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【税理士監修】役員賞与は損金算入できるのか?要件や注意点を解説!

最終更新日: 2019年12月19日

「役員賞与を支払いたいけれど、役員賞与は損金算入できないってホント?」

そんな疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか?本稿では役員賞与についての概要と節税効果、金額の設定などについてご説明していきます。

正しく理解してあらぬ疑いで余分な税金を支払わなくていいようにしっかり準備しておきましょう。

この記事を監修した税理士

越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山

 

役員賞与と損金算入の関係について

損金算入の画像
役員賞与と損金算入の計算について

利益が出たのでその分を「役員賞与」として支給して節税したいとお考えの場合に問題になるのが、「役員賞与が損金になるかどうか」ではないでしょうか。

そこでここでは役員賞与の概要と損金算入についての説明を行っていきます。まずは「役員賞与とは何か」ということをキッチリおさえておきましょう。

役員賞与の定義

「役員賞与」とは何かという説明をする前に、そもそも「役員」とはどのようなものかを整理しておきましょう。役員とは法人税法上の定義において、下記のような役職についている人を指します。

役員の種類

  • 取締役
  • 監査役
  • 理事
  • 会計参与
  • 執行役
  • 監事
  • 清算人(法人を解散するときの担当者)

上記のような役員がもらうお金には大きく分けて「役員報酬」と「役員賞与」の2つがあります。

役員に対して定期的に支払われるものを「役員報酬」と呼び、「役員報酬」に当てはまらないものが「役員賞与」に分類されるのが一般的です。

それぞれについて詳しく見ていきましょう

まず「役員賞与」ですが、役員に対して突発的に支払われる賞与が「役員賞与」という位置付けです。一方で「役員報酬」を詳しく見ていくと、税法上で下記3つに分類されています。

損金に算入できる3つの役員報酬

定期同額給与 1ヶ月以下の一定期間に支給される給与で同額のもの

変更があっても同額が続くものを含む

事前確定届出給与 所轄税務署長に届出済みの「事前確定届出給与に関する定め」に基づいて支給する給与
利益連動給与 法人(同族会社以外)の一定要件すべてを満たした給与

上記3つと「退職金」を合わせた合計4つに該当しないものが、「役員賞与」に該当します。ちなみに「定期同額給与」を行うためには、事前に会社の利益を予想した上で計画的に役員に対する給与を考えなければなりません。

この場合は突発的なものではないため「役員賞与」ではなく「役員報酬」という扱いになります。「役員賞与」と「役員報酬」は似ていますがそのような違いがあることを覚えておきましょう。

役員賞与の仕訳

役員賞与は販売費及び一般管理費で計上されます。仕訳としては以下の通りです。

借方 貸方
役員賞与(販売費及び一般管理費) 普通預金
所得税預かり金
社会保険料預かり金

役員賞与は会計上は費用ですが、税務上は損金(費用)にならない場合があります。損金にならない場合は申告書の別表4で損金不算入として調整を入れましょう。

したがって財務諸表上は費用として認識されていますが、税務申告書上では損金として認識されず課税所得から省かれています。

参考:別表四 「所得の金額の計算に関する明細書」|国税庁

基本的には役員賞与は損金不算入

業績に応じて賞与の支払額が決まることを業績連動型賞与制度と言います。この業績連動型賞与制度の元での役員賞与は、損金になるパターンと損金不算入になるパターンの2種類です。

まず損金になるパターンは事前に役員賞与の計上が決まっている場合で、事前に決まっているかどうかは「事前確定届出給与に関する届出」が、納税地の所轄税務署長に提出されているかどうかによって決まります。

参考:[手続名]事前確定届出給与に関する届出|国税庁

損金不算入になるパターンとしては突発的に役員賞与が支払われる場合になります。なぜ突発的な役員賞与が損金不算入になるかというと、役員賞与を事前に支払うことが決められていない場合は役員賞与の有無によって支払う税額が大きく変わるためです。

したがって「役員賞与の支払いを事前に決めているかどうか」が損金として認められるポイントになります。

損金算入するための要件「事前確定届出給与」とは

「事前確定届出給与」とは一定の届出期限までに所定の内容を記載した書類を所轄税務署長に届出をし、承認された役員給与のことを指します。

つまり事前に役員賞与としての支給額と時期を確定し、申告した上で支給する給与(定期同額給与及び利益連動給与を除く)です。この「事前確定届出給与」について詳しくご説明していきます。

支払時期や支払金額を固定させる

「事前確定届出給与」は事前に税務署に届出た「支払時期」と「支払金額」の通りに「役員給与」を支払うという税法上の制度です。

支払時期や支払金額は株主総会を開催して決定する必要があります。もちろん議事録は必須です。この議事録は事前に支払時期と支払金額が決定されたことの証明となります。

金額は実質基準と形式基準で判断する

役員賞与の金額は自由に決定していいものではありません。

一般的な常識を逸脱した高額な金額を支給してしまうと損金不算入とされてしまう可能性があります。そのため金額の妥当性を総合的に判断するのに用いられるのが「実質基準」と「形式基準」という2つの基準です。

ただし明確な判断基準は設定されていないことから、個別に検討して判断する必要があるので注意してください。「実質基準」と「形式基準」の内容は下記の通りです。

実質基準 支給対象の役員について、下記の内容を比較して実質的に金額が妥当かどうかを判断する基準

  • 職務内容
  • 法人の収益状況
  • 給与の支給状況
  • 同種同規模の法人の役員報酬など
形式基準 定款の規定や株主総会の決議で定めた「報酬限度額」を基準として、形式的に判断する基準

「事前確定届出給与に関する届出」を提出する

役員賞与の支払時期と支払金額を所轄税務署に提出することで初めて損金算入が認められるようになるのが、「事前確定届出給与」という制度であることはお伝えしました。

では事前確定届出給与に関する届出書は、実際いつまでに提出すればよいのでしょうか。これは以下のいずれか早い日までに提出する必要があります。

  • 株主総会等の決議の日から1ヶ月が経過した日
  • 会計期間開始日から4ヶ月が経過した日
  • 設立事業年度の場合は、その設立の日以後2ヶ月が経過した日

例えば3月末が決算日で株主総会を5月24日に開催した場合であれば、6月24日が届出期限となるわけです。

内訳は株主総会等の決議の日から1ヶ月が経過した日が6月24日、会計期間開始日から4ヶ月が経過した日が7月31日となりますから、この2つの早い方である6月24日が届出期限になります。

もしこれらの届出が期限内に完了していない場合は、損金不算入となりますので注意してください。

参考:[手続名]事前確定届出給与に関する届出|国税庁

事前確定届出給与の注意点

事前に確定させて提出する理由ですが、事前に支給する時期と金額を決めておけば予想外の利益が出たとしても利益調整目的で利益を減らすということができなくなります。

つまり届出した通りの時期に、届出した通りの金額を支給しないと違反になってしまいます。違反になるとどうなるのかというと、損金としての計上が否認されることになるということです。

ではもし役員賞与を損金として計上した後にそれが否認された場合はいったいどうなるのでしょうか。この場合には法人税と所得税の二重で税金がかかってきます。

この理由を先ほどの「年度末に出た100万円の利益を全額役員賞与として支給した場合」を例にご説明します。

通常の処理なら利益を全額支払ったのですから利益も法人税も0円となり、受け取った役員の所得税が100万円分増えることになりますね。

しかしこの後で役員賞与が否認という扱いを受けた場合、支払ったはずの100万円が税法上の利益として再計上され、その100万円に対して法人税がかかってきます。

ただしこれはあくまでも数字上の話ですから、受け取った役員が返金するわけではありません。すなわち会社が役員賞与として支払った100万円は会社の利益として戻されてその分の法人税を課せられた上、受け取った役員も100万円に対する所得税をそのまま支払う義務が出てくるのです。加えてもし税務署に悪質と判断されたら重加算税を課せられる恐れもあります。

つまり役員賞与が否認されれば、「利益100万円に対して法人税と所得税の二重で税金が課せられる」という仕組みになっていますので注意しておきましょう。

役員賞与の損金算入に節税効果はあるのか

役員賞与が損金として算入できれば節税効果があります。

例えば法人税等の税率を30%だとするならば、100万円の役員賞与が損金として算入できた場合「100万円 × 30% = 30万円」の節税になるわけです。

ただし役員賞与は所得税や住民税の課税対象になっていますので、支給金額は納税額とのバランスを考えて決定する必要があります。

社会保険料を削減できる可能性がある

賞与に対してかかる従業員の社会保険料の会社負担分である法定福利費(健康保険料と厚生年金保険料)には、以下のように「上限額」が定められています。

社会保険の種類 賞与の上限額
健康保険 573万円
厚生年金 150万円

もし役員に支払う報酬を決めているのであれば、「役員報酬」で支払うか「役員賞与」で支払うかによって支払う社会保険料が大きく変わります。もしかしたら役員報酬で支払うより、役員賞与という名目で支給したほうが社会保険料の軽減が見込めるかもしれません。

なお役員賞与支給額は年間トータルで換算されるため、1年(4月1日〜3月31日)の間で複数回に分けて支給したとしても結果は変わらず、上限額を超えた部分に対しては保険料の負担がなくなってしまうので注意しましょう。

所得税・住民税と法人税の税率がポイント

所得税や住民税は、法人税よりも最高税率が高く設定されています。

そのため、あまりに多額の役員賞与を支給してしまうと、受け取った役員自身の税負担が重くなってしまうので注意しましょう。

役員賞与をもらって喜んでいても、結果として高い税金を支払わされたのでは、その役員からしたらデメリットでしかない結果になりかねません。

損金の額は税理士と相談するのが得策

役員賞与を損金にする方法として、事前確定届出給与の説明をしてまいりました。

しかし節税だけを目的に役員賞与を決めてしまうと、法人税だけでなく役員個人の所得税や住民税、また社会保険料についての考慮も必要になってきます。

そのあたりを上手に判断してもらう意味でも、別表4をはじめとする法人税申告書の書き方と合わせて税理士に教えてもらうのがよいでしょう。

役員賞与の決定方法

上記でご説明した通り、役員賞与は自由に決めることができる性質のものではありません。ちゃんとした手順を踏む必要があります。

株主総会で決議して議事録をしっかり残し、支払期日や支払金額を明確にするか定款で定めるかのいずれかの方法で役員賞与は決定されます。

ここではその内容について見ていきましょう。

株主総会か定款のいずれかで決定される

役員賞与は「株主総会で決議する」か「定款で定める」かのいずれかの方法で支給額等が決定されます。

しかし利益がいくら出るかもわからない中で、もし役員賞与を定款で定めてしまうと、支給額が変動するたびに定款の変更が発生するのでおすすめしません。

そのため株主総会で決定するのが一般的となっています。

株主総会で決定した金額を変更したい場合は、再度株主総会を開いて再議決が必要になるので、その点は注意しておきましょう。

金銭支給が原則

役員賞与だからといって特別扱いされるわけではありません。

通常の給与と同じく、労働基準法の「賃金支払い5原則」に従って、現物支給ではなく金銭支給でなければなりません。

ただしあくまで事前に労働協約などで「現物支給する」と取り決められているのであれば、現物支給でも認められることもあります。

まとめ-不安があれば税理士に相談しよう‐

以上が役員賞与の損金算入についての内容になります。事前に支払う内容を決めて、その通りに支給することが重要であることがお分りいただけたのではないでしょうか。

事前に届け出を怠って役員賞与が否認されれば、役員本人の所得税も合わせて二重で支払うことにもなってしまうので気をつけて処理するようにしましょう。

複雑な仕組みなのでこういった内容を親身に相談できる顧問税理士をそばにおいておくことをおすすめします。

監修税理士のコメント

越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山

役員に対する賞与は平成18年税制改正によって初めて認められるようになりました。役員賞与の最大のメリットは想定外に利益があった時に損金に算入することです。注意点は①届出期限までに届出を出す②支給日にきっちり支給する事、です。特に当事業年度の損益の予測が困難な時に提出しておけば将来の納税のリスクを担保する事ができます。もし支給が困難であれば“支給しない”選択肢もあるので提出してもデメリットはございません。この記事を読んで賞与を検討しては如何でしょう??

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この記事の監修税理士

越智聖税理士事務所 - 愛媛県松山市天山

越智聖(おちさとる)1980年愛媛県今治市生まれ。香川大学経済学部卒。大学卒業後愛媛県西条市の税理士事務所で12年間の勤務の間に税理士試験に合格し平成27年4月に愛媛県松山市にて独立開業。スタッフ5人。法人の顧問先102件、確定申告約130件(平成30年実績)相続税申告年間約5件。“人の為に動く”を経営理念とし、愛媛県で一番話しやすい税理士と言われている。