葬儀費用は相続財産から控除できるため、相続税の節税が期待できます。


ただし葬儀にかかったすべての費用を控除できるわけではありません。
たとえばお布施や心づけ・読経料は控除できますが、香典返しの費用は控除できないなど、控除対象となる費用や範囲は複雑です。
葬儀費用のうち相続遺産から控除できる項目と控除の申請方法を紹介します。
相続財産から控除できる葬儀費用
相続税を計算する際、亡くなった人の財産総額から葬儀費用を差し引けます。これを「債務控除」といい、課税対象となる遺産額を減らすことで、相続税の負担を軽減する効果があります。
ただし、葬儀に関連する支出がすべて控除の対象になるわけではありません。控除が認められるのは、故人を弔うために不可欠と判断される費用です。控除される具体的な費用の例を7つ紹介します。
① 火葬や埋葬・納骨にかかった費用
故人の遺体を火葬し、埋葬・納骨にかかった費用は葬儀費用として控除の対象です。
- 火葬場の使用料
- 墓地や納骨堂に納骨する際の費用
これらの費用は葬儀という一連の儀式において、社会通念上、必要不可欠な支出とみなされるため控除されます。
火葬や埋葬・納骨にかかる費用は支払うと領収書が発行されるケースがほとんどです。火葬場や石材店などから発行された領収書を必ず保管しましょう。
② 遺体や遺骨の回送にかかった費用
病院で亡くなった場合は、遺体を安置場所である自宅や斎場まで搬送する必要があります。病院から安置場所、安置場所から葬儀場まで遺体を運ぶためにかかる寝台車や霊柩車の費用は葬儀費用として控除できます。
- 病院から安置場所へ遺体を運ぶ際にかかった費用
- 安置場所から葬儀場まで遺体を運ぶ際にかかった費用
- 遺骨を自宅や納骨先まで運ぶ際にかかった費用
遠方で亡くなった際など、遺体の搬送費用が高額になった場合も、葬儀に直接必要な費用として認められます。
③ お通夜にかかる費用
通夜と告別式は葬儀の中心となる儀式です。そのため、通夜や告別式に関する費用は葬儀費用として控除対象となります。
- 通夜・告別式の会場使用料
- 祭壇の設営費用
- 通夜・告別式での飲食代
飲食代に関しては一部において注意が必要です。通夜の後に参列者に提供する「通夜振る舞い」などの飲食費は控除対象ですが、費用があまりにも高額な場合は一部が控除できない可能性があります。
④ お布施や心づけ・読経料
葬儀の際に僧侶などに対して支払うお礼も、葬儀費用として控除の対象になります。
- 読経料
- 戒名料
- お布施
これらの費用は宗教的な儀式として葬儀と密接に関連しているため、控除が認められています。領収書が発行されないことがほとんどなので、支払った日付、金額、相手先の名称などをメモとして正確に記録しておくことが重要です。
⑤ 死体の捜索や死体・遺骨の運搬にかかる費用
遭難事故等で亡くなった場合、行方不明となった遺体を捜索するためにかかった費用も葬儀費用として相続財産から控除できます。
他にも海外で亡くなった場合など、遺体や遺骨を日本へ運ぶためにかかった飛行機の運賃や手続き費用も葬儀に付随する費用として控除対象です。
これらの費用は高額になることも多いため、忘れずに計上しましょう。
⑥ 葬儀場への交通費
葬儀の際に喪主や遺族が葬儀場へ移動するためにかかった交通費も、葬儀費用として認められます。ただしすべての交通費が認められるわけではない点にご注意ください。
- 葬儀社との打合せ時の交通費
- 役所への死亡届提出時の交通費
- 葬儀当日の移動にかかる電車代・バス代・高速道路料金
注意点は、遠方の親族が葬儀に参列するためにかかる交通費は控除の対象にならない点です。間違えて計上しないように気を付けましょう。
⑦ お手伝いさんへの謝礼
葬儀の受付や会場案内、参列者への接待など当日の運営を手伝ってくれた人に対して支払う謝礼も、社会通念を逸脱しない金額であれば葬儀費用として認められます。
控除される理由は、葬儀を円滑に進めるために必要な費用とみなされるためです。
お布施と同様に個人への支払いで領収書を作成しないことがほとんどなので、以下のポイントをメモに残しておきましょう。
- 支払先
- 支払い年月日
- 支払金額
葬儀を手伝ってくれた人への謝礼(心づけ)の目安は以下の通りです。以下の金額を大幅に超えなければ控除される可能性が高いです。
| 手伝ってくれた人の役割 | 謝礼の目安 |
|---|---|
| 世話役代表 | 10,000円~30,000円 |
| 一般の世話役 | 5,000円~10,000円 |
| 受付・案内等の手伝い | 2,000円~3,000円 |
| 受付係 | 3,000円~5,000円 |
地域や葬儀の規模によって謝礼の額は変動します。謝礼の額について不安な場合は、事前に葬儀社に確認することをおすすめします。
相続財産から控除できない葬儀費用
葬儀に関する費用であっても、相続財産から控除できない費用があります。
控除できない費用は、故人を弔うための費用ではなく、主に遺族のためや相続とは別の供養に関する費用と見なされるものです。
① 香典返しにかかった費用
葬儀の参列者から受け取った香典に対し、お返しとして品物を贈る香典返しの費用は、葬儀費用として控除できません。
香典は相続財産ではなく、相続税はかかりません。香典は故人への供養の気持ちとして遺族に贈られるものであり、遺族の所得ではないため控除ができません。
非課税の収入から支払われる香典返しも、同様に税金の計算からは除外されるという考え方です。葬儀当日にお渡しする「会葬御礼」の品も、香典返しと同様の扱いです。
② 墓石や墓地の購入・借入にかかった費用
新しくお墓を建てるための墓石の購入費用や、墓地として使用する土地の購入代金、永代使用料などは、葬儀費用として控除できません。
墓地や墓石は、残された遺族が故人を供養していくためのものであり、相続財産の一種として扱われます。葬儀そのものとは切り離して考えられます。
ただし、生前に購入した墓地や墓石は非課税財産なので、相続税の課税対象にはなりません。生前に墓地や墓石を購入しておくことで、節税につながることがあります。
③ 位牌や仏壇の購入費用
位牌や仏壇、仏具などを購入した費用は葬儀費用として控除できません。
位牌などは墓地・墓石と同じく、祭祀財産といい、故人の供養のために残された家族が使用していくものです。相続税法上、祭祀財産は非課税財産として扱われ、相続税の課税対象から外れます。
そのため、その購入費用を課税対象である他の相続財産から控除できないので注意しましょう。
④ 初七日や法事にかかった費用
葬儀が終わった後に行われる、初七日や四十九日、一周忌などの法事にかかる費用は葬儀費用ではないため控除できません。
相続税法では控除の対象となる葬儀費用を、葬儀の際にかかった費用と定めています。初七日以降の法要は葬儀とは別の、故人を供養するための宗教儀式とみなされるため控除の対象外です。
ただし告別式の当日に初七日法要を繰り上げて行う、繰り上げ初七日を執り行う場合、その費用は葬儀費用に含めて控除できます。
⑤ 生花や盛籠の費用
葬儀の際に祭壇に飾られる供花や盛籠の費用は、誰が負担したかによって控除できるかが変わります。
喪主や遺族が葬儀社との打ち合わせの中で注文し、費用を負担した場合は、葬儀費用として控除が可能です。
しかし親族や故人の友人、会社関係者などが個別に供花や盛籠を注文し、その代金を支払った場合は、喪主が負担した費用ではないため、控除の対象にはなりません。
相続財産から葬儀費用を支払った相続人が控除を受けられるという原則を理解しておく必要があります。
⑥ そのほか通常の葬儀にはかからない費用
通常の葬儀の範囲を超えるとみなされる費用は控除の対象外です。
たとえば、遺体の解剖を行った際の解剖費用は、死因の究明が目的であって葬儀に直接必要な費用とは認められません。
また故人の遺志に基づき、通常の葬儀に代わって「お別れ会」や「偲ぶ会」などをホテルで行った場合、その費用は控除できない可能性があります。
どの費用が控除対象になるか判断に迷う場合は、税理士など専門家に相談しましょう。
葬儀費用を控除するときの注意点
葬儀費用を控除するときには3つの注意点があります。
重要なことは支出を証明する証拠をきちんと残しておくことです。
税務署は申告内容が正しいか確認するために、必要に応じて証拠となる書類の提出を求めることがあります。証拠が不十分な場合には控除が認められず、追徴課税となることがあるのでご注意ください。
① 領収書を取っておく
葬儀費用として支払った費用のうち、領収書が発行されるものは大切に保管しておきましょう。
- 葬儀会社への支払い
- 火葬場への支払い
- 仕出し料理店への支払い
- ハイヤー会社への支払い
領収書のあて名は、実際に費用を負担した相続人の名前にしましょう。但し書きには「○○ 葬儀代金として」など、具体的な内容を記載してもらうと、見返した際に分かりやすいです。
② 領収書が発行されない場合はメモを残す
葬儀費用の中には、領収書が発行されない支払いもあります。
- お寺へのお布施
- 戒名料
- 運転手、お手伝いの人への心づけ
領収書が発行されない支払いに関しては、詳細なメモを残しておきましょう。メモには以下の情報を記載しておきましょう。
- 支払った日付
- 支払先の名称や氏名
- 支払った金額
- 支払った費用の内容
メモは手帳やノート、スマートフォンのメモ帳に記録しておきましょう。詳細な記録であれば領収書の代わりとして控除ができます。
③ 架空計上はしない
葬儀費用を控除できるからといって、実際に支払っていない費用を支払ったかのように見せかけて計上することは絶対にしてはいけません。
葬儀費用の架空計上は脱税行為にあたります。税務調査で発覚した場合は、本来納付すべきだった税金に加え、重加算税が課されます。
領収書がないお布施などについても、支払った事実がないにも関わらずメモだけを作成して申告してはいけません。必ず、事実に基づいた正確な申告をしましょう。
葬儀費用を相続財産から控除する方法
葬儀費用を相続財産から控除するには手続きが必要です。以下の手順で控除を申請しましょう。
① 「債務及び葬式費用の明細書」に詳細を記載する
相続税の申告書には、第13表「債務及び葬式費用の明細書」という書類が添付されています。葬儀費用を控除するためには、この明細書に詳細な情報を記載する必要があります。
- 「2 葬式費用の明細」欄に詳細を記載する
- 支払先の住所・氏名を記入する
- 支払い年月日を記入する
- 金額を記入する
- 支払いを行った人の氏名を記入する
様式は国税庁サイトからもダウンロードできます。
② 領収書を添付して税務署に提出する
「債務及び葬式費用の明細書」を作成したら、その内容を証明する書類を添付して、相続税申告書一式と共に税務署へ提出します。
保管しておいた領収書は申告書に添付するか、税務署から求められたときに提示できるように整理しておきましょう。
税務署は申告書の内容を確認し、必要があれば領収書の提示を求めることがあります。
領収書がないお布施などについては、作成したメモの内容を基に明細書に記載します。メモ自体を提出する必要は通常ありませんが、税務署から問い合わせがあった際に、説明できるよう手元に保管しておきましょう。
控除対象の葬儀費用について税理士に相談しよう

葬儀に関連する費用について、どの支払いが控除対象になるかの判断は税理士に相談することをおすすめします。税理士は税務のプロなので、控除対象となる支払いとそうでない支払いを判断し、適切な節税対策を行えます。
相談する税理士を見つけるときは一括見積もりサイトを活用しましょう。葬儀前の忙しいときも手軽に複数の税理士から見積もりが取れるため、効率的に情報を集められます。
