相続が発生すると、悲しみに暮れる間もなく、様々な手続きに追われることになります。その中でも特に重要なのが、相続税の申告です。
相続税の申告には、故人の財産を正確に把握するために「通帳」が欠かせません。しかし、いざ申告を行うとなると、一体何年分の通帳が必要なのか、どのような種類の通帳を提出する必要があるのかなど分からないことも多いでしょう。
そこで本記事では、相続税申告時に必要な通帳について徹底解説します。トラブルなく相続を終えたい方は是非ご一読ください。
相続税申告時の通帳は10年分必要
相続税申告の際には、できれば過去10年分の通帳を用意しておくことが望ましいです。税務署は相続税の申告内容を確認する際に、預貯金の動きを詳しく調べる場合があります。
預貯金の確認が行なわれる範囲は、基本的には相続発生前の3年間程度ですが、それ以前の取引についても確認される可能性があります。10年分の通帳があれば税務署の確認がスムーズに進み、税務調査のリスクを減らすことができるでしょう。
もし、通帳が用意できない場合は、取引履歴明細書で代用できます。取引履歴明細書とは、銀行口座における入出金や振込などの取引内容を詳細に記録した書類です。
具体的には、取引日時、取引内容(入金、出金、振込など)、取引金額、取引相手、残高などが記載されています。そのため、通帳の代わりとして過去の取引内容を確認するために利用可能です。
ただし、金融機関によっては、古い取引履歴の取得に時間がかかる場合があるので、早めに準備を進めておきましょう。
相続税申告時に必要な通帳の種類
相続税申告には、故人が所有していた預貯金通帳がすべて必要となります。なぜなら、相続税は故人の財産全体にかかる税金であり、預貯金も重要な財産の一部だからです。普通預金や定期預金はもちろん、当座預金や貯蓄預金なども含まれます。
さらに、相続人の預貯金通帳が必要になるケースもあります。これは、生前贈与の有無や名義預金の存在を確認するためです。例えば、故人から相続人への多額の入金記録があれば、それが生前贈与とみなされ、相続税の対象となる可能性があります。
したがって、相続税申告の準備を行う際は、故人の預貯金通帳だけでなく、相続人の預貯金通帳も必要となる場合があることを念頭に置いておきましょう。
相続税申告で通帳の提出が必要な理由
先述のとおり、相続税の申告を行う際は故人と相続人どちらの通帳も必要になります。その理由は以下のとおりです。
- 亡くなる直前の引き出しを調べるため
- 相続人への贈与を調べるため
- 名義預金の有無を調べるため
- その他
亡くなる直前の引き出しを調べるため
相続税申告において故人が亡くなる直前の通帳の提出が求められるのは、直前の預金引き出し状況を把握するためです。
相続税は、故人が亡くなった時点での財産に対して課税されます。亡くなった日に手元に現金として残っている部分は、現金として相続財産への計上が必要です。
もし、亡くなる直前に多額の預金を引き出していた場合、そのお金が相続財産から抜け落ちてしまう可能性があります。
例えば、故人が亡くなる数日前に1,000万円を引き出していたとします。このお金が相続財産に計上されなければ、本来支払うべき相続税が減ってしまうことになります。通帳を確認することで、このような不正な相続税逃れを防ぐことができるのです。
名義預金の有無を調べるため
相続税申告において、税務署は故人の財産だけでなく相続人たちの預貯金口座についても調査を行います。これは、相続人の口座の中に「名義預金」が紛れていないかを確認するためです。
名義預金とは、口座の名義は相続人になっているものの、実際には故人が管理し、資金を出し入れしていた預貯金のことです。例えば、親が子の名義で口座を作り、そこに預金していた場合などが該当します。
名義預金は、税法上では名義人ではなく故人の財産です。そのため、相続税申告の際に名義預金が発見された場合、たとえ口座の名義が相続人であっても、その預貯金は相続財産として相続税の課税対象となります。
税務署は、相続税申告の際に提出された通帳を詳しく調べることで、名義預金の有無を厳しくチェックしています。
相続人への贈与を調べるため
名義預金の確認だけでなく、相続人への贈与を調べるためにも相続人の通帳提出を求められます。これは、相続が発生する3年以内に行われた贈与も相続財産としてみなされるという税法の規定があるためです。
生前に多額の贈与があった場合、それを申告せずに相続税を逃れようとするケースも考えられます。相続人の通帳を確認することで、故人から相続人への不自然な資金移動、つまり贈与の有無を税務署は把握できるのです。
例えば、故人が亡くなる直前に相続人の口座へまとまった金額が振り込まれていた場合、それが贈与とみなされる可能性があります。また、相続人が生前に高額な買い物をし、その支払いが故人の口座から行われていた場合も、間接的な贈与とみなされる可能性があります。
贈与が認められれば、その金額も相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。
その他
通帳は、故人の資産状況や金銭の動きを詳細に記録した資料であり、申告内容の裏付けとして非常に重要です。例えば、タンス預金のように申告漏れしやすい現金資産や生命保険のように相続財産となる可能性がある資産の存在を把握することもできます。
税務署は通帳の情報を活用することで、申告内容の正確性を確認し公平な課税を実現しています。通帳の提出を求められた際には、速やかに対応して適正な申告を行うように心がけましょう。
相続時に税務署が把握している範囲
税務署は、通帳以外にも相続財産を把握する手段を持っています。具体的にどんな情報をどのように把握しているのか、詳しく紹介します。
- 生前の所得状況
- 海外資産
生前の所得状況
相続が発生した際、税務署は故人の生前の所得状況をかなり詳細に把握しています。なぜなら、全国の国税局と税務署はKSKシステムと呼ばれるネットワークで結ばれており、所得税の申告情報などを一元的に管理しているからです。
例えば、故人が毎年確定申告を行っていた場合、その所得の種類や金額、控除の内容などは全てKSKシステムに記録されています。税務署は、相続税の申告内容とKSKシステムの情報を照らし合わせることで、申告漏れや過少申告がないかをチェックすることが可能です。
海外資産
税務署は相続時に海外資産についても把握している可能性が高いです。これは、相続税逃れを目的とした海外への資産移動を防ぐため、税務署は高額な海外送金などを監視しているためです。
海外送金に関する情報は税務署と金融機関の間で共有されており、高額な海外送金や不審な取引は税務署にチェックされます。したがって、相続税対策として安易に海外への資産移動を考えるのは避けましょう。
相続税申告時に必要な通帳以外の書類
預金の相続税申告時には、通帳以外にも残高証明書が必要になるケースがあります。これは、被相続人が亡くなった時点での預貯金の残高を明確にするためです。
相続税の計算において、正確な財産評価は欠かせません。預貯金も重要な財産の一つであり、その評価額は相続税額に直接影響します。
しかし、定期預金のように利息が発生する預貯金の場合は残高が変動するため、通帳だけでは正確な残高を把握できない可能性があります。
そこで残高証明書があれば、相続発生日における預貯金の状況を客観的に示すことが可能です。税務署への説明もスムーズに進められるでしょう。
税務調査の対象にならないよう過去の通帳を用意しよう
本記事では、相続時に何年分の通帳を用意すべきかについて解説しました。
相続税申告時には、過去10年分の通帳を準備することが望ましいです。ただし、通帳がない場合は取引履歴明細書で代用できます。その際、故人が所有していた通帳がすべて必要です。また、相続人の通帳が必要になるケースもあります。
また、税務署は通帳以外にも相続財産を把握する手段を持っているため、生前の所得状況や海外資産についても把握している可能性が高いです。下手に預貯金をごまかそうとすると、ペナルティによりかえって税負担が大きくなってしまうため注意しましょう。
もし、相続税の節税対策を行いたい場合は、税金の専門家である税理士に相談するのがおすすめです。適切な控除や特例を反映して、トラブルにならない範囲で最大限の節税を行ってくれます。
しかし、税理士に依頼するとなると費用がかかります。相続税も合わせると大きな負担になってしまうでしょう。
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