納棺とはご遺体を棺に納めることです。ご遺体を清め、死装束を着せ、副葬品とともに棺に納めるまでの一連の流れを納棺の儀と言います。
納棺の儀は通夜前に行われる大事な儀礼です。行う際にはさまざまな手順があるため、事前に確認して当日あわてないようにしましょう。
費用や立ち合い時のマナー、おすすめの副葬品も解説します。
この記事を監修した専門家
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
二村 祐輔
納棺の儀とは?かかる時間や費用
納棺の儀とは、故人のご遺体を棺に納める一連の儀式を指します。ご遺体を安置しているご自宅か、通夜を行う斎場で行うのが一般的です。
納棺の儀は、臨終の際の「末期の水(まつごのみず)」や、故人の体を洗って浄める「湯灌(ゆかん)」の後、化粧を施す「死化粧」や死装束への着替えという流れの後に行われます。
故人を棺に納めて、一旦ふたを閉じるところまでで納棺の儀は終了です。その時、同時に副葬品を納めることもあります。
納棺の儀は、故人がこの世との決別を図る大変重要な儀式です。「死者」としてこれから「旅立つ」ことをうながします。近親者はそこで故人と別離を受容する大きな場面でもあり、本当に親しい人たちの立ち合いが求められます。
納棺の儀にかかる時間
納棺の儀は一連の流れが終わるまで30分~1時間程度かかるのが一般的です。それぞれ地域のしきたりや儀式慣習によって時間は前後します。
同日のお通夜は18時~19時ごろに行われることが多く、喪主は1時間前にはお通夜会場に到着します。そのため納棺の儀を14時~15時ごろから開始し、16~17時ごろには終えられると良いでしょう。
納棺にかかる費用
納棺の儀を行う際の費用は、主にその前段におけるご遺体への対応として、湯灌や死化粧・死装束などもふくまれた総体として、儀式料などの名目で支払います。平均的な相場としては、10万円前後を見ておくとよいでしょう。
なお葬儀社のオプション設定の範囲によって、費用は変わってきます。オプションとは、死装束の素材の高級品や特別な副葬品(故人の趣味などを象徴するミニチュアのグッズなど)の費用のことです。
また前段のご遺体対応としての湯灌の儀やエンバーミングによる遺体の衛生保全など、施行有無や選択でも費用に幅がでます。
納棺の儀の具体的なやり方
納棺の儀で行うそれぞれの手順について、より具体的に見ていきましょう。先ず納棺の前段にある「末期の水」や「湯灌」、「死化粧」・「死装束」の装着と実際の「納棺」を順番に詳しく解説します。
末期の水
末期の水は「故人が喉の渇きで苦しい思いをしないように」という意味があります。
細かいやり方は宗派や地域によって異なりますが、脱脂綿と割り箸を使うケースが一般的です。割り箸の先に脱脂綿を固定し、水の入ったお椀にそれを浸します。その後は湿った脱脂綿を、遺体の口元へと当てて完了です。
口元の表面が湿っていれば問題ありません。潤すためといって、強引に口の中へ水を含ませないようにしましょう。
末期の水を行う順番は、配偶者、親または子、兄弟や姉妹といった血縁の深い順です。最後の1人が終えたら、顔全体をきれいに拭き取りましょう。
湯灌
ご遺体にお湯を注いで浄める儀式が「湯灌(ゆかん)」です。現代ではご遺体の洗浄を行い、アルコール溶液などでの「清拭」もあり、消毒殺菌もなされます。古義的には、この世の穢れや因縁を洗い流すためとされていました。
湯灌をしない場合は、近親者による「清拭」だけで済ませるというケースも増えています。清拭のみの場合でも「逆さ湯」を用意するのが一般的です。そのなかにアルコールを薄めて、タオルなどを固く絞り、故人の身体を拭き上げます。
逆さ湯とは水の中にお湯をいれて適温とする葬送儀礼です。
死化粧を施す
逝去後は生気が失せ、顔色も変わってしまうものです。そこで頬や唇に朱を指して、顔色を明るく見せる「死化粧」を施します。生前の姿に近づけることで、亡くなる直前の苦しみを無くすという目的もあるようです。
死化粧は男女問わず行われることが多く、男性の場合であれば髭を剃るなどの手当ても加わるでしょう。化粧は派手なメイクではなく、薄めのものを施すのが一般的です。
また「エンバーミング」というご遺体への衛生保全処置を行った場合も、保存処置のみならず、顔色の濃淡を調整することができます。メインの処置は透析の防腐剤や薬剤に顔料を調合して、防腐することです。これらは特別の技術が伴う施術になりますので、専門の資格を有したスタッフが行います。
エンバーミングを施すと、長ければひと月ほど冷却なしで保存しておけるため、海外の近親者など遠方の立ち合い者を待つことも可能です。その間ゆっくりとお別れの時間を設けられる点が、大きなメリットと言えます。
死装束を着せる
死装束は経帷子(きょうかたびら)と呼ばれる白い装束で、背の部分に経文などが書かれることから経帷子と呼ばれます。
「あの世へ旅立つ際にふさわしい巡礼や遍路の旅姿」という由来が慣例としてあり、実際に着せるというよりは、真似事でご遺体に覆いかけるだけのことも多々あるようです。
死装束を着せる際は合わせを生前の逆向き、つまり左前の形にします。また昔の旅装束なので手甲、脚絆、杖、草鞋、編み笠などの他、頭陀袋には「六文銭」などを持たせ、身につけさせましょう。胸の上で組んだ手には数珠をかけます。
なお浄土真宗などではこのような慣習を行わないとする教義もありますので注意が必要です。詳しくは葬儀社に確認しておきましょう。
近年では、故人が好んで着ていた服を着せることも多いようです。
エンディングドレスを着せることも
最後を飾る服として、華やかなドレスを選ぶ「エンディングドレス」という選択肢も近年登場しています。終活という言葉も広まった今、「美しい最期を」と考える人が増えているのでしょう。
また白い衣装ではないケースもあります。色やデザインに縛られない普通の着物や、生前気に入っていた普段着でもOKとする風潮が高まっているのです。
ご遺体と副葬品を棺に納める
故人の外見をきれいに整えたら、いよいよ納棺です。葬儀スタッフやご遺族が中心となり、ご遺体を棺の中に収めます。
このとき副葬品を一緒に納めるため、すぐに棺のふたを閉めず、開けたままにしておきまよう。副葬品とは遺体と一緒に棺に納める品物です。故人が生前に好んでいた食べ物や、深い関わりがあった品物などを入れます。
すべての過程を終えたら、棺をお通夜会場に移動させる流れです。
納棺の儀に立ち会える人・服装マナー
納棺の儀に立ち会える人は誰で、どういった服装で参加すべきなのでしょうか。立ち合い時と、服装マナーを解説します。
納棺の儀に立ち会えるのは誰?
納棺の儀には基本的に、配偶者や親族といったごく近しい家族が立ち会います。なかには親しい友人や古くからの近隣など、血縁以外の立ち合い希望者を確認してお声がけしても良いでしょう。
人数の最終的な数は、はやめに把握しておくことがポイントです。お見送り行くことを希望する方以外は、立ち会いは葬儀社の人のみです。故人の友人や仕事関係の人は、原則として立ち会えません。
友人や職場の人が立ち会いたいと希望しても、納棺の儀は身内だけで行うのが一般的です。納棺の儀では遺体を清める際に、肌が露出します。そのため身内以外に見せるのはふさわしくないという考えがあるのも理由の1つです。
ただしご遺族の意向によっては、親しかった友人も立ち会うケースがあります。事前に家族で話し合っておくと良いでしょう。
納棺を行う際の服装は?
納棺時の服装は、平服または喪服を着用しましょう。平服は自由度の高いフォーマルな服、喪服は黒で統一した礼服です。
平服で行くべきか喪服で行くべきかは、場所やタイミングによって変わります。
たとえば納棺の儀を自宅で行う場合は、平服でも構いません。ただしお通夜では喪服で参列するため、後ほど喪服に着替える必要があります。時間に余裕を持たせたい場合は、始めから喪服を着ていた方が安心です。
葬儀場で納棺の儀を行う場合は、その後すぐお通夜があるため、喪服を着用しましょう。
なお平服であってもカジュアルな服装は選びません。煌びやかなものや派手な色使いのものは避けて、黒あるいはグレーの落ち着いた服を着用しましょう。
副葬品を納める際のポイント
副葬品として棺に入れるものには、入れてよいものと、ふさわしくないものがあります。具体例を見ていきましょう。
棺に納めてもよいもの
副葬品は基本的に、燃えやすいものであれば問題ありません。
花や故人宛ての手紙・故人が好きだった服は、副葬品として選ばれる代表格です。洋服は綿や麻など燃えやすい素材のものかどうか、事前にチェックしておくと安心です。
お菓子や写真・ご朱印帳なども、副葬品によく選ばれています。燃えやすいものなら、故人の趣味にちなんだものでもよいでしょう。
なお告別式のときに参列者が棺に入れる花は、「別れ花」といい、副葬品ではありません。
棺に納めてはいけないもの
副葬品選びで注意したいのは、燃えにくいものや爆発の恐れがあるものです。
燃えにくいものは、指輪や時計といった金属類や、プラスチック素材のもの、革製品などが当てはまります。水分の多い食べ物も該当するでしょう。ライターやスプレー缶といった、爆発の恐れがあるものも棺に納めてはいけません。
燃えにくいものではないですが、まだ生きている人の写真も避けた方が良いとされています。写真を一緒に棺に入れると、その写真に写っている人もあの世に連れられてしまうという説が由来です。
事前に届け出が必要なもの
故人の体にペースメーカーが装着されていた場合、そのままでは火葬を受け付けてもらえません。火葬する際に、破裂の恐れがあるからです。
ペースメーカーを入れている場合は、事前に届け出をして、火葬場スタッフへ申告する必要があります。場合によっては取り外す必要があることを覚えておきましょう。
またボルトや鉄板、金属プレートなどを体に埋め込んでいる場合も、届け出を出しておきましょう。自治体によって申告すべき内容は変わりますが、心配であれば必ず確認しましょう。燃え残りや事故を防ぐために大切です。
最後の姿を丁寧に整えよう
納棺の儀は遺体を清めてから死化粧をし、死装束を着せて棺に納めるまでの一連の流れのことです。
故人が満足して旅立てるよう、しっかり準備をして、心を込めて送り出しましょう。
納棺の儀で分からないことがあれば、葬儀社に相談するのがおすすめです。ミツモアを使えば、最大5社から希望にあったプランの見積もりを取得できます。口コミも比較できるので、信頼できる葬儀社を見つけられるでしょう。
監修者:二村 祐輔
日本葬祭アカデミー教務研究室 代表
『葬祭カウンセラー』認定・認証団体 主宰
東洋大学 国際観光学科 非常勤講師(葬祭ビジネス論)
著書・監修
- 『60歳からのエンディングノート入門 私の葬儀・法要・相続』(東京堂出版) 2012/10/25発行
- 『気持ちが伝わるマイ・エンディングノート』 (池田書店) 2017/9/16発行
- 『最新版 親の葬儀・法要・相続の安心ガイドブック』(ナツメ社) 2018/8/9発行
- 『葬祭のはなし』(東京新聞) 2022年現在連載
など多数
コメント
納棺の根源的な意味は「封鎖」「封印」です。亡骸に対しては、恐れやその形状変化において、忌避や嫌悪の対象となりました。そのため遺体の消滅や隔離を大きな目的として、遺棄や土葬、火葬、水葬といった葬法(ほうむるための方法)がありました。
さて現代の納棺は、故人が棺に納めるもので、視覚的にも非日常的な印象で、一番悲嘆を感じる習慣かもしれません。それだけに死を受容する重要な儀式だと思います。