「包括受遺者(ほうかつじゅいしゃ)に選ばれたが、そんなの聞いたことない」「いったい何をすればよいのだろうか」とお困りではありませんか。
包括受遺者は相続人とほぼ同じような権利をもった人のことであり、遺産の取り分について話し合う「遺産分割協議」に参加することが必要です。
本記事では「包括受遺者とはどういった人を指すのか」「包括受遺者のやるべきことは何か」について、わかりやすく解説します。
この記事を監修した弁護士
石尾理恵弁護士
相続案件を中心に取り扱う事務所に所属し、遺産分割、遺留分侵害請求、相続放棄、遺言書作成のなど相続案件を数多く取り扱っている。日々、依頼者の安心・納得を重視して、相続事件を解決している。
包括受遺者とは「包括的な遺贈を受けた人」
包括受遺者とは「包括的な遺贈を受けた人」を意味します。
「包括的な遺贈を受ける」とは「遺産を指定されずに、漠然と一定の割合だけ遺贈を受ける」ということです。たとえば「Aに対して、全財産の3分の1を遺贈する」「Bに対して、財産のすべてを遺贈する」のように書かれている場合、それは「包括的な遺贈」に当たります。
包括受遺者は相続人とほぼ同じ権利を持っているので、遺産分割協議などに参加したり、債務などの消極遺産も受け取ったりすることが必要です。ただし「遺産相続割合の最低保障である遺留分が認められない」などの、相続人と異なる特徴もあるので注意しましょう。
また、包括受遺者は「遺贈を放棄する」「受遺したものを譲渡する」「受遺したものを放棄する」ことが可能です。遺贈を放棄する場合は、3か月以内に家庭裁判所に申し出る必要があります。
遺贈とは「遺言によって財産を無償で譲与すること」
遺贈とは「被相続人の遺言に基づいて、財産を無償で譲与する」ことです。
通常であれば、遺産は相続人にすべて相続されます。しかし、被相続人が遺言状を用意していた場合、特定の人物に遺産の全部もしくは一部を与えることが可能です。
一般的に遺産を相続人が受け取る場合を「相続」と、相続人以外の方が受け取る場合を「遺贈」と表して使い分けられています。
受遺者とは「遺贈を受けた人」
受遺者とは「遺贈を受けた人」のことです。
受遺者は法定相続人である必要はなく、被相続人が遺言状を用意すれば自由に指定できます。
さらに個人である必要はなく、法人を受遺者とすることも可能です。
包括受遺者と特定受遺者の違い
包括受遺者と類似する言葉に特定受遺者があります。
特定受遺者とは「財産のうち決められたものだけ、遺贈を受けた人」のことです。例えば遺言状に「A銀行の口座にある1,000万円をBに遺贈します」と書いてあれば、それは「特定遺贈」を指します。
特定受遺者は被相続人によって決められたものしか取得できず、遺言にない債務などを相続する必要はありません。
特定遺贈を放棄する場合、包括遺贈の場合のように家庭裁判所で手続きを行う必要はありません。相続人などの遺贈義務者に対して、放棄する旨を伝えれば大丈夫です。放棄する期限は原則ありませんが、遺贈義務者が十分な期間を定めて催告した場合、その間に放棄する必要があるので、注意しましょう。
包括受遺者がするべきこと
包括受遺者にはするべきことが3つあります。
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「知らない間に負債を背負わされていた」なんてことが起きないように、よく確認しましょう。
①自身がどの種類の包括受遺者か確認する
まずは、自身が4種類ある包括受遺者のうち何に該当するのか、遺言状を見て確認しましょう。
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自身がどれに当てはまるのかによって、やるべきことや主張する権利、義務が異なります。
②遺産分割協議に参加する
包括受遺者も遺産分割協議に参加することが必要です。
遺産分割協議では被相続人の債務などの「消極遺産」も決める必要があり、これについて相続放棄するなどの権利を主張することができます。
相続に関するトラブルは主に遺産分割協議で起こるので、包括受遺者になると、望んでもいない揉め事に巻き込まれるかもしれません。
法的には権利を主張することができますが、トラブルに発展する可能性は理解しておきましょう。
③遺産の譲与や相続登記などを行う
包括受遺者となった場合、遺産の譲与や相続登記を行います。
遺産の譲与とは「遺産分割協議での決定に基づいて、財産を分けること」であり、相続登記とは「所有者が亡くなった場合に、継承する人物へ不動産の名義を移すこと」です。
ですので被相続人の財産に不動産が含まれていた場合、相続登記が必要になります。
また、確定申告や相続税の支払い手続きなども必要になるので、注意しておきましょう。
包括受遺者には4つの種類がある
包括受遺者には大きく分けて4種類あります。
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法的な扱いが大きく異なるので、それぞれ理解しておくことが必要です。
しっかりと財産を受け取れるように、自分のもつ権利について、よく確認しておきましょう。
全部包括受遺者
全部包括受遺者とは「財産のすべてについて遺贈を受ける人」を指します。
つまり「債務などの消極財産も相続するように指定されている」ということです。
財産についてはすべて包括受遺者が受け取るので、遺産分割協議を開く余地はありません。
遺産分割協議を開く必要がないため、遺贈を受けるか、それとも拒否するかの二択となります。
<全部包括受遺者となる遺言状の例文>
第〇条 私は、私の所有する全ての財産を下記の者に遺贈する。 〇山〇人(昭和△年△月△日生、□県□市□町□丁目□番□号) |
割合的包括受遺者
割合的包括受遺者とは「財産の一部について、割合に基づいて包括的な遺贈を受ける人のこと」です。
つまり全部ではないものの、債務などの消極財産についても遺贈を受けています。
<割合的包括受遺者となる遺言状の例文>
私は私の所有する全ての財産を、以下2名に下記の割合にて遺贈する。
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特定財産を除いた財産についての包括受遺者
特定財産を除いた財産についての包括受遺者とは「財産を指定されない、かつ割合に基づかずに包括的な遺贈を受ける人のこと」を指します。
他の包括受遺者に比べて、やや複雑な条件でのみ成立するので、該当しないかよく確認しておきましょう。
<割合的包括受遺者となる遺言状の例文>
私は私の所有する全ての財産のうち、不動産①を以下に遺贈する。 〇山〇人(昭和△年△月△日生、□県□市□町□丁目□番□号) 不動産①を除いた全ての財産を、以下に遺贈する。 〇川〇子(昭和△年△月△日生、□県□市□町□丁目□番□号) |
この場合、具体的に何を遺贈するか明らかでない「包括遺贈」を受けている□川□子が、特定財産を除いた財産についての包括受遺者です。
清算型包括受遺者
清算型包括受遺者とはいわゆる「清算型遺贈」を受ける立場を指します。
清算型遺贈とは「被相続人の財産を売却・処分し、債務を解消した後に残った処分金を遺贈すること」です。
つまり清算型包括受遺者は、処分金を継承します。
被相続人が遺言状において「ある財産の処分金はAとBに均等に遺贈する」と述べたなら、AとBは清算型包括受遺者です。
<清算型包括受遺者となる遺言状の例文>
私は私の所有する不動産の処分金について、三分の一を〇山〇人に、三分の二を〇川〇子に遺贈する。 |
遺産分割協議とは?うまく進めるポイント
包括受遺者となった場合、もっとも時間と手間がかかるのが遺言分割協議です。
「協議の意味や進め方がわからない」「揉め事は避けたい」と考えている方が多くいらっしゃるかもしれません。
遺産分割協議では「被相続人の相続財産をどう分けるのか」について話し合います。
「ボイスレコーダーなどで話し合いの証拠を残す」「相続対象となる遺産はすべて全員に公開する」などのポイントを押さえることで、話し合いをより円滑かつ安全に進められるでしょう。
遺産分割協議とは「被相続人の相続財産をどう分割するか話し合うこと」
遺産分割協議とは被相続人の相続財産について分割方法を話し合うものです。
被相続人の財産は遺言状で明確な遺贈割合の指定があれば、それに基づいて分配されます。
しかし遺言状が遺されていないなら、財産の分割方法について、相続人と包括受遺者での相談が必要です。
遺産分割協議では「決定事項について全員が合意する必要がある」など、話をまとめる上でやや厳しいハードルがあります。
そのため、相続人や包括受遺者の間で意見が食い違うことが多く、揉め事になりやすいです。
遺産分割協議の進め方
遺産分割協議は基本的に次の5つのステップで進められます。
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しかし、実際には財産の分配割合で不満が出たり、誰か一人が合意できなかったりと中々スムーズに進みません。
最悪の場合、家庭裁判所に申し立てて中立的な判断を仰ぐケースもあります。
遺産分割協議をうまく進めるポイント
遺産分割協議では揉めてしまうことが多いですが、ポイントを押さえるとうまく進めることができます。
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もっとも重要で実践しやすいのは、話し方を工夫することでしょう。
感情的に言い合うのでは、遺産分割協議で必要な全員の合意には辿り着きません。
一方で論理的すぎると、相手の気持ちを逆撫ですることもあります。
あくまでも「協議」であることを意識し、協調的に対話しましょう。
遺産分割協議がまとまらないときの対処方法
遺産分割協議がまとまらなかった時は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。この場合は家庭裁判所の調停医委員が遺産分割を主導します。最終的に提示された分配について全ての相続人と包括受遺者が同意した場合、調停は成立です。
それでも話がまとまらない場合、家庭裁判所での調停ではなく、法的な拘束力がある「遺産分割審判」へと移行します。審判があり、法的に矛盾しない即時抗告(遺産分割のやり直し請求)がなければ遺産の分配が実施される仕組みです。
遺産分割はそもそも調停へ発展するのが珍しく、審判になるケースはごく少数です。ただし、遺言状がなく親戚同士で協調的な議論ができなかった場合、上記のようなこともあるので留意しておきましょう。
包括受遺者が遺産分割協議で取得した不動産の登記方法
包括受遺者が遺産分割協議で不動産を取得した場合は、所有権移転登記が必要です。
ただし全部包括受遺者と割合的包括受遺者で、それぞれ手順が異なります。
<全部包括受遺者の場合>
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<割合的包括受遺者の場合>
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割合的包括受遺者の手続きは全部包括受遺者より少し複雑で、一度共同名義で登記した後に、もう一度持分移転登記を実施します。のちに持分移転登記されるからといって、共同名義での登記は法律上省略できません。
ただし、不動産を取得するのが相続であった場合は省略可能です(中間省略登記)。
必要書類が多いので、次の法務局のホームページでよく確認しましょう。
参考:法務局公式ホームページ |
包括受遺者が遺贈を放棄する方法
包括受遺者は相続人と同じく、遺贈を受けても相続放棄する権利を有します。
特に債務などの消極資産が積極資産よりも多いなら、相続する必要はありません。
<包括受遺者が遺贈を放棄する手続き>
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ただし、自分が包括受遺者と知ってから3ヶ月以上経過したら、遺贈を受けたとみなされるので注意してください。
全部包括受遺者が遺産の一部を法定相続人に譲る方法
全部包括受遺者は、法的にすべての財産を承継することが可能です。
ただし相続人の求めに応じて、一部を譲り渡すこともできます。
<全部包括受遺者が遺産の一部を法定相続人に譲る3つの方法>
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遺留分侵害額請求とは「相続人が全部包括受遺者に対して『その遺産は私のものであるから返還せよ』と裁判所へ申し立てるもの」で、対抗的なニュアンスを多分に含みます。
もっともスムーズかつ円満な解決法は「全部包括受遺者が遺産を承継した後に相続人へ譲り渡す」ことです。
ただし、遺産の譲渡については手続きや必要性の判断が難しく、選択次第では税制面で優遇される場合もあります。
もし悩んているようであれば、税理士へ相談してみましょう。
相続人とは異なる包括受遺者の特徴7つ
包括受遺者と相続人は遺産の相続において基本的には同等の権利を有します。
しかし両者の間にも違いはあり、それを理解しておくことが遺産の分与等において重要です。
<相続人とは異なる包括受遺者の特徴>
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法人も包括受遺者になることができる
相続人になれるのは個人だけですが、包括受遺者は法人でもなることが可能です。たとえば遺言状で遺贈先に会社名が指定された場合、会社名を有する法人が包括受遺者になります。
極端なケースを言えば必ずしも法人格は必要ではなく、法人に準ずる団体でも包括受遺者になることは可能です。
一方相続人は血縁関係を前提とした立場であり、被相続人の直系卑属と尊属、あるいは兄弟姉妹などでしかあり得ません。
包括受遺者には特別受益や寄与分が認められない
包括受遺者には特別受益や寄与分が認められません。
特別受益とは「特定の相続人に対して、故人が存命中に与えた贈与」を指します。具体的には「まもなく私は他界するので、これをあなたへ譲り渡す」といったやりとりのことです。
寄与分は「被相続人の財産や生活保持に対して貢献度が高いほど、より多くの遺産が分配される仕組み」を意味します。つまり「周りよりも故人に良くしたので、取り分が増える」という制度です。
しかし両方とも相続人を対象としており、包括受遺者は特定受益や寄与分を得られません。
たとえば包括受遺者が故人の存命中にどれだけ尽くしても寄与分は認められないわけです。
包括受遺者が第三者と対抗するには登記などが必要
包括受遺者は何もしていないと、遺贈された不動産について、第三者に対抗することができません。そこで登記などを行って、主張の根拠となる対抗要件を用意する必要があります。
一方相続人は遺贈された不動産について、登記しなくても第三者に対抗できます。相続人であれば法務局へ届け出なくても、外部の人間に対して「これは自身の不動産である」などと主張することが可能です。
包括受遺者が承継したものを登記するには共同申請が必要
民放の定めるところでは、包括受遺者が承継したものを登記するには共同での申請が必要です。すべての相続人もしくは一人の遺言執行者とともに、共同名義として登記しなければいけません。
相続人の場合、不動産を受け継ぐ場合は単独で所有権の移転について登記します。
包括受遺者には遺留分が認められない
包括受遺者には遺留分が認められないことには十分注意しましょう。
遺留分とは「遺産分配の割合や量における最低限の補償」です。つまり「最低でもこれだけの取り分はある」というのが、相続人は法律によって約束されています。
しかし相続人でもない包括受遺者は遺留分を受け取れないので、相続人が最低限得られる分配を下回るケースもあります。
包括受遺者の代襲相続は認められない
包括受遺者に代襲相続は認められず、あくまで一代、一度きりのものです。
代襲相続とは「相続人が亡くなっていた場合に、別の家族親族がまた相続人となる制度」を指します。
例えば自身が包括受遺者だとして、子が包括受遺者になることはありません。
一方相続人については、代襲相続が認められています。ですので例えば被相続者の子供が亡くなっていたら、さらにその子供である、被相続人の孫が相続人となることが可能です。
包括受遺者が賃借権を承継する時には賃貸人の承諾が必要
包括受遺者が貸借権を承継する場合は貸借人の承諾が求められます。つまり相続人の場合とは異なり、貸借人に対して「大家が別の人に代わるのですが、よいでしょうか?」と確認する必要があります。
しかし、賃借権を承継したのが相続人であれば、貸借人の承諾は不要です。
包括受遺者にかかる税金
包括受遺者が遺産を承継する場合は、相続税などの税金についても考えておく必要があります。
相続する場合と比較して、関係する税制が異なるので注意が必要です。
<包括受遺者が確認しておくべき税に関する情報>
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包括受遺者は相続税と登録免許税がかかる
包括受遺者が遺贈を受ける場合に関係する税金は相続税と登録免許税です。
包括受遺者であっても被相続者から遺贈を受けた場合、相続人と同じ水準の相続税がかかります。
また不動産の承継があった場合、さらに登録免許税もかかるので注意しましょう。
一親等の血族等・配偶者以外なら相続税が2割加算される
一親等の血族や配偶者以外なら相続税が2割加算されるので、注意が必要です。
これは包括受遺者が相続人と比較して税制で冷遇されている点として知られています。
一親等の血族とは、わかりやすく言えば親子関係です。つまり包括受遺者が被相続人から見て「親子でも夫婦でもない」なら、相続税が2割上乗せされます。
包括受遺者の相続税の計算方法
<包括受遺者の相続税の計算方法>
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例えば相続人A、Bと包括受遺者Cがいて、相続税の総額が500万円だとしましょう。
遺産がA5割、B3割、C2割の割合で分配された場合、包括受遺者Cは相続総額の2割、つまり100万円の相続税課税を課されます。
もしCが被相続人の一親等の血族等・配偶者以外であれば、さらに相続税が2割上乗せされて、120万円の相続税がかかってしまうので注意が必要です。
包括受遺者の登録免許税の計算方法
包括受遺者が不動産を登記する場合の登録免許税は「標準課税」×0.4%で求めることが可能です。
登録免許税の「標準課税」とは「宅地や宅地比準土地の場合も含めた固定資産税評価額」を指します。
この記事を監修した弁護士からのコメント
石尾理恵弁護士
将来、自己の相続で争いが起きないために遺言を残す際の大きなポイントは、遺留分を考慮して遺言を作成することです。例えば、内縁の妻に遺留分を考慮せず全部包括遺贈をした場合には、被相続人の妻から遺留分侵害額請求される可能性が高く、調停や訴訟に発展することがよくあります。遺留分を考慮して遺言を作成したとしても、完全に相続トラブルを防げる訳ではありませんが、有効な手段であると言えます。
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