最近社会保障や年金問題をよく耳にします。老後の生活に不安を持ち、資産形成投資として不動産投資を始める人も増えてきていますが、ここで忘れてはならないのが所得税の申告です。不動産収入は自分で確定申告を行い、税金の申告をする必要があります。
そこで今回は初めて不動産収入における確定申告の方法をお伝えしたいと思います。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
不動産に関する確定申告が必要な人
確定申告とは、所得にかかる税金の額を計算して税金を支払うための手続きです。不動産収入がある場合にはこの確定申告を行い、所得税を納税するということになります。ここでは確定申告を行う必要があるケースについてみていきましょう。
不動産で家賃収入を得ている人
アパートやマンションなどの不動産を誰かに貸して家賃収入を得た場合には、「不動産所得」になります。そのため確定申告を行い、所得税を納税しなければなりません。
給与所得などとは別にして税額を計算する必要があります。不動産の家賃収入の確定申告の方法や注意点については後ほど詳しくお伝えしたいと思います。
不動産を売却・譲渡した人
土地や建物などの不動産を売却・譲渡した場合には、「譲渡所得」になります。当然ながら、所得税と住民税を納税しなければなりませんので、確定申告する必要があります。
不動産を売却した人の確定申告の方法や注意点については後ほど詳しくお伝えしていきます。
住宅ローンを払っている人
住宅ローンを組んで自宅を新築・増改築をする場合には、「住宅ローン控除」を受けることができます。「住宅ローン減税」という言葉の方が馴染みがあるかもしれません。
具体的には入居した年から10年間(消費税10%で購入した住宅については最大13年間)は住宅ローン残高の最大1%が毎年の所得税から還付されるというものです。いくつかの要件がありますが、住宅ローン控除を受けるためには確定申告を行いましょう。
会社員で住宅ローン控除を受けようとする場合には、最初の年だけ確定申告を行っていれば翌年以降は年末調整だけで大丈夫です。毎年、会社に決まった書類を提出するだけで所得税の還付を受けられるようになります。
20万以下の所得は確定申告が不要
会社員で、その会社が年末調整を行う場合には、「給与所得や退職所得以外の所得が20万円以下」であれば所得税の確定申告の必要はありません。ただし、住民税については申告が必要になりますのでご注意ください。
不動産の家賃収入の確定申告
前述したように不動産で家賃収入を得ている人は、確定申告をする必要があります。不動産投資に関心がある人は確定申告についてしっかりと知っておくべきでしょう。確定申告についてよく制度を理解せずにいると、税務署からペナルティを受けるということも十分あり得ます。
不動産所得の求め方
初めて確定申告をする場合には、少しわかりにくいのが「所得」という考え方でしょう。
不動産所得の金額は、次のように計算します。
総収入金額-必要経費=不動産所得の金額 |
総収入金額が不動産所得ではないということに注意してください。それぞれの言葉について詳しく解説していきます。
総収入金額
ここでの「総収入金額」とは下記の4つに分類されるものを全て足した金額を示す言葉です。
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一般的には「賃貸料収入」の合計金額として捉えられがちですが、他のものを見落とさないようにしましょう。
経費
何を経費として計上できるのかという点がなかなか初心者にはわかりにくいかもしれませんが、「不動産収入を得るために直接必要な費用のうち家事上の経費と明確に区分できるもの」という考え方が最もわかりやすいでしょう。具体的には大きく4つの項目に分類することができます。
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このうち、「減価償却費」が少しわかりにくいかもしれませんので詳しく説明することにしたいと思います。
減価償却
減価償却とは、固定資産の購入額をその使える年数に応じて少しずつ分割して経費として計上するというものです。例をあげて説明してみたいと思います。
不動産に必要な100万円の冷暖房設備を購入したとします。単純にこの100万円をその年に経費として計上してしまうと、この年だけ使うために購入したように見えてしまいます。
もちろん、長期間使うつもりで購入したはずです。その考え方からすると、この経費の計上は何か違和感があります。逆に翌年以降は経費0円で冷暖房設備を使用しているということになってしまいます。これも同様に違和感がありますね。
このように減価償却とは、長期的に使用することを考えて固定資産の購入額をその支払時に経費の計上をするのではなく、使う年数に応じて分散して経費計上するのが的確であるとする考え方なのです
経費になるかの基準
不動産所得の金額を明確にするためには、経費を計上するということが必要です。不動産投資という事業に必要な費用、利益拡大に必要な費用というものがどこまでの範囲であるのかという判断はなかなか難しいものです。
私用でも使えるものを経費として計上してしまうと税務署から思わぬ指摘を受けてしまうかもしれません。逆の視点で考えてみると、税務調査が入った場合に「売上との結び付きを明確に説明できるか」という視点で考えると経費になるかどうかがわかりやすくなるかもしれません。
ここで重要なのは「その費用が、客観的に利益のために必要なものである」という説明がつくかどうかが重要です。しかしながら、この「経費に計上できるかどうか」というのは判断が非常に難しいものです。もし、迷うことがあれば専門家である税理士に聞くのがいいでしょう。
不動産を売却した人の確定申告
前述したように、マンションや土地、戸建などの不動産を売却したときの税金は給与など他の所得とは切り離して課税されるため、確定申告をする必要があります。ここでは不動産を売却した人の確定申告の注意点についてみていきたいと思います。
対象者は売却益がある人
確定申告をする必要があるのは「売却益があった」人です。逆に売却益のない人(取得費、経費が売却額を上回った人)は「原則不要」となります。しかしながら売却益のない人でも、確定申告はしておいた方が良いでしょう。
損益がある人でも確定申告はすべき
不動産を売却してマイナスが出た場合においても、確定申告をしておいたほうがいいでしょう。譲渡所得がマイナスの場合は売却による所得税等発生しませんが、別で収入を得ている人はそこでの所得税を損益から相殺できるためです。これを「損益通算」といいます。例を挙げてみてみましょう。
例えば、給与所得が500万円で不動産所得が赤字で100万円であったとします。損益通算することで給与所得から不動産所得の赤字分を差し引くことができます。つまりここでは500万円-100万円=400万円ということになり、400万円のみに所得税が課税されます。損益通算できるかどうかは、一定の条件がありますので損益があり、損益通算したい人は税理士に相談してみるのがいいでしょう。
譲渡所得の計算方法
さて、不動産を売却した場合で確定申告をすることになったら譲渡所得の計算方法について考えてみましょう。譲渡所得は下記の計算によって算出することができます。
譲渡所得=譲渡収入金額[売却価格] −(取得費+譲渡費用) |
- 固定資産税 「固定資産評価額」に基づき不動産に対して毎年課税される税金。
- 損害保険料 不動産に対する災害や火災などの保険料。
- 減価償却費 不動産の固定資産を使用できる期間で分割して計上する経費。
- 修繕費 不動産の設備を修繕するための費用。
少し複雑なのですが、譲渡所得に対する税率は対象となる不動産の所有期間により税率が変わってきます。
短期譲渡所得と長期譲渡所得
不動産を譲渡した場合、長期譲渡所得と短期譲渡所得の区分に分けられて税率が変わります。譲渡した年の1月1日現在において、購入してから売却するまでの所有期間が5年以下(短期譲渡所得)か5年を超える(長期譲渡所得)かにより判断されます。
- 短期譲渡所得…39.63% (所得税30.63%・住民税9%)
- 長期譲渡所得…20.315% (所得税15.315%・住民税5%)
なぜこうした区分があるのかというと、所有期間が短いものは投機的取引を抑えて地価を安定させるために税率を高くし、長いものは住宅地の供給を促進するために税率を低くしようという狙いがあるためです。
控除について
譲渡所得税の軽減措置として「特別控除」があります。不動産を売却する際に受けられる「特別控除」には大きく2種類あります。1つには「3000万円特別控除」であり、もう1つには10年以上所有する不動産を売却する場合に受けられる特例があります。それぞれについて説明したいと思います。
- 3000万円特別控除売却する不動産が居住用であり、居住空間として使わなくなった日から3年が経過していない場合には、最高で3000万円もの特別控除を受けることができる可能性があります。確定申告を行う際に「譲渡所得の内訳書」と「除票住民票の写しか住民票の写し」を一緒に提出しましょう。
- 10年以上所有する不動産を売却する場合に受けられる特例前述した3000万円の特別控除と併用し、売却した不動産を10年以上所有していた場合には「軽減税率の特例」が受けられます。この特例を受ける場合には「登記事項証明書」が必要となります。また、不動産を売却し新しく居住用の不動産を購入した場合には「不動産買い換えの特例」を受けることができます。この特例は「3000万円特別控除」や「軽減税率の特例」との併用はできません。
前述した譲渡所得税の軽減措置としての特例は、一定の条件を満たすことと確定申告を行うことが必要となるものです。不動産を売却しようとする際にはこうした特例が受けられることをしっかりと認識しておくことで節税することができるでしょう。
不動産を取得した年の確定申告はどうなる?
住宅を取得した年の確定申告は必ず行っておきましょう。前述したようにローンを組んで住宅を買う場合には「住宅ローン控除」を受けることができるためです。面倒だと思われがちな確定申告ですが毎年の年度末の住宅ローン残高の1%が、10年間にわたって所得税から控除されるというのは非常に大きいメリットです。
家賃収入がなくても確定申告はしたほうがいい
最近では投資の目的で、会社に勤めながら不動産を取得する人も増えています。取得した年からすぐに家賃収入を生み出せないとしても確定申告はしておくメリットは大きいです。
前述したように「住宅ローン控除」が受けられるというメリットと、損益を「損益通算」できるという理由があります。「損益通算」することで、所得税の節税になります。そのため、不動産を取得した年で家賃収入がない場合にも確定申告をするメリットがあるのです。
不動産の確定申告のやり方
確定申告はすべきということを述べてきました。しかし、実際どのようにして確定申告をしていけばよいのでしょうか。具体的な方法を説明していこうと思います。
事業規模によって異なる
不動産所得は、その不動産貸付けが事業として行われているかどうかにより所得金額の計算上の取扱いが変わる場合があります。少しわかりにくいのですが下記のように考えられています。
- 賃貸する部屋が概ね10部屋以上→事業として扱う
- 独立した家屋が概ね5棟以上→事業として扱う
事業として扱う場合には事業所得となり、これ以下である場合には、事業として扱われないとために不動産所得として確定申告を行うということになります。確定申告には2種類ありますのでそれぞれの違いをわかりやすく箇条書きで説明したいと思います。
白色申告
◎ 記帳が簡単(単式簿記でOK)で申告手続きがシンプル × 特別控除を受けることができない × 赤字を3年間繰り越すことができない |
青色申告
◎ 65万円(事業的規模でない場合には10万円)の特別控除が受けられる、取引の記録が簡易簿記による場合には、10万円の特別控除もある ◎ 赤字の場合、3年間繰り越すことが可能 ◎ 青色事業専従者への給与が全額必要経費にできる ◎ 30万円未満の固定償却資産は購入時に一括経費にすることができる ◎ 自宅をオフィスとして使う場合には家賃や電気代の一部も経費にすることができる × 青色申告をするためには、申請書の提出が必要 × 複式簿記での記帳をしなければならない |
このように青色確定申告を行うメリットが大きいため、ほとんどの人が青色申告を行うことになるでしょう
必要書類
ここではメリットの大きい青色確定申告に必要な書類についてお伝えします。青色申告に必要な書類は以下のとおりです。
- 青色申告決算書
- 確定申告書B(源泉徴収票や生命保険料などの控除証明書を添付書類台紙に貼り付ける)
青色申告決算書を作成するには、複式簿記による記帳と貸借対照表及び損益計算書などが必要となります。
不動産の節税対策
不動産所有の悩みは様々だと思いますが、共通しているのは資金繰りや税金の悩みが大きいと思います。節税を考える際にはどのような点について対策を行うべきでしょうか。ここでは不動産所有者が実践できる対策をここではお伝えしたいと思います
経費を見直す
不動産オーナーが収入を伸ばすというのは非常に難しいかもしれませんが、経費を見直すということは取り組みやすく、すぐに成果が出やすく、その額も大きい重要な方法です。現在支払っている費用、事業における必要経費として計上できないものがないのかを見直してみましょう。下記のような支出は経費計上できるものですが、漏れていることがあるかもしれません。
- 不動産投資セミナーの参加費用及び参加交通費
- 修繕業者などとの打ち合わせ食事代及び交通費
- 自分が所有する物件を見回るための交通費
しかし、無理矢理に何でも経費にしてしまうと税務署からの指摘を受けることになるかもしれません。あくまで経費となるもの、ならないものとを区別することを行うことが重要です。
小規模企業共済に入る
サラリーマンには退職金がもらえる制度もありますが、個人事業主にはこうした制度はありません。小規模企業共済は、個人事業者が事業をやめたときに自ら立てるいわば「個人積立退職金」です。小規模企業共済は、掛金が全額所得控除となり受け取る際も一括であれば退職所得となるために税制面で非常に優遇されています。
不動産賃貸業であれば加入できるため、不動産業者で一定数の不動産を所有している場合には検討してみるといいでしょう。事業規模によってはおすすめの方法です。こちらのサイトを参考にしてくだい。
参考:小規模企業共済 |
損益通算で相殺する
前述してきたように、会社員などで不動産を所有しているような場合には損益通算で相殺することができます。不動産所得の損失があった場合には、こうした制度をしっかりと活用することは非常に重要です。
法人化を検討
個人で不動産を所有している場合には、節税対策として不動産管理会社を設立するという方法もあります。不動産管理会社を設立するということは、個人の不動産所得を会社に移して会社から役員・従業員へ給与を支払うということになります。こうすることで、所得税率を低く抑えることでき、給与所得控除を利用することで節税することができます。
不動産管理会社には一般的に「管理委託方式」「一括転貸方式(サブリース方式)」「不動産保有方式」の3つの種類があります。自分の運用で最も適した法人化を検討してみると良いかもしれません。なお、法人化には節税のメリットだけでなくリスクがあるということも含めて慎重に検討してください。
青色申告を行う
前述したように青色申告は65万円(事業的規模でない場合は10万円)の特別控除が受けられるなどの非常に大きい節税効果があります。
不動産収入の確定申告をしないとどうなる?
最近でも有名人が確定申告をせずに放置していたために税務調査が入り、多額の追徴課税を受けたというニュースがありました。もし確定申告逃れが見つかったら、さらに無申告課税や延滞税がかかってきます。リスクを考えると確定申告は必ずすべきです。
税務調査が入る
小規模で目立たないようにやっていれば確定申告を行わなくても良いと考える人もいるかもしれません。しかし、税務署はそうした行為を見逃すような甘い存在ではないのです。様々な情報をみて、税務調査が入ってしまうとこうした行為が明るみになってしまいます。
では、どのようなペナルティが課せられるのでしょうか。
追徴課税がある
不動産による収入があるにも関わらず確定申告を行わなかった場合には、どの様なペナルティがあるのでしょうか。まず、無申告だった収入に対しての税金が当然かかります。それにプラスされる形で無申告加算税や延滞税も発生します。これらの税金をまとめて支払う必要があります。
また、確定申告をしていた場合でも誤って過少申告してしまった場合には過少申告加算税1が必要となることがあります。(悪質な虚偽の場合には最大40%の重加算税がかかる)さらに最悪の場合、「脱税行為」として告発される可能性もあるのです。
不動産収入の確定申告をしないということは、追徴課税だけでなく取引先、金融機関など社会的な信頼を失うということです。
不動産所有者であれば税金を少しでも減らしたいという気持ちを持っています。
しかし、無申告にしてしまうとバレてしまった時のダメージは極めて大きいものです。そのため、確定申告を行うことが最大の節税だと言えます。もし、確定申告について迷うことがあれば税理士に相談してみましょう。
税理士コメント
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
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