「所得金額」と「収入金額」は、よく似た用語ですが、確定申告においてはまったく異なった役割があります。そのため、違いをよく理解していないと、誤った税額を算出してしまうことになるのです。
この記事では、所得金額と収入金額の違いを明らかにしたうえで、確定申告書の書き方について解説します。
この記事を監修した税理士
高崎文秀税理士事務所 - 東京都文京区本郷
「所得金額」と「収入金額」の違い、わかりますか?
「所得金額」と「収入金額」は、一般の会話の中では、同じ意味で用いることが多いのですが、所得税の計算では、厳密に意味を使い分けないと、確定申告で誤った金額を記載することになります。それぞれの違いについて解説をしていきましょう。
所得金額と収入金額は似て非なるもの
会社員の場合、給与とボーナスを合わせた全収入が収入金額です。いわゆる「年収」と呼ばれるものは、この収入金額です。一方、所得金額は、収入金額から給与所得控除を差し引いた金額です。この金額が所得税の対象になります。
個人事業主の場合は、事業で得た収入が収入金額になります。そこから経費を差し引いたものが所得金額です。所得金額は、所得税を算出する際の基礎となる金額ですから、収入と経費の額を正確に把握しなくてはいけません。
確定申告書では所得金額と収入金額の欄が分かれている
所得金額と収入金額は、確定申告上の位置づけが全く異なるため、確定申告書においては、それぞれ該当する記入欄に記載します。
次に確定申告書の所得金額と収入金額を書き込む欄を示します。
会社員が確定申告をする場合、確定申告書第一表の「収入金額等」の「給与」の欄に収入金額を記載します。源泉徴収票の「支払金額」の欄に記載されている金額です。
また「所得金額等」の「給与」の欄に所得金額を記載します。源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」の欄に記載されている金額です。
青色申告をする個人事業主であれば、1年間の売上金額である収入金額を、「収入金額等」の「事業→営業等」の欄に記載します。
その収入金額から、経費と青色申告特別控除額を差し引いた金額を「所得金額等」の「営業等」の欄に記載します。これが所得金額になります。
10種類の所得とそれぞれの税額の計算方法
所得には、会社員の「給与所得」、個人事業主の「事業所得」を含めて、すべてで10種類あります。どのような所得があるのかを紹介するとともに、それぞれの税額の出し方を解説します。なお、複数の収入がある人は、それぞれの所得金額を合わせて合計所得金額を算出します。
給与所得
給与所得は、会社員や公務員などの給与所得者の所得です。給与所得者は経費が認められないため、経費に相当する金額を「給与所得控除額」として収入金額から差し引きます。
収入金額-給与所得控除額=給与所得の金額 |
事業所得
事業所得は、個人事業主の所得です。事業所得は、事業で得た収入金額から営業等に必要な経費を差し引いた金額です。
収入金額-必要経費=事業所得の金額 |
雑所得
公的年金は雑所得に区分されます。その他、原稿料、講演会講師料、公的機関の各種委員報酬等の他の所得に当てはまらない所得も雑所得になります。
収入金額では、公的年金とその他の収入は分離して記載しますが、所得金額では、これらをすべてまとめて雑所得とします。
公的年金は公的年金控除額を差し引きます。その他の雑収入は、経費を差し引いた金額が所得金額になります。
(公的年金等の収入金額-公的年金等控除額)+(その他の雑所得の収入金額-必要経費)=雑所得の金額 |
不動産所得
不動産所得は、地代や家賃、権利金で得た所得です。マンションのオーナー等が対象になります。家賃などから得た収入から、事業または業務に必要な経費を差し引いたものが不動産所得になります。
なお、所有する不動産を売却して収入を得た場合は、不動産所得ではなく「譲渡所得」になります。
収入金額-必要経費=不動産所得の金額 |
山林所得
山林所得は、山林を売った所得です。
収入金額-必要経費-(特別控除額)=山林所得の金額 |
譲渡所得
譲渡所得は、ゴルフ会員権、土地、建物、株などを売った所得です。
(総収入金額)-(取得費+譲渡費用)-(特別控除額)=譲渡所得の金額 |
ゴルフ会員権の所有期間が5年以上の場合は、1/2になります。
一時所得
一時所得は、懸賞の賞金や満期生命保険金等による所得です。
{収入金額-必要経費-(特別控除額)}× 1/2=一時所得の金額 |
退職所得
退職所得は、退職金による所得です。
(収入金額-退職所得控除額)× 1/2=退職所得の金額 |
利子所得
利子所得は、公社債や預貯金等の利子による所得です。
収入金額=利子所得の金額 |
配当所得
配当所得は、株式への投資や出資の配当による所得です。
収入金額-負債利子=配当所得の金額 |
「所得金額がマイナス」ってどういうこと?
所得というと、必ずプラスの金額になるという捉え方をしがちですが、確定申告の計算をしていくと、所得金額がマイナスになることがあります。
ここでは、所得金額がマイナスになるのは、どのようなケースなのかを明らかにしたうえで、赤字になった場合の対応を解説します。
どんな状況だと所得金額がマイナスになる?
個人事業主の場合、必ずしも事業が毎年順調にいくとは限らないため、売り上げの悪い年には、売上金額から必要経費を差し引くとマイナスになることがあります。
たとえば、200万円の事業収入があっても、250万円の経費を支出したとします。この場合
200万円-(250万円)=▲50万円
の計算から、所得が50万円の赤字になります。
所得が赤字の場合、所得税が発生しないので、確定申告は必要ありませんが、あえて「損失申告」をすることの効果があります。
損失申告を行うことで、翌年以降3年間、この赤字を繰り越すことができるのです。
他の黒字で赤字を補填する「損益通算」
事業所得がマイナスになった場合、他の黒字の事業所得と相殺することができます。これを「損益通算」といいます。
損益通算ができる他の所得は
- 不動産所得
- 事業所得
- 譲渡所得(総合)
- 山林所得
の4種類です。たとえば家賃収入を得ていて黒字だとしても、事業所得が赤字だと、トータルで所得が減ることになるので節税の効果があります。
補填しきれない純損失には「損失繰越」
青色申告の場合、他の事業でも補填しきれない赤字は、翌年以降3年間繰り越すことができます。これにより、赤字の翌年に黒字になったとしても、前年の赤字を差し引くことができるので、節税効果があります。
確定申告書における所得金額の書き方
それでは確定申告書に所得金額をどのように記入すればいいのか説明をしていきましょう。所得金額を記入する書式は、それぞれ第一表と第二表に分かれています。それぞれ順番に説明をしていきます。
確定申告書(第一表)の所得金額の記載方法
確定申告書(第一表)の「収入金額」「所得金額」の記載欄を次に示します。
会社員の場合、収入金額欄の「給与㋔」の欄に、源泉徴収票の「支払金額」の額を記載します。給与所得の他に公的年金、雑所得、配当所得、一時所得があれば、それぞれの欄に記載します。
所得金額の「給与⑥」の欄は、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」に記載されている額を記載します。②~④に該当する収入があれば、所得から経費等を差し引いた金額を記入します。具体的な計算方法は、上の項「10種類の所得とそれぞれの税額の計算」を参考にしてください。
個人事業主やフリーランスとして収入を得た人は、収入金額等の「事業・営業㋐」の欄に収入を記入します。その他の欄には、それぞれ該当する収入があれば記入します。
所得金額「事業・営業等①」の欄に記入する金額は、収入から経費を差し引いた金額を記載します。青色申告事業であれば、さらに青色申告特別控除を差し引いた金額になります。そのほか、それぞれ該当する所得金額を記入します。
「合計⑫」には合計金額を記載します。
確定申告書(第二表)の所得金額の記入方法
確定申告書(第二表)の所得を記入する欄を次に示します。
第二表の「所得の内訳」には、第一表で記載した所得の内訳をすべて記載していきます。給与所得者であれば、勤務先の住所・名称等を記載して、「収入金額」と「源泉徴収税額」を記載します。
この他雑所得がある場合は、下欄「雑所得」に、報酬支払者の住所、収入金額、必要経費金額を記入しましょう。
個人事業主の場合、発注者が源泉徴収をしたうえで支払っていることがあるため、発注者が発行した支払調書等を参考に、それぞれの源泉徴収額を正確に記入します。この金額は、最終的に納税額から差し引かれるので非常に重要です。
第二表で書ききれない場合は、「別紙のとおり」として、源泉徴収額の欄と(44)合計額のみを記入します。別紙として「所得の内訳書」に内訳を記入します。
雑所得も書ききれない場合は、同じ「所得の内訳書」に記載します。
所得がマイナスのときの書き方は?
所得がマイナスであれば、税金が発生しないので確定申告は必要ありません。ただし青色申告者の場合、損失申告をすることで、赤字を翌年以降3年間繰り越すことができるので、所得がマイナスでも確定申告をする意義はあります。
確定申告書第一表では、数字がマイナスになる場合、金額の先頭に「△」を記入することで、金額がマイナスであることを示します。
損失申告は、次の書式、第四表(一)と(二)を確定申告書第一表・第二表と一緒に提出します。
初年度の赤字は、確定申告書第一表の所得金額欄の合計金額を、それぞれ「(66)経常所得」「(81)青色申告者の損失の金額」の欄に記載しましょう。
監修税理士からのコメント
高崎文秀税理士事務所 - 東京都文京区本郷
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さて、ここまで確定申告書の書き方について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
確定申告をする際は自らの収入や所得を把握するだけでなく、利用できる所得控除や配当控除についての知識が必要です。また、きちんと理解したつもりでいても計算方法を間違えていると税務署から差し戻しされるなど、かなりの労力を必要としますよね。
確定申告でお困りの方は一度、税務の専門家である税理士に相談することをオススメします。
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この記事の監修税理士
高崎文秀税理士事務所 - 東京都文京区本郷