古家付きの土地は、更地にした方が売却しやすいケース・そのままでも売却できるケースがあります。売却方法に悩んでいる人は、古家を残すメリット・デメリットを把握しましょう。古家付き土地の特徴や売却にかかる費用・注意点を紹介します。
監修者
髙杉義征(セカイエ株式会社元執行役員/宅地建物取引士)
株式会社日京ホールディングスの元取締役、セカイエ株式会社の元執行役員を経て、現在は株式会社ミツモアの事業部長として全体を統括。一貫して不動産業界に携わり、不動産仲介会社、不動産管理会社、不動産テック企業での経験を有する。不動産売却希望者と不動産会社をマッチングするサービスでは、執行役員として事業立ち上げからグロースまでを担当。また、不動産関連のセミナーやライブ配信にも登壇している。
古家付き土地として売るメリット・デメリット
古家付き土地とは資産価値のない古い家が付属した土地です。古家と土地をセット売りすることに、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
メリット:コストを抑えられる
古家付き土地として売却すると、家屋を解体する必要がありません。解体にかかるコストが不要なのはメリットです。
解体費用は対象物件の広さ・構造によって異なります。物件によって大きく異なるものの、100万~数百万円になるのが一般的です。
また古家を維持することは、節税にもつながります。住宅付きの土地には、固定資産税・都市計画税について住宅用地の特例が適用されるためです。
固定資産税は「課税標準額×税率(1.4%)」、都市計画税は「課税標準額×税率(0.3%)」で算出されます。しかし特例が適用される場合、課税標準額は以下の式で算出する決まりです。
固定資産税
- 小規模住宅用地(住宅1戸につき200㎡までの部分)の課税標準額=固定資産税評価額×1/6
- 一般住宅用地(小規模住宅用地以外の住宅用地)の課税標準額 = 固定資産税評価額×1/3
都市計画税
- 小規模住宅用地(住宅1戸につき200㎡までの部分)の課税標準額=固定資産税評価額×1/3
- 一般住宅用地(小規模住宅用地以外の住宅用地)の課税標準額 = 固定資産税評価額×2/3
売却が長期戦になると見込まれる場合は、古家付きの期間を長く維持した方が、税額の観点からは有益です。
メリット:買い手は住宅ローンの利用が可能
古家付き土地なら住宅ローンを組んで購入できます。資金準備の負担が少ない分、購入希望者が手を挙げやすくなるでしょう。
住宅ローンは基本的に住宅の建築や購入のためのローンです。土地のみでは利用できないため、土地の購入希望者はより金利の高い「つなぎローン」などを利用するしかありません。
古家付き土地の購入で金利の低い住宅ローンを利用できるのは、購入希望者にとって大きなメリットです。
ただし古家付き土地の住宅ローンでは、査定の対象が土地のみとなるのが一般的です。借入可能な金額の上限は、「一般的な中古住宅+土地」を購入するケースよりも低くなります。
デメリット:売却額が安くなりがち
古家付き土地の売却額は、相場よりも安く設定するのが一般的です。古家はそのままでは居住用として使えないケースが多く、購入者は「解体して新築する」「リフォームして住む」のいずれかを検討しなければなりません。
売却価格が相場と変わらないのであれば、すぐに新築を建てられる更地や、状態のよい中古物件を購入した方が有益です。
「解体費用・リフォーム費用を差し引いた価格」を提示することは、購入者の購買意欲を高める上で必須です。古家というマイナスを帳消しにするメリットがないと、古家付き土地は購入者の検討リストにも入らない可能性があります。
更地にして売るメリット・デメリット
土地や家屋の状態によっては、更地にして売却した方がよいケースもあります。古家付き土地を確実に売却したい人は、更地にする選択肢も検討するのがおすすめです。古家付き土地を更地にして売却するメリット・デメリットを紹介します。
メリット:土地全体の状態を確認できる
更地にしてしまえば土壌調査や地盤調査が容易になります。調査の結果、地盤の状態が良好と判断されれば、売却時のアピールポイントとして打ち出すことが可能です。
自然災害のリスクが高まっている昨今、地盤・地形を重視する購入希望者は少なくありません。土地の状況を把握して適切に提示することは、早期売却を目指す上で重要です。
また更地の場合、物件の瑕疵を発見しやすいのもメリットです。売却後に「土壌の汚染があった」「埋蔵物が見つかった」「地盤に異常があった」といった事態が生じると、購入者から契約不適合責任を問われるリスクがあります。
更地にして土地の調査を徹底することは、購入後のトラブルを防ぐ上で有益です。
メリット:売却が比較的スムーズ
土地を探している人のほとんどは、古家をマイナスポイントとして考えます。「自分で解体しなければならない」という点がネックになって、古家付き土地を敬遠する人は少なくありません。
また古家付き土地は見映えや見通しがよくない点も、デメリットです。土地に古家が建っていると、新築後をイメージしにくくなります。古家が手入れもされず荒れた印象なら、購入意欲も湧きにくいでしょう。
土地の状態や広さを把握しやすい更地の方が、買い手にとっては魅力的です。
デメリット:解体費用・固定資産税が上がる
更地にするためには、解体業者を手配して古家の解体を依頼する必要があります。古家に家具や家電が残っている場合は、片付け業者・不用品回収業者なども手配しなければなりません。解体や片付けの費用・手間が発生するのは、売却側としてはデメリットです。
また更地にすると固定資産税・都市計画税について、住宅用地の特例が適用されません。本則課税となるため、納税額が高くなるのもマイナスです。
古家付き土地として売却した方がよいケース
古家付き土地の売却については、古家や土地の状態によって「古家を残す」「更地にする」のいずれかを判断することが必要です。古家付き土地として、そのまま売却した方がよいケースを紹介します。
売却までに猶予がある
売却を急ぐ事情がないのであれば、ひとまず「古家付き土地」で購入希望者を探すのがおすすめです。
古家の解体にコスト・手間をかける必要がない上、住宅用地の特例も受けられます。売却にかかるコストや固定資産税を安く抑えられるのは、大きなメリットです。
古家付き土地は売れにくいといわれますが、不動産会社を厳選したり適正価格を設定したりすることで、購入希望者を集めやすくすることは可能です。
建築制限により再建築できない
古家が市街化調整区域にある場合や、再建築不可物件に該当する場合、新築の家は建てられないケースがほとんどです。購入ターゲットを「住宅用の家・土地を探している人」とするのであれば、古家を維持しておくことをおすすめします。
市街化調整区域とは、自治体によって開発が抑制されているエリアです。ただし条件を満たせば、家の建築許可が下りる可能性はあります。
一方で再建築不可物件とは、現存する建物以外の建築が認められない物件です。自治体の条例や建築基準法による規制がかかっているケースが多く、一度取り壊してしまうと新築できません。
古家の状態にもよりますが、売却対象はリフォーム前提で家を探している人に限定されます。
建物の価値が高い・問題なく住める
築年数が古い建物でも、古さが魅力になっている家には一定の需要があります。近年は空家・古家不動産投資が盛んに行われており、積極的に古家を購入・リノベーションする投資家もいます。物件によっては古家を残した方が、多くの購入希望者を集められるかもしれません。
また古家でも問題なく住めるコンディションであれば、中古住宅を探している層にもアピールできます。「リフォーム代金分を安くする」などのメリットを提示すれば、古家でも購入希望者は現われるでしょう。
査定額より解体費用の方が高額な場合
解体費用が土地の査定額を上回る場合、更地にしても売却益は出ません。古家付きで売りに出した方が、利益を上げやすくなります。
解体費用が高くなるのは、主に以下のケースです。
- 家周辺の道が狭く重機が入れない
- 物件が古すぎる
- 解体後の廃材の処分に手間がかかる
重機が入れない古家は、人力で解体しなければなりません。追加される人件費が上乗せされ、解体費用が高額になる傾向です。
また築年数が古い物件は倒壊の恐れがあるため、解体作業は慎重に行わなければなりません。手間や時間がかかる分、費用も高くなります。
このほかに木くずやコンクリートなどの処理費用がかさむ場合も、高額の解体費用を請求されるでしょう。
解体して更地にして売却した方がよいケース
古家を解体した方がよいのは、売却を急ぐ場合・物件や土地に問題がある場合です。更地にしてしまった方がよいケースについて、詳しく見ていきましょう。
可能な限り早く売却したい
「早めに資金化したい」「すぐに現金が必要」といった事情がある場合、売却における優先順位は「時間」です。解体コストがかかっても、古家を解体して売却しやすい状態にすることをおすすめします。
更地であれば新築用の土地を探している人から土地活用を考えている人まで、幅広くアプローチが可能です。購入対象者が限定される古家付き土地と比較すると、購入希望者の手が挙がりやすくなります。
購入されやすいのは、以下のような特徴のある土地です。
- 通勤・通学しやすい
- 駅やバス停が近い
- 公共施設や金融機関が充実している
- 買い物しやすい
- 治安がよい
- 災害リスクが小さい
住みやすい土地や用途が豊富にある土地は、高い需要を見込めます。
建物の価値が低い・耐震性に問題がある
建築物には法定耐用年数が設定されており、これを超えると資産価値はなくなります。例えば木造であれば22年を過ぎると、資産としての価値は見込めません。残すよりも解体した方が売りやすくなります。
また現行の建物は、1981年6月1日に改正された建築基準法に準拠するのが決まりです。改定前に建てられた古家は耐震基準を満たしておらず、「地震による倒壊リスクが高い」「耐震工事をしないと住宅ローン減税を受けられない」などのデメリットがあります。
古家が購入希望者のネックになるような場合は、更地にしてしまうのがおすすめです。
建物の維持・管理ができない
「遠方に引っ越す」「忙しい」といった事情を抱えたケースでは、古家を解体してしまった方が不安なく過ごせます。古家の維持・管理には、相応の手間とコストがかかるためです。
人が住まなくなった家を放置すると、傷みが進みます。定期的に古家に足を運び、換気・通風を行ったり、掃除をしたりしなければなりません。古家に庭があるなら、庭木の剪定や草むしりも必要です。
また空家の状態で長く放置すると、動物や不審者が住む・不審火が発生するなどのリスクがあります。売却に時間がかかれば「特定空家」に指定され、行政から指導を受ける可能性もあるでしょう。
速やかに解体した方が、周囲にも迷惑をかけずに済みます。
古家付き土地の売却にかかる費用・税金
古家付き土地を売却すると、不動産会社に支払う費用や税金が発生します。売却価格を設定するときは、出ていくお金・入ってくるお金のバランスを考えましょう。古家付き土地の売却にかかる費用や税金、解体する場合の解体費用を紹介します。
売却にかかる費用・税金
古家付き土地の売却で必要となるのは、主に以下の費用や税金です。
- 仲介手数料
- 譲渡所得税
- 印紙税
- 登記・抵当権抹消などにかかる費用
- 測量費用(必要な場合)
不動産会社の仲介手数料は「宅地建物取引業法」により上限が定められており、不動産売買価格(税別)に応じて以下の手数料が発生します。
不動産売買価格 | 仲介手数料の上限 |
---|---|
200万円以下 | 売買価格×5%+消費税 |
200万円超400万円以下 | 売買価格×4%+2万円+消費税 |
400万円超 | 売買価格×4%+2万円+消費税 |
譲渡所得税は不動産などの売却により生じた利益にかかる、所得税と住民税です。税額は「課税譲渡所得金額」に特定の税率をかけて算出します。
課税譲渡所得金額=譲渡価額−(取得費+譲渡費用)−特別控除額(一定の場合)
譲渡所得税の税率は、住宅を所有した年数が5年以下か5年超かにより異なります。古家の場合は5年を超えているケースが多いため、税率は「20.315%」です。なお適用できる控除がある場合は、その金額を差し引いて計算できます。
印紙税は不動産売買契約書に貼付する印紙代金です。税率は印紙税法によって定められており、税額は契約金額によって以下のように異なります。なお、記載金額が10万円を超える不動産譲渡の契約書は、2024年3月31日まで軽減税率の対象です。
記載金額 | 印紙税額 | 軽減措置適用後の印紙税額 |
---|---|---|
100万円を超え500万円以下のもの | 2,000円 | 1,000円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの | 1万円 | 5,000円 |
1,000万円を超え5,000万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5,000万円を超え1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
このほかに不動産の抵当権抹消登記では、登録免許税が必要です。税額は1つの不動産につき1,000円となります。古家付き土地の場合には、「土地+家」で2,000円となるでしょう。測量費用は測量図があれば不要です。
建物の解体にかかる費用
解体費用は古家の構造と坪数によって異なります。業者によって違いはありますが、以下の金額を目安としましょう。
古家の構造 | 解体費用の目安 |
---|---|
木造 | 4万~5万円/坪 |
軽量鉄骨造 | 6万〜6万5,000円/坪 |
重量鉄骨造 | 6万5,000〜7万円/坪 |
RC造 | 6万〜8万円/坪 |
例えば40坪の木造家屋を解体した場合は、「4万〜5万円×40」で計算できます。おおよその解体費用は160~200万円です。
解体費用を安くするポイントは、複数の業者から見積もりを取ること・不用品やゴミなどを処分しておくことです。
特に業者によって工事費・施工内容は異なるため、3社以上から見積もりを取り、内容を比較・精査することをおすすめします。
古家付き土地の売却方法に迷った場合は不動産会社に相談を
古家付き土地の売却を検討する場合、古家の扱いをどうするかがポイントといえます。売却の可能性を高めたい・すぐに売却したいなどと考えるのであれば、更地にしてしまうのがおすすめです。管理に手間をかけられない人も、速やかに解体した方が不安なく過ごせます。
一方で売却を急がない場合・建物に価値がある場合は、古家を残して購入希望者を待つのも1つの方法です。
判断が難しい場合は、古家付き土地の売却実績が豊富な不動産会社に相談した方が、スムーズかつ負担なく売却できます。