本来所属している企業の外で勤務することを、「出向」と呼びます。しかし出向は2種類あることや、実施する目的などを把握している人は少ないかもしれません。そこで出向についての基本的な知識や、雇用を守るために行われるケースがある点を紹介します。
出向には2種類ある
同じ出向であっても、「在籍出向」と「転籍出向」では契約関係が異なります。それぞれどのような契約を結ぶのでしょうか。また2社が関係する点で似ている出向と派遣について、どのような点が違うのかもチェックします。
在籍出向
一般的にいう出向という言葉は、在籍出向を意味します。
社員は出向元との関係はそのままに、定められた期間中出向先企業で勤務するのが特徴です。このとき社員は、出向元・出向先いずれの企業とも「労働契約」を結んでいます。
また出向元と出向先との間には「出向契約」が締結されており、社員の労働条件や指揮命令関係などが定められています。出向期間が経過すると、社員は出向元へ戻るケースがほとんどです。
転籍出向
転籍出向は社員と出向元の労働契約が終了するのが特徴です。社員は出向先企業との間でのみ労働契約を結びます。そのため転籍出向後に出向元へ復帰することは、ほぼありません。
また転籍出向で取り交わされるのは「転籍契約」です。契約書には退職日・入社日・勤務年数のカウント方法・給与・退職金など、社員・出向元・出向先の三者で合意した条件が記載されています。
労働者派遣契約に基づくのは労働者派遣
実際に働く勤務先とは異なる企業(派遣会社)と、労働契約を結ぶ働き方の一つが「派遣」です。加えて派遣元企業と派遣先企業は「労働者派遣契約」を結びます。
派遣は出向元企業と労働契約を結ぶ在籍出向と似ていますが、社員と勤務先である派遣先企業との間で、労働契約を締結しない点が違いです。派遣先企業からは指揮命令のみを受けます。
また在籍出向は労働者供給に該当します。そのため労働者供給そのものをなりわいとする事業を展開している場合、労働者供給事業に当たるため、法律で禁止されている形態です。
出向の目的は4種類
企業が社員に出向を命じるのは、社員のキャリア形成や人事戦略・企業間交流・雇用調整を目的としています。なぜ出向によってこれら4種類の目的を達成できるのでしょうか?
社員のキャリア形成
出向の目的としてまず挙げられるのが「キャリア形成」です。出向先企業だからこそ身に付く技術やスキルがある場合、それを習得しキャリアへ生かすために、出向を命じられる場合があります。
新しい知見を学ぶことで視野が広がれば、出向元へ戻ってからの業務にも生かせるはずです。
加えてコミュニケーション能力や、マネジメント能力の向上も期待できます。初対面のメンバーとともに慣れない仕事に従事するときには、「どうすればうまくいくだろう?」と試行錯誤するでしょう。その経験が今後の仕事に役立ちます。
人事戦略
既に経験豊富で実績のある社員が、親会社である出向元から、グループ企業や子会社である出向先へ出向くよう命じられるケースもあります。この場合は「人事戦略」のための出向です。
リーダーとして着任することで、出向先の業績アップを達成することを目的としています。出向先の業績が上がれば、出向元の業績アップにもつながるため、両社にとってプラスになる出向です。
また親会社からやってきたリーダーが、業績アップを達成したとなれば、企業間のつながりをより強固なものにできるでしょう。
企業間交流
新しい子会社や取引先への出向であれば、「企業間交流」を目的とした出向の可能性が高いでしょう。出向した社員が出向先で信頼関係を築くことで、両社の関係を深める潤滑油の役割を果たします。
社員にとっては出向先で人脈を作れるチャンスです。より広い範囲で協力関係を得られる人脈を形成できるため、将来の仕事に役立つ財産になります。
雇用調整
企業の業績によっては、社員を雇用し続けるのが難しいこともあるでしょう。そのような場合に「雇用調整」のため、出向を命じられることもあります。社員が出向すれば、出向元企業は給与を支払う必要がありません。加えて社員の雇用を守れます。
近年はコロナ禍の影響を受け、一時的な事業縮小を希望する企業が、在籍出向を活用し、雇用調整を実施するケースが見られます。条件を満たせば厚生労働省からのサポートも得られる方法です。利用できる助成金について、次の項目で解説します。
在籍出向は雇用を守る方法としても注目
企業の経営は常に順風満帆とは限りません。事業が順調に拡大し大勢の社員が必要なタイミングもあれば、外的な要因により、一時的に財務状況が悪化する時期もあるでしょう。一時的な業績悪化であれば、規模を縮小し対応できるかもしれません。そのようなとき在籍出向が役立ちます。
一時的な規模の縮小に対応できる
コロナ禍の影響を大きく受けた企業は、一時的に事業を縮小せざるを得ない状況です。そこで事業縮小の際、社員へ在籍出向を命じるケースがあります。
在籍出向のため出向元との労働契約は継続した状態です。事業を縮小している一時のみ、社員は人材を必要とする出向先で勤務します。その間の給与は出向先から支払われるため、給与の心配はいりません。
また出向元が再び以前同様の規模で事業を行うときには、社員として出向元へ戻り勤務できます。
産業雇用安定助成金を活用できるケースも
一時的な事業規模縮小を実施するに当たり、雇用調整を目的として社員へ出向を命じた企業は、「産業雇用安定助成金」を活用できるケースがあります。
雇用調整が目的で、出向期間終了後は元の職場へ戻るなら、出向元企業は「出向運営経費」や「出向初期経費」のサポートを受けられます。
また新型コロナウイルス感染症による影響を受けた出向であれば、子会社間や代表取締役が同一人物の企業間での出向も対象です。
在籍出向のきっかけは?
在籍出向によって雇用調整を行う場合、出向先はどのように決まるのでしょうか。取引先や知り合いの会社へ出向する方法の他、マッチングサービスを利用するケースもあります。
取引先や知り合いの会社へ打診する
厚生労働省によると、在籍出向を打診する先として約半数を占め最も多いのが、取引先や社長同士が知り合いの企業です。そのためもともと知っており、信頼関係のある出向先になるケースが多いでしょう。
出向を命じられる社員としても、日頃から交流があり知っている企業であれば、安心して勤務できるはずです。他に金融機関から紹介を受けた企業へ、出向するケースもあります。
無料で利用できる出向のマッチングサービス
取引先や知り合いの企業で出向を受け入れておらず、金融機関からの紹介にも頼れないこともあるでしょう。身の回りで出向先が見つからなかった場合、産業雇用安定センターが実施している、「マッチングサービス」を利用するケースもあります。
在籍出向による雇用調整を希望する企業と、人材を必要としている企業とをつなぐサポートを、無料で受けられる仕組みです。47都道府県の県庁所在地にある、産業雇用安定センターの事務所にて、相談を受け付けています。
出向契約の締結をするまでには、条件を話し合う場や、人事労務担当者や労働者などによる、出向先の見学などの機会も設けられます。そのため働きやすい職場であることを見極めた上で、出向先へ向かうことが可能です。
在籍出向を命じるには条件がある
企業が在籍出向を命じるには「出向命令権」を保有しており、「権利濫用」ではないことを満たす必要があります。仮に企業が出向命令権を持っていたとしても、権利濫用に当たる場合には、在籍出向命令に従わなくて構いません。
出向命令権があること
出向命令権があれば、企業は社員へ出向を命じられます。ただしこの権利を企業が持つには、出向の内容や期間などの詳細について、「労働契約書」や「就業規則」に記載されていなければいけません。
加えて記載内容に基づき、実際に出向が行われている事実も必要です。この条件を満たしていれば、個別に同意を得ていなくても契約書や就業規則へのサインで、社員の同意を得たと見なされます。
また社員にとって出向が不利益にならないこともポイントです。社員に不利益となる権利濫用についても解説します。
出向命令が権利濫用ではないこと
企業が社員へ命じた出向が権利濫用に当たるかどうかは、「労働契約法第14条」に照らし合わせ判断します。濫用と考えられるのは、以下に当てはまるケースです。
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例えば無断早退や無断欠勤で職場を乱した社員に対し、社内に適したポストがないからという理由のみで、出向を命じたケースがありました。この場合の出向は職場を乱す社員を追い出すためのものと考えられるため、権利濫用とした判例があります。
また高齢の両親や病人が家族内にいて、出向先へ引っ越せず、他に看護を任せられる人もいないケースでは、業務上の必要性と比べ社員の不利益が大きいと判断され、権利濫用と見なされることがあるそうです。
出向は人事に有効活用できる
勤務先の企業に出向を命じられる場合、その目的はキャリア形成・人事戦略・企業間交流・雇用調整に分類されます。企業にとってはもちろん、社員にとっても今後の仕事に、プラスに影響する可能性が高いでしょう。
近年では在籍出向を用い、雇用調整を行うケースも増加中です。一時的に事業規模を縮小する方針でも、社員が出向先で勤務できれば雇用が守られます。また事業を元の規模へ戻すときには、再び出向元の企業で勤務可能です。
ただし企業が出向を命じるには、業務上の必要と社員の不利益を比べ、合理的なものでなければいけません。仮に不合理な出向命令や、社員の不利益が大き過ぎる場合には、権利濫用であり無効とされた判例もあります。
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