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【前受金とは?】適切な勘定科目で仕訳する方法と「前受収益」との違い

最終更新日: 2023年03月10日

依頼を受けた業務を行う前に着手金を受け取った場合には、勘定科目「前受金」を使って仕訳をします。

商品の予約販売の際、商品受け渡しの前に支払われた一部の代金、または全額についても「前受金」の勘定科目を使い仕訳します。

この記事では、勘定科目「前受金」の正しい理解と、仕訳方法について解説します。

前受金とは

勘定科目「前受金」について
勘定科目「前受金」について

前受金は、貸借対照表上の負債(主に流動負債)に計上されます。

なぜ負債に計上されるのか、いつ売上に計上するのかを理解するには、売上についての認識基準や前受金という勘定科目の性質を知っておく必要があります。

前受金についての仕訳の具体例も紹介していますので、正しく仕訳ができるように参考にしてください。

前受金とは

前受金とは商品の引渡しや、サービスの提供をおこなう前に受け取る金銭などのことをいいます。前受金として仕訳をする取引の具体例として、次のような取引があります。

  • 商品・製品の売上代金の内金・手付金
  • 予約販売における予約金
  • 請負・受注工事の代価の内金・手付金
  • 依頼を受けた案件についての着手金
  • その他の営業取引に対する代金の内金・手付金

前受金は売上として計上できる?

前受金は、実際に商品の引渡しや、サービスの提供が完了したタイミングで売上に計上します。前受金として金銭を受け取ったタイミングでは、まだ商品の引渡しやサービスの提供が完了していないため、売上に計上することができません。

これは、企業会計原則において売上の計上については基本的に「実現主義」を採用することになっているためです。実現主義という考え方においては、

  • 財貨又は用役の移転(商品の引渡し、サービスの完了)
  • 現金又は現金同等物の取得(代金の収受、請求して代金を受け取る権利が確定した時点)

の両方が完了したタイミングで売上を計上します。

よって、商品の引渡しやサービスの提供が完了するまでは前受金として負債に計上し、売上として計上することはできません。次になぜ前受金は負債に計上されるのかを説明します。

前受金は負債(流動負債)に計上される

前受金には、借入金のように金銭を返済する義務は発生しません。ではなぜ負債に計上されるのでしょうか?

それは、前受金として金銭を受け取った場合には、商品を引渡しやサービスを提供する義務が発生するためです。

例えば、工事を受注した際に頭金として金銭を受け取ると、工事を完成させなければいけません。この「工事を完成させる義務」を負っているということが、「借入金を返済する義務」と同じように負債があると考えられるため、前受金が負債に計上されます。

また、前受金は基本的には流動負債に計上されますが、流動負債に計上されない場合があります。どのような基準で区分されるのかを見ていきましょう。

納品やサービスの提供が年をまたいだ場合

頭金などとして金銭を受け取ってから1年を超えて納品されたり、サービスが提供が完了する場合に計上される前受金は、流動負債ではなく固定負債に計上されます。

これは、貸借対照表において資産や負債を流動、固定のいずれに区分するかを判断するための基準として、「1年基準」という考え方に基づいています。

前受金が基本的に流動負債に計上されるのは、前受金として金銭を収受してから1年以内には、商品の引渡しやサービスの提供が完了すると考えられているためです。

ほとんどの前受金を計上するケースでは流動負債に計上されますが、納品などが1年を超える場合には固定負債に計上されるので注意してください。次に前受金の仕訳例を紹介します。

前受金の仕訳例

前受金の仕訳
前受金の仕訳例

前受金の仕訳例を具体的に見ていきましょう。今回は、個人事業主であるWEBデザイナーがホームページを作成する案件で前受金を受け取ったケースです。

前受金の仕訳例①

60万円の案件を受注し、20万円を手付金として現金で受け取った。

借方 現金 200,000円 貸方 前受金 200,000円

完成品を納入し、報酬として残りの40万円を請求し、普通預金に振り込まれた。

借方 前受金 200,000円 貸方 売上 600,000円
普通預金 400,000円

前受金の仕訳例②

60万円の案件を受注し、手付金として普通預金に20万円の振込がされた。

借方 普通預金 200,000円 貸方 前受金 200,000円

完成品を納入し、残金の40万円が銀行に振り込まれた。

借方 前受金 200,000円 貸方 売上高 600,000円
普通預金 400,000円

売掛金があるときの前受金の仕訳例

60万円の案件を受注し、20万円を手付金として現金で受け取った。

借方 現金 200,000円 貸方 前受金 200,000円

完成品を納入し、残金の40万円は掛けで支払われることとなった。

借方 売掛金 400,000円 貸方 売上 600,000円
前受金 200,000円

後日、クライアントから、残りの売上40万円が普通口座に振り込まれた。

借方 普通預金 400,000円 貸方 売掛金 400,000円

前受収益、預り金、仮受金、売掛金との違い

前受収益、預り金、仮受金、売掛金との違い

前受収益をはじめとして、前受金と混同してしまいがちな勘定科目がいくつかあります。

前受金と前受収益はどちらも負債に計上されます。どちらで仕訳しても問題ないと思うかもしれませんが、適切な勘定科目を使用しないと正しい内容を決算書に反映することができません。

それぞれの勘定科目には、明確な違いがあるのできちんと違いを理解して正しく仕訳をすることを心がけましょう。

前受収益とは

前受収益とは、一定の契約に従い継続して役務の提供を行う場合にいまだ提供していない役務などに対して支払いを受けた金銭などをいいます。具体的には前受利息や、前受家賃等が該当します。前受金との違いとしては、家賃など継続して発生する収益に対して受け取る金銭を受け取った場合の仕訳に使われる点にあります。単発的な商品の販売などの頭金などを受け取った場合には、前受金を使用します。

具体例

駐車場として1ヶ月5,000円で貸し付けており、借主より翌月より3ヶ月分の駐車場代として15,000円を受け取った。

借方 現預金 15,000円 貸方 前受収益 15,000円

継続して駐車場を貸し付けており、翌月の1ヶ月が経過した。

借方 前受収益 5,000円 貸方 賃貸収入 5,000円

預り金とは

預り金とは、従業員・取引先などから後日その相手に返金、あるいはその相手に代わって第三者に支払いをするために一時的に預かった金銭などを処理する勘定科目をいいます。売上代金の前受ではないため、後に売上に計上されるものではなく、預かった金銭などを返金したり、支払いに充てた段階で精算されます。

具体例

従業員に給料を支払う際に、給料総額200,000円から源泉所得税5,000円を差引した195,000円を支払った。

借方 給与手当 200,000円 貸方 現預金 195,000円
預り金 5,000円

源泉所得税5,000円を納付した。

借方 預り金 5,000円 貸方 現預金 5,000円

仮受金とは

仮受金とは、取引の内容や金額が未確定な金銭を受け取った場合に、それらが確定するまで一時的に使用する仮の勘定科目をいいます。内容が判明したり、金額が確定したタイミングで正しい勘定科目に計上することになります。

具体例

取引先より内容不明の金銭100,000円が振り込まれた。

借方 現預金 100,000円 貸方 仮受金 100,000円

取引先に確認したところ、誤って振り込みをしたものだったため、後日返金した。

借方 仮受金 100,000円 貸方 現預金 100,000円

売掛金とは

売掛金とは、商品・製品の販売、請負加工・サービス業における役務の提供など、通常の営業取引により発生した掛(ツケ)を処理する勘定科目です。前受金とは逆に、まだ代金を受け取っていない金額が計上され、貸借対照表上では資産に計上されます。

具体例

取引先に商品を販売し、販売代金100,000円を請求した。なお、代金は翌月支払われることになってる。

借方 売掛金 100,000円 貸方 売上高 100,000円

翌月に100,000円が取引先より振り込まれた。

借方 現預金 100,000円 貸方 売掛金 100,000円

前払金とは

商品の仕入れなどで商品代金の一部を、内金(手付金)として先に相手に支払うことがあります。商品の受け取り前に先払いしたときに使う勘定科目が前払金です。自分が相手に内金を支払ったとき(渡す側)には前払金、受け取る側になったときは前受金を使って仕訳をします。前払金を支払うことで商品を受け取る権利が生じるため、貸借対照表上の資産に計上にします。

具体例

取引先から300,000円の商品を購入する約束をし、商品代金の一部100,000円を現金で前払いした。

借方 前払金 100,000円 貸方 現金 100,000円

翌月、取引先から商品を受け取って、残金は掛けとした。

借方 仕入 300,000円 貸方 買掛金 200,000円
前払金 100,000円

前受金の消費税区分

前受金として金銭を受け取ったタイミングでは、消費税は課税されません。では、いつのタイミングで消費税が課税されるのでしょうか。消費税の課税方法と合わせて前受金の消費税区分について見ていきましょう。

前受金は課税対象とならない

消費税は、売上の計上するタイミングと同様に商品の引渡し時や、サービス提供時に課税されます。よって商品の引渡やサービスの提供がされてない前受金を受け取った時点では、消費税は課税されず、後に売上に計上される納品などのタイミングで消費税が課税されます。

前受金の仕訳例

消費税(10%)を含んだ前受金の仕訳例を紹介します。

具体例

取引先から案件330,000円(内消費税30,000円)の依頼があり、内金として100,000円を受け取り、後日納品をし、残金が銀行に振り込まれた。330,000円(内消費税30,000円)のうち、内金として100,000円を受け取った。

借方 現金 100,000円 貸方 前受金 100,000円

案件を納品し、残金が銀行に振り込まれた。

借方 普通預金 230,000円 貸方 売上高 300,000円
前受金 100,000円 仮受消費税等  30,000円

消費税は前受金を受け取った時点では課税されず、売上計上した際に課税される点に注意してください。

前受金の請求書の書き方

前受金の請求書の書き方
前受金の請求書の書き方

前受金(手付金や着手金)を請求するときの、請求書の書き方を確認しておきましょう。どの取引の前受金(手付金や着手金)なのかがわかるように、詳細に記載することが大切です。相手が誤解することを未然に防ぐためにも、取引の内容は詳しく記載しましょう。

消費税は納品したタイミングで課税されるため、前受金の請求書作成時点では請求書には含めない点に注意してください。

 前受金の請求書の書き方

前受金(手付金)の請求書に記載する項目を確認します。注意すべき点は、手付金には消費税が課税されないことです。必ず記載が必要なのは、以下の5項目です。具体例をあげて説明します。

具体例

WebデザイナーAが、B社からホームページ作成の仕事を100万円で受注。10/1に手付金10万円を請求する場合の請求書。

項目 記載例
請求者の名前 WebデザイナーA
請求先の名前・事業者名 B社
発行年月日 2020年10月1日
取引内容 ホームページ作成費 100万円 1件 / 内、手付金10万円

※取引内容には、どの取引に関することなのか、サービス名や数量、単価、合計金額を記載します。そのうちいくらを手付金として請求するかを明記します。

請求金額(請求明細) 10万円

※前受金(手付金)の入金時に領収書を発行しますが、収入印紙が必要となりますのでご注意ください。

納品やサービスの提供が完了したときの請求書の書き方

この時点で残金の請求をします。請求金額の総額、すでに受けとった金額(前受金)、残りの請求金額を記載してください。消費税は、請求総額にかかる消費税額です。消費税率も明記しておきましょう。請求書に必ず記載が必要なのは、以下の6項目です。

具体例

Webデザイナーが100万円の仕事を受注、手付金として10万円を受領後、サービスの提供が完了したので、残金を請求する。

項目 記載例
請求者の名前 WebデザイナーA
請求先の名前・事業者名 B社
請求先の名前・事業者名 2020年10月1日
取引内容 ホームページ作成費 100万円 1件 / 内、手付金10万円受領済み。残金90万

※取引内容には、どの取引に関することなのか、サービス名や数量、単価、合計金額を記載します。そのうちいくらを手付金として受領済みで、残金はいくらなのかをを明記します。

消費税、税率 消費税 100,000円(10%)

※消費税は請求総額に10%を掛けて算出します

請求金額(請求明細) 100万円
請求総額110万円ー手付金10万円=100万(今回のご請求額)※請求金額には、請求金額の総額、前受金で入金済みの金額、残りの請求金額などの内訳を明記しましょう。「請求金額ー前受金=今回の請求額(残りの請求金額)」などわかりやすいように記載するのがポイントです。消費税、税率も必ず記載します。

建設業における前受金「未成工事受入金」とは

建設業における前受金「未成工事受入金」とは
建設業における前受金「未成工事受入金」とは

建設業の会計では業界特有の会計処理をしており、前受金の代わりの勘定科目として「未成工事受入金」というものがあります。

他業種にはない、建設業特有の会計処理なので確認しておきましょう。また、売上の計上時期にも建設業独自の基準があります。

未成工事受入金とは

建設業はその他の業種とは違い、前受金の代わりに「未成工事受入金」という勘定科目を用います。

前受金を用いずに未成工事受入金としているのには、建設業ならではの前払金保証制度があるためです。

この前払金保証制度は、着工時に請負業者へ前払金を支払う制度で、一般的には着工時に40%の前払金が支払われ、完成時に残りの60%が支払われます。

建設業の工事では、完成品の引き渡しまでに時間がかかるため、他の業種よりも前受金(未成工事受入金)について明確に定められているのです。

建設業における売上の計上時期

「工事完成基準」と「工事進行基準」の2種類があります。

工事完成基準

工事完成基準では、工事が完成して引き渡しが完了した日に一括して売上計上し、収益を認識します。

請け負った工事を完成させ引き渡し、収益として受け取る金額が確定したタイミングを完成と考えており、売上計上できるのは完成後の引き渡し時であり、入金時点ではない点に注意してください。

完成までに得た代金は「未成工事受入金」として計上し、完成までの支出は「未成工事支出金」として計上します。

具体例

工事金額1,100,000円(内消費税100,000円)のうち、着手金として400,000円入金があった。

借方 現金預金 400,000円 貸方 未成工事受入金 400,000円

その後工事が完成し引き渡しを行い、工事代金全額が振り込まれた。

借方 完成工事未収入金 700,000円 貸方 完成工事高 1,000,000円
未成工事受入金 400,000円 仮受消費税 100,000円

工事進行基準

工事進行基準では、基準日における工事の進捗度に応じた収益・原価の計上をおこないます。

工事完成前であっても、工事原価の計上、未成工事受入金と完成工事高の振替処理が必要になるため、注意しましょう。

具体例

工事を1,000,000円で受注している件で、着手金を受け取った。基準日の工事進捗度を確認し計上。その後、工事が完成し引き渡した。着手金として330,000円受取った。そのうち30,000円は消費税で、工事完成時に申告するものとする。

着手金として330,000円受取った。そのうち30,000円は消費税で、工事完成時に申告するものとする。

借方 現金預金 330,000円 貸方 未成工事受入金 300,000円
仮受消費税等  30,000円

着工して初めての決算を迎えた。工事の進捗度は40%。

工事代金:1,000,000円×工事進捗度40%=400,000円(完成工事高)
工事完成高:400,000円ー未成工事受入金300,000円=100,000円(完成工事未収入金)

借方 完成工事未収入金

(売掛金)

100,000円 貸方 完成工事高

(売上)

400,000円
未成工事受入金

(前受金)

300,000円

手付金として受け取った中の仮受消費税は預り金勘定に振り替え、翌事業年度に繰り越す。

借方 仮受消費税等 30,000円 貸方 預り金 30,000円

翌期首に、預り金勘定を振り戻す。

借方 預り金 30,000円 貸方 仮受消費税等 30,000円

工事が完成し、工事代金を受取った。

工事代金:1,000,000円ー前期完成工事高400,000円=600,000円(完成工事高)
消費税:100,000円ー前期計上消費税30,000円=70,000円(仮受消費税)
600,000円+70,000円=670,000円(完成工事未収入金)

借方 完成工事未収入金 670,000円 貸方 完成工事高 600,000円
仮受消費税等 70,000円

前受金の処理まとめ

前受金の処理まとめ
前受金の処理まとめ

 前受金についてのポイントは次のとおりです。

  • 前受金は負債科目である
  • 前受金を受け取った時点では売上計上できない
  • 前受収益など類似する勘定科目としっかり区別
  • 前受金は消費税の課税対象とならない
  • 請求書は相手に分かりやすく書く

前受金が発生すると仕訳や請求書などがややこしく感じることもありますが、資金繰りなどの観点からは資金ショートを防ぐために重要な取引でもあります。トラブルを起こさないようにポイントをしっかりと理解して正しく仕訳・管理をしましょう。また、日々の仕訳や確定申告、請求書の書き方などで分からないことがある場合には、専門家である税理士に相談することをおすすめします。消費税増税などの大きな改正についても税理士に相談すれば安心です。

この記事を監修した税理士からのコメント

越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山

前受金は損益には直接影響はありませんが業種によっては資金繰りにとても重要性があるものになってきます。工期が長くなりがちな建設業は特に重要になるので注意しましょう。あと請求書に売上と誤解されないようにしっかり【前受金】であることを分かりやすくしておくべきになります。一定のラインで【前受金】を有効に活用し健全な経営を心がけましょう!!

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この記事を監修した税理士

越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山

越智聖(おちさとる)1980年愛媛県今治市生まれ。香川大学経済学部卒。大学卒業後愛媛県西条市の税理士事務所で12年間の勤務の間に税理士試験に合格し平成27年4月に愛媛県松山市にて独立開業。スタッフ5人。法人の顧問先102件、確定申告約130件(平成30年実績)相続税申告年間約5件。“人の為に動く”を経営理念とし、愛媛県で一番話しやすい税理士と言われている。