個人事業主が自宅で仕事をしている場合、家賃を経費として計上できます。ただし事業に使用した分のみを算出する「家事按分」を行なわなければなりません。
個人事業主が家賃を経費計上する際の計算方法や仕訳方法について、詳しく解説します。
家賃を仕訳する際の勘定科目は?
事業用部分が「地代家賃」、生活用部分(家事分)が「事業主貸」です。
駐車場代や光熱費も経費にできる?
駐車場代や光熱費、通信費、共益費なども、事業に使った分は経費で落とせます。事業割合に応じて経費を算出し、計上しましょう。
この記事の監修税理士
菅野歩税理士事務所 - 宮城県仙台市宮城野区
家賃は経費にできる?ポイントは家事按分
自宅を仕事場としている場合、その家賃は経費になります。ただし経費にできるのは仕事に使用している部分のみです。
事務所を別途借りている場合
まず個人事業主が自宅とは別の場所を仕事用として賃貸し、仕事をする時以外は利用しないケースを見てみます。この場合は事務所の家賃は全て仕事をするために支払っているため、全額が経費になります。
自宅を仕事場としている場合
一方で事務所を借りずに自宅で仕事をしている場合、事業で使っている部分(事業用)のみ経費になります。
事務所を借りている人であっても、事務所に加えて自宅でも仕事をしている場合は、自宅分の家賃の一部を事業用として経費にすることが可能です。
事業用とプライベート部分(家事部分)の割合を決め、費用をこの割合で按分することを家事按分と言います。自宅の家賃を経費にするためには、家賃を家事按分して、経費にできる金額を計算しましょう。
家事按分の計算方法
家賃を家事按分する場合「使用している面積」または「使用している時間」で計算することが一般的です。一般的には家賃の2~4割、多くても5割程度になることが多いでしょう。具体的な計算例を見て行きましょう。
家事按分例①使用している面積で按分
自宅の一室を仕事用として利用している場合などには、仕事部屋の面積の割合で按分すると合理的に計算できます。
計算例
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この場合は15㎡÷60㎡=25%が事業用に使った割合です。このため100,000円×25%=25,000円が経費となります。
家事按分例②使用した時間で按分
以下は事業用に使用した時間で按分する例です。
部屋が1部屋しかない場合や、事業用の部屋を区別せずいろいろな部屋で仕事をしている場合など、部屋の面積で分けることが難しいこともあります。そうした時は事業を行っている時間の割合で按分することも合理的です。
計算例
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事業に使用している時間は、9時間×20日=180時間。1ヵ月は24時間×30日=720時間なので180÷720=25%が事業用に使った割合です。このため100,000円×25%=25,000円が経費となります。
家事按分の割合を出すのが難しい場合
事業用の部屋や、時間をどうしても明確に分けきれないこともある場合は、割合をだいたいの感覚で出すということも考えられます。
ただしこのとき、事業割合が50%を超えると経費として認められるのは難しいと判断される可能性が高い点に注意しましょう。睡眠時間を考えると、一日の半分以上仕事をしているとは実質的に考えられないためです。
また計算方法があった方がはるかに合理性を主張しやすいです。そのため極力上記①、②のような方法で見積もり、算式を根拠として残すべきと考えましょう。
家賃の勘定科目と仕訳方法
家賃を仕訳する際の勘定科目は、事業用部分を「地代家賃」、生活用部分(家事分)を「事業主貸」として計上します。
また計上方法は「家賃を1か月単位で家事按分する方法」と「1年分の家賃をまとめて家事按分する方法」の2種類です。
実際の仕訳の勘定科目と計上方法を見てみましょう。
仕訳例①家賃を1か月単位で家事按分する方法
家賃を1か月単位で家事按分する方法は、「毎月事業に費やす時間が異なる」などの理由で月ごとに家事按分の比率が異なる場合にやり易い方法です。また毎月リアルタイムで記帳をして年間の所得の予測を見たい場合にも有効でしょう。
以下の例で、実際の計算を解説します。
- 家賃月額100,000円
- 経費として計上できる金額が25,000円
- 家事分が75,000円
家賃を1か月単位で家事按分する場合、毎月家事按分をした結果を仕訳で計上しましょう。
支払った時の仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
地代家賃 | 100,000円 | 現金預金 | 100,000円 |
家事負担分振替の仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
事業主貸 | 75,000円 | 地代家賃 | 75,000円 |
この仕訳を毎月計上します。
1年間通して地代家賃として計上される金額は25,000円×12ヵ月=300,000円です。
仕訳例②1年分の家賃をまとめて家事按分する方法
1年分の家賃をまとめて家事按分する方法は、家事按分の仕訳を年に一度計上すれば良いので、事務処理的に楽です。結果として1か月単位で計上した場合と経費は変わりません。
同様に、以下の例で実際の仕訳を見てみましょう。
- 家賃月額100,000円
- 経費として計上できる金額が25,000円
- 家事分が75,000円
まずは家賃を支払うごとに毎月下記の仕訳を計上しておきます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
地代家賃 | 100,000円 | 現金預金 | 100,000円 |
1年間通して地代家賃として計上される金額は100,000×12ヵ月=1,200,000円となっています。
しかし事業用は25%なので、家事分である75%分を事業主に振替をする必要があります。この仕訳を年末に一本入れます。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
事業主貸 | 900,000円 | 地代家賃 | 900,000円 |
この結果、1年間通して地代家賃として計上される金額は1,200,000円-900,000円=300,000円となります。
敷金・礼金の仕訳方法
ここでは敷金・礼金の仕訳の方法と、それぞれ経費になるかどうかについて説明します。
敷金
敷金は入居時に支払いますが、退去時には原状回復費用と差し引きされて、返金されることが多い金銭です。そのため敷金を支払ったタイミングでは経費にはなりません。
ただし退去時に原状回復費用として修繕費を支払った場合は、経費計上が可能です。
【支払い時の仕訳】
敷金を20万円支払った場合、「敷金」など資産としての科目で計上します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
敷金 | 200,000円 | 現金預金 | 200,000円 |
【退去時の仕訳】
退去時に原状回復費用として3万円差し引かれて残金が戻ってきた場合、「修繕費」の科目で仕訳します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
現金預金 | 170,000円 | 敷金 | 200,000円 |
修繕費 | 30,000円 |
ただし、もし事務所ではなく自宅兼仕事場の場合で事業割合が25%だった場合は、修繕費として経費計上できるのは30,000円×25%=7,500円です。このため家事分75%を振替する仕訳が追加で必要になります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
事業主貸 | 22,500円 | 修繕費 | 22,500円 |
礼金
礼金は敷金と違って返金されることのない金銭のため、経費になります。
ただし20万円以上の場合、繰延資産として支出時にまず資産計上が必要です。そして5年間で均等償却します。
25万円の礼金を支払った場合の仕訳例を見てみましょう。ここでは毎年25万円÷5=5万円が経費となります。
【支払った年度の仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
地代家賃* | 50,000円 | 現金預金 | 250,000円 |
長期前払費用 | 200,000円 |
【翌年以降4年間の仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
地代家賃* | 50,000円 | 長期前払費用 | 50,000円 |
*繰延資産償却の科目を使うこともあります
契約期間が5年よりも短く、更新時に継続的に礼金を支払うような場合は、契約期間で償却することも可能です。
こちらも、もし事務所ではなく自宅兼仕事場の場合で事業割合が25%だった場合は、経費として計上できるのは25%部分だけになります。このため家事分75%部分を振替する仕訳が毎月追加で必要になります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
事業主貸 | 37,500円 | 地代家賃 | 37,500円 |
家賃関係で経費にできる費用一覧
共益費・光熱費・通信費・駐車場代は、家賃と同様に、事業割合に応じて経費に計上できます。計上漏れがないように確認しておくと良いでしょう。
共益費
共益費とは、賃貸の集合住宅などで共同スペースや施設維持のために支払う費用です。共益費も家賃と同様に扱い、事業割合に応じて経費になります。
光熱費
電気代、ガス代、水道代の光熱費は、使用回数や使用時間を考慮して決定していくことになります。
家賃と異なり事業割合を決定するのが難しいかもしれませんが、考え方としては、もし事業をしていなかったら電気代、ガス代、水道代がどの程度減るかどうかという観点で見ると合理的です。
たとえば電気代の事業割合をもし40%とした場合、事業を止めたら本当に電気代が今の6割の費用になるのかどうか、よく検討しましょう。
通信費
通信費は電話代やインターネットの通信料が該当します。利用時間などの合理的な割合で家事按分しましょう。
たとえば携帯電話を事業のみで使用する場合、100%事業用としても問題はありません。ただしもし保有する携帯が1台のみである場合は、100%事業用にしか使わないというのは常識的には考え難いところですので、100%全額を経費にする時は注意が必要です。
駐車場代
車を事業でも使用している場合、月極の駐車場代も事業割合に応じて経費になります。「走行距離」や「使用時間」に応じて事業割合を決定の上、家事按分しましょう。経費計上時は、地代家賃や賃借料といった勘定科目を使用します。
都度利用の駐車場代については、事業用かどうかが明確なことが多いでしょう。都度利用の駐車場を事業で使用した場合は、100%経費になります。この場合、家事按分の対象である月極の駐車場とは別の旅費交通費等の科目で分けて計上しておくと、事務処理上楽になります。
自動車関連費
ガソリン代、自動車税、車検代といった自動車関連費用についても事業割合に応じて経費になります。月極の駐車場と同様に、車に関連する費用の事業割合を決定しその割合で経費に計上します。
勘定科目としては自動車税は租税公課で処理することが多いですが、他の自動車関連費を「車両関連費」等の科目に集約しておくと、家事按分対象が集計されて事務処理上楽になります。
また事業割合が自動車関連費用の中で異なると整合性が取れないので、統一しておきましょう。
家賃を経費にする時の注意点
最後に、家賃を経費にする場合の注意点についてご説明します。
計算結果を証明できるものを保存しておく
時間が経つと、どのように按分の割合を決定したか忘れてしまうかもしれません。
家事按分の比率によって経費の金額が変わってきます。比率が合理的なものであると主張するために、証明できる根拠をしっかり残しておくことが必要です。
面積であれば、部屋の見取り図を保存した上で計算根拠を残しておきましょう。また時間であれば、「事業の時間を何時間と見積もったか」などの計算根拠を記録しておくのがおすすめです。
青色申告・白色申告の違いを理解しておく
青色申告と白色申告では、法令上、家事按分の規定が違います。このため経費の計上金額に違いが大きく出てくると思う方もいるかもしれませんが、結論として実務上は変わりません。
白色申告の場合、法令上(所得税法施行例第96条)は「主たる部分」が事業に必要な経費で、かつ事業割合を明確に区分できるものを経費として計上できることになっています。
青色申告の場合、取引の記録等に基づいて事業割合を明確に区分できるものを経費とするとあり、「主たる部分」についての記載がありません。
通達によると「主たる部分」は50%を超える部分かどうかで判定することになっています。このため事業割合が50%を超えないと経費にならないようにも思えますが、所得税基本通達45-2では50%以下でも事業割合を明確に区分できるなら経費になるとの記載があります。このため白色申告でも、事業割合が明確に区分できれば経費に計上することができます。
ただし明確に区分できなければ青色でも白色でも経費に計上できません。家事按分は、なによりも合理的な根拠を基に、計算過程を残しておくことが重要です。
持ち家の場合はどうする?経費にできるものとできないもの
個人事業主は持ち家で仕事をしている場合、どういった費用を経費計上できるのでしょうか。
持ち家の場合は家賃の支払はありませんが、不動産の購入費用を始めにさまざまな支出があります。
持ち家に関連する支出のうち、経費にできるものと、できないものについて確認しましょう。
建物取得額は減価償却して経費にできる
減価償却とは設備や機材といった資産の費用を、一定年数で配分する会計処理です。
建物は時の経過によって価値が減少するため、減価償却費として経費計上ができます。ただし事業割合部分のみです。
計算方法は「減価償却費=建物の取得価格×耐用年数の償却率×事業割合」で算定します。耐用年数は国税庁の耐用年数表で確認しましょう。
たとえば2,000万円の建物を購入し、25%を事業用として利用している場合を考えます。この建物の耐用年数が仮に47年(償却率0.022)とすると、20,000,000円×0.022×0.25=110,000円が1年分の経費となり、翌年以降も47年間経費として計上できます。
購入後しばらくして事業を開始した場合には、事業供用した時点の建物の評価額として未償却残高を計算します。
未償却残高=建物の取得価額-建物の取得価額×0.9×旧定額法の償却率×経過年数
耐用年数はその資産の1.5倍に相当する年数で計算します。年数に1年未満の端数があるときは、1年未満の端数は切り捨てます。業務の用に供されていなかった期間に係る年数に1年未満の端数があるときは、6月以上の端数は1年とし、6月に満たない端数は切り捨てます。
建物の固定資産税も経費にできる
持ち家の場合、固定資産税の支払が発生します。固定資産税は、事業割合部分については経費として計上可能です。勘定科目は「租税公課」を使用すると良いでしょう。
名義人が親や配偶者の場合は?
持ち家の名義人が個人事業主本人ではなく、親や配偶者の名義であるケースの場合も、事業割合分は経費計上できます。
たとえば配偶者(夫)名義の持ち家に個人事業主(妻)が住み、妻がそこで事業をしているケースでも、そのまま妻の経費にすることが可能です。
ただし「同一生計親族間」のやり取りに対しては、経費の特別ルールがあるため注意しましょう。たとえば「妻が夫に家賃をいくらか支払った」という名目の場合、経費にすることはできません。
これは同一生計間での利益操作を排除するためです。夫婦や親など同一生計親族(お財布が一緒)である場合は、お互いに金銭をやり取りしても経費や収入にならないことになっています。家賃だけでなく光熱費などの経費についても同様です。
同一生計親族に当てはまらない場合は第三者と同じ扱いになり、家賃を支払っていればその分の事業割合が経費になります。
住宅ローン返済中の場合は特に注意
住宅ローンの返済金額の内、元本部分については経費にはなりません。取得金額ではなく、借入金の返済にあたるためです。住宅ローンの金利分については、事業割合部分のみ経費にすることができます。
ただし住宅ローン減税(住宅ローン控除)を受ける場合には特に注意が必要です。
住宅ローン減税は居住用部分を対象としています。事業用の割合が50%を超えると住宅ローン減税を全く受けられなくなり、50%以下でも事業割合部分については住宅ローン減税を受けられません。ただし事業割合が10%以下の場合には全額住宅ローン減税を受けることができます。
住宅ローン減税は減税金額が大きいので、事業割合を高くして経費を計上するよりも節税効果が高い場合が多いです。どちらが有利かを事前に検討することをおすすめします。
監修税理士からのコメント
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自宅の家賃を経費に計上するには家事按分が必要で、家事按分には明確な根拠づくりや残し方が重要になってきます。また家賃以外にも経費にできる費用がいろいろとあるので、経費の計上漏れがないようにしたいところです。
しかしご自身で判断するには不安な点も出てくるかと思います。そんな時は税理士に相談することをおすすめします。税理士のサポートを受けることで、安心して節税することができます。
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この記事の監修税理士
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