日本の葬儀は仏式で執り行われる場合が多いですが、その中でも宗派によって葬儀の流れが異なります。自分の家族の葬儀を考えたとき、家の宗派がわからないと、葬儀の流れや納骨する場所を決められず困るでしょう。
宗派がわからないときの調べ方は、大きく以下の3つです。
- 菩提寺や親戚に聞く
- 仏壇や位碑(いはい)の特徴を確認する
- お墓の特徴を確認する
多くの場合は上記の方法で調べられるでしょう。またそれでも宗派がわからないときの、対処法も紹介します。
この記事を監修した専門家
葬送儀礼マナー普及協会 代表理事
岩田昌幸
菩提寺や親戚に聞いてみる
付き合いのある菩提寺(ぼだいじ)があるなら、菩提寺の僧侶に聞くのが一番確実でしょう。菩提寺とは一家代々が葬儀を行い、お墓がある寺のことです。
実家に菩提寺の連絡先があれば、電話をして問い合わせをしてみましょう。宗派のほかにも、法事に関してわからないことがあれば菩提寺に相談できます。
もし菩提寺がわからなければ、親戚に聞いてみるのがおすすめです。自分より年長の親戚なら、宗派または菩提寺を知っている可能性が高いでしょう。
仏壇や位牌の特徴を確認する
仏壇や位牌には、各宗派の特徴が表れています。宗派ごとの位牌の特徴をまとめました。
宗派 | 仏壇や位牌の特徴 |
天台宗 | 本尊は阿弥陀如来、釈迦如来など。本尊の右には天台大師智頭、左に最澄の絵が飾られている |
真言宗 | 本尊は大日如来。向かって右に開祖の空海、左に不動明王の絵像が祀られている |
浄土宗 | 本尊は舟形光背の阿弥陀如来像 |
浄土真宗(本願寺・大谷派) | 阿弥陀如来から出ている後光が 6本→大谷派 8本→本願寺派 |
曹洞宗 | 本尊は釈迦如来。向かって右に道元、左に瑩山の掛け軸が祀られている |
臨済宗 | 本尊は釈迦如来。脇侍は各宗派によって異なる |
日蓮宗 | 本尊は三宝尊、十界曼荼羅、日蓮上人像 |
家や実家に仏壇がある場合は、確認してみましょう。
お墓の特徴を確認する
お墓でも宗派を判別できます。宗派ごとのお墓の特徴は、以下の通りです。
宗派 | お墓の特徴 |
天台宗 | 阿弥陀如来を表す梵字(キリーク)が彫刻されていることもある |
真言宗 | 竿石に「南無大師遍照金剛」の文言がある 大日如来を表す梵字(ア号)が彫刻されていることもある |
浄土宗 | 竿石正面に「南無阿弥陀仏」や「倶会一処」の文言がある 戒名に「誉」の文字が含まれている |
浄土真宗(本願寺・大谷派) | 竿石正面に「南無阿弥陀仏」や「倶会一処」の文言がある 戒名ではなく法名と書かれている 卒塔婆がない |
臨済宗・曹洞宗 | 竿石の一番上に「○」または「空」が刻まれていることもある |
日蓮宗 | 竿石正面上に「妙法」の文字が刻まれている 戒名に「日」が入っている |
ほとんどの場合はここまで紹介したいずれかの方法で、宗派の見当がつきます。
調べてもわからないときはどうする?
菩提寺や親戚に聞いたり、位碑やお墓を調べたりしても宗派がわからないときの対処法を2つ紹介します。
本家の宗派や故人の希望に合わせる
本家の宗派がわかるのであれば、同じ宗派で葬儀を上げるのが無難です。家の宗派がわからなくとも、親戚の宗派に合わせるのは自然と言えます。もし本家の宗派を考慮せず別の宗派で執り行うと、親戚から快く思われない可能性があるでしょう。
本家の宗派もわからず故人が特定の宗派を希望している場合は、希望に合わせた葬儀を行いましょう。日本では信仰の自由が保障されているので、本人が希望する宗派で葬儀を上げても問題ありません。
もし親戚付き合いが一切なく故人の遺志も確認できない場合は、新たに宗派を決めても良いでしょう。葬儀社に相談して、各宗派の教義を聞いた上で納得のいく宗派を選ぶのがおすすめです。
無宗教葬という選択肢もある
あえて無宗教で葬儀を行うという選択肢もあります。近年は宗派にこだわらない人や、特定の宗旨・宗派にこだわらず葬儀を上げたいと思う人も増えており、無宗教葬のプランを用意する葬儀社も多いです。
無宗教葬では僧侶が読経を上げたり、参列者が焼香を上げたりすることはありません。代わりに故人の略歴紹介がメインとなり、故人が好きだった音楽をかけるといった比較的自由度が高い形式です。
無宗教葬をする場合、故人の略歴をスライドショーで流すなど演出を工夫してくれることもあります。ただし自由度が高いために、演出の難しさがある点は注意しましょう。
ひとまず俗名で葬儀をすることも
菩提寺がなく、納骨先も決まっていないが仏式で葬儀を希望する場合、とりあえず俗名(日常で使用している名前)で葬儀をすることも可能です。
お墓や納骨堂が決まったら、その時点で改めて寺院に戒名を付けていただくと良いでしょう。
後から宗派がわかった場合は?
葬儀を行う前に宗派が間違っていることに気付いた場合は、すぐに葬儀社に連絡しましょう。お詫びをしたうえで、正しい宗派で執り行うと良いです。
本来と異なる宗派で葬儀を行った後に宗派が発覚した場合は、納骨や法要は正しい宗派に沿って行うべきです。菩提寺と、今回葬儀を行った寺院に連絡をして、事情を話しましょう。
納骨や法要は宗派に沿った形で行う
寺院内に墓地がある場合、異なる宗教・宗派で葬儀をしたという理由だけで納骨を拒否されることはありません。しかし納骨時には寺院は宗派の教義の沿った儀礼をすることを要求でき、依頼者側はそれに従わなければ納骨ができないことがあります。過去の判例でも寺院側の主張が認められています。
寺院墓地は宗教施設ですから、今後とも檀家として寺院を支え付き合いをしていく意思を示す必要があるでしょう。
故人だけが家族とは別の宗教を信仰していて、葬儀だけは故人の意志を尊重したというケースも珍しくありません。どうしても今後の供養も故人の意志を尊重したいという場合は、別の墓地に遺骨を納めるか、散骨といった別の葬送方法を検討した方が良いでしょう。
宗派と宗旨の違い
宗派と混同されやすい言葉に宗旨があります。意味と違いを把握しておきましょう。
宗派とは同一宗教の中での分派という意味です。宗派ごとに葬儀の特徴が異なるため、葬儀を執り行う際は故人の宗派を確認しておかなければいけません。
宗旨とは宗教の中心になる教義で、信じている教えや考えです。しかし宗派と同じ意味合いで使われることもあります。
「宗派は何ですか?」「宗旨は何ですか?」と聞かれたら、どちらも「仏教のどの分派ですか?」という意味と考えましょう。
宗派はしっかりと把握しておこう
宗教の数は多くまた宗派も多いため、家族であっても正確に把握できていないケースは意外と多いようです。位牌やお墓から判別できることもあるため、まずは故人の宗派を知る手がかりを探してみてください。
どうしてもわからない場合は、親戚や葬儀社とよく相談したうえで、葬儀をどう執り行うかを決めると良いでしょう。
監修者:岩田昌幸
葬送儀礼マナー普及協会 代表理事
葬送儀礼(臨終から葬儀、お墓、先祖供養等)が多様化している中で、「なぜそのようにふるまうのか」といった本来の意味を理解し、そうした考え方や習慣を身につけられるよう「葬送儀礼マナー検定」を実施しています。メディア監修多数、終活・葬儀・お墓関連セミナーも実施しています。
コメント
今後滞りなく寺院とお付き合いを続けていくためにも、正しい宗派で葬儀を上げることが大切です。宗派がわからないときや菩提寺がわからないときは、まずは親戚に確認しましょう。それでもわからなければお墓や位碑をよく観察して、宗派の検討を付けたうえで、再度確認してみてください。