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死亡保険金にも相続税がかかる? 【税理士監修記事】

最終更新日: 2022年12月16日

生命保険の死亡保険金は、保険契約者と受取人の関係性によって課される税金の種類が異なってきます。
それでは、保険契約者と保険受取人がどんな関係にあると相続税が課せられるのでしょうか。
そしてその場合、相続税の手続をどのように進めればいいのでしょうか。保険死亡金と相続税の関係についてみていきましょう。

死亡保険金の税金は3パターン 非課税枠を要チェック

生命保険は、被保険者が亡くなった際に死亡保険金が支払われます。
これらのお金が支払われた場合、相続税、所得税、贈与税のいずれかの税金が課せられることになります。なぜ、同じ保険金でありながら、税金の種類が異なるのでしょうか、その理由を詳しくみていきましょう。

生命保険に関わる役割について

まず保険契約に関わる人々の役割からみていきましょう。生命保険には、次のような人々が関わってきます。

生命保険との関係性 役割
契約者 保険料を負担する
被保険者 生命保険の対象者・死亡すると死亡保険金が支払われる
受取人 死亡保険金等を受け取る

契約者と受取人は、契約期間中に名義を変更することができますが、被保険者は名義を変えることはではできません。どうしても被保険者の名義を変えたい場合は、当該生命保険を解約して、新たに別の被保険者の生命保険契約をする必要があります。

死亡保険金の扱いは契約形態によって変わる

死亡保険金に課せられる税金の種類は、生命保険の契約者と受取者との関係性によって異なってきます。その関係性を表で示すと次のようになります。

契約者 被保険者 受取人 税金の種類
パターン① 相続税
パターン② 所得税
パターン③ 贈与税

パターン①では、夫の死亡が原因で、夫の支払った保険料が妻に死亡保険金として渡されるので相続税が課せられます。

パターン②では、死亡保険金が支払われたのは、妻の死が原因ですが、保険料を支払っていたのは夫なので、形の上では、自分が支払ったお金が自分に返ってきたことになります。このため、保険料と死亡保険金の差益に対して所得税が課せられます。

パターン③では、夫の支払った保険料が、夫の生存中に子に死亡保険金として渡されるので、生前贈与として贈与税が課せられます。

なぜ死亡保険金に相続税がかかるのか

保険料を支払い続けた契約人が亡くなったことが原因で支払われた死亡保険金は、相続税の対象になります。この死亡保険金は、厳密な意味では生前に残した相続財産ではありませんが、事実上相続でもらった財産となんら変わりがないことから、相続税法では「相続財産とみなす」と定められています。

これは死亡退職金も同様で、死亡時には存在しなかった財産ですが、こちらも相続財産とみなされます。
これらを合わせて、一般的には「みなし相続財産」と呼ばれています。

死亡保険金にも相続税非課税枠がある

死亡保険金には、法定相続人一人当たりに500万円の非課税枠があります。たとえば、妻と子供二人が相続人の場合は、500万円×3人=1500万円なので、1500万円までの非課税枠になります。

それでは、この控除額が相続税の算出にどう影響するのかみていきましょう。

課税遺産の種類 項目 金額
遺産総額 現金・預金・土地・建物   5,500万円
みなし相続財産 死亡保険金   5,000万円
非課税枠 500万円×3人  △1,500万円
マイナスの財産 葬儀費用   △200万円
基礎控除額 3,000万円+600万円×3人  △4,800万円
合計   4,000万円

合計額の4,000万円が課税遺産総額になります。

ここから、それぞれの相続人の相続税を算出しましょう。これを法定相続分で分割したとすると、相続税額は、次のようになります。

関係 相続割合 数式 取得価格
1/2 4,000万円×1/2 2,000万円
長男 1/4 4,000万円×1/4 1,000万円
長女 1/4 4,000万円×1/4 1,000万円

ここから相続税額を算出します。国税庁の速算表では、相続税率は以下のように定められています。

取得価格 税率 控除額
1,000万円以下 10% なし
3.000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

速算表から、それぞれの相続税額を算出すると次のようになります。

関係 数式 相続税額
2,000万円×15%-50万円 250万円*
長男 1,000万円×10% 100万円
長女 1,000万円×10% 100万円

*配偶者控除という制度を活用すると税額0とすることも可能。

死亡保険金の税金の具体例

死亡保険金 税金
死亡保険金に課される税金とは(画像提供:Dragana Gordic/Shutterstock.com)

生命保険の死亡保険金に課される税金の種類は、契約者と受取人の関係性と、契約者が生存しているか否かによって決まります。相続税、所得税、贈与税、それぞれのパターンについて内容を説明していきます。また、契約内容を変更した際の対応も解説します。

パターン①相続税がかかる場合

生命保険契約者が、被保険者でもある生命保険は、死亡保険金が支払われた原因が必ず契約者の死亡によるものなので、相続税の対象になります。

相続税は、相続が発生した日から10カ月以内に現金で支払う必要があるので、現金が手元にない場合は、不動産を売り払うなどしてお金を工面しないといけません。その点、死亡保険金は確実に現金として支払われますから、相続税対策としては、有効な手段だといえます。

また死亡保険金は、遺産分割協議になった際にも、協議の進捗に関わりなく受取人に支払われます。そのうえ、法定相続人の遺留分の対象にもなりませんから、受取人に確実に渡すことが可能です。

パターン②所得税がかかる場合

契約人と受取人が同一の場合、自分の支払った保険料が自分に渡ることになるので、所得税(一時所得)の対象になります。ただし、保険料と死亡保険金の差益がそのまま所得税の対象になるのではなく、一部控除があります。

所得税の課税金額は、次の数式によって算出します。

(死亡保険金-支払った保険料-特別控除額50万円)×1/2=所得税の課税金額

その年の収入額に、この所得税の課税額を合算して確定申告をすることになります。

パターン③贈与税がかかる場合

生命保険の契約者と被保険者が異なるケースにおいては、被保険者の死亡時点では、基本的に契約者は生存しています。このため、受取人が第三者である場合、形の上では、契約者の生前に保険料が第三者に贈与されたことになります。このため、この死亡保険金は、贈与税の対象になるのです。

贈与税は、相続税よりも税率が高いので、節税の意味では、契約者と被保険者が異なる設定は、なるべく避けた方がいいでしょう。

そのためには、たとえば年に110万円以内の贈与であれば、贈与税がかからない暦年贈与の制度を利用して、毎年110万円以内の贈与をする方法があります。

夫が契約者、妻が被保険者だとすると、まずこの保険を解約します。次に夫は、保険料として支払っていた金額を妻に毎年贈与します。
そのお金で妻自らが契約者として、妻が被保険者の生命保険の契約をすると、受取人が子どもの場合には、死亡保険金は相続税の対象になりますから、税金面ではかなりの節税になります。

名義変更をしたらどうなる?

生命保険を途中で名義変更をした場合、死亡保険金の税金はどうなるのでしょうか。たとえば、次のように契約者の名義変更が行われたとします。

契約者 被保険者 受取人 契約期間 死亡保険金
変更前 8年  1,000万円
変更後 2年

変更前の組み合わせだと、死亡支払い金は贈与税の対象になるので、2年前に契約者を変更したとします。この組み合わせだと死亡支払い金は、相続税の対象になりますが、はたして全額相続税の対象になるのでしょうか。

死亡保険金の課税対象は、支払った保険料に応じて決まります。このケースだと、保険料の80%を妻が支払い、夫が20%支払っています。

つまりこのケースでは、800万円が贈与税の課税対象になり、200万円が相続税の課税対象になります。

まとめ

今回は、相続税の中でも特に死亡保険金に着目してみましたが、いかがだったでしょうか。死亡保険金は、契約者と受取人の関係性と、契約者が生存しているか否かによって、課せられる税金の種類が異なります。相続税が課せられるのは、契約者と被相続人が同一であるケースです。契約者が亡くなったことが原因で、死亡保険金が支払われたために相続税が課せられるのです。

死亡保険金の相続税申告は専門家にお願いしよう!

死亡保険金の相続税は、法定相続人一人当たり500万円の控除枠があります。こうした控除枠も自動的に控除してもらえるのではなく、申告して初めて控除してもらえるのです。本人申告だとついこうした点を失念してしまう可能性があります。

その他にも、相続税に関しては、本人申告をしたり、専門性のない税理士に依頼したりすると、過大申告や過少申告のリスクを伴います。適正な相続税申告をするためにも、専門性の高い税理士に依頼しましょう。

この記事を監修した税理士

山口育男税理士事務所 - 愛知県名古屋市緑区

死亡保険金の取り扱いは記事の通り、多少複雑です。このように相続税は皆さんが直面する税金にもかかわらず、複雑な計算方法、特別な制度が多数ある厄介なものです。制度で決まっているものですので、調べれば誰でもできるものではあるものの、例えば”小規模宅地の特例”という大幅に相続税を減額できる特例には、当初申告要件というものがあり、申告後に適用できることに気付いても修正できない、という要件がついています。相続税申告は10か月という短い期間の中で完了しなければならないので、全ての制度を無駄なく活用するため、ぜひお気軽に税理士に相談ください。