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相続税から葬儀費用は控除できる?~税理士が監修・解説!~

最終更新日: 2022年12月16日

相続税の計算上、葬儀費用を相続財産から控除できることはご存知ですか?葬儀費用を相続財産から控除することで、納付すべき相続税額を減らすことが可能です。ただし、全ての相続人が葬儀にかかった費用を控除できるわけではありません。また、税法等で定められた一定の要件を満たす葬儀費用以外は控除の対象ではありません。今回はこのような葬儀費用について詳しく解説していきます。

 

葬儀費用は相続税から控除できる?できない?

相続税の申告を行う際、相続財産から葬儀費用を控除することが可能です。しかし、冒頭でも触れた通り、全ての相続人が葬儀費用を控除できる訳ではなく、相続人の状況によっては控除できないケースもあります。まずは、葬儀費用の概念、並びに葬儀費用を控除できる方の条件等を確認してみましょう。

 

葬儀費用_控除
葬儀費用は相続税から控除できる?(画像提供:Ground Picture/Shutterstock.com)

葬儀費用は誰が負担するの?

相続税の計算上、相続財産から葬儀費用を控除できる根拠は相続税法第13条に明記されています。この相続税法第13条は「債務控除」に関する条文で、相続税の計算をする際に相続財産から相続開始時に存在する債務を差し引くことを認めています。では、なぜ「債務控除」の規定に葬儀費用の控除が含まれているのでしょうか?それは、被相続人が亡くなった時点である程度の葬儀費用が発生するのは社会通念上当然のことだと考えられていて、その費用は被相続人の財産から支払われるべきであるという考えに基づいているからです。この根拠に基づいて、相続人が葬儀費用を実際に支出した場合には相続財産から葬儀費用を差し引いて良いこととなっています。

しかし、葬儀費用の負担については別の考え方もあるので注意が必要です。相続税法上は被相続人の財産から支払われるべきものとして考えられますが、ある裁判では相続人でない葬儀の喪主が支払うべきと判断されたこともあります。

・裁判事例(実際の裁判を分かりやすく簡略化して説明します。)

A:被相続人

B:Aの弟(相続人ではない喪主)

C:Aの実子(事情があってAとは長年疎遠の状態にあった相続人)

被相続人のAが亡くなったとき、Cは長年Aと疎遠の状態にあったためBが喪主となって葬儀を行いました。その後Bは、葬儀費用は相続財産から支払うべきものなので葬儀費用を支払って欲しいとCを訴えたのがこの裁判です。しかし、裁判では葬儀自体が喪主Bの決定でその規模や様式等も変わることから、今回の葬儀に要した費用は喪主Bが負担すべきと判断されました。この判決により相続権のないBが葬儀費用を支払うこととなったため、相続人Cは一切葬儀費用を負担していません。つまり、この例では相続人が実際に葬儀費用を負担していないため、葬儀費用を控除することができないということです。

ただし、このようなケースは極めて特殊で、基本的には相続人が喪主となり葬儀費用を負担するケースが多くなります。その場合、実務上は葬儀費用の負担等も含めて遺産の分割を行うことが一般的です。また、上記裁判例は状況によって判断が異なる可能性もありますので、万が一トラブルが起きそうな場合は一刻も早く専門家に相談されることをお勧めします。

 

葬儀費用の控除が認められている人と認められていない人

相続税の計算上、葬儀費用の控除が認められている人と認められていない人の判断は納税義務者の区分で行われます。そして、納税義務者の区分は大きく以下の3つの区分に分類されます。

  • 無制限納税義務者
  • 制限納税義務者
  • 特定納税義務者

上記1の無制限納税義務者は葬儀費用を控除することができますが、2の制限納税義務者は控除することができません。また、3の特定納税義務者は控除できる場合と控除できない場合があります。まずはそれぞれの納税義務者の区分について詳しく確認してみましょう。

1.無制限納税義務者

無制限納税義務者はさらに居住無制限納税義務者と非居住納税義務者に分類されます。

1-1居住無制限納税義務者

相続又は遺贈により財産を取得した方で、その財産を取得した時において日本国内に住所を有する方(一時居住者(注1)でない方、又は、一時居住者であってもその相続に係る被相続人が一時居住被相続人(注2)又は非居住被相続人(注3)でない方。)を指します。

つまり、相続で財産を取得した時に日本国内に住所がある方はこれに該当しますが、一時居住者である場合は被相続人の状況によって該当するか否かを判断します。

(注1)相続開始時に出入国管理法などに規定する在留資格を有する者で、その相続開始前15年以内の期間で日本国内に住所を有していた合計期間が10年以下の者。

(注2)相続開始時に在留資格を有し、かつ日本国内に住所を有していた相続の被相続人で、その相続開始前15年以内の期間で日本国内に住所を有していた合計期間が10年以下の被相続人。

(注3)相続開始時に日本国内に住所を有していなかった被相続人で、その相続の開始前10年以内に日本国内に住所を有した者のうち、相続開始前15年以内の期間で日本国内に住所を有していた合計期間が10年以下の被相続人。又は相続開始前10年以内のいずれの時期にも日本国内に住所を有していない被相続人。

1-2非居住無制限納税義務者

相続又は遺贈により財産を取得した方で、その財産を取得した時において日本国内に住所を有しない以下の方を指します。

・日本国籍を有する個人であって、その相続開始前の10年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していたことがある方、又はその相続開始前10年以内のいずれかの時においても日本国内に住所を有していたことがない個人で、その相続に係る被相続人が一時居住被相続人又は非居住被相続人でない方。

・日本国籍を有しない個人であって、その相続に係る被相続人が一時居住被相続人、非居住被相続人又は非居住外国人(注4)でない方。

これは、日本国籍を持つ方で相続開始時点では日本国内に住んでいない(住所がない)方該当します。日本国籍を持っていない方は被相続人の状況によって該当するか否かの判断がなされます。

1-1および1-2の無制限納税義務者は全ての債務について債務控除することが可能です。つまり、相続人が負担した葬儀費用についても控除することができます。

(注4)日本国内に住所を有しない外国人。

2.制限納税義務者

相続又は遺贈により日本国内にある財産を取得した方で、その財産を取得したときに日本国内に住所があり、上記の居住無制限納税義務者に該当しない方、又は日本国内に住所を有しないで上記の非居住無制限納税義務者に該当しない方が制限納税義務者となります。

これは、日本国内に住所があり日本国内の財産を取得した1-1(居住無制限納税義務者)に該当しない方、日本国内に住所がなく日本国内の財産を取得した1-2(非居住無制限納税義務者)に該当しない方を指します。

制限納税義務者については、日本国内にある財産に関する債務のみ控除できることとなっているため、包括的な債務である葬儀費用は控除することができません。

3.特定納税義務者

相続時精算課税の適用を受けて財産を取得した方は特定納税義務者と分類されます。日本国内に住所を有する場合には居住無制限納税義務者と同様に葬儀費用を控除することが可能です。ただし、その特定納税義務者が相続人又は包括受遺者(遺言により財産の全部又は一部を譲り受ける方)に該当しない場合は債務控除の適用がありませんので、葬儀費用も控除できなくなることに注意してください。

少し難しい話となりましたが、多くのケースでは相続人の方が日本国内に住所を有されている居住無制限納税義務者に該当しますので、その場合は基本的に葬儀費用の控除が可能です。それ以外のケースでは細かい判断が必要になりますので、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。

相続を放棄するときはどうなる?

相続税の計算をするときに、相続放棄をする場合でも葬儀費用を相続財産から控除できることがあります。これは、相続放棄をする方が遺贈(遺言によって特定の財産などを贈与する行為)により財産を譲り受ける場合に限られますが、実際に支出した葬儀費用を相続放棄した方の相続税(遺贈により発生する相続税)の計算から控除することができます。

上記のケース以外では、相続放棄をすることは基本的に被相続人の財産と債務を全て放棄することとなり、債務控除する相続財産自体が存在しなくなります。そうなると、葬儀費用も含めた債務控除という概念は自然と無くなります。しかし、相続放棄をする方が相続財産から葬儀費用を支払う場合には注意が必要です。これは、相続人が相続財産を処分した民法上の単純承認とみなされる可能性があり、相続放棄自体ができなくなることもあるからです。ただし、過去の判例でも示されていますが、「身分相応の、当然営まれるべき程度の葬式費用」という範囲に限っては相続財産から葬儀費用を支払うことが認められています。つまり、一般的に身分相応な規模で執り行われた葬儀では相続財産から葬儀費用を支払っても相続放棄には影響を及ぼさないと考えられますが、個々の案件については専門家に相談の上で判断されることをお勧めします。

領収書がない場合は?

葬儀費用を控除する際に領収書がないものはどうなるのでしょうか?一般的には、領収書がないと控除の申請ができないものと考えられがちです。しかし、実際には領収書がないものでも葬儀費用として控除することが可能です。そのための要件として、日付、支払先、用途は必ず必要となりますのでメモ書きにでも記録して形として残しておくことが重要です。また、お布施などのようにもともと領収書が発行してもらえないものもあるため、葬儀に関する費用は領収書があるものも含めて全て支払等の記録をつけておけば葬儀費用の控除を受ける際に簡単に集計できるようになります。

領収書がなくても葬儀費用を控除できるので稀に悪用を考える方がいます。しかし、税務調査を受けるとこのような支出は反面調査等で徹底的に確認されますので、ほとんどの場合が不正を見抜かれることとなります。そうなると、重加算税等のペナルティを受ける可能性が高く、より大きな代償を払うこととなりますのでこのような不正行為は絶対に行うべきではありません。

 

葬儀費用として控除できるもの

これまでは相続税の計算上、葬儀費用を相続財産から控除できる要件等について確認してきました。この控除できる葬儀費用については相続税法基本通達13-4で明確に示されています。ここからは、税法等で規定されている葬儀費用を確認し、実務上よく出てくる控除可能な葬儀費用について確認してみましょう。

 

相続税法基本通達に規定される葬儀費用

相続税法基本通達13-4では葬儀費用として控除できる金額の範囲を規定しています。少し難しい内容となりますが、まずは基本通達そのものを確認してみましょう。

(1)葬式若しくは葬送に際し、又はこれらの前において、埋葬、火葬、納骨又は遺がい若しくは遺骨の回送その他に要した費用(仮葬式と本葬式とを行うものにあっては、その両者の費用)

(2)葬式に際し、施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用

(3)(1)又は(2)に掲げるもののほか、葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの

(4)死体の捜索又は死体若しくは遺骨の運搬に要した費用

やはり、税法に関することなので理解しにくい表記となっていますが、細かい例示とともに控除できる範囲を定めていることが分かります。例えば、埋葬・火葬・納骨・回送・施与した金品・運搬に要した費用などは実際に控除項目を判断する上でもキーワードとなってきます。それでは、実務上よく発生する控除できる葬式費用について詳しく確認していきましょう。

通夜や告別式に係る費用

通夜や告別式に要した費用は基本的に葬儀費用として控除できます。具体的には、通夜や告別式を開催するにあたって葬儀会社に支払った費用や、通夜や告別式の際に提供した飲食費などが該当します。

心付けなどの施与した金品

日本では葬儀の際に心付けを渡す風習があります。例えば、霊柩車の運転手や火葬技師など葬儀に携わった方に直接金品をお渡しすることがありますが、その心付けも葬儀費用として控除することが可能です。この場合は、誰に・いつ・いくら渡したかを必ずメモしておく必要があります。また、一般的な心付けの相場はだいたい3千円から5千円と聞いていますが、この相場から大きく外れた金額の心付けは葬儀費用として認められない可能性もありますので注意してください。

お寺や神社などに払う戒名料や読経料

戒名や読経等に関してお寺や神社に支払った費用も葬儀費用として控除できます。これらの費用については領収書をもらえないこともありますが、どこに・いつ・いくら支払ったかを必ず記録として残しておいてください。

埋葬、火葬、納骨に要した費用

埋葬や火葬、納骨に要した費用も葬儀費用として控除することが可能です。これには、納骨の際の交通費等も含むことができます。タクシーなどを利用した際には必ず領収書をもらうように心がけてください。

その他の費用

その他の費用で葬儀費用として控除できるものには死体の捜索費用や死体や遺骨の運搬費用などがあります。また、葬儀に参列された弔問客へ御礼として物品等を渡す会葬御礼なども葬儀に係る費用として控除することが可能です。

 

葬儀費用として控除できないもの

相続税の計算上、相続財産から控除できる葬儀費用については既に説明した通りですが、実は葬儀費用として控除できない費用も相続税法基本通達13-5で規定されています。ここからは、葬儀費用として控除することができない費用を確認するとともに、特に間違いの起こりやすい項目を取り上げながら詳しく見ていきましょう。

葬儀費用 控除 できない
葬儀費用として控除できない支出とは(画像提供:takasu/Shutterstock.com)

 

相続税法基本通達に規定される葬儀費用でないもの

相続税法基本通達13-5では、以下のものを葬儀費用として取り扱わないことを規定しています。

  1. 香典返戻費用
  2. 墓碑及び墓地の買入費並びに墓地の借入料
  3. 法会に要する費用
  4. 医学上又は裁判上の特別の処置に要した費用

これらを見ていただくと、香典返戻費用以外は直接通夜や葬儀に係わらない費用だと分かります。それでは、具体例も交えて詳しく内容を確認していきましょう。

香典返戻費用

香典については葬儀の主宰者である喪主に対して贈与されるものと考えられています。よって、その香典に対する返礼品等を贈る費用も葬儀費用とは認められません。すでに会葬御礼の費用は葬儀費用として控除できることを説明しましたが、会葬御礼だけを行って別途香典の返戻を行っていない場合にはその費用は香典返戻費用とみなされることがあります。この場合は、葬儀費用として控除できなくなるので注意が必要です。

墓碑、墓地や位牌の購入費用

お墓を立てた場合や、その土地を購入又は借り入れた費用等は葬儀費用として控除できません。また、位牌や仏壇の購入費用も同様に葬儀費用とはなりません。ただし、実際に葬儀で使用する白木位牌などは直接葬儀に要した費用となりますので、供養するために購入する本位牌とは区別して扱うことが必要です。

また、最近はなかなかお墓参りに行けない方に代わってお寺が永代にわたってお墓の管理等を行う永代供養墓地が存在します。この永代供養に関する費用も墓地などの購入と同様に葬儀後に故人を供養する費用となりますので葬儀費用として控除することはできません。

法会に要する費用

初七日や四十九日に係る費用も通夜や葬儀とは別の日に行われますので、基本的には葬儀費用として控除することができません。しかし、遠方の参列者などが多いときには葬儀と初七日を同時に行うこともあります。この場合は初七日の費用と葬儀費用とを明確に区分することが難しいため初七日の費用も含めて葬儀費用として控除することがあります。

互助会の掛金・積立金

最近、互助会の積立金を葬儀費用に充当した場合はどうなるの?という相談を受けることがあります。もともと互助会とは葬式等の冠婚葬祭に備えて積み立てを行うものですが、毎月支払う掛け金は葬儀費用として控除することができません。また、その積立金を葬儀費用に充当する場合は、実際に誰が積み立てを行っていたかがポイントとなります。被相続人が積み立てを行っていた場合にはその積立金が相続財産となりますが、葬儀費用に充当した部分は葬儀費用として控除することが可能です。また、相続人が積み立てを行っていた場合にはもちろん相続財産にはなりませんので、実際に葬儀に充当した金額を葬儀費用として相続財産から控除することとなります。

 

まとめ

相続税の計算の際に控除できる葬儀費用を確認してきましたがいかがでしょうか。葬儀等の様式はさまざまな形態があるので、申告の際には今までご紹介した事例等を基に実際に葬儀費用となるものを判断していただく必要があります。やはり、漏れなく葬儀費用を集計するためには、全ての支出を領収書の保管やメモ書きなどの記録として整理しておくことが一番重要な作業となります。

分からないことがあったら、税理士に相談しよう

個々の支出について葬儀費用の判断に困るケースは多々あります。また、相続全般に関しても専門家でなければ判断できないような事柄も数多く存在しています。そのような場面では専門家である税理士にアドバイスを受けることがお薦めです。

ミツモアなら相続税の申告経験が豊富な税理士を簡単に探すことができるので、あなたの求める答えを必ず見つけることができるはずです。

この記事を監修した税理士

税理士岩崎公治事務所 - 北海道札幌市中央区南一条東

葬儀費用を控除に含めることは節税の観点から非常に重要です。いざ葬儀を行う時には、税金のことまで考えが及ぶ方は多くないと思いますが、葬儀費用を正確に控除額に含めるために、今後葬儀を行われる方は、以下2項目をぜひ徹底頂ければと思います。後の作業も簡単になりますし、折り込み漏れも防止できます。 ①葬儀費用は領収書の有無にかかわらずノートなどにメモを残す ②葬儀に受け取る香典長は必ず作成し保存しておく また、会社として葬儀を行った際はの社葬費用は法人の経費とすることが可能です。税金の観点から、個人で行うか法人で行うかを検討することも重要ですので、お気軽に税理士にご相談ください。

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