毎月繰り返される給与計算は、1円のミスも許されない極めて重要な業務です。しかし、2024年6月からの「定額減税」対応や、2025年以降に本格化する「社会保険の適用拡大」など、複雑な法改正は矢継ぎ早に発生します。
「担当者が急に退職したら業務が止まってしまう」という属人化の恐怖や、「法改正の把握が追いつかず、未払い残業代などで訴えられたらどうしよう」という不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。その解決策として「給与計算代行」を検討する際、多くの方が「税理士」と「社会保険労務士(社労士)」のどちらに依頼すべきかで悩みます。
給与計算代行は社労士と税理士のどちらに頼むべきか、従業員30名〜100名規模の企業向けに、両者の業務範囲の違いから信頼できる社労士事務所の選び方を含めて解説します。
給与計算代行時に社労士と税理士どちらが最適?
結論から言えば、「単なる計算」だけでなく「社会保険手続き・労務相談・法改正対応」まで任せて法的リスクをゼロにしたいなら「社労士」が最適です。一方で、すでに顧問税理士がおり、その流れで「税務顧問」と一本化し、「年末調整」までを一括で任せたい場合は「税理士」への依頼を検討しましょう。
ただし、注意すべきは企業規模です。従業員が30名を超えると、入退社の手続きが煩雑になり、残業代計算のミスや多様な雇用形態に伴う労務トラブルのリスクが急増します。
法的リスク(コンプライアンス)を専門家の知見で確実に回避するため、30名以上の規模の企業には、人事・労務の専門家である社労士への給与計算代行の委託を検討しましょう。
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社労士 vs 税理士 業務範囲と独占業務の比較表
社労士と税理士は、法律で定められた「独占業務」が明確に異なります。給与計算自体はどちらも行えますが、関連する手続きに決定的な違いがあります。
| 業務項目 | 社会保険労務士(社労士) | 税理士 | 備考・注意点 |
|---|---|---|---|
| 給与計算(月次) | 〇(可能) | 〇(可能) | どちらも実施可能 |
| 社会保険・労働保険手続き | ◎(独占業務) | ×(不可・違法) | 入退社手続き、算定基礎届、年度更新など |
| 労務相談・就業規則 | ◎(独占業務) | ×(不可) | 就業規則の作成・届出、36協定など |
| 年末調整(税額計算・申告) | ×(不可・違法) | ◎(独占業務) | 最終的な税額計算、法定調書の作成・提出 |
| 税務相談 | ×(不可) | ◎(独占業務) | 節税アドバイス、法人の確定申告など |
注意:社労士による「年末調整」の代行は違法(税理士法違反)
最も注意すべき点が「年末調整」です。社労士ができるのは、あくまで年末調整に関連する給与計算や社会保険料の計算、申告書のデータ整理までです。社労士が最終的な「年税額の計算」や「源泉徴収票の作成」、税務署への「法定調書の提出」まで行う行為は、税理士法違反です。
この法律違反の問題を回避するため、多くの優秀な社労士事務所は税理士と提携しています。依頼時には「年末調整の最終申告は提携税理士が行う」体制になっているかを必ず確認してください。
【結論】自社の課題別:どちらに頼むべきか
給与計算代行を利用する際、自社の課題に応じて、どちらに頼むべきかを判断しましょう。
社労士への給与計算代行がおすすめな企業
- 従業員が30名を超え、入退社時の社会保険手続きが煩雑になっている
- 残業代計算や相次ぐ法改正対応(定額減税、社会保険適用拡大など)に不安があり、労働基準監督署などの法的リスクを確実に回避したい
- 就業規則の整備や日々の労務相談(「この対応は法律的に問題ないか?」など)も併せて専門家に依頼したい
税理士への給与計算代行がおすすめな企業
- 従業員が数名程度で、労務トラブルのリスクがまだ低い
- すでに信頼できる顧問税理士がおり、年末調整の申告まで一括で、安価に済ませたい
なぜ「社労士」が選ばれるのか? 3つの決定的メリット
給与計算代行を社労士に依頼するメリットは、単なる「手間が省ける」ことではありません。「法的リスクの完全回避」や「属人化の解消」、「労務手続きのワンストップ対応」という、経営の安定化に直結する3つの価値を手に入れられます。
「未払い残業」や「法改正漏れ」による法的リスクを避けられる
給与計算における最大の恐怖は、意図しない「法律違反」です。
残業代の割増率の変更、社会保険料率の毎年の改定、そして2024年の定額減税のような突発的かつ複雑な実務対応。これらすべてを担当者が完璧に把握し、ミスなく処理し続けるのは至難の業です。万が一、計算ミスによる未払い残業代が発生すれば、労働基準監督署の調査や遡及支払い、悪質な場合はペナルティ(罰則)を課されるリスクもあります。
社労士は人事・労務に関する法規制の専門家です。給与計算代行を社労士に依頼することは、複雑な法改正への完全対応を専門家に一任し、企業をコンプライアンス違反のリスクから解放する「保険」を手に入れることを意味します。
給与遅延を招く「属人化」を解消できる
「この業務は、あの人しか分からない」という状態は、中小企業において最も危険な状態のひとつです。
特に給与計算のような専門知識が必要な業務が特定の一人に依存している場合、その担当者が急病や退職で不在になれば、給与計算が止まり、従業員への支払いが遅延するという最悪の事態を招きかねません。
社労士に給与計算を代行させれば、社内に専門知識を持つ担当者を置く必要がなくなり、採用・育成にかかる費用と退職リスクそのものが消滅します。その結果、特定の個人に依存しない、組織として安定した給与計算体制を構築できます。
社会保険手続きから労務相談までワンストップで対応できる
税理士への依頼との決定的な違いが対応できる範囲です。従業員の入退社に伴う「社会保険・労働保険の資格取得・喪失手続き」や、年に一度の「算定基礎届」「年度更新」は、法律で定められた社労士の独占業務です。
給与計算代行を社労士に依頼すれば、給与データと連動するこれらの煩雑な手続きも、そのまま一括して(ワンストップで)任せられます。
さらに、日々の細かな労務相談にも対応でき、担当者(あるいは経営者)が煩雑な作業から解放され、本来注力すべき経理分析や人事制度の設計といったコア業務に時間を使えるようになるでしょう。
社労士に給与計算代行を依頼する前の注意点
社労士への依頼はメリットが大きい一方で、契約する前に以下4点に注意が必要です。
年末調整の「申告業務」は別途税理士の依頼が必要
社労士は年末調整の「税額計算・申告業務」を代行できません。社労士事務所に給与計算を依頼する場合、年末調整の申告業務は別途税理士に依頼する必要があります。
ただし、多くの社労士事務所は税理士と提携しており、窓口一つで対応可能な体制を整えています。見積もり時に、年末調整の申告業務まで一括して(ワンストップで)対応可能か、その場合の費用はいくらかを必ず確認しましょう。
外部委託費用が発生する
社労士に給与計算代行を委託すると、別途費用が発生します。この費用は、自社で担当者を雇用・教育する費用や、担当者が法改正を把握するために費やす時間と比較検討すべきです。
何よりも、計算ミスによって数百万単位の未払い残業代の支払いを命じられるといった、法的な問題に対応する費用を回避できる価値を考慮する必要があります。
社内に給与計算ノウハウが蓄積されない
業務を完全に外部化するため、社内に給与計算の実務ノウハウは蓄積されにくくなるのもデメリットのひとつです。将来的に事業が拡大し、人事部を強化して業務を自社内で行う(内製化する)ことを考えた際に、デメリットとなる可能性があります。
従業員の個人情報を外部に渡すセキュリティリスク
給与計算は、マイナンバーを含む極めて機密性の高い従業員の個人情報を外部に渡す行為のため、依頼先のセキュリティ体制は厳重に確認しなければなりません。プライバシーマーク(Pマーク)を取っているかは当然として、具体的にどのような方法でデータをやり取りするのか、例えば安全なファイル共有の仕組みを利用しているかなども確認が必要です。
社労士への給与計算代行にかかる費用はいくら?
社労士への給与計算代行の料金体系は、「月額基本料金」と「従業員単価×人数」の組み合わせが基本です。ただし、賞与計算や年末調整はオプション料金となるケースが多いため、トータルの費用を見積もりましょう。
市場の相場観としては、月額基本料金が1万円〜2万円、これに従業員1人あたりの従量料金が500円〜1,500円加算されるのが一般的です。
たとえば、従業員30名の企業であれば、基本料金2万円+(1人1,000円×30名)=月額5万円程度がひとつの目安となります。
【従業員数別】給与計算代行の費用相場テーブル
従業員数別の費用相場(月額)の目安は以下のとおりです。特に30名から100名のゾーンは、業務の複雑性に応じて見積もりが変わります。
| 従業員数 | 費用相場(月額) |
|---|---|
| ~10名 | 20,000円~ |
| ~30名 | 45,000円~ |
| ~50名 | 60,000円~ |
| ~100名 | 要見積もり |
オプション料金がかかるケース
安価な基本料金プランの場合、以下の業務がオプション(別料金)となっていることが多く、いわゆる「オプション地獄」に陥らないよう注意が必要です。
- 賞与計算:年に1回〜2回発生。月次給与計算の1ヶ月分相当が請求されるのが一般的
- 年末調整:データ準備料や、提携税理士による申告代行料を含め、通常の月次費用の2倍~3倍、あるいは1人あたり3,000円〜といった費用がかかる
- 社会保険の算定基礎届・年度更新:年に一度発生する必須業務。基本料金に含まれず別料金(例:1件につき2万円〜)となる場合がある。
- 入退社手続き:1件あたり2,000円〜3,000円。都度課金となる場合、トータルコストが膨れ上がるため、従業員の入れ替わりが激しい業種では注意が必要
- タイムカード集計:勤怠データの集計や修正作業を依頼すると、1人あたり数百円〜1,000円程度の追加費用が発生する場合あり
信頼できる社労士事務所の選び方
費用だけでなく、長期的なパートナーとして信頼できる社労士事務所を選ぶためには、4つの重要な点があります。
基本料金の範囲
見積もりを取った際、「どこからどこまで」が基本料金に含まれているかを確認しましょう。特に「社会保険手続き(入退社、算定基礎届)」や「賞与計算」、「年末調整(提携税理士費用含む)」が基本料金に含まれているのか、それともすべてオプション(別途料金)なのかによって、年間の総支払額は大きく変わります。
後から追加料金が発生しないよう、業務範囲を明確にすることが失敗しないための第一歩です。
サポート体制が充実しているか
給与計算や労務の疑問は、緊急性が高い場合が少なくありません。「この残業代の計算、合ってる?」「従業員とトラブルになりそう」といった際、メールやチャットだけでなく、すぐに電話で相談できる担当者がいるか確認しましょう。
特にITツールの操作に苦手意識がある場合、気軽に相談できる体制(サポート体制)があるかどうかが、日々の業務の安心感に直結します。
既存ソフトと連携できるか
給与計算の外部委託(アウトソーシング)は、紙やExcelを郵送する時代から、クラウドシステムを共有する時代へと移行しています。現在利用している勤怠管理システム(King of TimeやJobcanなど)や給与ソフト(弥生給与、給与奉行など)がある場合、それらのデータとAPI連携やCSVインポートなどでスムーズに連携できるかは必ず確認しましょう。
また、freeeやマネーフォワードのようなクラウド給与ソフトへの移行支援に対応しているかどうかも、将来的な業務効率化を見据えた重要な選定基準です。
セキュリティ体制が整っているか
従業員の個人情報を預ける以上、セキュリティ体制の確認は必須です。プライバシーマーク(Pマーク)やISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)を取っているかに加え、メール添付でデータを送るのではなく、安全なファイル共有の仕組みを利用しているかなど、具体的なデータ授受の方法を確認してください。
社労士への依頼ステップと準備すべきもの
社労士に給与計算代行を依頼する際の一般的な流れと、事前に準備すべき資料を解説します。
ステップ1:問い合わせ・ヒアリング
まずは複数の社労士事務所に問い合わせ、現状の課題(法改正対応の負担、属人化のリスクなど)や、従業員数、利用中のシステムなどを伝えます。
ステップ2:見積もり・提案
ヒアリング内容に基づき、業務範囲の提案と見積もりが提示されます。この際、オプション料金の範囲などを明確にし、複数の事務所を比較検討するために「相見積もり」を取ることをおすすめします。
ステップ3:契約・導入準備
提案内容に合意したら契約を締結します。その後、既存システムからのデータ移行や、従業員情報の連携など、運用開始に向けた準備を進めます。
ステップ4:運用開始
契約に基づき、毎月の勤怠データを社労士事務所に連携し、給与計算業務の代行が始まります。計算結果の確認や、社会保険手続きの代行も行われます。
【準備リスト】依頼時に必要な情報・資料
給与計算代行をスムーズに導入するためにも、以下の資料を事前に準備しておくと安心です。
- 就業規則、賃金規程
- 従業員名簿(氏名、生年月日、住所、扶養家族情報など)
- 労働者条件通知書(雇用契約書)
- 勤怠データ(タイムカードのコピーや勤怠システムのCSVデータ)
- 既存の給与台帳(過去数ヶ月分)
給与計算代行に強いおすすめ社労士事務所4選
給与計算代行を提供する社労士事務所は多数ありますが、ここでは特に実績が豊富で、強みの異なる4つの事務所を紹介します。
社労士事務所ともに
「社労士事務所ともに」は、徹底した効率化による低費用とスピードを最大の武器としています。 基本料金1万6,500円に加え、従業員1人あたり1,650円〜という明瞭な価格設定が特徴です。
さらに、依頼を受けてから最短半日で給与明細を納品するという迅速な対応力も強みです。給与締め日から支払日までの期間が短い企業や、急な担当者退職で「今すぐ給与計算を止めずに引き継ぎたい」といった緊急時の駆け込み寺としても頼りになります。
| 料金 | 11,000円~(5人以上は1人増すごとに1,200円加算) |
| 30名規模の料金 | 42,680円 |
| 100名規模の料金 | 135,080円 |
社会保険労務士法人グランディス
「社会保険労務士法人グランディス」は、給与計算を「企業防衛」の一環と捉える、総合的なリスク管理に強みを持つ事務所です。単なる計算代行に留まらず、助成金申請、労働基準監督署の調査対応まで幅広く対応します。
特に、未払い残業代請求などの紛争を未然に防ぐ「リスクヘッジ型の就業規則」の提案を得意としており、労務トラブルのリスクが高まってきた成長期の中小企業に最適です。従業員数2名の企業から上場企業まで、幅広く対応した実績もあります。
| 料金 | 16,500円~(10名増すごとに5,000円加算) |
| 30名規模の料金 | 33,000円~ |
| 100名規模の料金 | 71,500円~ |
社会保険労務士 井上徹事務所
「社会保険労務士 井上徹事務所」は、給与計算ミスの根本原因である「勤怠管理」の改善から取り組むIT活用重視の事務所です。「労働時間管理こそが最重要ポイント」と位置づけ、アナログなタイムカードやExcel集計からの脱却を支援します。
特にクラウド勤怠システム「ジョブカン」の認定アドバイザーであり、システムの導入・定着支援と給与計算代行をセットで依頼できます。アナログな管理体制からバックオフィス全体を近代化(モダナイズ)したい企業にも最適です。
| 料金 | 165,000円~ |
| 30名規模の料金 | 660,000円 |
| 100名規模の料金 | 要相談 |
社会保険労務士法人とうかい
「社会保険労務士法人とうかい」は、会計と労務のデータを連携させ、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する経営支援型の事務所です。クラウド会計ソフト「freee」の認定アドバイザーであり、給与データを会計データへ円滑に(シームレスに)連携させることを得意とします。
最大の強みは、税理士法人や経営コンサルティング部門を擁する「SMCグループ」に属している点です。この体制によって、社労士単体では違法となる年末調整の申告業務も、グループ内の税理士が担当し、法的に問題のない一括対応(ワンストップ対応)を実現しています。
| 料金 | 41,277円~ |
| 30名規模の料金 | 177,375円 |
| 100名規模の料金 | 327,250円 |
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