「相続した土地を3年以内に売ると税金を抑えられると聞いたことがあるけれども、具体的にどのような制度なのだろう?」、「自分は制度の対象になるの?」などの疑問をお持ちの方は多いです。
土地を売却すると、売却することで得た譲渡所得に対して所得税と住民税が課されます。相続により取得した土地を3年以内に売却すると、この所得税を軽減できる制度が2つあります。
- 相続空き家の3,000万円控除
- 相続税の取得費加算の特例
この記事では、この2つの制度について、適用要件、控除できる金額、3年間の期限の数え方、申告に必要な書類などを解説します。
制度を利用するにあたっての注意点もご説明するので、制度を利用したいと考えている方は参考にしてみてください。
なお、各制度の適用要件は非常に細かく決まっているので、プロに任せて確実にかつスムーズに手続きを進めたい場合は、税理士に相談することがおすすめです。
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相続した土地を3年以内に売却するときに節税できる2つの制度
通常、土地を売却すると、売却することで得た譲渡所得に対して所得税と住民税が課されます。譲渡所得金額は以下の式で算出できます。
そして所得税と住民税の税率は所有期間によって異なり、土地の取得日の翌日から譲渡した年の1月1日までの所有期間が5年以下であれば所得税30%・住民税9%、5年超であれば所得税15%・住民税5%です。
所得税に関しては、負担を軽減できる次の2つの制度があります。
- 相続空き家の3,000万円控除
- 相続税の取得費加算の特例
まずはこの2つの制度の概要をご説明します。
相続空き家の3,000万円控除
相続空き家の3,000万円控除とは、正式名称を「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といい、相続した家または家の敷地を譲渡するときに、一定の要件を満たせば3,000万円の特別控除を受けられることです。
不動産を譲渡すると、譲渡することで得た譲渡所得金額に対して所得税と住民税がかかりますが、この特例を適用できれば、譲渡所得金額から最高で3,000万円を差し引くことができます。
課税の対象となる金額が小さくなるので、支払う所得税額が抑えられるという制度なのです。
相続税の取得費加算の特例
相続税の取得費加算の特例とは、正式名称を「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」といい、相続した財産を3年以内に譲渡する場合、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる制度です。
土地を譲渡する場合、以下の式で求められる譲渡所得に対して所得税が課されます。
取得費には、土地の購入代金、手数料、設備費、改良費や、取得したときに納付した登録免許税、不動産取得税などが含まれます。相続税の取得費加算の特例を活用すると、土地を相続したときに支払った相続税の一部も取得費に入れることができます。
つまり所得税の対象になる譲渡所得金額(譲渡益)を小さくできるので、支払う税金が安くなるということです。
相続空き家の3,000万円控除の詳細
相続空き家の3,000万円控除(被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例)は、適用できる条件が細かく定められています。どのような場合に適用できるのか、次の項目にわけてご説明します。
- 適用される不動産
- 適用されるための要件
- 控除できる金額
- 3年間の期限の開始日
- 申告に必要な書類
適用される不動産
相続空き家の3,000万円控除が適用できるのは、「被相続人居住用家屋」または「被相続人居住用家屋の敷地等」と定められています。
「被相続人居住用家屋」とは、被相続人が亡くなるまで住んでいた家を指します。そして、次の3つの要件を満たさなければなりません。
- 昭和56年5月31日以前に建築された。
- 区分所有建物登記がされている建物でない。
- 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかった。
被相続人とは家をもともと所有していた人、区分所有建物とはマンションなどのことです。つまり、「昭和56年5月31日以前に建築され、家を所有していた人が住んでいた一戸建て」でなければならないということです。
「相続人居住用家屋の敷地等」とは、被相続人が亡くなるまで住んでいた家の敷地として使われていた土地、またはその土地の権利のことです。同じ土地に建物が2つ以上ある場合は、被相続人が住んでいた家の敷地のみが対象になります。
適用されるための要件
相続空き家の3,000万円控除の適用を受けるには、上記の「適用される不動産」の基準を満たしたうえで、まず主に以下のような要件に当てはまる必要があります。
- 相続か遺贈により取得した家か、家とともに家の敷地を売る。
- 相続か遺贈により取得した家を全て取り壊したあとに、家の敷地を売る。
加えて、相続した時から譲渡する時まで事業、貸付け、居住に使われていない、譲渡の時において一定の耐震基準を満たすなどの基準も設けられています。
さらに、以下の要件も満たさなければなりません。
- 該当の家や敷地を売る人が、相続または遺贈によりその家や敷地を取得した。
- 相続開始日から3年を経過する日を含む年の12月31日までに売る。
- 売却代金が1億円以下である。
- 該当の家や敷地について、他の特例を受けていない。(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の場合の特別控除など)
- 同じ被相続人から相続か遺贈により取得した家や敷地について、この特例の適用を受けていない。
- 親子、夫婦、生計を一にする親族、家を売ったあとにその家で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人など、特別の関係がある人に対して売ったものでない。
控除できる金額
上記の「適用できる不動産」と「適用されるための要件」を満たした場合、譲渡所得金額から最高で3,000万円を控除できます。
つまり、不動産を売却すると以下の式で求められる譲渡所得金額に対して所得税が課税されますが、その譲渡所得金額から最高で3,000万円を引くことができるため、所得税を抑えることができます。
なお、令和6年1月1日以後の譲渡で、相続か遺贈により家や敷地を取得した相続人の数が3人以上であるときの控除金額は最高2,000万円です。
3年間の期限の開始日
相続空き家の3,000万円控除と相続税の取得費加算の特例は、相続した家や土地を3年以内に売却した場合に受けられる特例ですが、3年間の数え方に違いがあります。
相続空き家の3,000万円控除における3年間の数え方は、「適用されるための要件」にも記載したとおり「相続開始日から3年を経過する日を含む年の12月31日まで」です。
申告に必要な書類
相続空き家の3,000万円控除の適用を受けるには、以下の必要書類を揃えて確定申告を行わなければなりません。
- 譲渡所得の内訳書
- 売った家や土地の登記事項証明書など:昭和56年5月31日以前に建築され、家を所有していた人が住んでいた一戸建てであることを示すもの
- 被相続人居住用家屋等確認書:売った家や土地の所在地を管轄する市区町村長から交付を受ける
- 耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書の写し
- 売買契約書の写しなど:売却代金が1億円以下であることを明らかにするもの
ケースに応じて追加で必要になる書類もあります。詳しく知りたい方は、国税庁のホームページでご確認ください。
相続税の取得費加算の特例の詳細
相続税の取得費加算の特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)の適用を受けるための条件について、以下の項目に沿ってご説明します。
- 適用されるための要件
- 取得費に加算される計算式
- 3年間の期限の開始日
- 申告に必要な書類
適用されるための要件
相続税の取得費加算の特例が適用されるための要件は、相続空き家の3,000万円控除と比較すると非常にシンプルで以下の3点のみです。
- 相続や遺贈により財産を取得した者である。
- その財産を取得した人に相続税が課税されている。
- その財産を、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡している。
取得費に加算される計算式
相続税の取得費加算の特例を活用すると、土地を相続したときに支払った相続税の一部を、譲渡所得金額を求める際の取得費に加算することができます。譲渡所得金額を求める式は以下のとおりです。
この取得費に加算できる相続税の金額は、以下の式で算出されます。
3年間の期限の開始日
相続空き家の3,000万円控除における3年間の数え方は、「相続開始日から3年を経過する日を含む年の12月31日まで」ですが、相続税の取得費加算の特例における3年間は「相続税の申告期限から3年以内」と決まっています。
相続税の申告期限は被相続人が亡くなったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10ヶ月以内なので、相続税の取得費加算の特例の期限は「被相続人が亡くなった日の翌日から3年10ヶ月以内」となります。
申告に必要な書類
相続税の取得費加算の特例の適用を受けるには、次の書類を用意して確定申告を行う必要があります。
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
- 譲渡所得の内訳書や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
相続税の取得費加算の特例について、詳細を確認したい方は国税庁のホームページをご参照ください。
制度利用にあたっての注意点
相続空き家の3,000万円控除と相続税の取得費加算の特例の2つの制度について、適用要件や必要な書類をご説明しました。加えて、これらの制度を活用するときに抑えておきたい2つの注意点を記載します。
- 2つの制度は併用できない
- 売却する前に被相続人からの名義変更を完了しなければならない
2つの制度は併用できない
1つ目の注意点は、相続空き家の3,000万円控除と相続税の取得費加算の特例は併用できないことです。したがってどちらの適用要件も満たす場合、どちらを選ぶか検討しなければなりません。
相続空き家の3,000万円控除の適用要件や、相続税の取得費加算の特例において取得費に加算できる相続税額の計算方法は非常に複雑で、どちらを選んだ方が税金を軽減できるかの判断は難しいです。そのため、どちらか迷う際は税理士に相談することをおすすめします。
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売却する前に被相続人からの名義変更を完了しなければならない
2つ目の注意点は、家や土地を売却する前に名義変更を完了しなければならないことです。
相続空き家の3,000万円控除と相続税の取得費加算の特例は、相続により取得した家や土地を売却する際に活用できる制度ですが、そもそも家や土地の名義を被相続人から変更しておかないと売却できません。
家や土地の名義を変更する手続きは「所有権移転登記」といい、相続した家や土地の名義変更のときは「相続登記」と呼ばれます。相続登記を行うには、戸籍謄本、住民票、固定資産評価証明書などの必要書類を揃えて登記申請書を作成し、法務局に提出することが必要です。
また、相続登記には登録免許税が課されます。相続の場合の登録免許税は「固定資産税評価額×0.4%」で、金融機関や税務署に現金で納付する方法、収入印紙を購入する方法のいずれかで支払います。
相続登記は、登記申請書を法務局へ提出してから1週間~10日ほどで登記完了証が交付されたら完了となります。
節税したいときは税理士に相談しよう
土地を売ると、売ったことで得た譲渡所得に対して所得税と住民税が課されますが、相続した土地を3年以内に売却した場合、所得税を抑えられる「相続空き家の3,000万円控除」と「相続税の取得費加算の特例」があります。
この2つの制度を利用できれば、所得税の対象となる譲渡所得金額を減額できます。ただし、各制度の適用要件は非常に細かく定められており、2つの制度の併用はできないので注意が必要です。
「自分はどちらかの制度を適用できるの?」、「適用できると税金はいくらになるの?」などについて知りたい方は、税理士に相談してみましょう。
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