相続した不動産の売却を検討しているなら、流れや費用・税金を知っておきましょう。正しい知識を得ておけば、スムーズに手続きを進められます。親から相続した不動産を売却するために、知っておくべき基礎知識を解説します。
監修者
髙杉義征(セカイエ株式会社元執行役員/宅地建物取引士)
株式会社日京ホールディングスの元取締役、セカイエ株式会社の元執行役員を経て、現在は株式会社ミツモアの事業部長として全体を統括。一貫して不動産業界に携わり、不動産仲介会社、不動産管理会社、不動産テック企業での経験を有する。不動産売却希望者と不動産会社をマッチングするサービスでは、執行役員として事業立ち上げからグロースまでを担当。また、不動産関連のセミナーやライブ配信にも登壇している。
相続した不動産は3年以内の売却がおすすめ
相続した不動産を3年以内に売却すると、特例が適用されて節税につながる可能性があります。売却時の出費を抑えるためにも、相続不動産に活用可能な2つの特例を知っておきましょう。
相続財産の取得費加算の特例
相続不動産を3年以内に売却した場合、一定の条件を満たせば『相続財産を譲渡した場合の取得費の特例』の適用を受けられます。譲渡所得の計算において、相続税額の一定金額を取得費に加算できる特例です。
不動産や株式などの売却で生じた所得のことを、譲渡所得といいます。譲渡所得の計算式は次の通りです。
譲渡所得=譲渡価額‐(譲渡費用+取得費)
所得税や住民税は譲渡所得に課されます。相続財産の取得費加算の特例が適用されて取得費が増えると、譲渡所得が減るため節税につながるのです。
不動産を相続して相続税を納税した場合は、相続財産の取得費加算の特例が適用できないか確認しましょう。
相続空き家の3000万円特別控除
相続した不動産を3年以内に売却するケースでは、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例が適用される可能性があります。主な適用要件は次の通りです。
- 被相続人が1人暮らしをしていた
- 相続開始以降は空き家になっている
- 区分所有の物件ではない
- 建物と土地を一緒に相続している
- 建物が一定の耐震基準を満たしている
- 2023年12月31日までに譲渡している
- 1981年5月31日以前に建てられている
- 売却価格が1億円以下
建物が建てられた年月日や耐震基準を確認し、要件を満たしている場合は他の適用要件もチェックしてみましょう。
相続から不動産売却の流れ
これから不動産を相続する予定なら、相続から売却までの流れを押さえておく必要があります。不動産を相続する際は手続きが多い上、期限が決まっているものもあるためです。
全ての手続きをスムーズに進められるよう、相続開始から確定申告までの流れとそれぞれのプロセスを詳しく紹介します。
- 相続開始
- 相続財産と相続人の確認
- 遺産分割協議
- 相続登記
- 相続税申告
- 不動産売却
- 確定申告
相続開始
相続開始後は遺言書の有無を確認することが重要です。遺言書があれば基本的には遺言書の内容に従って遺産分割を行い、遺言書がない場合は相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺言書の一般的な形式は『自筆証書遺言』または『公正証書遺言』です。公正証書遺言は公証役場に原本が保管されており、家庭裁判所による検認は必要ありません。
一方で被相続人本人が作成した自筆証書遺言は、開封する前に検認の手続きが必要です。検認を行うことで遺言書の存在が相続人全員に知らされる上、中身が偽装されていないことが確認されます。
相続財産と相続人の確認
遺言書の有無を確認できたら、次に相続財産の調査を行います。遺言書がある場合も財産調査は必要です。遺言書に記載されていない財産が見つかったら、遺産分割協議を行わなければなりません。
相続財産にはプラスの財産だけでなく、借金や未払金などマイナスの財産も含まれます。プラスの財産からマイナスの財産と葬儀費用を引いた金額が、相続税の対象です。
相続財産の調査と並行して、法定相続人の確認も行う必要があります。法定相続人の調査は、被相続人における出生から死亡までの連続した戸籍謄本や、除籍謄本を全て取得して行います。
遺産分割協議
遺産分割協議とは遺産の分け方を決める話し合いのことです。相続財産と相続人を確認した後、遺言書がないケースでは法定相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺言書の内容と異なる分割を希望する場合や、遺言書に記載されていない財産が見つかった場合も、遺産分割協議を行わなければなりません。
遺産分割協議で相続人全員の合意があれば、遺産分割の方法や相続する割合は自由に決めることが可能です。話し合いにより分割の内容が決まったら、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には相続人全員の署名押印が必要です。
相続登記
不動産の名義を被相続人から相続人に変える手続きが相続登記です。遺産分割協議で不動産の相続人が決まったら、相続登記を行って不動産の所有権を移転します。
不動産の売却は名義人以外はできません。被相続人が名義人のままでは不動産を売れないため、相続人が不動産を売却できるよう、名義人を変更する必要があるのです。
相続登記申請は法務局で行います。相続人が自分で登記を行うことも可能ですが、司法書士に手続きを依頼するのが一般的です。司法書士に相続登記を依頼すれば、相続人の調査も任せられます。
相続登記を自分で行う場合は、不動産の登記事項証明書や住民票などを取得しなければなりません。必要書類を準備できたら、相続登記申請書を作成し、法務局で申請を行います。
相続税申告
遺産相続により相続税の申告義務が発生した場合は、相続税の申告・納税を行います。相続財産の総額が基礎控除額を超えれば、相続税を納めなければなりません。
申告・納税の期限は『被相続人が死亡したことを知った日』あるいは『相続の開始があったことを知った日』の翌日から10カ月以内です。申告が期限に間に合わない場合、ペナルティーを科される恐れがある点に注意が必要です。
一定の要件を満たす場合、配偶者控除や小規模宅地等の特例が適用できるケースがあります。特例が適用されて相続財産の総額が基礎控除額より少なくなれば、相続税の納税は不要です。
不動産売却
不動産の相続登記が終わったら不動産を売却します。不動産を売る場合は不動産会社に依頼するのが一般的です。売却方法は主に次の2つがあります。
仲介:不動産会社に買い主を探してもらい、買い主と売買契約を結んで売却する
買い取り:不動産会社自身が買い主となり、不動産会社と売買契約を結んで売却する
いずれの方法で売却する場合も、事前に査定を依頼するのが一般的です。売却方法として仲介を選択するケースでは、不動産会社に販売活動を行ってもらうための、媒介契約を締結します。
確定申告
確定申告は1年間に生じた所得にかかる所得税を申告する手続きです。相続不動産の売却により譲渡所得を得た場合は、譲渡所得税の確定申告を行う必要があります。
複数の相続人が譲渡所得を得たケースでは、その相続人全ての確定申告が必要です。相続登記で1人の相続人が名義人になっても、売却代金を複数の相続人に分配してそれぞれが譲渡所得を得た場合は、全員に確定申告の義務が発生します。
控除や特例を利用すれば譲渡所得税の負担を軽減できることもありますが、控除や特例の適用により所得税が0円になっても確定申告は必要です。
相続した不動産の分割方法
遺産分割の方法には現物分割・換価分割・代償分割・共有分割の4つがあります。メリット・デメリットがそれぞれ異なるため、どの方法で不動産を分割するのか、遺産分割協議で慎重に検討することが重要です。
現物分割
それぞれの遺産を現物のまま各相続人に分配する方法が現物分割です。例えば親の遺産を2人の子が相続する際、長男が不動産を相続し次男が預貯金を相続するといったケースが、現物分割に該当します。
現物分割のメリットは現物をそのまま残せることです。不動産を相続することになった相続人は、土地や建物を現物のまま所有できます。遺産を分かりやすく分割できる点もメリットです。
一方で各遺産の価値はそれぞれ異なるため、現物分割では遺産を公平に分配するのが困難です。全ての相続人が納得する方向で話し合いを進める必要があります。
換価分割
換価分割とは現預金以外の遺産を現金化して分割する方法です。相続財産に不動産や株式などが含まれる場合は、全て売却して現金化することになります。
遺産を平等に分配できることが換価分割のメリットです。分割割合に応じて相続人の間で公平に分配できます。不動産も売却するため相続後の土地や建物の管理も不要です。
換価分割のデメリットとしては、売却の手間や時間がかかることが挙げられます。売却時に費用や税金がかかることや、各遺産を相続前の用途で利用できなくなることも、換価分割のデメリットといえるでしょう。
代償分割
相続した財産が多い相続人が、他の相続人に代償金を支払って公平にする方法を、代償分割といいます。代償分割で支払われる金銭は、譲渡所得税の課税対象外です。
代償分割では相続財産を現物のまま分割できます。不動産を取得した相続人も、土地や建物を売却せずにそのまま利用することが可能です。分配の不公平感を解消できる点も、代償分割のメリットです。
一方で代償金を支払う人は、資金を確保しなければならないため、経済的な負担が重くなる恐れがあります。不動産は他の財産に比べ価値が大きくなりやすいことから、不動産を相続する人には資力が求められるでしょう。
共有分割
共有分割は各相続人の相続分に応じて共同所有する方法です。土地や建物など分割しにくい財産に対してよく利用されます。
現物財産をそのままの形で残せることや、公平な分配を実現できることが、共有分割のメリットです。ただし遺産が共同所有になるため、売却時の手続きが面倒になるほか、共有後に相続が生じると権利関係がより複雑になります。
話し合いがなかなかまとまらずに他の方法で分割が難しい場合は、とりあえず共有分割を利用するのがおすすめです。共有分割は将来的なトラブルに発展しやすいため、分割後はできるだけ早めに共有状態の解消を検討しましょう。
相続した不動産の売却にかかる費用・税金
不動産の相続・売却時にはさまざまな費用や税金がかかります。手続きをスムーズに進めるためにも、代表的なものを把握しておきましょう。
- 印紙税
- 譲渡所得税
- 登録免許税
- 仲介手数料
- その他クリーニング・解体費用など
印紙税
印紙税は不動産売買契約書の締結時に発生する税金です。契約書に印紙を添付する形で納税します。
印紙税額は契約書に記載された金額に応じて変動します。例えば契約金額が1,000万円超5,000万円以下の場合は2万円、5,000万円超1億円以下の場合は6万円です。
譲渡所得税
不動産を売却して利益を得た場合、売却益に対して譲渡所得税が課されます。譲渡所得税の計算式は以下の通りです。
税額={譲渡収入金額‐(取得費+ 譲渡費用)‐(特別控除)}×税率(所得税・住民税)
譲渡費用は不動産を売るためにかかったお金、取得費は不動産を取得した際にかかったお金を指します。譲渡所得は売却で得られた金額そのものではない点に注意しましょう。
譲渡所得税の税率は被相続人の所有期間で異なります。所有期間に対する税率を確認しておきましょう。
- 短期譲渡所得(所有期間5年以下):30%
- 長期譲渡所得(所有期間5年超):15%
登録免許税
登録免許税は相続登記の際に発生する税金です。不動産の固定資産税評価額をもとに税額が決まります。
相続による名義変更の登録免許税の計算式は、『固定資産税評価額×0.4%』です。相続不動産の固定資産税評価額が2,000万円の場合、相続による名義変更の登録免許税は2,000万円×0.4%=8万円となります。
なお相続登記の手続きは専門家に依頼するのが一般的です。登録免許税以外に専門家への報酬が費用として発生します。
仲介手数料
不動産の売却方法として仲介を選択した場合は、不動産会社に仲介手数料を支払う必要があります。仲介手数料の上限は法律で定められており、売買価格ごとの上限は以下の通りです。
売買価格 | 仲介手数料の上限 |
---|---|
200万円以下 | 売買価格×5%+消費税 |
200万円超400万円以下 | (売買価格×4%+2万円)+消費税 |
400万円超 | (売買価格×3%+6万円)+消費税 |
不動産会社に不動産を買い取ってもらう場合は、不動産会社の仲介業務が発生しないため、仲介手数料もかかりません。
その他クリーニング・解体費用など
相続した不動産の売却時には、以下のような費用が発生することもあります。
- ハウスクリーニング費用
- 土地の確定測量費用
- 建物の解体費用
- 必要書類の発行にかかる費用
上記は全て必須なわけではなく、必要に応じて発生する費用です。不動産の状況によりそれぞれの金額も異なります。
相続した不動産の売却方法を理解しよう
相続した不動産を売却したい場合は、相続から不動産売却までの流れを理解することが重要です。通常の不動産売却と異なり、相続に関するさまざまな手続きが発生します。
4種類の遺産分割方法を知っておけば、相続人の間で納得感のある遺産分配を行うことが可能です。分割が難しい不動産に関しても、現金化や共有といった方法で分配できます。
不動産の相続・売却で発生する相続税や譲渡所得税は、控除・特例の適用で節税できる可能性があります。不動産売却の基礎知識をしっかりと押さえ、スムーズに手続きを進めていきましょう。