納得のいく葬儀を上げるために、葬儀の準備を生前に行うのは1つの手です。ご本人やご遺族が納得している場合、生前から葬儀の準備を行うことは不謹慎ではありません。
葬儀の事前準備として、今からでも確認・用意しておくべきことを解説します。
この記事を監修した専門家
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
二村 祐輔
葬儀の準備はいつから始める?
実際に葬儀を執り行う際、遺族は戸惑いや悲しみの中でいろいろな対応が迫られます。事前に合意や手順などに、心がまえがなされていれば、喪主としての余裕が保てます。
それで少しは満足のいく葬儀を執り行えるでしょう。
終活を意識し始めたとき
葬儀の準備を始めるきっかけは、ご本人が終活を意識し始めたときや、葬儀社の行う見学会に参加したときなどがおすすめです。
余命宣告を受けるような差し迫った状況ではなく、元気なときに準備を進めることで「自分の葬儀は、このようにしてほしい」と本人の希望をはっきり知ることができます。
葬儀の前に確認しておくこと
葬儀を執り行うにあたり、把握しておくべきことを解説します。具体的には以下を確認しておきましょう。
- 喪主の決定
- 宗派の確認
- 正確な住所や本籍の確認
- 訃報連絡先のリスト作成
- 遺影写真の準備
- 葬儀費用の把握と用意
- 安置場所の候補立て
喪主の決定
喪主は葬儀の際にさまざまなことを決定し、中心となって進めていく取りまとめ役です。あらかじめ誰が喪主を務めるかを、決定しておきましょう。
一般的には故人の配偶者、長男、次男、長女、次女、故人の両親、故人の兄弟姉妹の順番で決まります。
宗派の確認
本人の宗教や宗派の確認も必要です。先祖代々お世話になっている菩提寺があるかどうか確認し、菩提寺があれば寺院名と、連絡先を把握しておきましょう。
仏教以外で葬儀を行う場合も同様で、依頼する神社や教会の連絡先が必要です。
正確な住所や本籍の確認
臨終後から葬儀の間までに、市町村役場に死亡届を提出する必要があります。提出先は、死亡者の死亡地・本籍地又は届出人の所在地の市役所、区役所又は町村役場です。本籍地は、生前に確認しておきましょう。
住民登録地の市町村役場で、本籍地記載の住民票を取れば、本籍地を確認できます。住民票を取得するためにも、故人の正確な住所地を知っておく必要があります。
訃報連絡先をリストにしておく
家族の友人や会社の人など、訃報の連絡をする相手を、リスト化しておくことも重要です。その中で葬儀に参列してほしい人と、訃報の連絡のみをする人に分けておくと、分かりやすいでしょう。
とくに葬儀に参列してほしい人には、速やかに連絡する必要があります。一般的な葬儀の流れは、逝去後、日時の打ち合わせを踏まえて2,3日後に通夜となり、葬儀はその翌日です。いずれにしても時間的余裕はあまりありません。連絡を受けた相手も参列するための準備が必要なので、連絡先がすぐに分かるようにリスト化は必須です。
また配偶者の場合、全ての親族を把握していないこともよくあります。その場合は、顔の広い親族にお願いして、連絡を取ってもらうといいでしょう。
遺影写真を準備しておく
遺影写真に向いている写真は、本人にピントが合っており、他の人と重なっておらず、自然な表情のものです。いざ遺影用にと写真を探しても、ふさわしい写真がなかなか見つからないケースも、多くあります。
遺影写真は祭壇に飾られ、中心的な故人の印象となります。納得のいく写真にするために、生前に準備しておくのもよいでしょう。
プロに依頼して撮ってもらうこともできますし、自分で撮影したものの背景を消す加工を、葬儀社に依頼することもできます。遺影写真にふさわしい写真を、何枚か用意しておきましょう。
葬儀にかかるお金を把握し予算を決める
葬儀にかかるお金は、葬儀の形式や参列者の人数で変わります。おおよその葬儀費用を把握しておけば、いざ葬儀となったときに慌てずに済むでしょう。
一般葬・家族葬・一日葬・直葬など、葬儀にはさまざまな形式があります。生前にどの形式の葬儀を行うか、誰に参列してもらうかを決めておけば、おおよその予算が分かるので、しっかり話し合っておきましょう。
また葬儀費用は、葬儀社に支払う「葬儀そのものにかかる費用」だけではありません。僧侶に読経をお願いする場合は「寺院に支払う費用」がかかり、僧侶や参列者に感謝を伝えるために、「接待にかかる費用」もあることを覚えておきましょう。
できれば臨終後に遺体をどこに安置するかも、決めておくといいでしょう。病院の安置室にいられる時間は限られており、安置場所を速やかに決定しなければならないためです。自宅・葬儀社の施設・斎場(火葬場)などの遺体保管施設などから、候補を絞っておきましょう。
葬儀社に事前準備や事前相談をするのもおすすめ
近年では葬儀社に事前相談をする人も増えています。生前に相談しておけば、本人の意思を反映した葬儀を、行うことができるためです。また臨終直後から探すよりも、落ち着いて葬儀社を比較検討できるため、無駄な支出を防ぐことができます。
ミツモアを利用すれば、簡単な質問に答えるだけで、5社の葬儀社から相見積もりを取ることができます。利用者の口コミをチェックできたり、気になる葬儀社にはチャットで相談できたりするため、手間をかけずに葬儀社を比較検討できるでしょう。
また葬儀社だけでなく、遺影撮影カメラマンや、終活に関する作業を請け負っている業者を探すこともできます。納得のいく葬儀・終活のために、ぜひ活用してみてください。
危篤から葬儀までの準備
危篤後から葬儀を執り行うまでに準備すべきことをまとめました。ご逝去後は葬儀まで3~4日しか時間がありません。喪主や家族で協力して、準備を進めましょう。
- 親戚や親しい人に危篤の連絡
- 死亡診断書の受け取り・火葬許可証の発行手続き
- ご遺体搬送
- 葬儀社との打ち合わせ
- 僧侶へのお布施の準備
- 返礼品・香典返しの準備
- 納棺のとき棺に入れるものを準備
- 喪服の準備
親戚や親しい人に連絡する
危篤の連絡を受けたときは、できるだけ落ち着いて病院に向かいましょう。病院へ向かう際、自分自身が事故を起こさないように心の準備をしておくことが必要です。
次に家族や親戚、親しい友人など、看取るべき身近な方々に危篤を知らせます。危篤状態がいつまで続くかは不明なので、速やかに対応しましょう。この場合は手段や時間などを気にせず、最後に会ってほしい人に連絡します。
危篤の際には一応、当人の銀行口座などにも注意して、あらかじめ引き出すべきお金などを点検しておきましょう。逝去直後に故人口座がすぐ凍結されるわけではありませんが、金融機関が本人の訃報を知った時点で凍結され、以後相続の手続きが終わるまで出金が一切できなくなります。病院代や葬儀費用などが必要な場合、本人が生きている間に代理で出金しておくと安心です。
死亡診断書を受け取り火葬許可証の発行手続きをする
病院で臨終を迎えた場合は、医師が死亡診断書を発行します。死亡診断書は死亡届と1枚になっているケースが多く、必要事項を記入し、7日以内に市区町村役場に提出します。
自宅で臨終を迎えた場合は、かかりつけ医に死亡診断書を発行してもらいましょう。かかりつけ医がいない場合の孤独死では、警察が捜査調し検死がなされ死体検案書が発行されますが、役割は死亡診断書と同じです。
市区町村役場に死亡届を提出するのと同時に、火葬許可証の申請手続きをします。火葬には不可欠な書類なので、発行されたらなくさないように保管しましょう。
火葬許可証発行の手続きの代行は、葬儀社に依頼することもできます。
葬儀社に依頼しご遺体を搬送する
遺体の搬送は葬儀社に依頼するのがおすすめです。自家用のライトバンなどで寝かして搬送することもできますが、気も動転して運転に冷静さを欠く場合もあります。遺体の状況にもよりますので、衛生管理の上でも専用の寝台自動車などを葬儀社に依頼しましょう。
依頼する葬儀社が決まっておらず、先に搬送だけしたい場合は、病院に紹介される葬儀社に、遺体搬送のみを依頼することもできます。この場合はしっかり「遺体搬送のみお願いします」と伝えておくと、トラブル防止になります。
この時点で葬儀を依頼する葬儀社が決まっている場合は、速やかに葬儀社に連絡しましょう。搬送の際に死亡診断書・死体検案書の携行を求められることが多いため、遺族が書類を持って寝台自動車に同乗します。
葬儀社との打ち合わせ
ご遺体を自宅、または斎場に安置した後、実際に行う葬儀の打ち合わせを葬儀社と行います。生前に聞いていた希望を参考に、葬儀の形式を確定させましょう。
葬儀を執り行う日程や、参列者の数、斎場と火葬場の場所、オプションで行うことを取り決めます。
僧侶へのお布施の準備
葬儀社に支払う葬儀費用と別に、僧侶へのお布施を準備しましょう。葬儀でのお布施は、読経や戒名に対する感謝の気持ちを表すお金です。一般的にお布施は、葬儀の前か終えた後に渡します。
葬儀の日程や、お通夜・告別式の内容について僧侶と打ち合わせる際に、戒名を依頼します。戒名は院号や位号のランクが上がると、高額のお布施が必要になることを覚えておきましょう。
お布施は水引が付いていない不祝儀袋や白封筒に入れるか、半紙で包みます。
返礼品・香典返しの準備
近年では、お通夜や葬儀・告別式のときなど、香典を受け取った当日に香典返しをするケースが増えています。その場合は受け取る香典の金額が不明なので、2,000~3,000円の品物を用意して渡します。この返礼品は葬儀社に手配してもらうことも可能です。
本来の香典返しは、四十九日の法要が済んだこと、あるいは納骨埋葬などの報告として、四十九日の忌明け後にお届けします。
納棺のとき棺に入れるものを準備
納棺とは故人の遺体を清め、棺に入れることです。一般的な葬儀の場合は、お通夜の当日に行われます。
故人の好きだったものや愛用していたもの、生前に相談して希望していたものを、副葬品として入れることができるため、納棺までに準備しましょう。
副葬品として入れる品物には注意点があります。ライターやスプレー缶のように、爆発する可能性があるものや、枕のような燃えにくいものは入れられません。遺体の損傷や、火葬炉の故障といった事態を避けるためにも、葬儀社に確認してから納めることをおすすめします。
喪服の準備
葬儀における喪主の服装は、男性はブラックスーツの準礼装、女性はフォーマルスーツやワンピースを選ぶ人が増えています。どちらも光沢のある素材や光る装飾品は、避けましょう。また靴やベルト、バッグなどの素材は、動物の皮を使っていないものを選ぶことがマナーです。
数珠は宗派によって房や形状が異なるため、確認してから用意しましょう。房が二つある略式念珠なら、宗派を問わず使用できます。
ハンカチ柄物より白の無地を用意します。水をよく吸うパイル地のものは便利ですが、葬儀にはふさわしくありません。不祝儀袋を入れる袱紗(ふくさ)は、紫の台付袱紗が向いています。その他にメモやペンを用意しておくと、すぐにメモを取ることができて便利です。
葬儀後に準備するもの
葬儀後は納骨を行う
葬儀が終わったら納骨の準備をします。現代の納骨はお墓の他に、室内に埋葬する「納骨堂」や、粉末状にしたお骨を海に撒く「散骨」、自宅で保管する「手元供養」があります。
家族や親族と相談して決めますが、生前に希望を聞いていた場合は、故人の遺志を尊重しましょう。
お墓や納骨堂に納骨する場合は、管理者から必ず埋葬許可証の提出を求められます。散骨の場合でも、業者によっては埋葬許可証の提出が必要です。火葬場から火葬後に渡される、日付と火葬済証の印が入った火葬許可証が埋葬許可証となりますので、納骨までなくさないように保管しましょう。
事前準備をしてスムーズに葬儀を執り行おう
葬儀を行うために、喪主はさまざまなことを判断し、準備しなければなりません。大切な人を亡くし、混乱した状態で葬儀を進めるのは大変なことなので、事前準備を進めておくのがおすすめです。
あらかじめ喪主を決めておき、宗派や本籍地を確認しておくと、葬儀形式の決定や手続きがスムーズでしょう。葬儀に参列してほしい人や、訃報の連絡をする人の連絡先をリスト化しておくことも大切です。
家族が納得いく葬儀を行い、心を込めてお別れをするためにも、葬儀の事前準備をしておきましょう。
監修者:二村 祐輔
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
『葬祭カウンセラー』認定・認証団体 主宰
東洋大学 国際観光学科 非常勤講師(葬祭ビジネス論)
著書・監修
- 『60歳からのエンディングノート入門 私の葬儀・法要・相続』(東京堂出版) 2012/10/25発行
- 『気持ちが伝わるマイ・エンディングノート』 (池田書店) 2017/9/16発行
- 『最新版 親の葬儀・法要・相続の安心ガイドブック』(ナツメ社) 2018/8/9発行
- 『葬祭のはなし』(東京新聞) 2022年現在連載
など多数
コメント
生前にいろいろ準備しておくことは大変重要なことですが、私たちには「葛藤回避」という、いやなことは考えたくないという心理も強くあります。突然切り出しても周りの家族が戸惑うばかりですので、他者の葬儀や法事、またお彼岸やお盆など季節の仏事ごとなどをきっかけに、うまく伝えることが必要です。聞いておきたいこと、伝えておいてもらいたいことは子供たちにも必ずあるはずです。生前準備をすれば、双方が安心できます。