個人事業主になって帳簿をつけるようになると、購入した備品の勘定科目に迷うこともありませんか? 特に固定資産の会計処理や減価償却については、初めての場合よくわからない人も多いでしょう。まずは固定資産とは何かについて確認し、減価償却について正しく理解しなければなりません。
この記事では、固定資産の定義や種類について説明し、台帳管理や会計処理なども詳しく紹介します。
この記事を監修した税理士
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
固定資産とは?
個人事業主になって事業を行う際には、さまざまな備品が必要になります。それらは事業に関係するものとして経費に計上できますが、一定のものは費用に計上せずに固定資産として計上しなければなりません。
そのためには、何が固定資産となるのか、そもそも固定資産とは何かについて理解する必要があります。
ここでは、固定資産の定義について紹介しましょう。
固定資産の定義
固定資産とは、事業の運営にあたって自ら使用する財産です。事務所を構えた場合には机やイス、パソコンなどを揃えることが多いでしょう。帳簿管理のためのソフトウェアや社用車なども購入するかもしれません。このような、販売目的ではなく自ら使用するものが固定資産になります。
また、固定資産は一年を超えて使用するものでなければなりません。コピー紙や文具類など、数ヶ月で消耗するものは消耗品費としてその年の費用に計上します。
さらに固定資産に該当するのは10万円以上の備品です。10万円未満のものは費用の項目で処理します。
固定資産は、貸借対照表の「固定資産の部」に分類されるものです。一括で費用に計上せず数年に分けて減価償却することにより、費用として計上します。
固定資産の種類
固定資産は「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」の3種類に分けられます。
現金のような流通を目的とする資産ではありません。土地や建物、機械などの有形固定資産のほか、特許権などの知的財産権、のれんなど無形物も固定資産に該当します。
固定資産の種類について、詳しく見ていきましょう。
有形固定資産
有形固定資産は具体的な形がある資産です。次のようなものが該当します。
土地 | 事務所や工場、社宅などの敷地、駐車場、資材置き場など事業目的に使用される土地 |
建物 | 事務所用、店舗用などの建物本体 |
建物附属設備 | 電気設備、ガス設備、冷暖房設備など |
構築物 | トンネル、塀、橋、岸壁、焼却炉、用水池、堤防、上下水道など |
船舶 | 漁船、モーターボート、タンカーなど |
車両運搬具 | 自動車、トラック、フォークリフトなど |
機械装置 | 原材料などの加工や各種製造を行う設備全般 |
無形固定資産
無形固定資産は具体的な形がない資産です。法律上の権利やノウハウなどがこれにあたります。無形固定資産の一例は次の通りです。
知的財産権 | 登録された発明や商標などを独占的・排他的に行使できる権利
特許権、実用新案権、意匠権、商標権 |
ソフトウェア | コンピュータで処理を行うプログラム |
のれん | 企業の買収・合併の際に発生する、ブランド力やノウハウなどの対価 |
漁業権 | 一定の水面で特定の漁業を一定の期間、排他的に行う権利 |
投資、その他の資産
有形固定資産、無形固定資産に入らない資産で、会社の経営支配や取引の維持などを目的とする資産です。次のようなものが該当します。
投資有価証券 | 投資目的の株式や社債・国債などの債券など |
長期貸付金 | 返済期限が1年を超える貸付金 |
敷金・保証金 | 事務所などを賃貸する際に支払う費用 |
固定資産の台帳管理
固定資産を取得したら台帳に記載します。固定資産の台帳は、所有するすべての固定資産についての情報を集めたものです。資産名、価額、取得年月日、耐用年数、償却方法など記入して管理します。
ここでは、固定資産台帳に記載する項目や固定資産の耐用年数、固定資産の評価や減価償却の方法について紹介しましょう。
固定資産台帳に記載する項目
固定資産台帳は所有する固定資産の情報を記載するほか、減価償却の経緯を記入して償却額や償却方法などを管理します。
記載する主な項目は、次の通りです。
資産名 | 特に決まりはなく、パソコンなど同じものがある場合は製品名や型番など区別がつくように記載する |
区分 | 耐用年数表にある区分名のうち、あてはまるものを記入 |
取得年月日 | 固定資産を取得した年月日を記入 |
耐用年数 | 耐用年数表から、該当する固定資産の耐用年数(※)を調べて記入 |
償却方法 | 原則として個人事業主は定額法、法人は定率法を使う(※) |
償却率 | 国税庁が定める耐用年数ごとの償却率(※)を使う |
(※)後の項目で説明します
耐用年数表について
固定資産は数年に分けて減価償却を行いますが、その期間は固定資産ごとに異なります。パソコンは4年、金属の事務机は15年など細かく法律で定められており、それを一覧にしたのが耐用年数表です。
固定資産台帳を記入する際にはこの耐用年数表を確認し、あてはまる耐用年数を調べて記入します。該当年数の期間にわたり、帳簿上で償却を行うというのが一連の流れです。
固定資産の評価と減価償却
10万円以上の固定資産は購入時の価額を全額費用とせず、いったん資産に計上します。
時間の経過とともに価値が下がるものと考え、その年に減少した価値を評価し減価償却費として費用に計上します。これを、耐用年数の期間にわたって毎年行います。
減価償却の計算方法
減価償却の計算方法には、定額法と定率法があります。
定額法
原則として毎年同額を償却する方法です。次の計算式で算出した金額を、各事業年度に計上します。
「定額法の償却限度額=取得価額×定額法の償却率」
100,000円のパソコンを4年間で定額法により償却する場合、減価償却費は次のようになります。
100,000円×0.25=25,000円
個人事業主の場合、定額法で減価償却を行うのが原則です。
定率法
定率法は資産を取得した年は減価償却費の金額が多くなり、年とともに減少していく計算方法です。残存価額を一定割合で減価償却処理するもので、計算式は次のようになります。
「定率法の償却限度額=残存価額×定率法の償却率」
100,000円のパソコンを4年間で定率法により償却した場合、初年度の減価償却費は次のように求めます。
100,000×0.625=62,500円
固定資産を処分した際の計算方法
固定資産として減価償却していたものを途中で処分する場合、どのような処理をするのでしょうか?
固定資産の処分には、廃棄する場合と売却する場合の2通りがあります。
このうち、廃棄する場合に行う処理は「除却」です。固定資産から該当項目を削除し、未償却残高を「固定資産除却損」として損失に計上します。
一方、固定資産を売却した場合は、事業用資産であっても譲渡所得として扱います。売却時までの減価償却費は、事業所得でも譲渡所得のどちらでも選択が可能です。
未償却残高よりも売却額が高い場合、差額の売却益は譲渡所得になります。事業所得にはならないため「事業主借」で仕訳しましょう。
未償却残高より安く売却した場合は、差額は売却損として「事業主貸」に仕訳します。
減価償却の特例
固定資産でも、少額減価償却資産として全額をその年の費用に計上できる特例があります。全事業者に適用されるもの、中小企業などに限定されるものがあり、支出時に全額費用にできるものや3年間の均等償却できるものなどさまざまです。
ここでは、一括計上できる減価償却の特例について紹介しましょう。
一括償却資産
取得額が10万円以上20万円未満の固定資産については個別に減価償却をせず、「一括償却資産」として耐用年数に関係なく費用に計上することが可能です。
事業に使用した年から3年間にわたり、一括償却資産に計上した資産の合計額につき3分の1を経費に計上します。一括する固定資産の合計額に上限はありません。
少額減価償却資産
取得した固定資産が次のどちらかに該当する場合、少額減価償却資産として事業用に使用し始めた年度で全額費用に計上することができます。
- 使用可能期間が1年未満のもの
- 取得価額が10万円未満のもの
使用可能期間が1年未満とする基準は、その業種で一般的に消耗品と認識されるもので、平均的な使い方をした場合の期間で判断します。
取得価額は、セットの場合は一つの単位が判断基準です。応接セットの場合は、テーブルとイスを別々に考えません。それぞれが10万円未満でも、セットの価格が10万円を超えていれば少額減価償却資産とせず、固定資産に計上して減価償却の対象にします。
中小少額減価償却資産
中小企業や個人事業主で青色申告を申請している場合、特例があります。
少額減価償却資産の特例の特例として、令和6年(2024年)3月31日までに取得した30万円未満の固定資産は全額を一括で経費にできるというものです。
ただし、一括で費用計上できるのは年に300万円以内というのが条件になります。一つが30万円以内でも合計が300万円を超える場合は、超えた部分を固定資産として計上しなければなりません。
固定資産の会計処理
固定資産は貸借対照表の資産の部に表示される勘定科目です。資産の部は固定資産とともに流動資産と繰延資産の3つで構成されています。
固定資産の会計処理について理解するため、まずは貸借対照表とはどのようなものか理解しておきましょう。さらに、流動資産や繰延資産についても説明します。
貸借対照表とは?
貸借対照表とは事業所の決算日における財政状態を表す決算書です。資産の部が左側に、負債と資本の部が右側にあります。
- 資産の部:会社が所有する資産
- 負債の部:外部から調達した負債
- 資本の部:自己資本、これまでに得てきた利益
左側の「資産の部」の合計と、右側の「負債の部」「資本の部」の合計は必ず一致しなければなりません。
「資産」=「負債」+「純資産」
貸借対照表を見ることで、会社の経営状態がよくわかります。総資産に対する純資産の比率「自己資本比率」が高いほど、経営状態は良いといえるでしょう。
流動資産と繰延資産
「資産の部」に表示されるのは固定資産のほかに流動資産と繰延資産があります。このうち、流動資産は現金化しやすい資産のことで、現金や預金のほか、売掛金、有価証券、商品及び製品、棚卸資産(在庫)などが該当します。
繰延資産とは、過去に支出した費用のうち支出効果が1年以上に及ぶ資産です。将来の収益の獲得に貢献する可能性が高いという理由で資産に計上します。
繰延資産にできるのは創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債発行費です。これらは一括で費用に計上せず、数年にわたって収益の獲得に貢献するものと考えて償却を行います。
固定資産税と課税対象
償却資産には固定資産税が課せられます。固定資産税は、償却資産のほかに土地や建物にも課せられるものです。しかし、評価額を決める手続きはそれぞれ異なります。
ここでは、固定資産税とは何かについて説明し、土地・建物の固定資産税や車両に課せられる税金、パソコンなどの償却資産が課税対象になる場合について紹介しましょう。
固定資産税とは?
固定資産税は、1月1日時点で所有する土地や建物、償却資産に市町村が課税する税金です。1月2日以降に固定資産税の対象となる固定資産を取得した場合は、翌年から課税されます。
償却資産として課税されるのは、次の固定資産です。
- 構築物
- 建物附属設備
- 機械及び装置
- 船舶
- 航空機
- 車両及び運搬具
- 工具、器具及び備品
対象となる償却資産は幅広く、業種別に例示している地方自治体もあリます。所属する自治体のサイトを確認しておくとよいでしょう。
固定資産税は固定資産税評価額に税率(1.4パーセント)を乗じて算出され、土地や建物には同時に都市計画税も課税されます。
都市計画税は都市計画法に基づいて指定される市街化区域内の土地や建物に対して課税される地方税で、地方ごとに税率が異なるものです。
土地・建物と償却資産は評価の過程が異なる
固定資産評価額を決めて申告する過程は土地・建物と償却資産で異なり、償却資産は自己申告です。
土地や建物は各地方自治体が調査を行って課税額を決定しますが、償却資産は所有者が申告した資産について一品ごとに計算し課税額を算出します。
固定資産税には軽減措置がある
固定資産税には軽減措置があり、土地や建物の場合や新築住宅、認定長期優良住宅などで減額の措置がとられています。
償却資産の評価額は取得年月や取得価額、耐用年数に基づき計算されますが、評価額を合計した課税標準額が150万円未満の場合は課税されません。
土地・建物の固定資産税とは?
土地や建物の固定資産税は、次のものが対象になります。
- 土地:宅地、畑、鉱泉地、山林、原野など
- 建物:自宅、店舗、工場、倉庫など
土地や建物の評価額は、先述したように各自治体が決定します。土地の場合は時価の約70%が目安です。それ以外にも、所在地や面積、形状、道路の接し方などが評価基準となります。
建物の場合は、新築時で工事価格の約50%前後が目安とされていますが、家の規模や築年数によっても変わってくるでしょう。
車両に課せられる税金は?
車両は償却資産として固定資産税が課せられますが、対象になるのはクレーン車やブルドーザーなどの大型特殊自動車です。それ以外の車両は対象になりません。
車両のすべてには地方消費税や消費税が課せられますが、自動車重量税などの税金は車両の種類ごとに異なります。
パソコンは20万円以下、20万円以上だとどうなる?
償却資産の課税評価額が150万円以上で固定資産税の対象になる場合でも、20万円以下のパソコンなどでは課税対象にならない場合があります。
まず、10万円以下の少額償却資産で費用に計上するものは課税対象になりません。また、20万円以下の場合で一括償却資産として個別に減価償却せず、3年間で一括償却する資産も対象外です。
一方、中小少額減価償却資産の特例で減価償却しない固定資産の場合は、固定資産税が課せられます。特例により一括で費用計上できますが、固定資産税についてはこの特例の適用がないからです。
そのため、10万円以上20万円以下のパソコンも一括償却資産以外は課税対象になり、課税評価額が150万円以上の場合は申告しなければなりません。
まとめ)固定資産の台帳管理は税理士に相談しよう
固定資産の台帳管理は専門知識が必要となります。固定資産税の計算、申告に備えて税理士の依頼するのが安心です。
また、インターネットや書籍から得る情報だけでは、分からないこともあります。
疑問や不安があるなら、税金のプロフェッショナルである税理士から、個別ケースに応じた最適なアドバイスをしてもらいましょう。
監修税理士からのコメント
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
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