「借家権割合って一体何だろう」「相続税評価額の計算が難しい」とお悩みではないでしょうか。
借家権割合とは賃貸物件を相続する際に発生するもので、家を他人に貸している分だけ相続税評価額を減らすことが可能です。
この記事では借家権割合の定義や、相続税評価額の計算方法などについて解説します。
この記事を監修した税理士
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台
借家権割合とは「借家権の分だけ相続税評価額を減らせるもの」
借家権割合とは「賃貸物件を相続した際に、土地(貸家建付地)や建物の相続税評価額から減額できる割合」です。なお「貸家建付地」とは、自分が所有権をもつ土地に建物を建てて、それを他者に貸している場合の土地を指します。
賃貸物件を相続した場合、すでに借家権をもつ入居者がいるので、相続人は自由に物件の売却や建て替えなどができません。そのため、賃貸物件は自用地(更地)よりも使い勝手が良くないことが多いです。
このような事情を鑑みて、相続税評価額においては借家権割合の分だけ減額して、相続税の計算を行えるようになっています。
なお2022年5月の段階で、借家権割合は全国一律で30%に設定されています。
借家権とは「入居者が建物を借りる権利」
借家権とは、借家借地法によって定められた「入居者が建物を借りる権利」のことであり、具体的には賃貸マンションや賃貸戸建てといった物件を借りている人がもつ権利です。
賃貸借契約を締結し借家権を設定することによって、借主は「物件に住む権利」が守られます。その結果、本人の意思に反して退去させられるといったリスクを防止できるのです。
また借家権は「普通借家権」と「定期借家権」の2つに分類することが可能です。
普通借家権
普通借家権とは一般的な借家権であり、契約期間が満了を迎えても契約の更新が可能である特徴をもちます。普通借家権が設定されていれば、オーナーの意思のみで契約解除はできません。そのため当初の契約期間満了後も、居住地が保証されています。
定期借家権
定期借家権とは、契約期間の満了後に更新ができない借家権のことです。普通借家権と同様に、契約期間内であれば物件を借りる権利は保証されています。
相続税評価額とは「被相続人が残した財産を評価した価額」
相続税評価額とは「被相続人(亡くなった方)が残した財産を評価した価額」を指します。被相続人が残した現金や有価証券、土地、建物などの財産を、それぞれに定められた評価方法に沿って計算した財産の価額が「相続税評価額」となるのです。
なお借家権割合は家屋の相続税評価額の算出に用いられます。
借家権割合は一律30%
2022年5月現在、借家権割合は全国どの地域でも30%に設定されています。都道府県ごとに変わるわけではなく、東京や大阪であっても借家権割合は30%です。
なお賃貸用の建物を評価する場合、建物自体の金額から30%控除した金額がその建物の相続税評価額になります。
借家権割合は今後変更される可能性があるので、相続税評価額を計算する際は、国税庁ホームページから検索するようにしましょう。
借家権割合の調べ方
借家権割合は国税庁のホームページから確認することができます。
<借家権割合の調べ方>
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次の記事が国税庁の「路線価図・評価倍率表」なので、ぜひ参考にしてください。
まちがえやすい「借地権」と「借家権」の違い
借家権とまちがえやすい要素に「借地権」があります。
借地権とは、借家借地法によって定められた「建物を建てるために地代を支払って土地を借りる権利」です。建物を所有する目的に限られるので、青空駐車場などの建物を要しない使用目的の場合は借地権が発生しません。
なお土地の評価額を算出する際は「借地権割合」を用いて減額を行います。借地権割合と借家権割合は混合しやすいので注意しましょう。
また借家権は「建物」を借りる人に、借地権は「土地」を借りる人に認められる権利です。そのため、賃貸借契約を更新しない場合や存続期間を迎えた場合、借主は土地を貸主に返還しなければなりません。返還の方法は建物を取り壊し原状回復して返還する以外に、建物を貸主に売却する方法でも可能です。
<借家権・借地権の定義>
借家権:入居者が建物を借りる権利 借地権:地代を支払って土地を借りる権利(建物を建てることが条件) |
借家権割合のほかに相続税評価額の計算に必要な4つの要素
土地(貸家建付地)や建物の相続税評価額を計算するには、借家権割合以外にも4つの要素が必要です。
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①自用地としての土地の価格
借家権が設定されている不動産の相続税評価額の計算には、借家権割合以外に「自用地としての土地の価格」が必要です。「自用地としての土地の価格」は、通常の土地の相続税評価額と同じ意味です。
なお「自用地」とは他人が使用する権利を持たない土地、つまり「自分だけが使っている土地」を指します。
借家権が設定されている不動産であれば、原則「路線価方式」で計算を行います。一方で路線価が設定されていない地域については「倍率方式」を用いるので、注意しましょう。
路線価方式
路線価方式とは「路線価を用いて土地の価格を求める方法」です。なお「路線価」とは道路に面する土地の1平方メートルあたりの価格を指します。
計算方法は「1平方メートルあたりの路線価×土地の面積」です。
例えば1平方メートルあたりの土地の価格が20万円、土地の面積が80平方メートルと仮定します。この際の土地の価格は1,600万円(20万円×80平方メートル)です。
なお土地の形状や接道状況によって路線価が補正される場合もある点に留意しましょう。
1平方メートルあたりの路線価は国税庁から毎年7月に発表されています。
<路線価の調べ方>
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路線価を読み取る場合は、路線価図に記載された「1,000円単位の数字」と「借地権割合を表すアルファベット」を見ましょう。例えば「200A」の場合、1平方メートルあたりの土地の価格は20万円、借地権割合は90%です。
倍率方式
倍率方式とは「土地の固定資産税評価額に対して、国税庁が定めた一定の倍率を乗じることで評価額を求める方法」です。路線価が設定されていない地域の場合に「倍率方式」を用います。
固定資産評価額は市町村から送られる課税明細書から、各地域の倍率は国税庁のホームページから確認できます。
<各地域の倍率の調べ方>
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例えば固定資産評価額が1,000万円、倍率が50%の場合、相続税評価額は500万円となります。
②自用地としての建物の価格
不動産評価額の計算には借家権割合の他に、自用地としての建物の価格も必要です。自用地としての建物の価格は物件の種類によっても異なります。
まず相続する建物が「戸建て」や「マンションの区分所有」かどうか確認しましょう。これらの不動産の評価額は、各市町村から送られる「固定資産税の課税明細」に記載された価格です。
一方で不動産がマンションやアパートといった「共同住宅」の場合は「建築費用の70%程度」が評価額となります。
③借地権割合
土地(貸家建付地)や建物の相続税評価額を求める場合は「借地権割合」を用いて、相続税評価額を減額します。
借地権割合は、借家権割合と同様に国税庁のホームページから調べることが可能です。
借地権割合の調べ方
借地権割合の調べ方は「自用地としての土地の価格」の調べ方と似ています。
まずは路線価図を確認して、路線価が書かれてあるか確認しましょう。
もし書いていなければ「評価倍率表」を使って借地権割合を計算します。
<評価倍率表の調べ方>
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④賃貸割合
賃貸割合とは「物件の専有部分の面積に対する、賃貸している面積」です。賃貸割合も借家権割合と同様に、相続税評価額の計算に用います。
計算に用いるのはあくまでも面積が基準であり、賃貸している戸数の割合ではないため注意しましょう。
なお建物が戸建てである場合、入居者がいれば賃貸割合は「100%」、いなければ「0%」となります。
<計算方法>
賃貸割合=課税のタイミングで賃貸されている部分の床面積÷専有部分全体の床面積 |
<具体例>
このケースにおける賃貸割合は「約66.7%」です。
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借家権割合などを用いた相続税評価額の計算方法と具体例
不動産を相続した際の相続税評価額は「借家権が設定されている土地(貸家建付地)と建物の合計額」になります。借家権が設定されている土地(貸家建付地)と建物の相続税評価額をそれぞれ求めて、最後に合計する流れです。
【借家権が設定されている土地(貸家建付地)の相続税評価額】
自用地としての土地の価格×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合) |
【借家権が設定されている建物の相続税評価額】
自用地としての建物の価格×(1-借家権割合×賃貸割合) |
ただし、他人から借りた土地の上に建てた建物を相続した場合は、貸家建付借地権の評価額も求める必要があります。
相続したのが貸家(マンションの区分所有や戸建て)の場合
相続したのがマンションの区分所有や戸建てといった貸家でかつ、以下の状況の場合を考えます。
自用地としての土地の価格:3,000万円
自用地としての建物の価格:2,000万円 借地権割合:80% 借家権割合:30% 賃貸割合:100% |
借家権割合は全国一律で30%(2022年現在)です。また借地権割合は路線価に「B」と記載されており、自用地としての土地の価格は路線価補正を行った後とします。
この場合の相続税評価額は「3,680万円」です。
【土地(貸家建付地)の相続税評価額】
3,000万円×(1-0.3×0.8×1)=2,280万円 【建物の相続税評価額】 2,000万円×(1-0.3×1)=1,400万円 【土地(貸家建付地)と建物の相続税評価額】 2,280万円+1,400万円=3,680万円 |
この不動産の自用地としての評価額は5,000万円です。しかし借家権が設定されているため、相続税評価額は減額され3,680万円となります。
相続したのが共同住宅(賃貸マンションやアパート)の場合
賃貸マンションやアパートなどの共同住宅を相続し、かつ以下の状況の場合の相続税評価額を考えます。
自用地としての土地の価格:8,000万円
自用地としての建物の価格:6,000万円 借地権割合:60% 借家権割合:30% 賃貸割合:80% |
借家権割合は全国一律で30%(2022年現在)です。また借地権割合は路線価に「D」と記載されており、自用地としての土地の価格は路線価補正を行った後とします。
この場合における相続税評価額は「1億1,408万円」です。
【土地(貸家建付地)の相続税評価額】
8,000万円×(1-0.3×0.6×0.8)=6,848万円 【建物の相続税評価額】 6,000万円×(1-0.3×0.8)=4,560万円 【土地(貸家建付地)と建物の相続税評価額】 6,848万円+4,560万円=1億1,408万円 |
自用地としての評価額は1億4,000万円です。しかし借地権の設定がされているため、1億1,408万円まで相続税評価額が減額されます。
他人から借りた土地に建てた貸家や共同住宅を相続した場合
他人から借りた土地に建物を建て、その建物を他人に貸した場合の土地の借地権を「貸家建付借地権」といいます。この場合の土地の借地権は、借地権者の用途が制限されるため借地権として評価が低いです。
<計算方法>
貸家建付借地権の評価額=借地権の価格×(1-借地権割合×賃貸割合) |
例えば以下のケースを考えてみましょう。
自用地としての土地の価額:6,000万円
自用地としての建物の価格:4,000万円 借家権割合:30% 借地権割合:70% 賃貸割合:100% |
借家権割合は全国一律30%です。また借地権割合は路線価で「C」と表示されており、自用地としての土地の価格は路線価補正を行った後とします。
【借地権の価格】
6,000万円×0.7=4,200万円 【貸家建付借地権の相続税価格】 4,200万円×(1-0.3×1)=2,940万円 【建物の相続税評価額】 4,000万円×(1-0.3×1)=2,800万円 【貸家建付借地権と建物の相続税評価額】 2,940万円+2,800万円=5,740万円 |
このケースの自用地の価格は6,000万円でした。しかし貸家建付借地権となることで、評価が低くなり「2,940万円」となりました。その結果、建物を含めた相続税評価額も10,000万円から「5,740万円」まで減少しています。
借家権が設定されている建物や土地が相続税対策になる理由
借家権が設定されている建物や土地(貸家建付地)は相続税の節税対策となります。借家権割合の分だけ相続税評価額が減少するだけでなく、各種特例も利用できるためです。
<相続税対策になる理由>
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建物や土地を購入した時より相続税評価額が下がる
借家権が設定された建物や土地が相続税対策になるのは、買った時よりも相続税評価額が下がるからです。
そもそも相続税評価額は、相続年の1月1日における公示時価の80%を水準としており、よほど値上がりしない限り購入時より価額が下がっています。また相続税評価額を計算する際は借家権割合が算入されるので、評価額は更に抑えることが可能です。
そのため売買時の価格よりも相続税評価額の方が低くなり、現金で資産を相続するよりも税負担が軽減されます。
自用地として使うよりも相続税評価額が減額される
借家権が設定された不動産は、自用地として相続するよりも相続税の税負担が軽減されます。なぜなら借家権が設定された不動産は活用手段が制限されるので、借家権割合が参入されて相続税評価額を低下させるからです。
相続税は「課税遺産の総額から基礎控除額を差し引いた値」に対して課税されます。
相続税額=課税遺産総額-基礎控除額(3,000万円+(法定相続人の数×600万円))×税率 |
つまり借家権を設定した土地を相続することで、自用地よりも課税遺産総額が減額され、税負担が軽くなるのです。
小規模宅地等の特例が適用できる可能性がある
借家権が設定された土地(貸家建付地)は、小規模宅地等の特例に係る「貸付事業用宅地等」に該当する場合があります。貸付事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例とは、被相続人が不動産業を行っていた土地に活用できる特例です。
この特例を適用すると「200平方メートルを上限として、相続税評価額を50%減額すること」が可能となります。借家権割合だけでも相続税評価額は大きく減少しますが、それ以上に評価額が下がるため大きな節税に繋がります。
しかし「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に当てはまる場合は、特例の利用ができないため注意が必要です。「新たに貸付事業の用に供された宅地等」とは「3年以内に、被相続人等が自宅として住んでいた宅地や、新しく建築・所有した宅地等」を指します。
詳しい要件などについて知りたい方は、次の記事を参考にしてください。
借家権が設定された土地や建物を相続した場合の注意点
借家権が設定された土地(貸家建付地)を相続すると節税に繋がる一方で、注意すべき点も存在します。
<土地や建物に借家権が設定されている際の注意点>
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貸家建付地として認められないことがある
借家権を設定している場合でも、必ず貸家建付地として判定されるわけではありません。具体的には賃料が無料もしくは維持費と同程度といった場合は「仕様賃貸」とみなされ、貸家建付地にはなりません。
貸家建付地として認められない場合は、自用地として相続税評価額を計算する必要があります。そのため借家権割合などを算入できず、税負担が増える恐れがある点に注意が必要です。
貸家建付地として認められるためには、維持費以上の賃料は課すようにしましょう。
一時的な空室であれば条件次第で賃貸であると認められる
一時的な空室(相続開始前後1ヶ月程度)であれば、条件次第で賃貸であると認められるケースがあります。
<賃貸と認められる条件>
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基本的に課税のタイミングで賃貸されている部分が、賃貸割合となります。賃貸割合は借家権割合と同様に、相続税評価額に直接影響する要素なので、賃貸と認めてもらえるように注意しましょう。
なお判定には専門的な知識を要するため、相続税を専門とする税理士に相談するのがおすすめです。
空室や家賃下落などの経営リスクを背負う必要がある
借家権が設定された賃貸物件は、空室や家賃下落のリスクが生じます。そのため借家権割合を用いたいといった考えだけで不動産業を始めるのは危険です。
また現在「小規模宅地等の特例」は、亡くなる前3年以内に貸し付けを始めた不動産には適応できません。そのため駆け込みで不動産業を始めても、特例の対象とはならない点にも注意が必要です。ただし、事業的規模で不動産業を営んでいる場合は、運用歴が3年以内でも対象となります。
相続の土地の評価で困ったら税理士に相談を
相続財産に不動産が含まれている場合、特に借地権や借家権が関連している場合は、相続関係や不動産の知識が必要です。
また相続対策として賃貸経営をお考えの方もいらっしゃると思いますが、賃貸経営にはリスクもあります。
相続対策で損をしないためにも、不動産を使った相続対策については、相続経験が豊富な税理士に相談するのがおすすめです。
特に相続に強い税理士であれば相続税申告に強いだけでなく、不動産鑑定士のダブルライセンスだったり、動産鑑定士と提携したりしています。ですので、相続対策としての不動産の有効活用についても、ワンストップで対応してもらえるでしょう。
監修税理士からのコメント
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この記事の監修税理士
京浜税理士法人 横浜事務所 - 神奈川県横浜市青葉区青葉台