農業の確定申告(青色申告)を効率化する会計ソフトを厳選。農業特有の会計処理(農業簿記)に対応したソフトの選び方を、「農業専門ソフト」と「汎用クラウド(freee, MF等)」の比較を交えてプロが解説します。
農業経営において、確定申告は避けて通れない重要な業務です。しかし、農業特有の会計処理、いわゆる農業簿記は複雑で、手書きやExcelでの管理は膨大な時間がかかるだけでなく、ミスの原因にもなります。
さらに、経営のセーフティネットである「収入保険制度」への加入・継続には、複式簿記による青色申告の実績が必須条件となっています。
会計ソフトの導入は、この負担を劇的に軽減します。実際に経理工数を50%削減した事例も報告されており、スマート農業やデータ経営の第一歩として、経営の「見える化」にも直結します。
しかし、農業向けの会計ソフトを選ぼうとすると、「ソリマチのような農業専門ソフト」と「freeeのような汎用クラウド会計」のどちらが自社に適しているのか、最大の分岐点に直面します。
この記事では、小規模農家や農業法人が会計ソフトを選ぶ上で最大の悩みである「農業専門ソフト」と「汎用クラウド会計」の違いを徹底比較し、おすすめの製品と具体的な選び方を解説します。
結論:農業の会計ソフト選びは「専門ソフト」と「汎用クラウド」の2択
農業経営者向けの会計ソフト選びは、大きく「農業専門ソフト」と「汎用クラウド会計ソフト」の2択に分かれます。
JA(農協)との連携や厳密な原価計算を重視するなら農業専門ソフト、スマホでの入力や銀行連携による日々の効率化を最優先するなら汎用クラウド会計ソフトが候補となります。ただし、最終的な「農業所得用決算書」の作成機能には決定的な違いがあり、この点が選択の最重要ポイントです。
両者の特徴を以下の表にまとめます。
| 比較軸 | 農業専門ソフト(ソリマチ等) | 汎用クラウド会計(freee, MF等) |
| 農業対応度 | ◎(完全対応) | △(設定・工夫が必要) |
| 特有の勘定科目 | 標準搭載 | 手動での初期設定が必要 |
| 農業用決算書 | ◎(ほぼ自動作成) | ×~△(非対応または手動入力) |
| 自動連携 | ○(銀行・JA連携対応) | ◎(銀行・カード・レジ連携が強力) |
| スマホ対応 | △(限定的または非対応) | ◎(入力・確認が容易) |
| コスト | △(初期費用+保守料) | ○(安価な月額制) |
| 導入推奨者 | 申告を完璧に自動化したい、JA連携必須、原価計算重視 | 日々の記帳効率化を最重視、かつ決算書は別途作成できる |
農業会計の「そもそも」:なぜ専用ソフト(または対応ソフト)が必要なのか?
農業会計が一般の商業と異なる理由は、主に「特有の勘定科目」「専用の決算書様式」「青色申告の強い動機付け」の3点にあります。これらが、手書きやExcelでの管理を困難にし、農業に対応した会計ソフトを必須としています。
1. 農業簿記特有の「勘定科目」がある
農業簿記では、一般的な商業簿記にはない特有の勘定科目を多用します。例えば「種苗費」「素畜費」「農薬衛生費」「肥料費」などがこれにあたります。これらの経費を正確に分類・管理できなければ、正しい損益計算はできません。会計ソフトがこれらの科目に標準対応しているか、あるいは簡単に設定できるかが最初の関門となります。
2. 農業所得用の「確定申告書(青色申告決算書)」が必要
青色申告の際、所得を計算する決算書が一般用とは別に「農業所得用」の様式として定められています。特に、収穫までに複数年かかる作物や家畜の「仕掛品(育成費用)」の計算は、農業会計において最も複雑な処理の一つです。
農業所得用決算書の作成に、一部の汎用クラウド会計ソフトは標準対応していない(手動入力必須、または非対応)ため、ソフト選定時にはこの「農業所得用決算書への対応」が最も重要です。
3. 青色申告のメリット(特別控除・収入保険)
なぜ会計ソフトを導入してまで複雑な青色申告(複式簿記)に取り組むべきか。その最大の理由は、最大65万円の特別控除という節税メリットに加え、農業経営者特有の強い動機があります。
それが、農林水産省が管轄する「収入保険制度」です。自然災害や価格低下による売上減少を補填するこの保険への加入・継続には、「青色申告の実績(1年以上)」が必須要件となっています。会計ソフトの導入は、節税と経営リスク対策を両立させるための不可欠な投資です。
【効率化重視】汎用クラウド会計ソフト おすすめ3選(農業対応)
銀行口座やクレジットカードとの自動連携、スマホでの入力など、日々の記帳業務の「効率化」を最重視する層には、汎用クラウド会計ソフトも選択肢となります。ただし、農業所得用決算書の作成には制限があるため、その点を理解した上で選ぶ必要があります。
freee会計
freee会計の最大の特徴は、簿記の知識がなくても直感的に操作できるUIと、銀行口座やクレジットカードとの強力な自動連携機能です。「簿記が苦手」だが「スマホで効率化したい」場合に適しています。
農業への活用としては、農業用の勘定科目を初期設定でテンプレート登録することで対応可能です。また、外部の農業管理サービス「Agrion販売管理」とAPI連携し、販売データを取り込むこともできます。
ただし、肝心の「農業所得用決算書」の作成において、freee会計の帳簿からの連携機能はなく、決算書は手動で入力・調整する必要があります。
マネーフォワード クラウド会計
マネーフォワード クラウド会計も、freee会計と同様に金融機関との自動連携が強力です。JAバンクを含む多くの金融機関に対応しています。会計知識がある程度あるユーザーからは、freee会計よりも操作しやすいという評価もあります。
農業用の勘定科目の設定は可能で、日々の仕訳管理には活用できます。
ただし、最も注意しなければならない点があります。マネーフォワード クラウド会計は「農業所得用の青色申告決算書」の作成機能には対応していません。そのため、日々の記帳はソフトで行い、決算書は国税庁の「確定申告書等作成コーナー」などで別途作成する作業が必須となります。
弥生会計(やよいの青色申告 オンライン / 弥生会計 Next)

弥生会計シリーズは、会計ソフトとしての長い実績と高い信頼性が強みです。特に「ITが苦手」な層にとって、電話やチャットによる手厚いサポート体制は大きな安心材料となります。
農業に特化したプランはありませんが、汎用プランで勘定科目を設定して対応します。公式サイトでも農業での活用事例が紹介されており、日々の記帳には活用可能です。ただし、freee会計やマネーフォワード クラウド会計と同様に、農業所得用決算書への対応については、自力での作成や税理士のサポートが前提となるかを確認する必要があります。
【専門性重視】農業特化型の会計ソフト おすすめ3選
農業簿記特有の勘定科目や「農業所得用決算書」の作成、JA連携など、農業特有の処理をミスなく完璧に自動化したい場合には、農業特化型の会計ソフトが最適です。簿記が苦手な経営者こそ、これらの専門ソフトが強い味方となります。
ソリマチ 農業簿記12
「農業簿記12」は、39年の実績を誇る農業会計ソフトのデファクトスタンダードです。農業特有の処理(農業簿記、原価計算、農業所得用決算書)に完全対応しており、「間違いのないソフトを使いたい」「JAとの連携が必須」という場合に最適です。
インストール型ソフトですが、「Money Link」機能により、JAバンクやゆうちょ銀行など全国99%の金融機関の明細を自動で取り込むことが可能です。
電子帳簿保存法(JIIMA認証)にも対応しています。UIがシンプルで、無料の体験版が提供されている点も特徴です。ただし、一部で「使いづらい」という声もあり、高機能な分、初期コスト(66,000円・税込)も高めなため、体験版での確認が推奨されます。
らくらく青色申告農業版
「らくらく青色申告農業版」は、シンプルな操作性が魅力の会計ソフトです。農業所得の青色申告に特化し、機能を絞っている分、圧倒的な低コスト(新規8,800円、更新5,500円・税込)を実現しています。
利用者アンケートでは満足度97%を記録し、「操作性」と「価格」が購入の決め手となっており、「とにかく安く、青色申告(65万円控除)だけをクリアしたい」という個人の小規模農家に最適です。
インストール型で、電子帳簿保存法には非対応ですが、e-Taxソフト向けのファイル出力機能は搭載しています。後述しますが、e-Taxで申告さえすれば65万円控除は受けられるため、この点は大きな問題になりません。
FX2農業会計クラウド
「FX2農業会計クラウド」は、TKC(税理士会)のシステムを利用しており、顧問税理士と強力に連携している農業法人向けのクラウド会計ソフトです。
「農業の会計に関する指針」に基づく科目体系に対応し、電子帳簿保存法にも対応しています。
ただし、JA取引データ連携については、北海道の「クミカンデータ」のみの対応となっており、全国のJAバンク連携は「順次対応予定」とされています。導入は、顧問税理士がTKC会員であり、かつ地域のJAバンク連携に対応しているかを確認することが前提となります。
農業用会計ソフトの選び方:失敗しないための5つのチェックポイント
自社に最適な農業用会計ソフトを選ぶためには、5つの重要なチェックポイントがあります。特に「農業所得用決算書」への対応は最重要であり、次に「利用形態(クラウド/インストール)」「自動連携機能」「電子申告(e-Tax)」「サポート体制」の確認が必要です。
1. 農業簿記・農業所得用決算書への対応(最重要)
まずは、農業簿記に対応しているかどうかを確認しましょう。これには2つのレベルがあります。1つは「種苗費」などの特有の勘定科目を扱えること。そしてもう1つが、最も重要ですが、複雑な「仕掛品」の計算を含んだ「農業所得用の青色申告決算書」をソフト単体で自動作成できるか、という点です。
前述の通り、汎用クラウドソフトはこの機能に対応していないか、手動入力が必須となるため、簿記が苦手な方ほど「農業所得用決算書に完全対応」している専門ソフトを選ぶべきです。
2. クラウド型か? インストール型か?
会計ソフトには「クラウド型」と「インストール型」の2種類があり、それぞれメリット・デメリットがあります。
| 種類 | メリット | デメリット |
| クラウド型 |
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| インストール型 |
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従来は一長一短でしたが、現在はインボイス制度や電子帳簿保存法といった頻繁な法改正への自動対応、農作業の合間にスマホで入力できる利便性、PC故障時のデータ消失リスクの低減といった観点から、基本的には「クラウド型」が推奨されます。ただし、農業専門ソフトはいまだインストール型も多いため、上記のメリット・デメリットを比較検討する必要があります。
3. 銀行・カード・JAバンクとの自動連携機能
日々の記帳の手間を劇的に削減するのが、金融機関との自動連携機能です。銀行口座やクレジットカードの明細を自動で取り込み、仕訳候補を提示してくれるため、入力作業がほぼ不要になります。
特に農業経営者にとっては、メインバンクである「JAバンク」との連携に対応しているかは死活問題です。ソリマチの「MoneyLink」のように全国のJAバンクに対応しているか、導入前に必ず確認しましょう。
4. e-Tax(電子申告)への対応
e-Tax(電子申告)に対応しているかどうかも重要です。2025年(令和7年)の申告において、青色申告特別控除の最大額である65万円控除を受けるための要件は、「e-Taxを使用して申告」することです。
会計ソフトがe-Taxに直接対応しているか、あるいはe-Tax用のファイル出力機能を持っているかを確認してください。これにより、自宅から申告が可能になり、業務効率化と節税メリットの両方を享受できます。
5. サポート体制(農繁期や確定申告期に重要)
IT操作や簿記に不安がある場合、サポート体制の充実は非常に重要です。特に農繁期や、確定申告期限の直前に不明点が出た際、すぐに相談できる窓口があるかは死活問題となります。
電話やチャットでのサポートに対応しているか、サポートが無料か有料か、対応時間は平日のみか土日も可能か、といった具体的なサポート内容を選定の基準に加えることをおすすめします。
農業で会計ソフトを導入するメリット
農業経営で会計ソフトを導入するメリットは、単なる申告作業の効率化に留まりません。具体的には「会計業務(確定申告)の工数削減」「リアルタイムな財務状況の分析」「専門知識(簿記)が少なくても扱いやすい」という3つの大きな利点があります。
1. 会計業務(確定申告)の工数を大幅に削減できる
会計ソフトを導入する最大のメリットは、会計業務にかかる時間と労力を大幅に削減できることです。実際に「経理業務に掛かる工数が50%ほど減りました」という事例も報告されています。
特に、農業特有の取引や経費を扱う際に、売上や経費の入力、帳簿の作成、決算書の作成といった作業が自動化され、手動で行うよりもはるかに短時間で完了します。入力ミスなどの人為的ミスも削減できるため、より正確なデータで申告できるようになります。
2. 財務状況(収支)をリアルタイムに分析できる
会計ソフトを使用すると、財務状況をリアルタイムで把握することが可能です。多くのソフトにはグラフやレポート機能が搭載されており、収支の状況や経費の内訳を視覚的に確認できます。
これにより、例えば「どの作物が儲かっているか」「どの経費が想定を上回っているか」を迅速に分析でき、適切な経営判断に繋げられます。これはまさに、国が推進するスマート農業、データ経営の第一歩と言えます。
3. 専門知識(簿記)が少なくても扱いやすい
農業経営をしていても、簿記や会計の専門知識を持たない方も多いでしょう。そのような場合でも、特に農業に特化した会計ソフトを活用すれば、限られた知識でも簡単に業務を行えるようになります。
必要な情報を入力するだけで自動的に帳簿が作成されるため、専門知識がなくてもスムーズに会計業務を行うことができます。調査結果でも、使いやすさ(操作性)がソフト選定の決め手になったという声が多くあります。
導入前に注意すべき3つのポイント
会計ソフト導入で失敗しないためには、導入「後」の運用も見据えた3つの注意点があります。「初期設定の手間」「農繁期の入力遅延リスク」「補助金情報への対応」を事前に理解しておくことが重要です。
1. 初期設定(勘定科目・連携)に時間がかかる
会計ソフトは導入してすぐに使えるわけではなく、初期設定が必要です。特に汎用クラウドソフトを農業用にアレンジする場合、農業特有の勘定科目を一つひとつ登録する作業が発生します。また、銀行口座やJAバンクとの連携設定も必要です。この最初の設定作業が、導入後の業務効率を左右する最も重要なステップであることを認識しておきましょう。
2. 農繁期の「入力後回し」に注意
農業経営の大きな特徴として、農繁期には本業が多忙を極め、経理作業が後回しになりがちです。その結果、確定申告の時期に数ヶ月分の領収書や伝票をまとめて処理することになり、会計ソフトを導入したメリットが半減してしまいます。
この対策として、農作業の合間にスマホで領収書の写真を撮ったり、簡単な入力ができたりするクラウド型の会計ソフトが有利です。
3. 補助金・助成金の情報に対応しているか
農業経営は、さまざまな補助金や助成金制度と密接に関連しています。会計ソフトが最新の税制改正に追従しているかはもちろん、こうした農業者向けの補助金・助成金制度に関する情報提供がサポート窓口などから得られるかも、重要なチェックポイントです。専門ソフトの中には、こうした関連情報に強いものもあります。
【補足】農業の確定申告に関するよくある疑問
最後に、農業の会計ソフト導入を検討する際によくある、確定申告に関する基本的な疑問について簡潔に解説します。
Q1. 兼業農家(所得20万円以下)でも確定申告は必要?
給与所得者(サラリーマンなど)が兼業で農業を行っている場合、農業所得(売上から経費を引いた額)が年間20万円以下であれば、原則として確定申告は不要です。
ただし、農業所得が20万円を超える場合や、給与所得がない専業農家で一定以上の所得がある場合は確定申告が必要です。また、医療費控除やふるさと納税などで確定申告を行う場合は、20万円以下の農業所得も併せて申告する必要があります。
Q2. 青色申告と白色申告、どちらを選ぶべき?
結論から言えば、農業経営を行う上で「青色申告」を強く推奨します。白色申告は帳簿付けが簡易な反面、メリットがありません。
青色申告(複式簿記)を選択すれば、最大65万円の特別控除が受けられるだけでなく、赤字を3年間繰り越すことができます。そして何より、農業経営のセーフティネットである「収入保険」への加入要件を満たすことができます。会計ソフトは、この青色申告を達成するための強力なツールです。
まとめ:自社の規模とITリテラシーに合ったソフトで、農業経営を効率化しよう
農業向けの会計ソフトをご紹介しました。農業経営における会計業務は、特有の勘定科目や決算書様式があり、手作業での管理は膨大な工数がかかります。
農業の会計ソフト選びの結論は、自社の目的を明確にすることです。
- 日々の記帳作業の自動化・効率化を最優先し、決算書は手動または別途作成する割り切りができるなら「汎用クラウド会計ソフト(freee等)」。
- 簿記が苦手で、農業所得用決算書の作成まで含めてミスなく自動化したい、あるいはJA連携や原価計算を重視するなら「農業専門ソフト(ソリマチ、らくらく青色申告農業版)」。
会計ソフトの導入は、経理工数を50%削減するような「守り」の効率化だけでなく、収支をリアルタイムに分析し、データに基づいた経営判断を行う「攻め」のツールにもなります。
農業特有の仕訳に対応した会計ソフトを賢く活用して、面倒な確定申告業務から解放され、より付加価値の高い農業経営を実現しましょう。
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