契約書は贈与毎に作成しましょう。

暦年贈与の贈与契約書の作成方法

暦年贈与では贈与契約書の作成が必須

贈与契約書は文字通り立派な「契約書」であり、作成する上では注意すべき点がいくつかあります。後々に税務署から指摘された時でも、自信をもって提示できるようにしておきましょう。

贈与契約書で明確にしておくべき事項

「いつ・誰が・誰に・何を」贈与したのか、贈与に関する内容を贈与契約書に明確に記載します。

いつ 「現金を2020年6月1日までに乙指定の銀行口座に振り込むものとする」などと記載し、贈与契約書を交わした契約締結日も記載
誰が 贈与を行なう人の氏名と住所を記載
誰に 贈与を受ける人の氏名と住所を記載
何を 「甲は現金100万円を乙に贈与するものとし、乙はこれを承諾した」などと記載し、贈与する財産の種類や金額を明確に記載

署名や押印は自筆や実印で行なう

契約書は手書きでもパソコンでも作成できますが、手間のかからないパソコンで作るのが一般的です。ただし全てをパソコンで入力してしまうと、贈与に関わった本人が本当に作成したものなのかが分かりません。

税務署から余計な疑いをかけられないためにも、署名は自筆で行なって押印は実印で行なうようにして下さい。

贈与契約書は2通作成する

契約は当事者間の意思が合致して始めて成立するものです。

贈与した人とされた人の双方が、契約内容をしっかり確認して贈与契約を結んだことを示せる必要があります。そのため贈与契約書は2通作成し、それぞれが1通ずつ保管するようにしましょう。

贈与契約書の作成例

以下が暦年贈与を行なう際の贈与契約書のフォーマットになります。

贈与契約書の作成例
贈与契約書の作成例

未成年者に贈与する場合は親権者の署名・押印欄も必要です。

またより正確に記載するために、振込先の銀行口座の情報を記載しても良いでしょう。その場合は「〇銀行支店 普通 〇〇〇」などの形で、口座番号まで含めて記載します。

暦年贈与信託を利用するという選択肢も

暦年贈与信託を利用するという選択肢も

毎年の贈与を忘れそうで心配な場合や、契約書を毎回作るのが面倒な人は、信託銀行の暦年贈与信託サービスを利用するのも1つの選択肢です。

贈与する人と贈与される人、贈与する金額を指定して信託銀行と契約を結ぶことで、相手の口座に毎年資金が振り込まれます。

細かいサービス内容は信託銀行ごとに確認が必要ですが、贈与契約書が信託銀行から毎年送られてくるので、自分で契約書を作成する手間はかかりません。

贈与を受ける側にも確認書が送付されるため、贈与される人も手続きを忘れる心配がなくなり安心です。

暦年贈与は今後、廃止される可能性がある?

暦年贈与は今後、廃止される可能性がある

暦年贈与は今後、改正や廃止されるかもしれないという話題が一部ででています。

政府が今後の税制の方針を示す税制大綱に、相続税と贈与税を一体化すると読み取れる文章が記載されていたからです。

今後可能性はありますが、現状、改正や廃止は決定事項ではありません。

実状に応じた贈与を行なうことが重要

子世帯への相続のイラスト

暦年贈与で非課税になる金額は年間で最大110万円ですが、何年も贈与を続けることで大きな節税効果を得られます。

贈与契約書や贈与方法など注意すべき点がいくつかありますが、贈与税も相続税も減らせる暦年贈与は、相続対策の中でも特におすすめの方法です。

ただ相続対策の手法には暦年贈与以外にも色々あり、どの方法が最適なのかは年齢・家族構成・財産の種類や金額によって異なります。相続税や贈与税の仕組みは複雑で、一般の方には分かりにくいので、相続対策を検討する場合は税理士への相談がおすすめです。

特例制度の利用条件を満たすように贈与する相手を変えたり、資産の組み換えを行なったりするなど、節税につながる様々なアドバイスを受けられます。税額シミュレーションをしてもらえば、より具体的にイメージを持てます。節税を正しく行なうためにも税務のプロに依頼するようにしましょう。

監修税理士からのコメント

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

暦年贈与は相続財産を減らすための有効な手段ではありますが、手続きを間違えると後で痛い目に遭うこともあります。分からないことがある場合は相続に強い税理士に確認しましょう。

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この記事の監修税理士

安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通

安田亮(公認会計士・税理士・CFP🄬)1987年香川県生まれ、2008年公認会計士試験合格、2010年京都大学経済学部経営学科卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人に勤務し、その後、東証一部上場企業に転職。連結決算・連結納税・税務調査対応等を経験し、2018年に神戸市中央区で独立開業。所得税・法人税だけでなく相続税申告もこなす。