「毎月の入退社手続きに追われ、月末月初は残業が常態化している」「手入力によるミスが怖く、何度もダブルチェックしている」「本来やるべき制度設計や採用業務に時間を使えない」 中堅企業の人事労務部門において、このような悩みは共通の課題です。


特に、紙とExcelが中心の社会保険手続きは、業務を圧迫する主要因です。しかし、どの自動化手法が自社に最適なのか、判断基準が分からず一歩を踏み出せないケースも少なくありません。
この記事では社会保険手続きにおける自動化の方法をご紹介。企業課題に即した「最適解」の選び方も解説します。

「毎月の入退社手続きに追われ、コア業務に集中できない」 「手入力によるミスや業務の属人化から今すぐ抜け出したい」
その課題、特定のツール導入の前に、「AI自動化」と「業務委託(BPaaS)」を組み合わせた「最適解」の検討から始めませんか?
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社会保険手続きを自動化する4つの方法と「自社に最適な解」の選び方
社会保険手続きの自動化には、大きく分けて4つの主要な方法が存在します。自社の規模、既存システム、そして「どこまでの業務を自動化したいか」に応じて、採るべき戦略は異なります。全体像と中堅企業にとっての「最適解」を迅速に診断します。
社会保険手続きの自動化、4つの主要な方法とは?
社会保険手続きを自動化・効率化するアプローチは、以下の4つに大別されます。
- 人事労務クラウドソフトの導入
- e-Gov(電子政府の総合窓口)への直接申請
- RPA / AI-OCRによる特定業務の自動化
- 社会保険労務士(社労士)連携 / BPO(外部委託)
企業規模・課題別「最適オートメーション」早わかりチャート
企業の成長フェーズやリソース状況によって、最適な選択肢は異なります。
| 企業規模(目安) | 課題・ニーズ | 最適な解 |
| スタートアップ(〜50名) | ・コスト最優先 ・まずは申請業務を効率化したい | e-Gov直接申請 または 低コストなクラウドソフト |
| 中堅企業(50〜300名) | ・入退社が毎月発生 ・情報収集〜申請まで一気通貫したい ・既存の給与/勤怠と連携したい | 人事労務クラウドソフト(本命) |
| 大企業(300名〜) | ・複雑な人事制度 ・既存の基幹システム(ERP)がある ・グループ会社間連携 | 基幹システム連携 または RPA/BPOとの併用 |
150名規模のペルソナにとって、従業員情報の収集から電子申請までを「一気通貫」で効率化できる人事労務クラウドソフトが、最も費用対効果の高い本命の選択肢となります。
各方法のメリット・デメリット早見表
| 自動化の方法 | 手作業削減効果 | ミス防止効果 | 導入コスト | 運用難易度(内製) |
| 1. 人事労務クラウドソフト | ◎ | ◎ | 中 | 低 |
| 2. e-Gov直接申請 | △ | ○ | 低 | 中 |
| 3. RPA / AI-OCR | ○ | ○ | 高 | 高 |
| 4. 社労士連携 / BPO | ◎ | ◎ | 高 | 低 |
なぜ今、社会保険手続きの自動化が「待ったなし」なのか?

紙ベースの手続きが経営リスクを生む一方、国の電子申請義務化は中堅企業にもDXの波を及ぼしており、社会保険手続きの自動化は「待ったなし」の経営課題です。
「紙とExcel」が引き起こす3つの経営リスク
多くの企業が、旧態依然とした業務プロセスが引き起こすリスクに直面しています。人事労務担当者の6割以上が自身の業務に不安を感じており(※)、その不安な業務の上位には「入退社処理」が含まれます。
3名体制は決して珍しくなく、実際には過半数の企業が「2人以下体制」で労務業務を回しているというデータもあります。この少数精鋭体制が、「紙とExcel」運用と組み合わさることで、以下の3つの経営リスクを増大させます。
- オペレーションミスの発生: 手入力による転記ミスや、複雑な保険料計算のミスは、従業員の不信感や行政指導に直結します。
- コア業務の圧迫: 入退社手続きのような定型業務に忙殺され、人事戦略、制度設計、採用強化といった、企業の成長に直結する「コア業務」に着手できません。
- 担当者の疲弊と離職: 責任の重圧と終わらない単純作業は、担当者のモチベーションを著しく低下させ、最悪の場合、業務が属人化したまま離職するリスクをはらみます。
2020年から続く「電子申請義務化」の現状と今後の動向
「まだ手作業でも回っている」という認識は、もはや通用しなくなりつつあります。
2020年4月、資本金1億円を超える特定の法人において、社会保険・労働保険の一部手続き(資格取得届、喪失届など)の電子申請が義務化されました。現時点で中堅企業は義務化の対象外かもしれませんが、これは国策として「行政手続きのデジタル化」が不可逆的に進んでいる証拠です。
さらに、人事労務部門の業務は、法改正によって今後さらに煩雑化することが確定しています。
- 2024年10月: 社会保険の適用拡大(従業員数51名~100人規模の企業へ)
- 2025年: 育児・介護休業法の改正(両立支援の拡充)
他の業務負担が増え続けるからこそ、「社会保険手続き」のような定型業務は、今すぐ自動化に着手し、リソースを確保すべきなのです。
【方法1:本命】人事労務クラウドソフトによる自動化

人事労務ソフトが中堅企業に最適な理由は、情報収集から申請までを「一気通貫」で変革できる点にあります。重要なのは、機能の多さよりも、自社の既存システムとの連携性やサポート体制を見極めて選定することです。
なぜ中堅企業に最適なのか? 業務プロセス全体の変革
最大の理由は、システム間の連携不足による非効率を根本から解決できる点にあります。
驚くべきことに、何らかのシステム化を行ったバックオフィス担当者の8割以上が「業務負担が軽減されていない」と回答(※)しています。その最大の理由(60.8%)が「システム間の連携ができていない」ことです。
個別の業務がデジタル化されても、システム間でデータを手入力で転記していては、本質的な自動化は実現しません。
人事労務クラウドソフトは、これまで分断されていた「従業員情報の収集」「社会保険の帳票作成」「e-Govによる電子申請」というプロセスを一つに統合します。政府(e-Gov)自身も、直接申請だけでなく「電子申請APIに対応した市販のソフトウェア」の利用を推奨しており、この「一気通貫」こそが本命とされる理由です。
従業員情報の「収集」から「申請」までの流れ
クラウドソフトが実現する業務フローは、従来の紙運用とは根本的に異なります。
- (収集)従業員が直接入力: 入社予定者が、PCやスマートフォンから直接、扶養情報や年金手帳の画像などをシステムに入力します。
- (承認)管理者が確認: 人事は入力された内容をシステム上で確認し、承認します。紙の回収やスキャン、Excelへの転記作業は発生しません。
- (作成)データ自動反映: 承認されたデータは、社会保険の資格取得届や雇用保険の帳票に自動で反映されます。
- (申請)ワンクリックで電子申請: 作成された帳票を、システム内のボタン一つでe-GovとAPI連携し、電子申請が完了します。
【方法2:特定業務特化】RPA・AI-OCRによる自動化

RPAやAI-OCRは、既存システム間のデータ転記や紙書類のデジタル化といった「特定業務」には有効ですが、導入失敗の典型パターンも存在するため、クラウドソフトで対応できない場合の補完的な選択肢と位置づけるべきです。
RPAが得意なこと(既存システム間のデータ転記)
RPA(Robotic Process Automation)は、PC上の定型的な操作を自動化する技術です。どうしても既存の基幹システムを変更できない、あるいはクラウドソフトを導入できない事情がある場合、システムAからBへデータを転記するといった作業を自動化する選択肢となります。
AI-OCRとの連携(紙の書類がゼロにならない場合の最終手段)
年末調整の扶養控除申告書など、どうしても紙での提出がゼロにならない場合、AI-OCR(光学的文字認識)で紙を読み取り、データ化する方法があります。
しかし、これは最終手段と考えるべきです。AI-OCRは読み取り精度が100%ではないため、必ず目視での確認・修正作業が発生します。方法1(クラウドソフト)で解説したように、従業員に直接システム入力してもらうことで、紙の発生自体をなくすアプローチ(ペーパーレス化)を優先的に検討すべきです。
注意点:RPA導入が失敗する典型的なパターン
RPA導入は、専門知識がないまま進めると失敗しやすい手法です。 特定の担当者しかメンテナンスできない「野良ロボット」が乱立したり、行政の帳票フォーマット変更や社内の業務フロー変更が起きた途端にロボットが停止し、かえって業務が混乱したりするケースが後を絶ちません。
【方法3:外部委託】社会保険労務士(社労士)連携・BPO

アウトソース(BPO)は、法改正対応を丸投げできるメリットがありますが、コスト構造の違いや業務のブラックボックス化リスクを内製化(自動化)と比較検討する必要があります。
「自動化(内製化)」vs「アウトソース」徹底比較
社会保険手続きを自社から切り離す「アウトソース」は、内製化(自動化)とは対極のアプローチです。
| 比較軸 | 自動化(内製化) | アウトソース(BPO / 社労士) |
| コスト構造 | システム利用料(固定費) | 従業員数に応じた従量課金(変動費) |
| 法改正対応 | 自社でキャッチアップ(ソフトが対応) | 委託先が対応(丸投げ可能) |
| 業務プロセス | 可視化・効率化される | ブラックボックス化しやすい |
| リアルタイム性 | 必要な時に即時対応可能 | 委託先とのやり取りが発生 |
アウトソースを選ぶべき企業の特徴
アウトソースは、専門性の高い助成金申請なども含めて労務業務をすべて外部に委託し、人事をはじめとする従業員全員がコア業務に極端に集中したい場合に有効です。
ただし、150名規模程度の企業では、従業員数の増加に伴いBPOコストも上昇し続けるため、中長期的には月額固定費で利用できるクラウドソフトで内製化(自動化)する方が、トータルコストを抑えられる可能性が高いと言えます。
【実践ロードマップ】自動化の検討開始から運用定着までの「5ステップ」

社会保険手続きの自動化は、導入して終わりではありません。課題の可視化から始まり、現場を巻き込んだ体制構築、データ移行、そして運用ルールの定着化という5つのステップを確実に実行することが成功の鍵です。
ステップ1:課題の可視化(「どの業務」に「何時間」かかっているか)
まずは現状把握です。「入社手続き」や「月変算定」など、どの業務に、毎月どれだけの工数(時間)がかかっているかを棚卸しします。この客観的な数値が、後の経営説得(ROI試算)の基礎データとなります。
ステップ2:方法の選定とRFI/RFP(「自社に合うか」の見極め)
課題が可視化できたら、本記事の比較チャートを参考に、自社に合う方法(例:クラウドソフト)を選定します。その際、既存の給与計算ソフトとの連携可否など、譲れない要件(RFP:提案依頼書)を定義することが重要です。
ステップ3:導入体制の構築(つまずきポイント:現場の巻き込み)
システム導入は人事部だけで完結しません。従業員データの管理やPC設定では情報システム部の協力が、実際の運用では従業員全員の協力が不可欠です。「なぜ導入するのか」「導入するとどう楽になるのか」を丁寧に説明し、現場を巻き込む体制を構築します。
ステップ4:データ移行とテスト運用(つまずきポイント:既存データの不備)
最もつまずきやすいのが、既存データの移行です。長年Excelで管理してきた従業員台帳のデータが汚れていたり、項目が統一されていなかったりすると、新システムへの移行に膨大な時間がかかります。必ずテスト運用期間を設け、実際の業務フローで問題なく動くか検証します。
ステップ5:運用ルールの策定と定着化
新しいシステムが稼働したら、それを「当たり前」の業務フローとして定着させます。「いつまでに」「誰が」システムに入力・承認するのかを明確にルール化し、社内マニュアルを整備します。導入して終わりではなく、ここからがスタートです。
ROI(費用対効果)の試算と予算獲得のコツ

予算獲得の鍵は、工数削減による「定量的メリット」の試算と、ミスの撲滅や従業員満足度向上といった「定性的なメリット」を経営陣に明確に提示することです。
試算モデル:人事労務ソフト導入で「年間〇〇時間の工数削減」
ステップ1で可視化した工数に基づき、具体的な削減効果を試算します。
【試算モデル】
- 現状の課題: 月10名の入社手続きに、人事担当者が合計月5時間を費やしている。(時給3,000円換算で月15,000円のコスト)
- 導入後の効果: 業務が月1時間に短縮(月4時間の工数削減)。
- 定量的メリット: 月4時間 × 時給3,000円 = 月額12,000円(年間144,000円)の直接的な人件費削減効果。
- 投資対効果: 仮にシステム費用が月額30,000円(従業員100名、月300円/人の場合 ※ヨウケン調査参考)だとしても、この入社手続き業務だけでコストの約40%を回収できる計算になります。実際には、退社手続き、月変算定、年末調整など他の業務の削減効果も加わります。
コスト削減だけではない「定性的なメリット」の伝え方
経営陣は、数字に換算しにくい「定性的なメリット」も重視します。
- ミスの撲滅と信頼性向上: 手入力や転記がゼロになることで、社会保険の加入漏れや保険料の計算ミスといった重大なリスクを撲滅できます。これは企業のコンプライアンス強化に直結します。
- 人事のコア業務時間の創出: 削減した月4時間を、採用面接や従業員エンゲージメント向上の施策に充てることで、企業の成長に直接貢献できます。
- 従業員満足度の向上: SmartHRの導入事例では、「工数削減だけでなく『気持ちの問題』も大きい。新入社員の情報を(手入力ミスなどで)待たせるストレスがなくなった」という声が挙がっています。面倒な手続きがスマホで完結することは、従業員体験(EX)の向上にも繋がります。
社会保険手続きの自動化は、守りから「攻め」への第一歩
社会保険手続きの自動化は、単なるコスト削減(守り)の施策ではありません。それは、人事労務部門が定型業務から解放され、企業の成長を牽引する戦略的な「攻め」の部門へと変革するための第一歩です。
150名規模の中堅企業にとって、その最適解は人事労務クラウドソフトの導入による「一気通貫」の業務プロセス改革である可能性が極めて高いです。
まずは、本記事の「実践ロードマップ」ステップ1に立ち返り、「自社のどの業務に、何時間かかっているか」を可視化することから始めてください。その客観的なデータこそが、自動化への確実な一歩を踏み出し、予算を獲得するための最強の武器となります。
「どの自動化手法が最適か」判断にお悩みではありませんか?

「結局、自社にはどの方法が一番合うのか判断できない」
「クラウドソフト導入後の『ツール間の連携』が本当にうまくいくか不安」
「まずは『課題の可視化』から、とあるが、誰に相談すればいいか分からない」
社会保険手続き自動化の選択肢(クラウドソフト、RPA、BPO)は理解できたものの、このような悩みをお持ちではないでしょうか。
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