相続税の計算や申告書づくりは専門知識がないと大変難しい作業なので、税理士に任せてしまうのがおすすめです。しかし「どのくらいお金がかかるんだろう」と不安に感じている人もいるでしょう。
そこでこの記事では、相続税の税理士費用の相場について詳しく解説していきます。
結論:相続税申告の税理士報酬は遺産総額の0.5%~1%が相場
相続税の申告を税理士にお願いする場合、支払う費用は「遺産総額の0.5~1%」が相場です。
たとえば遺産総額が1億円なら、弁護士報酬は50万~100万円が相場になります。
ただし0.5〜1%はあくまで“相場”である点に注意してください。というのも、税理士報酬は完全自由化されており、報酬体系や業務範囲は事務所ごとに千差万別だからです。
また条件(計算の複雑さ、書類作成の手間)によっては、金額が上乗せされて1%以上の費用になることも珍しくありません。
【2種類】相続税申告の税理士報酬の内訳
相続税申告の税理士報酬は、以下2種類の金額を足し合わせて決まります。
- 基本報酬
- 加算報酬
基本報酬:遺産総額の0.5%前後
基本報酬とは、相続税申告を依頼した時点で必ず発生する費用のことです。ほとんどの場合、遺産総額の大きさによって基本報酬の額が変わります。
遺産総額が多いほど手続きの手間が増えるので、その分基本報酬も高くなります。
加算報酬:手続きの難易度によって費用が加算
基本報酬に加えて、必要なサービスや相続人の人数、相続財産の内容などから、追加で「加算報酬」が必要になってきます。
【費用例】
- 遺産総額:5,000万円
- 相続人3人
- 相続税申告までの期間:2ヶ月
上記例の遺産総額が5,000万円のケースでは、税理士費用の基本料金は25〜50万円が相場です。
しかし、相続人が3人居るため「10%×2人」で基本報酬の20%を加算報酬、更に相続税申告までの期間が短いため、基本報酬の20%を加算され、税理士費用の総額は70万円となる……といった流れで算出されます。
基本報酬と同じく、加算報酬の算出方法も税理士事務所によって異なります。
加算報酬が発生しやすい6つのケース
以下のいずれかの条件に当てはまる場合、追加料金が発生することが多いです。
- 相続する財産に土地が含まれている
- 非上場株式を保有している
- 複数の相続人がいる
- 相続税申告の期限が近い
- 相続税を物納する必要がある
- 海外に相続すべき遺産がある
相続する財産に土地が含まれている
被相続人が土地を所有している場合、加算報酬がかかるケースがあります。
土地評価には役所や現地の調査が必要になるため、税理士の負担が大きくなる分加算報酬を請求されるわけです。
また、土地相続の場合「小規模宅地等の特例」など特例適用の可能性もあり、それらの要件についても調査・整理する必要が生じます。
土地の加算報酬相場は1区画あたり4〜6万円です。
非上場株式を保有している
非上場株が相続財産に含まれている場合も加算報酬を請求される可能性があります。
上場株は「時価×保有株数」で、評価額が簡単に算出できるのに対して、非上場株の場合は、その企業の事業や所有不動産などを評価する必要があり手間と時間がかかってしまいます。
やはり税理士の負担が大きくなるため、加算報酬が必要になるケースが多いでしょう。
非上場株式の加算報酬相場は1社あたり10〜15万円です。
複数の相続人がいる
複数の相続人が存在しているケースでは、加算報酬が課される可能性があります。
相続人の人数が増えるほど、相続そのものがまとまりづらくなり、連絡する人数も増えるため、手間と時間が大きくなります。
こういったケースでは、2人目以降の相続人が1人増加するごとに、基本報酬額の10〜15%相当額を加算するようなケースが頻繁に見られます。
例えば相続人が5人のケースでは、2人目以降の4人に対して基本報酬額の10%から15%加算。
つまり、基本報酬額が50万円であった場合は、
5〜7.5万円×4人=20〜30万円
が加算報酬額として追加されます。
相続税申告の期限が近い
相続税申告の期限が迫っている場合、加算報酬が発生するケースがあります。
具体的には相続税申告期限の3〜6ヶ月前で線引きされている場合が多いでしょう。
ちなみに相続税申告の期限は「被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内」です。
相続税申告期限まで3ヶ月を切っている場合、加算報酬の相場は基本報酬額の20〜30%です。
相続税を物納する必要がある
相続税を物納する場合は、加算報酬が発生する可能性があります。
物納とは相続税を現金で納税できない場合に、不動産などの財産的価値があるものを代わりに納める納税方法です。
物納の場合、物納申請書・金銭納付を困難とする理由書などの書類の用意が必要であり、通常よりも税理士に依頼する作業量が増加します。
相続税を物納する場合の追加報酬は、物納する財産の種類や数量、評価の難易度による手続きの複雑さに伴い報酬も変動しますが、基本報酬の10〜30%程度は追加で発生する場合が多いでしょう。
物納の場合はいくらかかるかを規定として記載していることがありますので、税理士に事前に確認しておくのがおすすめです。
海外に相続すべき遺産がある
海外に建物や土地を所有していた場合をはじめ、海外に遺産がある場合は、追加報酬が発生することが多いです。
あくまで一例ですが、海外資産の相続に対する追加報酬が30%である場合、報酬額170万円のケースでは、51万円が追加されて合計221万円の費用がかかります。
相続税を支払う義務があるかどうか確認する方法
相続財産の合計額から負債や葬儀代を引いて算出した「遺産総額」が、基礎控除額を下回った場合は、相続税を支払う必要はありません。
基礎控除額の計算方法は以下の通りです。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
なお、法定相続人とは民法上で規定された相続できる人のことであり、順位が設定されています。
常に相続人となる | 配偶者 |
第1順位 | 被相続人の子ども
※子どもが死亡している場合はその子どもの直系卑属 |
第2順位 | 被相続人の直系尊属 |
第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹
※兄弟姉妹が死亡している場合はその子ども |
遺言書がない場合は法定相続人内で遺産分割協議が行なわれます。
上記は一見すると簡単な要否判断に見えますが、相続財産や債務の見落とし、計算ミスなどがあると、正しく判断ができません。
そのため、国税庁HP内の「相続税の申告要否判定コーナー」を使って概算を算出し、基礎控除額前後の場合は税理士に相談した上で、正確な金額を算出してもらうのが良いでしょう。
相続税申告の税理士への依頼費用はなぜ高いのか?
確定申告の代行や一般的な顧問契約に比べて、相続税申告の依頼費用は高額になることがほとんどです。
その理由は手間の大きさにあります。税金のプロであっても、相続税の手続きには3か月以上かかってしまうこともあり、申告書も膨大な量にのぼります。手続きの煩雑さは確定申告の比になりませんので、その分料金もかさんでしまうのです。
相続税申告は自分でできる?税理士に依頼しないリスク
「費用をかけたくないから自分で手続きしようかな」とお考えの人もいらっしゃるかもしれません。
しかし自力での相続税申告には、以下のようなリスクがあるため、基本的にはおすすめしません。
- 申告書作成の手間がかかる
- ペナルティを受けるリスクが激減する
- 特例を適切に活用でき、節税効果が期待できる
申告書作成の手間がかかる
相続税の申告は、被相続人が亡くなったことを知った翌日から10ヶ月以内に行なう必要があり、葬儀などもあって立て込んでいる中、申告書を作成していかなくてはいけません。
また、申告書を正しく作成するためには、多くの知識を学んだ上で、遺産総額の算出や、その他相続人との連絡や時間調整など、多くの手間と時間を要します。
税理士に依頼することで、申告書作成の手間が必要なくなるため、時間的あるいは労力的に多くの余裕が生まれるでしょう。
ペナルティを受けるリスクが激減する
相続税の申告と納付には期限があり、自分で相続税申告を行なう場合は限られた時間の中で正確に遺産総額や、費用を計算する必要があります。
特に不動産や絵画など時価の調査には専門家への依頼が必要になるため、調整や依頼の手間もあり大変です。
計上漏れが申告後発覚した場合は修正申告や、延滞税、過小申告加算税などを課されるリスクがあります。
税務のプロである税理士に依頼することで、申告漏れなどのエラーが回避でき、正しい相続税申告が可能でしょう。
特例を適切に活用でき、節税効果が期待できる
税務のプロである税理士は、相続に関しても、不動産の相続があった場合の「小規模宅地等の特例」など、多くの特例や税制を把握しています。
適用条件をしっかり精査した上で、提案してくれるため、適切に活用することで節税に直結するでしょう。
一方で、自分で相続税申告を行なった場合は、特例を見逃したまま申告してしまったり、適用条件から漏れているのに、特例を使った計算の元申告をしてしまったりとエラーが起きてしまう可能性があるでしょう。
相続税申告に強い税理士の選び方3つのポイント
相続税に関する手続きに強い税理士を選ぶ際は、以下3つのポイントを意識しましょう。
- 相続税に関する経験が豊富にある
- コミュニケーション能力に長けている
- 税理士報酬を公開している
1.相続税に関する経験が豊富にある
当然ですが、相続税に関する経験やスキルが豊富である点は真っ先に重視したいポイントです。
税理士なら誰でも相続税の手続きが得意なわけではありません。むしろ相続税の申告経験がない税理士も多くいます。大部分の税理士事務所は企業の決算や会計業務をメイン業務としているからです。
HPやミツモアなどの税理士紹介サービスに掲載されている「税理士試験の合格科目」と「紹介文内に“相続税”に関する記載があるか」を確認するようにしましょう。
一つの目安として、年間の相続税取扱件数が50件を超えている税理士事務所であれば、間違いなく経験が豊富であるといえます。
2.コミュニケーション能力に長けている
軽視してしまいがちなポイントですが、コミュニケーション能力や雰囲気、話してみたフィーリングも重要です。
相続税申告を税理士に依頼する際には、被相続人の生活状況や資金繰りなど、踏み込んだ質問を受けることが必要になります。
もちろん税理士は業務上知った情報を開示しない守秘義務があるため、万が一にもそれらの話が外部に漏れる事はない前提ですが、コミュニケーション能力が低い税理士に踏み込んだ質問を受ける状況はストレスになり得ます。
そのため、面談時点で、話していて違和感や不快感はないかや、人柄や話しやすさ、誠実さも含めて見極めることが重要です。
ただし、面談した税理士が必ずしも担当するとは限らないため、面談時に今後実際の業務や連絡を行う税理士が決定しているか確認しておくと良いでしょう。
3.税理士報酬を公開している
税理士報酬が公開されている税理士事務所を選びましょう。
他の税理士事務所と価格だけで比較検討されることを嫌った結果、中には業務範囲やそれに対応する価格が明示されていない税理士事務所も存在します。
税理士報酬や業務範囲、追加報酬設定の詳細などが不明瞭なまま依頼してしまうと、後々支払いや金額面でトラブルになる恐れがあります。
以上のことから、税理士報酬は契約前に明確になっている状態が理想といえるため、明示されている場合でも改めてしっかり確認するようにしましょう。
また、税理士報酬を非公開にしている場合は、見積もりを求めた上で、予測される業務範囲と追加報酬についても確認しておきましょう。
相続税の申告を税理士に依頼する際の費用に関してよくある質問
最後に、相続税の申告に関してよくある質問をまとめました。
- 相続税の申告はいつ行う?
- 相続税の支払いは誰が行えばいい?
- 税理士報酬の負担割合は目安が決まっている?
- 税理士報酬は相続した財産(金額)の中から控除できる?
- 相続税が発生しなかった・申告の義務がなかった場合でも税理士報酬は支払う必要がある?
相続税の申告はいつ行う?
相続税申告に関する税理士費用は、相続税申告前後に支払います。
支払いのタイミングについては、税理士事務所との初回面談時に提案がある場合がほとんどです。※事前確認も可能
中には業務着手前に前金が必要になるケースもあるため、必ず確認することをおすすめします。
相続税の支払いは誰が行えばいい?
報酬は誰が支払っても問題ありません。
税理士報酬の支払い義務者は指定されておらず、相続人の内一人が負担しても、全員で按分しても問題ありません。
注意点として、相続に関係のない人が税理士報酬を支払うと、贈与と見なされ贈与税の対象になるケースがあります。支払いは相続人の中で決めるのが無難な選択です。
税理士報酬の負担割合は目安が決まっている?
税理士報酬の負担については負担割合や誰が払うかなどは法律で定められていません。相続人全員の納得が得られているのであれば、均等に支払っても誰か一人が全て負担しても大丈夫です。
ただし、複数人で支払いする場合はどれだけ負担するかは入念に話し合いをしておきましょう。
税理士報酬は相続した財産(金額)の中から控除できる?
結論として、税理士報酬は控除できません。
葬式費用を除いて、相続する財産から控除できるのは相続開始時に債務の確定している金額のみです。
結んだ契約内容によりますが、税理士が実施した作業への報酬および手数料は支払う必要があります。
相続税が発生しなかった・申告の義務がなかった場合でも税理士報酬は支払う必要がある?
相続税が発生しなかった場合や、申告の義務がなかった場合でも、税理士報酬は発生します。
相続税の税務作業として、税理士は財産評価や各相続人への配分、基礎控除の範囲内かの確認などを対応してくれているため、上記作業に対する報酬支払いが必要です。
基礎控除を超えるかどうか微妙な場合は、なるべく早く税理士へその旨を伝えるようにし、報酬がいくらになるか明確にしてから依頼すると良いでしょう。
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