独立したばかりの個人事業主・フリーランスの方の中には、「屋号」をどうしようかと迷っている方も少なくないのではないでしょうか。フリーランスになりたての頃は、そもそも屋号とは何なのか、はっきり理解できていないことも多いもの。この記事では、フリーランスの屋号の基礎や、屋号を付けるメリット、具体的な屋号の付け方などを解説します。
フリーランスに屋号は必要?
屋号は必須ではありません。開業届の「屋号」の欄も空欄で提出して大丈夫です。
屋号をつけるメリットは?
形としてのメリットは、屋号付き銀行口座の開設ができるようになることでしょう。これによってプライベートと事業の口座を分けて管理できるようになります。
フリーランスの屋号とは?
フリーランス・個人事業主の屋号とは、簡単に言えば「ビジネスネーム」のことです。フリーランスの屋号は、たとえば作家であればペンネーム、会社であれば企業名に該当するものだと考えておけば良いでしょう。本項では、フリーランスの屋号の概要と、フリーランスの屋号の例について紹介します。
フリーランスの屋号とは
前述の通り屋号とは、主にフリーランス(個人事業主)が名乗るビジネスネームのことです。「フリーランスなら必ず屋号が必要」というわけではなく、屋号を付けるかどうかは任意とされています。実際に屋号を付けずに活動しているフリーランスも多いですが、一方で屋号を付けることには様々なメリットがあることも事実。フリーランスが屋号を付けるメリットについては、次項にて詳しく見ていきます。
フリーライターの屋号例
フリーランスの中でも最近多いフリーライターの場合、屋号にはどんなものがあるのでしょうか。フリーライターの屋号のパターンとして一般的なのは、主に3つ。
- 本名の場合
- ペンネーム
- 店名・事務所名など
本名を使うのであれば、たとえば「田中聡」といった本名がそのままビジネスネームになります。ペンネームなら、本名とは無関係の「山田隆一」といった架空の名前風に。またそれ以外の一般的な屋号を付けるパターンだと、たとえば「田中ライティング」「プログレスライティング」などといった屋号が考えられそうです。
本名がありきたりでインパクトがない場合、芸名のように別人風のペンネームを屋号にしても大丈夫ですが、検索して同じ名前の人いない、被る名前が少ない方が仕事につながります。つけたペンネームを検索すると、有名な別人(芸能人など)が多くヒットしても意味ないです。それなら本名のままの方がいいでしょう。
フリーランスデザイナーの屋号例
それではフリーランスデザイナーの場合、どのような屋号を付けるのが一般的なのでしょうか。もっともベーシックなのは、「苗字+デザイン」「名前+デザイン事務所」などのパターン。「田中デザイン」「田中聡デザイン事務所」といった具合ですね。これなら事業内容が簡単に伝わります。他には、自分の名前をまったく含めずに「ステラデザイン」など新しい屋号を付ける場合も少なくありません。
フリーランスエンジニアの屋号例
エンジニアの場合、ご自身がどの分野の技術職なのか、屋号を見ただけではっきりわかるネーミングがいいでしょう。また、ライバルとなる企業に名前負けしないことも大切です。
よくあるネーミングとしては「○○システム」(IT、プログラム)「▼▼技研」(スキルを強調)、「□□システム技研」(プログラムからネットの接続、プログラムインストールまで)、「○○電設」(エアコンの設置等)、「△△ラボ」(コンサル的要素も加味)など、ある程度、プログラムだけなのか、実際の配置や配線等力仕事も含めて行うのか、示すことができます。
もちろん、名前や名字を含まず、横文字アルファベットにするのもいいでしょう。あえて和式で全部漢字にする方法もありますが、センスが問われます。
フリーランスwebデザイナーの屋号例
WEBデザイナーになるとアーティスティックな名前をデザイナー以上につけても、名前負けしません。「○○デザイン」「△△ウェブ」「□□デザイン事務所」などに加えて、「●●工房」といった和式の名前や「△△ラボ」「WEBデザインの◆◆屋」など「匠」「職人」を強調できるネーミングにしても面白いと思います。
フリーランスカメラマンの屋号例
自分の店舗を持つのか、どこからに派遣して撮影する専門なのかでも若干異なりますが、「●●studio」「△△フォト工房」のように写真を扱うところだとわかるものがいいでしょう。
おしゃれな写真を撮影しているのであれば、横文字で「Clear Fine Photograph」のようにナチュラルで透明なイメージを与えるネーミングだと、いろいろな人がお願いしやすくなるはずです。
こんなにある!フリーランスが屋号を持つメリットを5つ挙げます
フリーランスや個人事業主になっても、必ず屋号を持つ義務はありません。屋号を登録しないで本名でやっていくのも自分自身を売り込みで行くいう点では意味があります。あくまで「任意」である屋号を、フリーランスが持つメリットは何なのでしょうか。考えられそうなメリットを5つまとめました。
メリット①出来る仕事をアピールしやすい
フリーランスがビジネス活動をする場合、まず必要になるのが「自分ができる仕事を潜在顧客やクライアントにアピールすること」です。何ができるのかアピールして伝えなければ、当然ながら仕事を受注することはできません。
そこで自分ができる仕事をアピールする手段として一番簡潔かつダイレクトなのが、「田中聡デザイン事務所」「田中ライティング」など事業内容が分かりやすい屋号を持つことなのです。名刺やホームページの肩書にこうした屋号を掲載すれば、業務内容が分かりやすくなります。
メリット②屋号付き口座の開設で資金管理がスムーズ
フリーランスが独立して屋号をつけると、銀行で個人事業主専用の「屋号付き銀行口座」を開けるようになります。屋号付き口座を開設してプライベートと事業の資金管理を別口座で行うようにすれば、普段の帳簿付けが一気に簡単に。確定申告の準備もよりスムーズになります。
メリット③事業への愛着・熱意がより高まる?
事業用の屋号を付けると、事業に対する思いや愛着、熱意がより高まります。また屋号を持つことは、プライベートとビジネスを気持ちの上で切り替えるときにも効果的です。
事業用の屋号を付けると、事業に対する思いや愛着、熱意がより高まります。また屋号を持つことは、プライベートとビジネスを気持ちの上で切り替えるときにも効果的です。屋号をつけずに本名で仕事をしていると、「仕事で●●万円稼いだ!」という意識が希薄になってしまい、「なあなあ」で済ませてしまおうという気持ちになりやすいです。
会社を設立した人は、法人登記をしたので廃業を避けたいと思いますよね。フリーランスの屋号の登記は必須ではないですが、「屋号が消える→廃業になる」という意識を持てば、自分の分身(屋号)を消したくないという意識が強くなり仕事に対して真剣に向き合うことにつながります。
メリット④顧客からの信頼が得やすくなる
個人の「◎◎△△」で仕事をしていると、顧客は「この人は副業でしているのではないか」「何が強みなのかわからない。何でも屋としてうちの仕事を請け負っているのではないか?」と思ってしまいます。
法人を設立し株式会社になった方が対外的信用や融資を受けたやすくなると言われますが、屋号はその一段階前の状態です。
「将来的にはこの分野でやっていくんだ」ということがわかりやすい屋号であれば、その人の強みがわかり信頼して仕事を依頼できるようになります。
「◇山◆代」さんに仕事を依頼するよりも「◇山デザインクリエイション」に仕事を依頼した方が、デザインの仕事をしっかりやってもらえそうですよね。
メリット⑤知名度を高めるのに活躍
屋号は本名とは別に自分の仕事上の名刺の載せる「社名」「芸名」です。1回会っただけの普通の人の名前を憶えている人は少ないですが、それが一度聞いたら忘れられない名前だったら「そういえば〇〇さんという人いたよね」と思い出してもらえるかもしれず、徐々に人気が出て知名度アップにもつながるかもしれません。屋号をもつと顧客に覚えてもらいやすいのです。
有名演歌歌手などは、そういう聞いたら忘れない人多いですよね。吉幾三(よし!行くぞ!)さん、段田男さん、冠二郎さん……、名前負けしない能力も必要ですが、平凡な名前よりもインパクトがある屋号の方が認知されやすいです。
印象に残る屋号の付け方は?考え方のポイント4選
フリーランスが屋号を持つことにはたくさんのメリットがありますが、「どんな屋号を付ければいいか迷っている……」と悩んでいる方も多いはず。子どもの名前のように画数を気にして決めるのもアリですが、一番大事なのは「自分のやっていることが分かりやすく伝えおぼえてもらえる」屋号を付けることです。本項では、屋号を付ける際に気を付けておきたいことを解説します。
屋号には使用できる文字は?
フリーランスの屋号の付け方には制限が少なく、自分の屋号は比較的自由に付けることができます。屋号に使える文字は、「漢字・ひらがな・カタカナ・数字・アルファベット(大文字&小文字)・一部の記号」です。
一部の記号とは、「,」「.」「-」「&」「・」「’」の6つの記号のこと。逆にそれ以外の記号は、屋号には使用できません。
会社を連想させる屋号は付けられない
比較的自由に付けられるフリーランス・個人事業主の屋号ですが、「株式会社」「社団法人」など、会社や法人として認定を受けているように誤解させるような屋号は付けられません。なのでたとえば、「細谷デザイン事務所」という屋号はOKですが、「細谷デザイン株式会社」などといった屋号は誤解を招くためNGとなります。
印象に残る屋号には濁点をつけるとよい!
屋号のつけ方に迷った場合、屋号の中で濁点(〝)やパ行があると、聞いた時に印象に残りやすく、聞き間違いも防げるということがあります。「中島」さんの場合、本名が「ナカシマ」であっても「ナカジマ企画」など濁点を入れた方がスッと耳に入ってきませんか?
ただ、すべての屋号に濁点を入れるべき、というわけではなく、濁点がない方が澄んでいてクリーン、女性的な印象を与えることもあります。エステティックサロンや水を扱う仕事であれば、「エステサロン クラリス」「エステティックアクア」みたいなネーミングの方が「エステジャム」「エステガイア」よりも清潔そうです。
基本は濁点を入れた方が印象に残る、しかし、業種や内容によっては濁点なしの方が清らかな印象がある、が正解になります。※濁点をつけない方がいい例も示しました。
すでに使われている屋号は避けるのがベター
法人設立の場合、同じ住所地への登記でなければ、同じ社名でも法的に問題ありません。屋号の場合もそれに準じていて、すでに使われている屋号は避けるのがベターです。
理由は3つあります。
理由1 検索して上位に来ない可能性を避ける
同じ屋号(会社名)を付けた場合、すでにあるところが、有名で実績がある場合、ネットで検索しても上位に来るのはその会社ばかりです。「○○クリエーション」というデザインの仕事を立ち上げたのに「そちらはITの会社ですか?それしかヒットしないんですが……」と言われてしまいます。
理由2 同名の会社、屋号が事件を起こしたとき風評被害を受ける
凄惨な事件や悪質な問題を起こした団体と同じ名前だと「当社は○○とは一切関係のない団体です」と出さざるを得なくなります。それでも、「ひょっとしたら関係があるのでは?」と避ける人、悪質なデマをネットに流す人は0ではありません。
どこともかぶらないオリジナル名前であればそうしたリスクはありません。
理由3 商標と被ると認められない
社名や屋号は被ってもいいのですが、商標登録しているものと同じ名称はつけられません。商標権の差止裁判や損害賠償請求を受ける恐れがあります。
某夢の国のマスコットを屋号に付けたら大変なことになります。
法人の場合、国税庁の法人番号公表サイト(※)で、すでに登記されている社名名称が既に使われているかどうかチェックしてみましょう。
サイトトップの「法人の商号および所在地から法人番号を調べる」の検索欄に屋号を入れてみましょう。「部分一致検索」で該当するものがなければ、少なくとも今ある法人には、みなさんがつけたい屋号と被るものはありません。
個人の屋号の場合、法人のように登記しませんし、法人に対応するマイナンバーと紐づくわけでもなく国税庁HPからチェックできませんので、ネットで検索して同じ名称があるかどうの確認最低でもしておいて下さい。
屋号の登録方法
以上屋号について理解を深めていただき、付ける屋号が決まったら、あとはそれを登録するだけです。フリーランス・個人事業主の屋号の登録方法は、法人設立のように法務局へ行き定款と一緒に登記をする必要はなく、複雑な手続きや手数料などは一切必要なく、とても簡単です。本項では、フリーランスの屋号の登録方法を紹介します。
屋号は開業届に記入して提出
フリーランスの屋号の登録方法は、開業する際税務署に提出する「開業届」に、屋号を記入するだけです。開業届には屋号を記載する欄があるので、そこに決めた屋号を書いて提出しましょう。その他の申請や手続きは不要です。手数料もかかりません。
屋号の登録は義務ではない
なお屋号の登録は義務ではないので、屋号がなければ開業届の屋号欄はそのまま空欄で提出して大丈夫です。屋号が空欄だからといって確定申告の際に税務署の人に何か言われることはありませんので、安心してください。
また、屋号はペンネームのようなもののため、複数の屋号を持つことも可能です。登録していない屋号を使用することも可能ですし、ライターの仕事は「○○企画」、デザインの仕事は「クリエーションデザイン○○」のように屋号を変えて仕事を請け負うこともできます。
屋号変更したら次回の確定申告時に一緒に行えばOK
屋号を途中で変更した場合や、すでに確定申告などを個人として屋号をつけずに行っている人が、やはり屋号をつけたいという場合、それを届け出る義務はありません。確定申告や納税は個人(本名)として行っているので、法人が申告や納税をする会社とは違います。
任意で届け出たい場合のみ、屋号を変更(あるいは屋号を創設)してから最初の確定申告時に、確定申告書の屋号欄に新屋号を記入しておきましょう。その際、屋号変更した旨も書くと親切です(「変更しました」「新しく屋号をつけました」など)。
転居などの際に税務署に提出する「納税地の異動に関する届出」の提出の際に、ついでに屋号の変更を届け出ることも可能です。
つまり、わざわざ税務署に行き、屋号だけを新規創設、変更する手続きは必要ないということです。なにかのついでに行えば、その際に反映されます。
屋号を登記するメリットあり!考えた屋号は登記すると安心!
せっかく自分で考えてつけたオリジナリティある屋号を悪用されたくない、なりすましは嫌だ、という場合、法務局に行き「商号登記」という形で登記することもできます。繰り返しになりますが、屋号の登記は義務ではなくしなくていいものですが、それをあえてするというケースです。
実は商号登記は「すでにある商号と同じものを新たに登記」「自分が登記してから別の人が同じ商号を使用、登記」いずれも可能です。
「それでは意味がないのでは?」と思われるかもしれませんが、メリットがあります。
1.対外的な信用が高まる
法務局で登記すれば、だれでも登記簿として見られることになります。法人の登記と同様、どういう人がどういう目的でやっている仕事なのかわかります。どこの誰だか知らない人に依頼するのではなく、公的に認められた商号を持つ人に依頼できるという信頼感は非常に大きいのです。
また、銀行などから融資を受けたい場合も、商号登記がない人よりも商号登記がある人の方が借りやすくなります。
対外的な評価は屋号を商号登記している人>>屋号がある人>>屋号がなく個人名で営業している人になります。
2.同一の本店所在地に同一商号を登記することができない
第三者が自分の住所に同じ商号で開業するという嫌がらせ、業務妨害を防ぐことが目的です。先にその住所に商号登録した人が、その屋号を使うことができます。
3.法人化後も同じ屋号が使える
屋号を登記してしまえば、軌道に乗り法人化した後も同じ屋号で営業できます。「○○ウェブ企画」として登記すれば、法人化して「株式会社○○ウェブ企画」としてそのまま「○○ウェブ企画」を使い続けられます。