資産除去債務は勘定科目の一つですが、使う機会はそれほどありません。経理経験の長短にかかわらず、初めて耳にするという人も多いのではないでしょうか。資産除去債務の概要と実務に役立つ仕訳方法、開示が求められる理由について解説します。
この記事の監修税理士
菅野歩税理士事務所 - 宮城県仙台市宮城野区
資産除去債務とは
資産除去債務は、どのようなケースで使われる科目なのでしょうか。言葉の意味や対象物、会計基準を見ていきましょう。
資産除去債務の意味
資産除去債務は、貸借対照表上の「負債」に表示される勘定科目です。
取得した「有形固定資産」が将来使えなくなったときに発生する、撤去や原状回復などにかかる費用を負債として、前もって計上します。
資産除去債務の開示が、日本で適用されるようになったのは2010年からです。対象は上場企業及び上場企業の連結決算に関連する子会社で、その他の企業では開示する必要はありません。
対象となるのは「有形固定資産」
資産除去債務は、「有形固定資産」を取得したときに生じます。有形固定資産とは、会社が事業活動のために長期的に使う、目に見える資産のことです。
オフィス・工場・倉庫・店舗などの建築物はもちろん、その建築物を建てる土地・駐車場・機械類・車両・パソコンやコピー機なども有形固定資産に該当します。
資産除去債務の会計基準
企業会計基準委員会の基準では、耐用年数を過ぎた資産を、「売却」「廃棄」「リサイクル」「その他の方法」で処分することを、「有形固定資産の除去」と定義しています。
他の事業等に転用したり、事業以外のことに使ったりするケースは含まれません。処分せずにそのままにしてある状態も、資産除去には該当しません。
資産除去債務の計算方法
資産除去債務は、将来的に発生する費用です。有形固定資産を入手した時点では、金額を正確に予想するのは難しいでしょう。
このため実務では、特殊な方法を用いて金額を算出します。資産除去債務の計算のやり方を見ていきましょう。
原状回復費用の見積もり額が必要
資産除去債務の計算には、「原状回復費用」の見積もり額を使います。原状回復費用とは、賃貸物件の契約終了時に、借りたときの状態に戻すための費用です。
土地を借りた場合は、建物を撤去し更地にする費用が、建物を借りた場合は、借りた人の過失で生じた損傷の修繕費が当てはまります。
店舗などに改装したときは、改装前の状態に戻す必要があるでしょう。ただし経年劣化や通常の使用で起こり得る、損耗の修繕費用は含まれません。
原状回復費用の見積もり額は、担当業者に依頼して出してもらいます。例えば土地を借りるときは、契約する不動産会社から取得します。
割引計算の方法
取得した原状回復費用の見積もり額は、そのまま計上するわけではありません。
現在と原状を回復する時の貨幣価値は異なるため、見積もり額に一定の割引率を適用し、現在の価値に戻す「割引計算」を行います。
例えば耐用年数が5年の機械を購入していたとして、その撤去費用の見積もり額が600万円、割引率は2%だった場合の計算式は以下の通りです。また、計算の流れをわかりやすく説明するために、ここからは万以下を四捨五入して記載しますのでご注意ください。
600万円÷1.02^5=543万円
このように割引計算によって資産除去債務は543万円と求められます。
割引率の決定方法
会計基準委員会によると、資産除去債務の割引率は、「貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率」とされています。
実際には有形固定資産の取得から除去までの期間に対応する、国債の利回りを参考にして決めるのが一般的です。
減価償却費の計算方法
資産除去債務の対象となる有形固定資産の中には、時間の経過により価値が下がるものや、使えなくなるものがあります。
このような固定資産を取得する費用は、取得から使用が終わるまでの年数で分割し、毎年「減価償却費」として計上します。例えば耐用年数が5年間の機器を購入した場合は、5年かけて減価償却していくのです。
減価償却費は、「定額法」または「定率法」で計算します。定額法は毎年同じ金額ですが、定率法は毎年の残額に対し、一定の償却率をかけて計算します。初年度に最も償却額が大きく、年々減少していく仕組みです。
どちらの計算方法を使えばよいのかは、資産の内容によります。法人税法では、原則として定率法が求められているものの、定額法が望ましいとされている資産もあります。また償却率は、取得した年によって変わるので注意が必要です。
資産除去債務の仕訳
続いて資産除去債務の、具体的な仕訳を見ていきましょう。使用期間が3年の機器を1,000万円で購入し、除去見積もり額が100万円、割引率が5%のケースで解説します。
固定資産を購入したときの仕訳
固定資産を購入したときの仕訳は、借方が「機器1,086万円」、貸方が「現金1,000万円」「資産除去債務86万円」となります。86万円は、3年後に支払う100万円を現在の価値に戻した金額です。
この資産除去債務86万円という金額は、先ほど紹介した計算式で求めることができます。い。
100万円÷1.05^3=86万円
また減価償却費は定額法で計算すると、1,086万円÷3年で362万円です。仕訳は借方が「減価償却費362万円」、貸方が「減価償却累計額362万円」となります。
決算期末の仕訳
期末決算では、購入から時間が経過した分の利息費用を追加で計上します。購入時の86万円に、割引率5%をかけた「4万円」が期末の資産除去債務です。仕訳では借方が「利息費用4万円」、貸方が「資産除去債務4万円」となります。
2年目の期末決算では、86万円+4万円に割引率5%をかけた「5万円」を、利息費用及び資産除去債務とします。減価償却費は、1年目と同じです。3年目の決算時も、2年目と同じ方法で仕訳を行います。
取得から3年後に実際にかかった除去費用と、見積もり額との差は「履行差額」とします。100万円の見積もり額に対して110万円かかった場合の仕訳は、借方が「資産除去債務100万円」「履行差額10万円」、貸方が「現金110万円」です。
資産除去債務の注意点
資産除去債務を適用する際には、税効果や国際的な会計基準の考え方を理解する必要があります。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
履行時は税効果を考える必要がある
原状回復費用の見積もり額や利息費用は、会計上は「費用」ですが、税法上では「損金不算入」です。
しかし履行時は債務として確定していることから、「損金」となります。損金になるかどうかは、法人税の金額にかかわってきます。このため資産除去債務の会計処理では、税効果を考える必要があるのです。
また見積もり額や利息費用は税抜価格ですが、履行時には消費税を計上しなくてはなりません。見落とさないように、十分注意しましょう。
IFRSと日本の会計基準の相違
日本で資産除去債務の適用が始まった背景には、2010年の「IFRS(国際財務報告基準)」への合意があります。
日本の会計基準は、日本の市場及び税務との関係を前提にしたものですが、IFRSは世界中で利用することを想定した、グローバルな基準です。企業の経済的な実態を、より明らかにしようとする考え方に基づいて定められています。
IFRSと日本の会計基準の主な相違点は、以下の通りです。
- IFRS:原則主義、資産・負債アプローチ、公正価値評
- 日本の会計基準:細則主義、収益・費用アプローチ、取得原価評価
このうち資産除去債務に関連するのが、「資産・負債」の考え方です。日本の会計基準が、収益から費用を差し引いた「純利益」を重視するのに対して、IFRSは資産から負債を差し引いた「純資産」を重視しています。
資産除去債務は、純資産の内容をより明確にするために開示される項目なのです。
資産除去債務の会計処理を理解しておこう
資産除去債務は目にする機会が少ない上に、実務の際は割引率や税効果を考慮しなければならず、取り扱いが難しい勘定科目です。
従来の日本の会計基準とは、考え方も異なります。しっかりと理解を深めて、業務に備えましょう。
監修税理士のコメント
菅野歩税理士事務所 - 宮城県仙台市宮城野区
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