2025年現在、日本国内の企業はデジタルトランスフォーメーション(DX)と働き方改革という二つの大きな潮流の中にあります。労働人口の減少や多様な働き方への対応が急務となる中、勤怠管理システムの導入は、業務効率化とコンプライアンス遵守を実現するための不可欠な一手となりつつあります。このような状況を踏まえ、政府や地方自治体は、中小企業のデジタル化を後押しするための手厚い支援策を継続しています。
勤怠管理システムのようなITソフトウェアの導入に際して活用できる代表的な全国規模の制度には、経済産業省が管轄する「IT導入補助金」と、厚生労働省が管轄する「働き方改革推進支援助成金」があります。これらに加え、全国の地方自治体も独自の補助金事業を展開しており、企業の所在地や事業内容に応じて最適な支援を選択することが可能です。
そこでこの記事では、勤怠管理システムの導入に利用できる助成金・補助金制度を網羅的に解説。各制度の概要、対象要件、支援額、申請プロセスを詳細に比較・分析し、自社の状況に最も適した制度を見つけて賢く活用していきましょう。
勤怠管理システム導入に使える2種類の助成金・補助金

勤怠管理システムの導入を検討する中小企業が活用できる全国規模の制度は「IT導入補助金」と「働き方改革推進支援助成金」の主に2つです。これらは管轄省庁が異なるため、その目的や性質も大きく異なります。この違いを理解することが、自社に最適な制度を選択する上での最初の重要なステップとなります。
「IT導入補助金」は経済産業省が主導する制度であり、その根幹には企業の生産性向上とDX推進という経済政策的な目的があります。ITツールの導入そのものを支援の対象としており、審査を経て採択される「補助金」です。
一方、「働き方改革推進支援助成金」は厚生労働省が管轄し、長時間労働の是正や年次有給休暇の取得促進といった労働環境の改善を目的とする労働政策の一環です。勤怠管理システムの導入は、あくまで労働環境を改善するための手段のひとつとして位置づけられており、定められた成果目標を達成することを前提に支給される「助成金」です。要件を満たせば原則として支給される点が補助金との大きな違いです。
企業の課題が「ITツールを導入して業務を効率化したい」という点に主眼があるならばIT導入補助金が、一方で「時間外労働の削減や新たな休暇制度の導入といった労働環境の改革を断行したい」という明確な目標があり、その手段としてシステム導入を考えているならば働き方改革推進支援助成金が、より適していると言えるでしょう。
〈2025年度 全国規模の補助金・助成金 制度比較〉
| 項目 | IT導入補助金2025 | 働き方改革推進支援助成金 |
| 管轄 | 経済産業省 | 厚生労働省 |
| 目的 | 生産性向上、DX推進 | 労働環境の改善、働き方改革 |
| 補助・助成額の目安 | 5万円~450万円(ソフトウェア購入費・利用料最大2年分・導入関連費の1/2以内など) | 対象経費の合計額の原則3/4(成果目標に応じた上限あり) |
| 支給要件の概要 | ITツールの導入 | 各コースの成果目標の達成 |
| 特徴 | 審査があり採択・不採択が決まる | 勤怠管理システム導入に加え、労働環境改善への具体的取組が必須。要件をみたせば原則支給される |
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IT導入補助金2025の徹底解説

IT導入補助金は、経済産業省が監督し、中小企業・小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、業務効率化や売上向上をサポートする制度です。2025年度も引き続き、ソフトウェア本体の購入費や最大2年分のクラウド利用料、さらには導入コンサルティングなどの関連費用も補助対象となっています。
勤怠管理システムが該当する申請枠
IT導入補助金には複数の申請枠が存在しますが、勤怠管理システムの導入で主に利用されるのは「通常枠」です。この枠の中で、勤怠管理システムは「総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情シス」といった業務プロセスに分類されます。
対象となる事業主
本補助金の対象となるのは、業種ごとに定められた資本金または常勤従業員数の上限を超えない中小企業および小規模事業者です。具体的な定義は以下の表の通りです。
〈IT導入補助金2025 対象となる中小企業の定義〉
| 中小企業の業種 | 資本金 | 従業員 |
| 製造業・建設業・運輸業 | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| ゴム製品製造業 | 3億円以下 | 900人以下 |
| ソフトウェア業・情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
| 旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
| その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
また、小規模事業者は常勤従業員の人数のみで定義されます。
〈IT導入補助金2025 対象となる小規模事業者の定義〉
| 小規模事業者の業種 | 従業員 |
| 商業・サービス業 | 5人以下 |
| 宿泊業・娯楽業 | 20人以下 |
| 製造業・その他 | 20人以下 |
勤怠管理システムを導入する場合の補助金申請額
通常枠における補助額は、導入するITツールが担う業務プロセスの数によって変動します。
- 1~3プロセスの場合:勤怠管理システム単体を導入する場合、通常はこちらに該当します。補助額は5万円以上150万円未満で、補助率は原則として1/2以内です。
- 4プロセス以上の場合:勤怠管理機能を含む人事・給与・会計などが統合されたERPシステムなどを導入する場合が該当します。補助額は150万円以上450万円以下で、補助率は同様に1/2以内です。
2025年度の制度では、賃上げへの対応を促進するための重要なインセンティブが設けられています。具体的には、「3か月以上地域別最低賃金+50円以内で雇用している従業員が全従業員の30%以上」という条件を満たす事業者は、補助率が2/3以内に引き上げられます。
これは、IT投資と賃金政策を連動させることで、より大きな補助を得られる可能性があることを意味します。近々賃上げを計画している企業は、この要件を満たすタイミングで申請を行うことで、補助金を最大限に活用するという戦略的な判断が可能です。
IT導入補助金2025の申請の流れ
申請プロセスは事業者単独では完結せず、「IT導入支援事業者」との連携が必須となります。大まかな流れは以下の通りです。
1.事前準備
申請には「gBizIDプライム」アカウントの取得と、情報セキュリティ対策への取り組みを宣言する「SECURITY ACTION」の実施が不可欠です。「gBizIDプライム」アカウントの発行には数週間を要する場合があるため、計画の初期段階で取得手続きを開始することが極めて重要です。
2.IT導入支援事業者およびITツールの選定
事務局に登録されたIT導入支援事業者とITツールの中から、自社の課題解決に適したものを選定します。事業者はこの支援事業者とパートナーシップを組み、申請を進めます。
3.交付申請
IT導入支援事業者から「申請マイページ」への招待を受け、共同で事業計画や必要情報を入力し、事務局へ申請を提出します。
4.ITツールの発注・契約・支払い
事務局から「交付決定」の通知を受けた後、正式にITツールの契約・支払いを行います。
5.事業実績報告
導入したITツールの支払い完了後、実際に事業で活用していることを証明する証憑とともに事業実績報告を提出します。
6.補助金交付
実績報告が承認されると、補助金額が確定し、指定の口座に振り込まれます。
7.事業実施効果報告
補助金交付後、定められた期間内にITツール導入による生産性向上効果などを報告する必要があります。
事業スケジュール
IT導入補助金は通年で申請を受け付けているわけではなく、複数回に分けて公募期間(締切)が設定されます。2025年度もすでに複数回の公募が実施されており、今後も新たなスケジュールが発表される予定です。予算には限りがあるため、各回の締切を待たずに受付が終了する可能性もあります。常に公式サイトで最新のスケジュールを確認し、早めに準備を進めることが採択の鍵となります。
IT導入補助金の注意点
- 交付決定前の契約・支払いは厳禁:最も注意すべき点は、事務局からの「交付決定」通知を受け取る前に、ITツールの発注、契約、支払いなどを絶対に行わないことです。事前に行った経費はすべて補助対象外となり、申請自体が無効になる可能性があります。
- IT導入支援事業者との連携が必須:申請から報告まで、IT導入支援事業者との二人三脚で進める必要があります。そのため、信頼できるパートナー事業者を見つけることがプロジェクトの成否を左右します。
- 補助金は後払い:補助金は精算払い(後払い)です。事業者はまずITツールの費用を全額自己資金で支払い、その後の実績報告を経て補助金を受け取ることになります。そのため、一時的な資金繰りを計画しておく必要があります。
働き方改革推進支援助成金 2025年度版のポイント
厚生労働省が管轄する「働き方改革推進支援助成金」は、中小企業が労働時間の削減や休暇取得の促進といった労働環境の改善に取り組む際に、その経費の一部を助成する制度です。勤怠管理システムの導入は、これらの取り組みを効果的に進めるための設備投資として助成対象に含まれます。
勤怠管理システム導入が対象となるコース
2025年度の制度において、勤怠管理システムの導入が関連する主要なコースは以下の3つです。
- 労働時間短縮・年休促進支援コース:生産性を向上させ、時間外労働の削減や年次有給休暇・特別休暇の取得促進に向けた環境整備に取り組む事業者を支援する、最も汎用性の高いコースです。
- 勤務間インターバル導入コース:勤務終了から次の勤務開始までに一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル制度」を新たに導入する事業者を支援します。
- 業種別課題対応コース:建設業、運送業、病院など、特に長時間労働が課題となっている特定の業種に特化した支援を行うコースです。
対象となる事業主
上記のコースに申請できるのは、以下の要件を満たす中小企業事業主です。資本金または常時雇用する労働者数のいずれかの基準を満たす必要があります。
| 業種 | 資本金 | 常時雇用の労働者 |
| 小売業(飲食店を含む) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
これに加え、労働者災害補償保険の適用事業主であることや、交付申請時点で「年5日の年次有給休暇取得」に向けた就業規則が整備されていることなども共通の要件となります。
各コースの助成額の目安
助成額は、原則として対象経費の合計額に補助率3/4を乗じた額となります。ただし、常時使用する労働者数が30人以下の中小企業が特定の設備投資(労務管理用機器の導入など)を行い、その費用が30万円を超える場合には、補助率が4/5に引き上げられる優遇措置があります。
支給額には、達成を目指す「成果目標」ごとに上限額が設定されています。例えば、「労働時間短縮・年休促進支援コース」では、時間外労働を月60時間以下に削減する目標を達成した場合、最大で150万円が上限となります。また、年次有給休暇の計画的付与制度を新たに導入する目標の場合は、上限25万円です。さらに、成果目標に賃上げを加えることで、上限額が加算される仕組みもあります。
働き方改革推進支援助成金の申請の流れ
申請から受給までのプロセスと2025年度の主なスケジュールは以下の通りです。
1.交付申請書の提出
助成金の活用を計画し、「交付申請書」および「事業実施計画」を作成の上、管轄の都道府県労働局に提出します。2025年度の申請締切は2025年11月28日(金)です。
2.交付決定と事業の実施
労働局による審査を経て「交付決定」通知が届きます。その後、提出した計画に沿って、勤怠管理システムの導入や就業規則の変更、研修の実施など、具体的な取り組みを進めます。事業の実施期間は2026年1月30日(金)までです。
3.支給申請
計画した全ての取り組みが完了した後、「支給申請書」と「事業実施結果報告書」を労働局に提出します。申請期限は、事業実施期間の終了日から30日後、または2026年2月6日(金)のいずれか早い日となります。
4.助成金の受給
提出された報告書の内容が審査され、成果目標の達成が確認されると、助成額が確定し、支給されます。
働き方改革推進支援助成金の注意点
この助成金は単なる設備購入費の補助ではなく、労働環境改善という「プロジェクト」全体を支援するものです。そのため申請にあたっては、勤怠管理システムを導入することが、いかにして時間外労働の削減や有給休暇取得率の向上といった具体的な成果目標達成に結びつくのかを、論理的かつ説得力のある事業実施計画として示す必要があります。システムはあくまで目標達成のための手段であり、その改革プロセス全体が評価の対象となります。
またIT導入補助金と同様に、助成金は後払いです。システム導入費用を含むプロジェクトに関連する全ての経費を事業者が一旦立て替える必要があります。さらに、国の予算には限りがあるため、申請締切日である2025年11月28日よりも前に、予告なく受付が終了する場合がある点にも注意が必要です。
【2025年7月時点】勤怠管理システム導入に使える地方自治体の補助金事業一覧

国の制度に加えて、多くの都道府県や市区町村が、地域内の中小企業を対象とした独自のデジタル化支援策を実施しています。これらの補助金は、国の制度よりも申請要件が緩やかであったり、地域の実情に合わせた柔軟な支援内容となっていたりする場合があります。
以下に、2025年7月31日時点で公募中の、勤怠管理システム導入に活用できる可能性のある地方自治体の補助金事業を一覧で紹介します。各制度の詳細は必ず公式サイトで確認し、最新の公募状況や要件を把握してください。
〈地方自治体のデジタル化支援補助金・助成金〉
| 事業名 | 支援事業者 | 対象者 | 支援期間 |
| 葛飾区デジタル化支援事業費補助金 | 葛飾区 | 市内に事業者を置く中小企業者 | 令和8年2月27日(金)まで |
| 令和7年度神奈川県小規模事業者デジタル化支援推進事業費補助金 | 神奈川県 | 神奈川県内の小規模事業者 | 令和7年9月30日(火)17時まで |
| 中小企業等DX支援補助金 | 平塚市 | 市内に事業所がある中小企業者 | 令和8年2月28日(土)まで |
| 松戸市中小企業デジタル化チャレンジ補助金 | 松戸市 | 市内に主たる事業所がある中小企業者 | 令和8年2月27日(金)まで |
| 2025年度中小企業デジタル化促進事業補助金 | 塩尻商工会議所 | 市内に本社または事業所を有する中小企業 | 予算終了まで(事業完了期限:令和8年3月6日) |
| 新ビジネスチャレンジ応援補助金(デジタル化) | 豊橋市 | 市内に本店や住所がある中小企業者 | 令和8年2月末日まで |
| 令和7年度豊田市働き方改革推進支援補助金 | 豊田市 | 市内に本社を置く中小企業者など | 令和8年2月28日(土)まで |
| 守山市中小企業等デジタル化促進補助金 | 守山市 | 守山市内に事業所を有する中小企業 | 令和8年1月31日(土)まで |
| 「がんばる岸和田」企業経営支援補助金 | 岸和田市 | 岸和田市内に事業所を有する事業者 | 令和8年1月30日(金)まで |
| デジタル化支援事業補助金 | 松江市 | 市内の製造業を営む中小企業者 | 令和8年3月31日(火)まで |
助成金を活用した勤怠管理システムの導入で業務効率化を

勤怠管理システムを導入することは、単にタイムカードをデジタル化する以上の価値をもたらします。手作業による集計業務の負担を劇的に軽減し、計算ミスや入力漏れといったヒューマンエラーを削減します。これにより、人事・労務担当者はより戦略的な業務に時間を割くことが可能になります。正確な労働時間の把握は、長時間労働の是正やコンプライアンス遵守の基盤となり、結果として従業員の労働環境改善と生産性向上に直結します。
本稿で解説したように、2025年度も国や地方自治体は、こうした企業の取り組みを力強く支援しています。ITツールの導入そのものを支援する「IT導入補助金」、労働環境の改革プロジェクトを包括的に支援する「働き方改革推進支援助成金」、そして地域の実情に応じた「地方自治体の補助金」など、多様な選択肢が存在します。
これらの制度は、システム導入にかかる初期投資の負担を大幅に軽減する絶好の機会です。ただし、いずれの制度も申請期間が定められており、予算の上限に達し次第、公募が終了することもあります。必要な書類を準備し、計画的に申請手続きを進めることが成功の鍵となります。
費用の一部補助を受けられる制度を賢く活用し、コストを抑えながら自社に最適な勤怠管理システムを導入することで、持続的な業務効率化と働きやすい職場環境の実現を目指してみてはいかがでしょうか。
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