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【経理担当者必読!】法人税の損金算入のススメ【税理士監修】

最終更新日: 2023年09月05日

企業の経理担当者にとって最も重要なことのひとつは、いかに法人税を低く抑えるかだと思います。法人税は「益金 − 損金」という計算で求められた課税所得を元に計算されるので、会計上は「益金を減らし、損金を増やす」ことで節税が可能となります。では、この「損金」とは一体なんでしょう。企業会計上の「費用」や「経費」とは何が違うのでしょうか。そんな複雑で難しい「損金」について詳しくご紹介していきます。

この記事を監修した税理士

大原政人税理士事務所 - 神奈川県川崎市川崎区

大原政人(おおはらまさと) 1975年茨城県土浦市出身。法政大学経営学部経営学科卒業。 法人税申告約1500件、相続案件は約200件、確定申告案件は約1200件(開業から過去17年実績) セミナー、研修会講師 年間30回新聞、専門誌への原稿執筆多数、毎月無料の起業相談会を2回実施しています。

法人税の基礎知識

法人税とは
法人税とは

法人の損金算入の話しに入る前に、法人税の概要と課税対象となる法人など、基礎的な部分を整理しておきましょう。

1-1 法人税とは

法人税は、所定期間内に確定申告を行って納税しなければならない国税です。所定期間とは、事業年度終了日の翌日から起算して2カ月以内で、実務上は決算手続と並行して進めることになります。この2カ月間で損金算入額等を調整し、課税所得を確定して税金の計算と納税を行うことになります。

1-2 法人税が課される法人

法人税の課税対象となる法人は、普通法人、協同組合等であり、公益法人等(公益社団法人、公益財団法人、医療法人、学校法人等)は原則として対象から外れます。普通法人とは、会社法で定義された会社(株式会社、合同会社、合資会社、合名会社、特例有限会社)、一般社団法人及び一般財団法人等です。協同組合等とは、農業協同組合、生活協同組合、信用金庫など、それぞれの根拠法をもとに設立された法人で、普通法人に比べ税率が軽減されています。

1-3 法人税の計算方法

法人税の計算は、「課税所得×税率」で計算されますが、注目すべきは「課税所得」です。税率は変えようがありませんが、課税所得は、「益金-損金」で算出されますので、ルールを上手く使えば減らすことができます。企業の利益は、「収益-費用」で計算されますが、全ての費用が法人税計算上の損金として算入できるものとは限らないため、調整が必要になります。これを「税務調整」と言い、決算手続で行う「決算調整」と法人税の申告書で行う「申告調整」という手続きとなります。

この調整対象となる費用は、法人税法上「別段の定め」として損金算入に制限が加えられているものです。決算調整したものを含め、申告調整の対象となる主なものは下記のとおりであり、企業会計上の利益に、これらの調整項目を「加算」・「減算」して課税所得を計算することになります。

(表1)主な申告調整項目

調整項目 申告調整対象 課税所得への影響
益金算入 退職給与引当金等の目的外取崩額など 課税所得加算要素
益金不算入 受取配当金

資産の評価益(原則不算入)

還付金等

課税所得減算要素
損金算入 国庫補助金によって取得した固定資産の圧縮額

青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越

収用・換地処分等の特別控除

課税所得減算要素
損金不算入 資産の評価損(原則不算入)

過大な役員給与、役員賞与等

寄付金の損金不算入額

法人税額等(法人税、住民税、罰金等)

(※税金は、法人税等や罰金系の税金以外は損金算入が可能です)

減価償却費償却超過額

貸倒引当金その他引当金の繰入超過額

交際費(原則不算入)

課税所得加算要素

1-4 法人税の節税方法

法人税の節税方法を端的に言うと、支出した費用からいかに多く損金に算入することができるかということになりますが、無理に損金を増やそうとすると逆効果になる場合があります。後述する「役員給与」は、(表1)の損金不算入の項目にあるように、一般的な金額から大きく乖離して計上すると損金として認めてもらえず、申告調整で課税所得に加算されてしまいます。

このような損金算入に制限を加えられている費用について、損金としての要件を満たすことが節税の第一歩であると言えます。まずは、損金に算入できるものと、損金算入が制限される項目について知ることが重要です。

損金の基礎知識

損金とは

費用を損金に算入するためには、法人税法や租税特別措置法という法令で定められた要件を満たさなければなりません。そのためには、企業会計と税法上の取扱いの相違を確認し、対処法を整理する必要があります。

2-1 損金とは

課税所得を計算する際に、益金から控除するものが損金ですが、前述の通り、実際に支出した費用が全て損金と認められるわけではないため、費用と損金の関係を理解する必要があります。各会計制度の違いと、費用・損金の性格は次のように整理することができます。

(表2)損金について

利益と課税所得の関係 会計制度 会計目的と費用・損金の性格
収益-費用=利益 企業会計 公正妥当な会計基準に基づく財務諸表を作成し、株主などの投資家や金融機関に公表するために、近い将来に発生する費用を見積もって計上することも求められる。
益金-損金=課税所得 税務会計 税の公平性を確保するため、同一のルールで全ての課税対象法人から税金を徴するため、発生が確認でき、負担の確定したものしか損金として計上できない。
会計目的の違いから、費用と損金は、「計上のタイミング」と「対象となる範囲」が異なるという関係にあります。

2-2 費用・経費と損金の違い

損金の「対象となる範囲」と、費用のうち損金として計上するための「タイミング」の判断基準は下記の通りです。

(表3)損金項目

損金項目 内容
売上原価、完成工事原価、その他原価 製造業の仕入れ、商店などの商品の仕入れ等
販売費、一般管理費、その他費用 人件費、図書・研修費、光熱費、家賃など
損失額 貸倒損失、災害や盗難による損失など
《損金計上におけるタイミングの判断》

  • 発生主義・・・原価は、費用収益対応の原則に従って、益金として計上するタイミングで損金算入されます。
  • 債務の確定・・・損金は次の3つの債務確定基準を満たす必要があります。
  1. 債務の成立(支払い義務が生じていること)。
  2. 給付の原因となる事実が発生していること(商品引渡し、サービスの提供の事実がある)。
  3. 金額を合理的に算出できること(支払うべき金額が明確になっていること)。

損金への算入ができない項目

損金算入できない項目

損金に算入できない項目は、(表1)の損金不算入項目のほか、以下の通り、法人税法で損金算入の制限が加えられている項目が対象となります。

3-1 役員への給与・賞与

役員給与を損金に算入するためには、下記のいずれかに該当しなければなりません。要件を満たさないと、費用として支払ったにもかかわらず課税所得が増え、「利益は減り」、「税金が増える」という事態を招くことになりますので要注意です。

(表4)損金算入できる役員給与

役員給与の態様 内容
定期同額給与 支給期間が1か月以下の一定期間ごとで、一事業年度内の各支給時期における支給額が同額である給与。毎月同額支払いが要件で、月によって金額が変動するものは損金に算入できません。
事前確定届出給与(賞与) 所定の時期に確定額を支給するという取り決めに基づいて支給する給与。例えば、6月と12月に各300万円を給与として支払うことにする場合、その旨を予め株主総会や取締役会で決議されていることが要件となります。
利益連動給与 利益に関する指標を基礎として算定される給与。有価証券報告書に予めその内容が記載されていなければなりません。

3-2 役員への不当支給による給与等の損金不算入

詳細は省きますが、役員給与に対しては(表4)の規制以外に、次のような損金不算入項目があります。「役員給与の額が不相当に高額な場合の不相当額部分」、「仮装隠ぺいにより支給した役員給与」、「債務の免除による利益その他経済的な利益」です。

3-3 同族会社と経営者間の取引

同族会社の場合、経営者との間で恣意的な取引等が行われる可能性が高い為、いくつかの制約があります。そのうちの一つが「行為計算の否認」です。会社と経営者間の給与の払い過ぎや、不当に高額な買い入れや賃借料などが該当し、税務署長の権限で否認することができます。

3-4 寄付金

事業とは直接関係のない先への金銭による贈与は、基本的には寄付金として認められますが、所定の計算方法によって損金に算入できる額が制限されます。

3-5 交際費

原則は全額損金不算入ですが、特例要件が設けられています。特例による交際費の損金算入限度額は、会社の資本金の額によって次のように定められています(2014年4月1日以後に開始する事業年度)。

1.期末の資本金の額が1億円以下:次のうち有利な処理を選択できます(適用期限は2020年3月31日まで)。

  • 飲食費(社内接待分除く)の50%を損金算入
  • 年間800万円以下の交際費を全額損金算入

2.期末資本金の額が1億円超

  • 飲食費(社内接待分除く)の50%を損金算入

なお、1人あたり5,000円以下の飲食費で、一定の事項を記載した書面を保存しているものは交際費から除外され、損金に算入することができます。

損金への算入で注意すべきこと

注意すべきこととは?
注意すべきこととは?

損金算入の適否によって、会計上も税務上も大きく影響するのは、将来の損失を見積もって費用化する貸倒引当金と、事業用資産である減価償却資産の減価償却費です。

4-1 貸倒引当金

貸倒引当金とは、回収が翌期以降に回った売掛金などの売上債権が回収不能となることに備えて、予め当期の費用として計上するものです。税法上は、相手先別に個別に評価して引き当てる「個別貸倒引当金」は全額損金不算入となりますが、相手先を一括して評価・計上する場合は、所定の計算方法で算出した額を損金に算入することができます。

4-2 減価償却費

固定資産のうち、建物、機械装置、車両、器具・備品といった資産は、取得後何年にもわたって収益を生み出す投資資産ですが、時の経過によって資産価値が減少していくものでもあります。このような資産は、収益と費用を対応させるために、取得後、法定耐用年数に従って各年度の費用(減価償却費)を計上し、帳簿価額を減少させていきます。この税法基準で計上した減価償却費はその年度の損金に算入されます。

このように、減価償却資産は原則として取得年度の一括費用処理はできませんが、下記に該当する場合は、当年度の一括損金算入が可能です。

1.一括償却資産の特例

使用可能期間が1年未満又は取得価額が10万円未満の減価償却資産は、その全額を一括して損金算入が認められます。また、それ以外の取得価額が20万円未満の減価償却資産については、事業年度ごとに一括して3年間で均等償却することが認められています。

2.少額減価償却資産の特例(2020年3月31日までの時限措置)

取得価額が30万円未満の減価償却資産は、対象となる資産の取得価額の合計額が300万円に達するまでの分は、固定資産に計上せず、一括費用処理し、その年度の損金に算入できます。

まとめ

損金算入のまとめ

今回は法人税にかかる「損金」について、税法と企業会計の違いを確認しながら、その算入の可否を左右するルールについて解説しました。これらのルールを複雑にしているのは、毎年の税制改正による租税特別措置(特例)の存在です。これらの特例は企業にとっては税額を減らせる制度ですので、改正が繰り返されて複雑になったとしても、内容を把握しておくことが大切です。

監修税理士からのコメント

大原政人税理士事務所 - 神奈川県川崎市川崎区

損金経理といって自ら経費として経理処理をしていない場合などは損金として認められないものもありますので、日頃の経理処理がいづれにしても大切になります。特に役員に関する給与は厳格に認められるケースが定められている上に、変更も基本的に年に一回など制約がありますので、決算時に慎重な判断が求められます。

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