2023年10月からインボイス制度が開始され、企業における経費精算の実務が大きく変化しています。特に、従来は簡易な領収書でも認められていた経費処理が、より厳格な要件を求められるようになり、経理担当者の業務負担が増加しているといわれています。
本記事では、インボイス制度による経費精算の具体的な変更点や注意点について、実務に即して解説していきます。制度の基礎から具体的な対応方法まで、経理担当者や経費精算に関わる方々に向けて、わかりやすく説明していきます。
なお、2029年9月までは経過措置期間となっていますが、早めに適切な対応を進めることで、スムーズな運用が可能となります。
インボイス制度の基礎知識
インボイス制度は、2023年10月から導入された消費税の新しい仕入税額控除の方式です。正式名称を「適格請求書等保存方式」といい、インボイス制度により事業者は、より詳細な情報を記載した請求書や領収書の発行と保存が必要となりました。
インボイス制度の概要と目的
インボイス制度は、2019年の消費税率10%への引き上げと軽減税率制度の導入に伴い、複数税率の下での適正な消費税額の把握を目的として導入されました。従来の「区分記載請求書等保存方式」では、複数の税率が混在する状況下での正確な税額把握が困難でした。
インボイス制度の最大の特徴は、課税事業者が発行する「適格請求書」の保存が、仕入税額控除の要件となることです。そのため、取引の透明性が高まり、消費税の適正な納付につながることが期待されています。
また、免税事業者からの仕入れについては、原則として仕入税額控除が認められなくなりました。ただし、2029年9月までは経過措置が設けられており、段階的に対応することが可能となっています。
適格請求書の要件
適格請求書として認められるためには、従来の請求書記載事項に加えて、新たな必須項目の記載が求められます。具体的には以下の項目が必要です。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称と登録番号
- 取引年月日
- 取引内容
- 取引金額
- 税率ごとに区分して記載した消費税額
- 適用税率
- 請求書等の交付を受ける事業者の氏名または名称
また、小売業やレストランなどの不特定多数の者に対して取引を行う事業者については、「適格簡易請求書」の発行が認められています。宛名の記載が不要であるなど、一部の記載要件が緩和された形式となっています。
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インボイス制度による経費精算の変更点
インボイス制度の導入により、経費精算の実務は大きく変化しています。経理担当者は、これまで以上に詳細な確認作業と正確な処理が求められるようになりました。
領収書などを種類ごとに仕分ける
インボイス制度の導入により、受け取った領収書や請求書を適切に分類する必要が生じています。具体的には、適格請求書、適格簡易請求書、それ以外の書類という3つのカテゴリーに分類します。
分類作業は仕入税額控除の可否を判断する基準となるため、正確な判断が求められます。特に注意が必要なのは、適格請求書発行事業者が発行した書類であっても、必要な記載事項が不足している場合は仕入税額控除の対象とならない点です。
そのため、領収書等を受け取った時点で記載内容を確認し、不備がある場合は追記や再発行を依頼する必要があります。また、経過措置期間中は免税事業者からの仕入れについても、一定割合で仕入税額控除が認められるため、取引先ごとの区分管理も重要になっています。
少額取引にも領収書が必須になる
インボイス制度の導入により、これまで3万円未満の取引について認められていた、帳簿のみの保存による仕入税額控除の特例が原則として廃止されました。そのため、金額の大小にかかわらず、原則としてすべての取引について適格請求書等の保存が必要となります。
ただし、取引の性質上、請求書等の入手が困難な場合については、例外的な取り扱いが認められています。具体的には、公共交通機関の利用や自動販売機での購入など、取引金額が3万円未満で、かつ請求書等の入手が困難な取引については、従来通り帳簿への記載のみで仕入税額控除が可能です。
変更によって、特に日常的な少額経費の精算実務に大きな影響を与えています。従業員に対しては、少額の経費支出であっても適切な領収書等を必ず受け取り、保管するよう、徹底した指導が必要となっています。
適格請求書に項目確認がある
適格請求書の確認作業は、従来以上に慎重に行う必要があります。具体的には、発行者の名称や登録番号、取引日、取引内容、税率区分、消費税額などの必須記載事項が漏れなく記載されているかを確認します。
特に、適格請求書発行事業者の登録番号については、国税庁の公表サイトで有効性を確認することが推奨されています。
また、適格簡易請求書の場合は、記載要件が一部緩和されているものの、必要な項目が記載されているかの確認は必須です。特に、税率ごとの区分や消費税額の記載については、正確性を確保する必要があります。
確認作業は後の税務調査等でも重要となるため、チェックリストを活用するなど、確認体制の構築がおすすめです。
経理処理の方法に変更がある
インボイス制度の導入により、経理処理の方法も大きく変更されています。特に注目すべき点は、消費税額の計算方法として、従来の割戻し計算に加えて、新たに積上げ計算が選択可能となったことです。
割戻し計算は、取引総額から消費税額を計算する方法であるのに対し、積上げ計算は取引ごとの消費税額を合計する方法です。積上げ計算を選択する場合は、取引ごとの消費税額を正確に記録・集計する必要があり、より詳細な記帳が求められます。
また、免税事業者との取引については、経過措置期間中の控除割合(2023年10月から2026年9月までは80%、2026年10月から2029年9月までは50%)に応じた処理が必要となります。
処理を正確に行うためには、取引先ごとの課税事業者・免税事業者の区分を明確にし、適切な税区分で記帳することが重要です。
インボイス制度による経費種類別の注意点
経費の種類によって、インボイス制度への対応方法は異なります。ここでは、主な経費区分ごとの具体的な注意点と対応方法について解説していきます。各経費の特性を理解し、適切な処理を行うことで、正確な経費精算が可能となります。
交通費・旅費について
交通費や旅費については、取引の性質に応じて特別な取り扱いが認められています。特に注目すべきは公共交通機関の利用で、3万円未満の場合は帳簿への記載のみで仕入税額控除が可能です。
切符やICカードによる支払いなど、適格請求書の入手が現実的に困難な取引特性を考慮した措置です。
一方、タクシーの利用については、原則として適格請求書または適格簡易請求書が必要となります。多くのタクシー会社は適格請求書発行事業者として登録していますが、登録していない事業者もあるため、利用前の確認が推奨されます。
また、宿泊費については、ホテルや旅館から発行される請求書が適格請求書の要件を満たしているか、特に確認が必要です。
飲食費・接待費について
飲食店での支出や接待費については、適格簡易請求書の要件を満たしたレシートの保存が必要となります。飲食店は不特定多数の者に対して取引を行う事業者として、適格簡易請求書の発行が認められています。
ただし、すべての飲食店が適格請求書発行事業者として登録しているわけではないため、特に高額な接待等の際は事前確認が重要です。
また、接待費については、参加者の氏名や取引内容など、所得税法上の記載要件も併せて満たす必要があります。そのため、領収書等の受け取り時には、インボイス制度の要件と併せて、これらの情報も漏れなく記載されているか確認することが重要です。
特に、接待の目的や参加者情報などは、後から追記することが困難なため、その場での確認が必須となります。
消耗品・備品について
文具やオフィス用品などの消耗品、また備品の購入については、取引金額にかかわらず、原則として適格請求書または適格簡易請求書の保存が必要です。ただし、自動販売機での購入など、請求書等の入手が困難な少額取引については、帳簿への記載のみで控除が認められる場合があります。
特に注意が必要なのは、オンラインショッピングでの購入です。デジタルの請求書やメールでの領収書が発行される場合、適格請求書の要件を満たしているか、また電子保存の要件に対応しているかを確認する必要があります。
また、高額な備品の購入時には、取引先が適格請求書発行事業者であることを事前に確認し、必要な記載事項を満たした請求書を受け取ることが重要です。
その他経費について
その他の経費については、取引の性質や金額に応じて適切な対応が必要です。特に、フリーランスや個人事業主への支払いについては、相手が免税事業者である可能性が高いため、経過措置の適用や控除割合に注意する必要があります。
また、継続的な取引や定期購読などについては、取引開始時に適格請求書の発行方法や保存方法を確認しておくことが重要です。
インターネットを通じたサービス利用料や、クラウドサービスの利用料など、デジタル取引における請求書についても、適格請求書の要件を満たしているか確認が必要です。
特に、海外事業者との取引については、別途の対応が必要となる場合があるため、事前に税理士等に相談することをおすすめします。
インボイス制度による経費精算に関わる実務上の対応方法
インボイス制度に対応するためには、組織全体での取り組みが必要です。ここでは、具体的な実務対応について、重要なポイントを解説していきます。適切な対応により、正確かつ効率的な経費精算業務の実現が可能となります。
社内ルールを整備する
経費精算規程の見直しと整備は、インボイス制度への対応において最も重要な取り組みの一つです。具体的には、領収書等の受領や保管方法、経費精算の申請手続き、承認フロー、保存期間などについて、明確なルールを定める必要があります。
特に重要なのは、適格請求書等の確認手順と、不備があった場合の対応方法を具体的に定めることです。また、電子データでの保存を行う場合は、真実性の確保のための要件も含めて規定する必要があります。
ルールは定期的に見直しを行い、必要に応じて更新するのがおすすめです。
従業員へ周知する
インボイス制度への対応には、全従業員の理解と協力が不可欠です。そのため、制度の概要や必要書類、申請手続きについて、わかりやすい説明資料を作成し、定期的な研修や説明会を実施することが重要です。
特に、領収書等の受領時に確認すべき項目や、立替経費の精算時に必要な書類について、具体例を示しながら説明することが効果的です。また、よくある質問やトラブル事例をまとめたマニュアルを作成し、いつでも参照できるようにしておくことも有効です。
正しく帳簿に記載する
帳簿への記載においては、取引内容や税率区分、消費税額などを正確に記録する必要があります。特に、免税事業者との取引や経過措置の適用がある取引については、適切な管理が必要です。
記帳方法を統一し、チェック体制を整備することで、ミスの防止と早期発見が可能となります。また、帳簿と請求書等の相互の関連性を明確にし、後日の確認や税務調査に備えて、適切な保存管理を行うことが重要です。
電子データでの保存を行う場合は、検索機能の確保や改ざん防止措置など、法令で定められた要件を満たす必要があります。
システムに対応する
インボイス制度への対応を効率的に行うため、経費精算システムの導入や更新を検討するのがおすすめです。システムを活用することで、適格請求書等の確認作業の自動化や、消費税計算の効率化が可能となります。
特に、OCR機能による領収書の読み取りや、登録番号の自動確認機能など、最新のテクノロジーを活用することで、業務効率の大幅な向上が期待できます。また、電子データでの保存要件にも対応しやすくなり、長期的なコスト削減にもつながります。
よくあるトラブルと対策
インボイス制度の運用において、様々なトラブルが発生することが予想されます。主なトラブルとしては、適格請求書の要件を満たさない領収書の受領、免税事業者との取引における控除計算の誤り、電子データ保存要件の未充足などが挙げられます。
トラブルを防ぐためには、事前の対策が重要です。チェックリストの活用や定期的な研修の実施に加え、不備が発見された場合の対応手順を事前に定めておくことが効果的です。特に、取引先への再発行依頼や、社内での修正処理などについては、具体的な手順を明確にしておく必要があります。
また、トラブル事例とその解決方法を社内で共有し、同様の問題の再発防止に活用することも重要です。
導入後の運用ポイント
インボイス制度を円滑に運用していくためには、定期的なモニタリングと改善が欠かせません。特に重要なのは、適格請求書等の保存状況や消費税計算の正確性について、定期的なチェックを実施することです。
また、取引先との良好な関係を維持しながら、必要な情報のやり取りをスムーズに行えるよう、コミュニケーションを図ることも重要です。特に、新規取引先との取引開始時には、適格請求書発行事業者であるかどうかの確認を徹底するとともに、請求書の発行方法や送付方法について事前に合意しておくことが推奨されます。
さらに、経理担当者の育成や、システムの運用管理についても継続的な取り組みが必要です。定期的な研修や、マニュアルの更新、システムのバージョンアップなどを通じて、常に最適な運用体制を維持することが重要です。
まとめ
インボイス制度の導入により、経費精算の実務は大きく変化しています。適格請求書等の確認や保存、消費税計算など、新たな対応が必要となる一方で、システムの活用や業務プロセスの見直しにより、効率的な運用も可能となっています。
特に重要なのは、全社的な取り組みとしてインボイス制度への対応を位置づけ、経理部門だけでなく、全従業員が制度を理解し、適切に対応できる体制を構築することです。また、取引先との良好な関係を維持しながら、必要な書類の授受や情報共有を円滑に行うことも重要です。
2029年9月までは経過措置期間となっていますが、早期に適切な対応を進めることで、より確実な制度対応が可能となります。今後も制度の理解を深め、実務上の課題に適切に対応しながら、正確かつ効率的な経費精算業務の実現を目指していくことが必要です。