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就業規則がない会社は違法? 発生しうるデメリットを解説します!

最終更新日: 2022年01月07日

会社の規模によっては就業規則がない場合は違法となり、罰則が下る可能性もあります。ご自身の会社がそれに当てはまるのかどうか、また、就業規則がない場合の罰則以外のデメリットを今一度確認してみましょう。

就業規則はなくてもいいの?

就業規則はなくてもいいの?
就業規則はなくてもいいの?

法令に則った社内のルールが就業規則ですが、全ての会社で作成が義務付けられている訳ではありません。

また作成が必要な会社の場合も、ただ作成してデータとして保管してあるだけでは意味がありません。法令どおりに正しく運用する必要があります。

従業員が10人以上いれば就業規則の作成が必要

労働基準法第89条には

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、所定の事項について就業規則を作成し、行政官庁(所轄労働基準監督署)に届け出なければならない。当該事項を変更した場合においても、同様とする。

と定められています。

ここでいう「常時10人以上の労働者」とは、その事業場で使用する労働者(臨時的・短期的な雇用形態の労働者も場合によっては含む)が常態として10人以上いるという意味合いです。正社員のみの人数を指している訳ではないので、ご注意ください。

「10人以上」は事業場単位

「常時10人以上の労働者」の計算はあくまでも事業場単位なので、会社全体が常時雇用する従業員数ではありません。

したがって会社全体では10人を超過していても、事業場単位で10人未満であれば就業規則を作成して届け出る必要は生じません。

かつ原則事業場単位で作成するため、例えばA支店で10人、B支店で15人従業員を使用している場合は、各支店ごとに就業規則を作成し、それぞれの管轄の労働基準監督署に届け出ます。

就業規則がない場合の罰則は?

就業規則の作成・届出義務があるにも関わらず、それらを怠っていた場合は30万円以下の罰金という罰則が設けられています。就業規則の記載事項である労働条件や賃金に関する規定などが変更になったにも関わらず変更届を提出していない場合も、同様に30万円以下の罰金対象になります。

もしも現時点で、該当事業場があるけれども就業規則を作成していない、または作成しているけれども届け出ていない、という経営者の方は、速やかに作成・届け出を行うようにしましょう。

就業規則がないことで起こり得る8つのデメリット

就業規則がない場合のデメリット
就業規則がない場合のデメリット

就業規則を作成するにはあらゆるステップを踏む必要があるので、作成しない場合はそれらを省略できるメリットがあります。では、逆に就業規則を作成しない場合はどのようなデメリットがあるのでしょうか?以下で具体的に説明していきます。

急な退職に対応できない

ある日突然従業員が「今月いっぱいで退職します。」と一方的に伝えてきたらどうしますか? その従業員のポジションや職場の状況によっては、急には対処できないこともあると思います。就業規則では退職に関する事項は絶対的必要記載事項なので、作成する場合は退職を申し出る期限やその際の注意事項を細かく決めることができます。

退職の申し出は最低でも2か月前にしてもらわないと困る、という場合はそれを就業規則に記載します。逆に言えば、就業規則がなければ申し出る退職日まで14日以上あればタイミングは自由なので、急な退職は受け入れざるを得ない可能性が高くなります。

問題がある労働者に懲戒処分をはじめとした対応ができない

勤務態度に問題があったり、周囲の従業員に迷惑をかけながら仕事をする従業員がいれば、通常は懲戒処分をはじめとした何らかの処分を検討するでしょう。しかしこの処分や懲罰に関しても、使用者が好きに決定できる訳ではなく、やはり就業規則に明記していなければ行使できません。

就業規則にそれらを細かく定めることで、従業員側の意識を高める効果もあります。円滑に業務を遂行するためにも、罰則を規定した就業規則を作成することは重要です。

欠勤や遅刻・早退に対応できない

従業員を雇っていれば、欠勤や遅刻早退が生じることはよくあると思います。その場合、給料を控除することが殆どでしょうが、実はこの「賃金の減額」についても、就業規則で定めていなければ効力は無いのです。

また、無断欠勤や遅刻早退が続いた場合の懲罰に関しても、就業規則上で規定されていなければ行使することはできません。そもそも始業時間や終業時間、休日なども就業規則で定めるべき事項なので、就業規則そのものがなければ、勤務時間や出勤状況に対して使用者側が強く拘束すること自体難しいと言えるでしょう。

有給休暇の計画的付与ができない

有給休暇とは原則として労働者の希望する日に取得させるものですが、会社としては夏季や年末年始などに休日と有給休暇を組み合わせて一斉休業としたい場合もあります。このような場合に活用されるのが計画的付与です。

この計画的付与を活用すれば、各従業員の有給休暇のうち5日を超える分については会社が決めた日に取得させられるようになりますが、導入するためには、就業規則に規定し、労使協定を締結しなければなりません。

就業規則がないと、この計画的付与は実施できないということです。

助成金が利用できない

昨今あらゆる種類の助成金が用意されていますが、助成金を申請できる事業所の大前提として、就業規則を作成・届け出ていることが要件の1つとなっているものがあります。助成金は、ある制度や設備などを導入・実施した事業所に対して国から支給されるものです。

その制度などについて、就業規則に追記することで導入したとみなされるのです。もともと就業規則がなければ、助成金の申請すら難しくなります。何らかの助成金を検討している経営者の方は、就業規則がちゃんと事業場単位で作成・届け出られているかを確認した上で申請をするようにしましょう。

定年退職による契約終了が設定できない

定年は設けなくても構いませんが、設ける場合には、その年齢や必要となる手続きなどについては就業規則に規定しなければならないことが労働基準法で定められています(正確には「退職に関する事項」は記載が必要としています)。

また、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」においては、定年の定めをする場合には60歳以上としなければならず、さらに、65歳未満としている場合には、「65歳までの定年の引上げ」、「65歳までの継続雇用制度の導入」(再雇用制度や勤務延長制度)、「定年の廃止」のいずれかの措置を講じなければならないことも定められています。

このため、多くの会社ではデメリットの少ない再雇用制度を導入していますが、この場合にも就業規則に規定し、さらに別規程とするなどその内容を明確にしておかなければなりません。

就業規則がないと、定年を理由に従業員を退職させることもできませんし、再雇用によって賃金を見直すこともできません。退職させるためには解雇しかないということになり、会社としては人事管理上、大きな支障をきたすことになります。

退職金の支給に関してトラブルが発生する可能性がある

会社に退職金を支給する義務はありませんが、支給するのであれば、対象となる労働者の範囲などを就業規則に規定しなければならない(別規程にすることも可)ことが労働基準法で定められています。これにより退職金の支給は会社の義務になります。

このように退職金とはその支給基準を従業員に示し、それに基づいて公平に支給する義務があるというものです。

就業規則がないと、支給要件や支給額などについて従業員との間でトラブルが発生する可能性が高まります。

労働裁判に不利になる

従業員や退職者との間にトラブルが生じ、労働裁判に発展するケースは多数あります。会社側に問題がある場合はともかく、明らかに従業員側に問題がある場合は少しでも裁判を有利に進めたいですよね。

会社側がいくら「こちらは被害者だ!」と主張しても、就業規則が正しく運用されていなければ、不利になる可能性が高まります。それだけ社内における就業規則の効力は高いのです。

就業規則は労働者への周知が必須

就業規則を通知する書類
就業規則は労働者への周知が必須

就業規則は労働基準監督署に届け出ることでその効力が発生するものではなく、届け出後、従業員に就業規則の内容を周知してはじめて有効になることになっています。

就業規則を従業員に周知する方法は労働基準法で具体的に定められており、これを怠った場合には罰則が適用されることもあります。

就業規則は周知していないと意味がない

就業規則は従業員に周知させて初めて効力を発揮する規則です。

労働基準法第106条には

使用者は、労働基準法及び労働基準法に基づく命令の要旨、就業規則、労働基準法に基づく労使協定並びに労使委員会の決議を、次の方法によって、労働者に周知させなければならない。

と定められています。ここで示されている周知方法とは、

  1. 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
  2. 書面を交付すること
  3. 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

となっています。つまり、届け出が済んだ就業規則は常に従業員が閲覧できる状態にしておき、その旨を従業員に伝える必要があるということです。

周知義務を怠ると罰則が適用される可能性もある

就業規則の従業員への周知義務を怠ると、効力が生じなくなってしまう他、労働基準法上の罰則として、30万円以下の罰金を科される可能性があります。

なお、就業規則の作成・届出義務違反の罰則も同様ですが、労働基準法上の違反もしくはその疑いがあった場合には、まずは労働基準監督署が調査し、指導や是正勧告などが行われることが一般的です。

よって、直ちにこの罰則が適用されるわけではありませんが、労働基準監督署の調査が入るだけでもその対応でかなりの労力を割かれることになります。

契約社員やパートの就業規則は別途作成すべき?

パートの女性
契約社員やパートの就業規則は別途作成すべき?

会社に契約社員やパートもいれば、就業規則にはそれらの者に適用する労働条件なども規定しなければなりません。

仮に正社員を対象とした就業規則しかない場合には、その就業規則で定める労働条件などが契約社員やパートにも適用され、会社にとっては多くの不都合が生じる可能性があります。

1つの就業規則で全雇用形態の従業員に対応させることも可能ですが、利便性なども考えると、雇用形態ごとに作成した方がよいと言えます。

正社員の就業規則しかない場合はそれが全員に適用される

そもそも就業規則とは正社員だけを対象にしてよいものではなく、雇用するすべての従業員を対象にして整理しなければなりません。仮に、正社員を対象とした就業規則しかない場合には、法的には契約社員やパートなどもその就業規則が適用される可能性があるので注意が必要です。

労働契約法第12条では、

就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は就業規則で定める基準による。

と定められています。

契約社員やパートでも、雇い入れる際には個別に労働契約を締結することになりますが、正社員を対象とした就業規則しかない場合に、例えば、正社員よりも低い賃金で契約したとしてもその賃金は無効となり、就業規則で定める賃金が適用される可能性があるということです

雇用形態ごとに作成することが望ましい

上記のとおり、就業規則は正社員だけでなく、契約社員やパートなど全雇用形態の従業員に対応できていなければなりません。

これには、1つの就業規則で全雇用形態の従業員に対応する方法と、雇用形態ごとに作成する方法の2つがあります。しかしながら、前者によると、条文ごとに細かな書き分けが必要になるため、雇用形態ごとの労働条件をよりわかりやくするためにはそれぞれで作成した方がよいと言えます。

就業規則を雇用形態ごとに作成する際の注意点としては、2020年4月から「同一労働同一賃金」が施行されることから、契約社員やパートについては、正社員の職務内容などと比較して、賃金その他あらゆる待遇について不合理なものにならないように注意が必要です。

また、契約社員については、契約期間が通算5年を超えて「無期転換」となる場合の労働条件などを規定しておくことも求められます。

なお、派遣社員や業務委託社員については、所属会社の就業規則が適用されますので、作成する必要はありません。

就業規則にまつわる裁判

就業規則にまつわる裁判
就業規則にまつわる裁判

就業規則やそれに関連する協定の運用方法に違法性があった場合は、労働裁判で不利になります。効力を有する規定を設けるには、正しいルールを把握して作成・運用することが最も重要です。ここでは実際に起きた2つの裁判の判例を紹介します。

フジ興産事件

ある従業員は顧客の要望に十分に応じずトラブルを発生させたり、上司に暴言を吐いたりなどの問題行動が散見されたため、会社は就業規則に則りその従業員を懲戒解雇しました。これを不服とした従業員が裁判を起こしましたが、原審では懲戒解雇は有効とされ従業員の請求を棄却しました。

しかし、最高裁は原審の判決を破棄し、差し戻したのです。その理由は「就業規則を従業員に周知させる手続きが採られていなかった」からです。作成・届け出までは問題なくとも、周知義務を果たしていなければ就業規則に記載されている懲戒解雇の規定は無効となり、問題のある従業員に適用したくともできないという判例です。

トーコロ事件

会社側はある従業員に、繁忙期に残業時間を延長するよう要請しましたが、その従業員は何度要請されても残業命令には応じませんでした。会社は残業を拒否したこと、協調性が無いことなどを理由として従業員に解雇を通告しましたが、従業員は解雇無効を主張して会社を訴えました。この裁判で争点となったのが「時間外・休日労働に関する協定届(通称36協定)」の有効性です。この協定は

①事業場の労働者の過半数で組織する労働組合

②①がない場合は、労働者の過半数を代表する者

上記①②いずれかと締結する必要があります。本件の会社は、社内の親睦団体である「友の会」の代表者と36協定を締結したのですが、その代表者は①の代表者にも②にも当てはまらないため、この36協定は無効という判決が下りました。従って、36協定を前提とする残業命令も無効であり、従業員はこれに従う必要はないため、解雇そのものも無効とされたのです。

就業規則の作成は社労士に依頼するのがおすすめ

就業規則がいかに重要か、おわかりいただけましたか?就業規則やそれに関連する各種協定は、労使ともに納得して仕事を進めるために必要なルールブックです。しかし正しく法令どおりに作成・運用するのは知識や労力が必要なので、専門家に依頼するのがおすすめです。この機会に、就業規則のプロである社会保険労務士をミツモアで見つけてみませんか。

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この記事を監修した社労士

ドラフト労務管理事務所 - 大阪府大阪市東成区中道

鈴木圭史社会保険労務士 1974年生。大阪府出身。ドラフト労務管理事務所代表社会保険労務士/働き方改革推進支援センター相談員。人材派遣会社の本社勤務後、大阪玉造に事務所を設立して12年目を迎える。同一労働同一賃金や労務問題の改善に尽力。派遣法(派遣先均等均衡・労使協定方式)が専門で派遣元責任者講習の講師を担当。