「そのうちに相続対策を考えよう」そう思っているみなさん…「その時」は突然やってきます。
遺産分割や相続税対策の大部分は、相続前に手を打っておかないと間に合いません。手続きは複雑で事前知識が乏しいとスムーズに運ばないでしょう。
この記事では特に取り扱いが難しい不動産を中心に、相続手続きや相続税対策をわかりやすく解説します。
この記事を監修した税理士
税理士法人better - 東京都中央区日本橋人形町
相続税にまつわる基礎知識
具体的な手続きや相続税対策に入る前に、まず相続税の基本について解説します。抑えるべきポイントは、誰に課されるのか(納税義務者)、いつどのように支払うのか(申告期限・申告先・提出書類等)、何に課されるのか(課税財産の範囲)です。
このほか相続税が払えない場合の特例措置(物納・延納)や非課税財産についても紹介します。
相続税は財産を相続した人に課せられる税金です
相続税は被相続人(死亡した個人)からの相続または、遺贈により財産を取得した個人(配偶者や子供などの相続人等)を納税義務者とする税金です。
親から財産を引き継いだだけなのに、なぜ税金がかかるのでしょうか。相続税には生前に課税を逃れた所得税の補完および富の再分配機能が期待されているのです。
ちなみに2017年の相続財産は15.6兆円(被相続人1人あたり1.4億円)、納税額は2.0兆円(同0.2億円)で、相続財産のうち36%が土地・32%が預貯金や現金・15%が有価証券です。
相続税の申告と納税
相続税は被相続人の死亡があったことを知った日の翌日から10か月以内を申告期限(申告書を提出する日)および納期限(相続税を納付する日)とします。
申告期限を過ぎてしまったり、本来収めるべき相続税より少ない額を申告したりすることはやめましょう。無申告加算税や過少申告加算税、悪質な場合は重加算税を課されることがあります。
相続税の申告先は、亡くなられた方の住所を所轄する税務署です。相続税は税務署で直接納付する以外に、銀行・ゆうちょといった金融機関での納付も認められています。
加算税や追徴課税について詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。
相続税を払えない時はどうする?
相続税は金銭による一括納付を原則としています。しかし事情によって払えない場合には、延納・物納といった特例制度を活用できます。
延納は担保の提供を条件に、分割納付を認める制度です。相続税額が10万円を超え、かつ金銭での一括納付を困難とする事情が認められる場合に利用できます。延納する時は本来の相続税に加え、延納期間に相当する利息(利子税)を合わせて納付しなければなりません。
物納は相続財産による納付を認める制度です。物納でも金銭納付を困難とする事情が認められる場合に利用することができます。
相続税が課税される財産
相続税の課税財産とは被相続人が所有していた財産のことです。それに加えて未登記土地や名義貸し預金でも、被相続人が実質的に所有していたものは課税財産です。
このほか被相続人の死亡により支払われる生命保険金も課税財産とみなされます。受取人が決まっている場合、生命保険金は被相続人の本来の相続財産ではありませんが、被相続人の死亡により相続人が受け取る金銭であり、相続財産と同視できるためみなし相続財産として課税されます。
他にも生前に被相続人から贈与を受けた財産のうち、「相続開始前3年以内に贈与されたもの」「続時精算課税の適用を受けたもの」は相続税の課税価格に含まれます。
相続税が非課税の財産
相続税法では公共性・公益性の観点から、社会慣習や国民感情面で課税が妥当でないと考えられるものは非課税扱いとしています。主には以下の財産です。
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不動産相続に必要な手続き
不動産を相続する場合には、ほかの相続財産に必要な手続き(遺産分割・相続税申告納付)の他に、相続登記も必要でやや複雑です。
ここでは死亡届の提出・遺言書の確認からはじまり、相続登記の目的・必要書類とその集め方・手続きの流れ・相続登記にかかる費用・相続登記を怠ることによるリスクについて解説します。
相続発生時にすぐにやるべきこと
まだ初七日が明けないうちでも、すでに相続手続きは始まっています。主な手続きを挙げると以下の通りです。
死亡の日から7日以内には、市区町村(場所は限定されない)に死亡届を提出しなければなりません。死亡届を提出すると埋葬許可証が発行され、これを受理して初めて火葬(または埋葬)ができるのです。 |
通常は民法に従って遺産分割を行います。一方で遺言書は法定相続分に優先されるので、まず遺言書の有無確認が必要です。 |
次に不動産の名義変更(相続登記)をする
遺産分割協議がまとまったら、今度は名義変更つまり相続登記に入ります。相続登記とは不動産所有権を移転する登記の一種です。申請先は法務局となります。
不動産公示法では不動産の円滑な取引を目的として、不動産の地目・所在地・敷地面積、所有者の氏名や住所、権利関係(担保等の設定・共有する場合の持ち分)といった登記事項を、第三者に明らかにすることを求めています。
遺産分割の結果によっては、「不動産の分筆(1物件を複数に分割登記する)」「共有持ち分登記」も同時に手続を行う必要があります。
不動産の名義変更をする際の必要書類
相続登記にあたっては、不動産番号・所在・地番・地目・地積などを記載した登記申請書に、以下の書類を添付しなければなりません。
- 被相続人の戸籍謄本及び除籍謄本・相続人全員の戸籍謄本
相続開始の事実および相続関係を証明するために使用します。
- 相続人全員の住民票
登記する相続人の住所を記入するのに必要です。
- 登録免許税
収入印紙での納付を原則とします。
- 遺産分割協議書
相続人全員が署名・捺印しなければなりません。
- 相続人全員の印鑑証明書(3か月以内のものに限る)
協議書の捺印が真正である旨を証明します。
不動産の名義変更手続きにかかる費用
相続登記には以下の費用が必要です。
- 登録免許税
市町村(23区の場合は東京都)が管理保管している、固定資産税課税台帳の価格(注:固定資産税課税標準額とは違います)の4/1000に相当する金額です。
土地の場合の台帳価格は地価の7割前後とされており、地価1億円の土地なら1億円×0.7×4/1000=28万円前後が納付額です。
台帳価格を入手するには、固定資産評価証明書の交付を市町村役場又は都税事務所に申請します。
- 司法書士に支払う報酬(委任する場合)
5万円前後が相場とされています
- 申請書類の郵送費用
相続登記はいつまでにやるべき?
所有権の移転登記にいつまでという法的定めはありません。
ただしこれを怠ると、所有者の権利は保護されません。第三者が所有権を移転したり抵当権を設定するといった行為に対抗できないのです。
これは相続登記でも当てはまります。登記していないと、「遺産割協議で不動産を相続した以外の相続人が、協議を無視して第三者に持ち分を売却する」といったことが起こり得ます
それに長年相続登記を怠ると、やがて相続人も死亡し、遡っての登記が困難になります。こうした事態を防ぐためにも、早めの相続登記を心がけましょう。
不動産の相続税はいくらからかかる?
相続税は不動産等を相続したら必ず課されるわけではなく、一定額を超えた場合に始めて納税義務が生じます。ちなみに2017年に亡くなられた方134万人のうち、納税義務が生じたのは8.3%の11.2万人です。
ではいくらから課税されるのでしょうか。ここでは基礎控除額の算定式と、算定のベースとなる法定相続人の数について解説します。
相続税は基礎控除額内であれば非課税です
相続税は正味の遺産額が基礎控除額を超えない場合は非課税です。
- 正味遺産額の算定式
正味遺産額=【相続又は遺贈により取得した財産(みなし財産を含む)の課税価格】ー
【債務・葬式費用の額】+【相続開始前3年以内の財産・相続時精算課税適用財産の価格】 |
- 基礎控除の算定式
3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
ちなみに以前の基礎控除額は(5,000万円+1,000万円×法定相続人の数)でしたが、平成25年度税制改正により4割引き下げられ、亡くなられた方のうち課税対象となる割合も4.3%から8.3%にはね上がりました。
法定相続人の数え方
相続税法が定める「法定相続人の数」は、民法に規定されている相続人(相続権を有する個人)の数とは以下の点で異なっています。
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不動産の相続税計算方法
不動産など相続財産の課税価格(正味の遺産額)計算から基礎控除まで、説明してきました。
ここからは課税遺産総額(正味の遺産額-基礎控除額)から各人の納付税額算定まで一連の流れを示すとともに、相続税率・法定相続分・各種税額控除(配偶者の税額軽減特例等)を解説します。
不動産にかかる相続税の計算方法
不動産などの相続財産にかかる相続税計算の流れは、以下の通りです
ステップ | 具体的内容 |
①法定相続分による按分 | 法定相続分により相続したものとして課税遺産総額を各法定相続人に按分します |
②相続税の総額の計算 | 按分額に税率を適用して各法定相続人の税額を計算した上で、合算します |
③実際の相続割合による按分 | 相続税の総額を、各人が実際に取得した正味遺産額の割合により按分します |
④各人が納付する税額の計算 | 配偶者の税額控除など各種控除や加算を加減算したうえで、納付税額を計算します |
相続税の法定相続分
相続人は配偶者と血族相続人に分類され、血族相続人は子ども→(子供がいない場合は)直系尊属→(直系尊属もいない場合は)兄弟姉妹と優先順位が決まっています。相続順位に基づく法定相続分は、以下の通りです。
相続順位 | 相続人 | 法定相続分 |
第1 | 配偶者 | 1/2 |
子ども※1 | 1/2×1/子どもの数 | |
第2 | 配偶者 | 2/3 |
直系尊属(父母・祖父母) | 1/3×1/直系尊属の数 | |
第3 | 配偶者 | 3/4 |
兄弟姉妹 | 1/4×1/兄弟姉妹の数 |
※1子供が死亡している場合にはその子どもが代襲相続します。その子どもも死亡している場合には、さらに孫へ再代襲します
※2兄弟姉妹が死亡している場合にはその子どもが代襲相続します(最代襲はなし)
相続税の税率
①により按分した各法定相続人の課税遺産総額に、今度は税率を適用して税額を計算します。ちなみに相続税率には、「支払う能力がある者がより多くを負担する」応能負担の思想に基づき、以下のような超過累進税率が適用されています。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
~1,000万円 | 10% | ‐ |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超~1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超~2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超~3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超~6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超~ | 55% | 7,200万円 |
不動産の相続税評価額
相続財産の評価額は、時価によるものとされています。一方で市場で価格が決まっている上場株式などと異なり、不動産には明確な時価が存在しません。そこで財産評価通達では、不動産の評価額計算ルールを定めています。
具体的には土地は路線価方式・倍率方式、建物は固定資産税評価額を適用します。
路線価方式とは
土地が面する道路の路線価×敷地面積で算定、奥行きや土地の形状により補正されます。
このほかに土地の利用方法によっては、一定の面積を限度に評価減が適用されます(小規模宅地等の特例)。
配偶者の相続税額軽減
配偶者には相続税の税額軽減制度があります。配偶者が相続又は遺贈により取得した正味の遺産額のうち、以下の金額のうちいずれか多い金額を超えな部分は相続税が課されません。
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この規定は実際に遺産分割により取得した金額に基づき算定するので、申告期限までに分割協議が整わないと適用を受けることができません。ただし申告期限後3年以内に協議が整えば、遡って軽減が適用されます。
その他控除と特例
配偶者の税額軽減以外にも、相続税法はさまざまな税額控除の特例を設けています。これらのを活用すれば、賢い節税も可能です。
贈与税額控除 | 相続開始前3年以内贈与・相続時精算課税贈与に係わる贈与税を控除 |
外国税額控除 | 外国で課された相続税に相当する税金を控除 |
未成年者控除 | 10万円に相続人が20歳に達するまでの年数を乗じた金額を控除 |
障害者控除 | 10万円(特別障害者は20万円)に相続人が85歳に達するまでの年数を乗じた金額を控除 |
相次相続控除 | 被相続人が相続開始前10年以内に相続を受け納付した相続税のうち一定の金額を控除 |
不動産を活用した相続税の節税対策
土地の相続税評価額(路線価方式)は時価相当の8割前後、建物(固定資産税評価額)の場合は6割前後とされています。さらに小規模宅地等の特例が適用されれば、評価額はさらに圧縮されます。
こうした税法上の規定を意識しつつ、生前のうちに不動産を上手に活用すれば相続税対策につなげることができるのです。
不動産を活用して大幅な節税ができる仕組み
同じ2億円の遺産で、預金と不動産で相続税に差が出るのか試算してみましょう。
ケース | ① | ② |
相続人 | 子ども2人 | |
相続財産 | 預金2億円 | 土地2億円(時価) |
相続税評価額A | 2億円 | 1.6億円(時価の8割相当) |
基礎控除B | 3,000万円+600万円×2人=4,200万円 | |
正味の財産C | A-B=15,800万円 | 11,800万円 |
各人の取得額D | C×1/2=7,900万円 | 5,900万円 |
相続税の総額 | (D×30%-700万円)×2名
=3,340万円 |
(D×30%-700万円)×2名
=2,140万円 |
同じ遺産額でも、ケース①と②で相続税は1,200万円も違ってきます。まさに不動産による相続税対策のインパクトを物語っていると言えるでしょう。
賃貸アパート・マンションでさらなる節税も
賃貸アパート・マンションの評価額は、借地権割合・借家権割合が加味されるので、より一層の評価額圧縮が可能です。賃貸土地は貸家建付地として自用地の8割前後、建物は貸家として自用家屋の7割前後で評価されます。
さらに小規模宅地等の特例による評価減も加味されます。居住用または事業用(賃貸用を含む)に供している宅地に対しては、一定の面積を限度に評価減が適用されます。賃貸物件に対しての評価減は50%、限度面積は200㎡です。
賃貸不動産活用による節税効果試算
先ほどと同じ遺産2億円で、賃貸アパートを購入した場合の相続税を試算します。
相続財産 | 土地(200㎡)1億円、アパート1億円(時価) |
相続税評価額A | 土地
1億円×0.8(路線価評価)×(1-※0.3×0.7)=6,320万円 小規模宅地等の特例 6,320万円×200㎡/200㎡×0.5=3,160万円 建物 1億円×0.6(固定資産税評価額)×(1-※0.3)=4200万円
土地+建物=7,360万円 ※借家権割合0.3…全国一律 借家権割合0.7…都内で一般的な割合 |
正味の財産B | A-基礎控除4,200万円=3,160万円 |
各人の取得額C | B×1/2=1,580万円 |
相続税の総額 | (C×15%-50万円)×2名=374万円 |
相続税額はケース①より3,000万円近く少なく、節税効果の大きさがわかります。
個人の賃貸不動産を法人所有に切り替える
法人(不動産所有会社)を設立してそこに配偶者や子供が出資します。その上で所有する賃貸用不動産を、当該法人に譲渡しておくのも、相続税対策として有効です。
配偶者や子供は法人の役員等に就任し、賃貸収益から報酬を受け取ります。一連の節税スキームにより、被相続人が得るはずだった賃貸収益が配偶者・子供に移転し、被相続人の資産は目減りします。結果として相続時の遺産を圧縮し、相続税の節税につながるのです。
さらに所得税の節税効果も期待できます。所得が分散され累進税率が緩和されるうえに、給与所得控除も適用されるからです。
不動産を活用した相続税対策の注意点
アパート・マンション購入であれ、法人設立であれ、賃貸不動産の活用による相続税対策は、安定した家賃収入が入ってきて初めて成り立ちます。
ここ数年、賃貸物件の着工件数は増加傾向にあります。背景には、相続税対策が一因しているようです。東京・中京・近畿といった大都市圏でさえ、郊外に立地する木造・軽量鉄骨系アパートの空室率は4割近くに達しています。
最近は一人暮らしや共働き世帯が増えていることもあり、賃貸もより利便性を重視する傾向にあります。賃貸不動産による相続税対策成功のカギは、利便性に優れ空室リスクの低い物件選びにあるようです。
監修税理士のコメント
税理士法人better - 東京都中央区日本橋人形町
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