農業とサラリーマンを兼ねているような兼業農家は確定申告を行うことで大きく節税できる可能性があります。
兼業農家の確定申告の手順や、節税に繋がるルールや控除を解説します。
兼業農家におすすめの確定申告の色は「青色申告」
兼業農家が確定申告をするとき、おすすめの色は「青色申告」です。
青色申告がおすすめの理由・メリットと注意点をそれぞれ解説します。
メリット1:損益通算をはじめ複数の節税手段が使える
青色申告を行うもっとも分かりやすいメリットは、節税・減税手段として損益通算をはじめとした複数の方法が利用できることです。これにより大きな節税効果を見込めます。
青色申告で利用できる節税手段のうち代表的なものをまとめると以下の通りです。
- 損益通算
- 青色申告特別控除
- 青色事業専従者給与
以上3点のうち、損益通算は白色申告でも利用可能です。しかしほか2つは白色申告では利用できない、青色申告のみのメリットです。
青色申告は白色申告と比較すると帳簿や書類作成に時間がかかるため難易度が高いですが、高い節税効果が見込まれるためチャレンジしてみる価値はあるでしょう。
メリット2:家族も農業をしているなら節税効果がアップする
兼業農家の家族も農業に従事しているのであれば節税効果がアップします。
たとえば夫が兼業農家で、妻が従業員として夫の事業を手伝っている場合、妻に支払った給与を経費として計上できます。
経費として計上できる額が増えることで、所得額が下がり、課税される金額も少なくなって節税に繋がります。
白色申告でも同様の経費計上が認められているものの、青色申告の方が節税効果が高いです。
青色申告の場合は「相当である金額」を経費として計上可能とされていますが、白色申告では「最大50万円」と金額が決まっているので、青色申告であれば50万円以上経費として計上できるチャンスがあります。
メリット3:青色申告特別控除で最大65万円の控除を受けられる
青色申告特別控除は最大で65万円の控除を受けられます。条件は厳しいものの、はじめから65万円控除を受けることを見据えて準備をすれば、問題なく条件を満たすことができます。
青色申告特別控除の控除額は3段階に分かれています。多い順に、65万円、55万円、10万円です。
最も控除額が大きい65万円の控除を受けるためには、「優良な電子帳簿の保管」が義務付けられています。
帳簿の種類を問わず、後から帳簿をつけ直すことは非常に難易度が高いので、青色申告特別控除で65万円の控除を受けたいのであれば、年の初めから電子帳簿をつけることをおすすめします。
電子帳簿のフォーマットやテンプレートは無料配布されているものもあります。無料のテンプレートを使うほか、会計ソフトを導入して帳簿をつける方法もあります。
注意点:複式帳簿のつけ方は複雑で時間がかかるケースが多い
青色申告を行うときに注意したいのが、複式帳簿のつけ方です。
複式帳簿は白色申告で用いられる単式帳簿と比べると記入する事柄が多く、複雑です。記帳にかかる時間も長くなるため、記帳作業の負担を減らすために、まめに記帳をして後回しにしないようにしましょう。
複式帳簿のつけ方はネットや書籍を用いて自分で勉強することが可能です。ある程度の会計の知識があれば確定申告書類に記入する数字のミスなどにも気づきやすくなります。
自分で勉強するほかにも、税理士に相談したり代行を依頼したりすることもできます。この場合は会計の知識がつきづらいですが、そもそもミスが発生しづらいので安心して確定申告ができます。
兼業農家で確定申告をするべき人
兼業農家で確定申告をするべき人は大きく3パターンに分けられます。
サラリーマンで兼業農家をしている人の確定申告をするべきパターンをご紹介します。
① 給与所得が年末調整をされていて農業での所得が20万円以上の人
給与所得が年末調整を受けていて、農業での所得が20万円以上の人は確定申告を行う義務があります。
この場合確定申告を行わないと脱税になる可能性もあるので、忘れずに行いましょう。
② 農業での所得の額に関わらず給与所得の年末調整が行われていない人
農業での所得額に関わらず、給与所得の年末調整が行われていない場合は所得税の清算を労働者本人が行う必要があります。
年の途中で退職した場合など、タイミングによっては再就職先でも年末調整を行わないことがあります。
思い当たることがあれば確定申告をしておいた方が安心です。
③ 農業での収支が赤字の人
農業での収支が赤字の人は赤字を繰り越せる「損益通算」を適用できます。
最大で3年間赤字を繰り越したり、繰り戻したりできる制度です。これにより給与所得に対する控除額が大きくなるので節税につながります。
兼業農家の「収入」に含まれる項目の例
兼業農家の確定申告で難しいポイントはいくつかあります。そのうちのひとつが「収入」に含まれる項目の範囲が直感的には分かりづらい点です。
兼業農家の収入について、代表的なものと見落としやすいものを紹介します。
① 作物を販売したときに得られた対価
生産した作物を販売したときに得られた対価は農家の「収入」となります。
販売経路に関係なく収入として見なされるので、即売所や道の駅、インターネット通販など様々な販路を持っていればそれだけ収入が高くなりやすい傾向があります。
収入として合算して確定申告を行いますが、内訳をどこかにメモしておくことをおすすめします。
② 自分で生産し自宅で消費した作物(家事消費分)
生産した作物を自宅で消費した分も収入としてカウントします。これを家事消費分といいます。
お金になっていないにも関わらず「収入」となる点が直感的ではないので、見落としてしまいがちな項目です。
農家向けの補助金・給付金は「事業所得」に含めて計算する
農業などの第一次産業は担い手・後継者不足が深刻化しています。国は第一次産業従事者向けに様々な補助金や給付金を支給して負担を軽くしようとしています。
これらの補助金や給付金は「事業所得」に含めて計算します。
補助金や給付金の額を含めた所得から経費を引いて課税所得額が算出されるので、経費の額次第では補助金・給付金を受け取らないほうが節税に繋がるケースもある点にご注意ください。
兼業農家が確定申告をするときに経費にできる項目の例
兼業農家が確定申告をする際は経費として計上できる項目が数多くあります。
確定申告で節税するには、できるだけ多くの経費を計上することが重要です。経費が多ければ所得の額が減り、結果的に所得税の課税を免れる可能性もあるためです。
兼業農家が経費計上できる項目の例を解説します。
① 水道料金や光熱費、ガソリン代など
農業で利用した水道料金や光熱費、農機具を動かすためのガソリン代などは事業に伴う支出であるため、経費として計上できます。
自宅を事務所として使っている場合は家事按分をして、事業に使った分のみを経費計上します。
家事按分について細かいルールは決まっていないものの、税務署の職員から按分の根拠について尋ねられたときに明確に返答できるようにルールを決めておく必要があります。
② 農地の固定資産税をはじめとした税金(租税公課)
農地の固定資産税など、様々な税金も経費計上が可能です。
納税した際の領収証や明細書は破棄せずに保管しておきましょう。
③ 種苗や農薬など栽培に関する費用
育てている作物に関する費用も事業に伴う支出であるため経費です。
レシートや領収書をもとに正確な額を経費として申請しましょう。
④ 防虫ネットやマルチングシートなど農業に使う道具
防虫ネットやマルチングシートなど、使い捨ての道具の購入費も経費になります。
使い捨てだから経費にはならないと勘違いしてしまう人もいますが、きちんと経費として計上できるのでご安心ください。
⑤ 農具の購入費用
トラクターなど農具の購入費用も経費計上できます。
この時の注意点は、トラクターなどの高価な農具は一度にすべて経費として精算するのではなく、決まったルールに基づき毎年減価償却を行います。
減価償却について、計算方法や仕分ける方法を詳しく知りたい方は関連記事をご覧ください。
⑥ 従業員に支払った給与
従業員に支払った給与は、人件費として全額経費計上できます。
基本給はもちろんのこと、残業代やボーナスなどの手当も人件費に相当します。
兼業農家が確定申告(青色申告)をする流れと手順
兼業農家の確定申告の手順は、他の業種と大きく変わりません。
流れと手順を抑えて、実際の確定申告作業にお役立てください。
① 「青色申告承認申請書」を提出する
青色申告をするためには、青色申告をしようとする年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を管轄の税務署に提出しなければなりません。
たとえば、2024年の確定申告期間で青色申告を行いたいのであれば、「青色申告承認申請書」を2024年3月15日までに提出しなければなりません。
青色申告承認申請書を未提出であったり、承認されなかったりした場合は白色申告でのみ確定申告ができます。
② 日々の収支に関する帳簿をつける
確定申告の期間が迫ってから慌てて帳簿をつけても抜け漏れが発生し、作業量も膨大なものになってしまいます。
日ごろから日々の収支に関する帳簿をつけましょう。
日々の記帳作業には会計ソフトの活用をおすすめします。会計ソフトの中には青色申告特別控除による65万円控除に対応できる「優良な電子帳簿」を作成できるものもあります。
会計ソフトを活用すれば確定申告書類の作成に関する負担を軽くできます。
③ 確定申告に関連する書類を集める
確定申告書を作成する前に、控除や経費に関する書類などを集めましょう。
この時、控除に関連するものをひとまとめにするなど、ある程度グループ分けすることをおすすめします。
グルーピングしたうえで時系列順で並べれば必要な情報にもアクセスしやすくなり、書類作成の手間を大幅に省くことも可能です。
④ 確定申告書を作成する
「確定申告書等作成コーナー」で確定申告書を作りましょう。
給与所得者であればここでマイナポータルと連携しておくと、給与所得に関する事項を自動で入力・計算してくれるためミスが発生しづらくなります。
書類作成は画面の案内に従うだけで簡単にできます。
⑤ 書類に不備がないかチェックし提出する
確定申告書を作成し終えたら、書類に不備がないかをチェックしましょう。
誤りがなければ提出し、結果を待ちます。
⑥ 納税や還付金受け取りを行う
確定申告の内容によっては、追加納税や還付金の受け取りを行います。
納税も還付金受け取りも通知が来たらすぐに対応しましょう。後回しにしていると忘れてしまい、期日を忘れてしまうリスクがあるためです。
兼業農家が確定申告で困ったときは税理士に相談しよう
兼業農家が確定申告でなにか困ったことがあったら、税理士に相談することをおすすめします。
特に経費に計上できる項目などは税務のプロである税理士に判断してもらうことで、所得の過少申告が発生するリスクを下げられます。
兼業農家が税理士に確定申告の相談をするメリット
兼業農家が税理士に確定申告に関係する相談をするメリットは、申告作業を安心して進められることです。
自力で調べて確定申告を行うことももちろん可能ですが、税理士に相談すれば自分一人では分からなかったり、知らなかったりするルールや控除についてアドバイスをもらえます。
また忙しく働いている人であれば税理士に確定申告を代行してもらえます。申告作業を税理士に任せることで、自分にしかできない作業や業務により多くの時間を割くことも可能です。
兼業農家が税理士に確定申告の相談をするデメリット
兼業農家が税理士に確定申告の相談をするデメリットは費用がかかることと、農家の困りごとを解決できる税理士はあまり数が多くないことです。
特に費用面に関しては「報酬額が高すぎてかえって赤字になってしまうのではないか」と不安に思われるでしょう。
税理士に支払う報酬で赤字になってしまうことを防ぐには、複数の税理士から見積もりを取り、料金やサービス内容を比較することが大切です。
相場を把握すれば極端な報酬価格を設定している税理士に依頼してしまう可能性は低くなります。
税理士の比較は3~5人がおすすめです。2人では相場観が分かりづらく、6人以上では比較対象が多すぎて絞りこむのが大変になるためです。
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