SaaSを導入したものの、「現場で全く使われない」「Excel業務から脱却できない」「高いライセンス費用だけがかさんでいる」このような課題は、決して貴社だけの問題ではありません。ある調査では、実に経営者の67.4%がSaaS製品の導入に失敗した経験があると回答しています(※)。


経営層からは成果を問われ、現場からは「使いにくい」と抵抗にあう中で、「なぜSaaSを活用できないのか」と深く悩まれている推進担当者様も多いはずです。
本記事では、SaaS活用が失敗する根本的な理由を「導入フェーズ別」に徹底解剖。さらに、単なる理由の解説に留まらず、一度停滞した状態からでも活用をV字回復させるための、具体的な「再推進ロードマップ」を解説します。

SaaSが活用されない原因は様々ですが、「推進担当者が多忙で、改善活動に手が回らない」ことが根本原因ではないでしょうか。その時間を奪う「ツール間の入力作業」や「属人化した業務」の解決には、「AIによる “作業” 自動化」か「BPaaSによる “業務ごと” の外部化」が有効です。
ミツモアの業務支援サービスでは貴社の状況をヒアリングして、両者を組み合わせた最適な解決策をご提案します。SaaS活用の「本当のボトルネック」を解消する最適解を確認しませんか?
なぜSaaSは活用されないのか? 失敗に繋がる7つの代表的な理由

SaaS活用が失敗する理由は、ツールの機能(SaaS自体)の問題であることは稀です。失敗の多くは、導入を推進する「組織・体制」や「計画・プロセス」に起因します。代表的な理由は以下の7つに集約されます。
〈SaaSを活用できない7つの理由〉
- 導入目的の形骸化(「導入」がゴールになっている)
- 現場の業務フローとの深刻なミスマッチ
- 推進体制の不在と「丸投げ」
- 現場のリテラシー不足と教育の欠如
- 費用対効果(ROI)のブラックボックス化
- 既存システムとの連携不全(データのサイロ化)
- 「オーバースペック」による機能疲弊
【理由1】導入目的の形骸化(「導入」がゴールになっている)
経営層の「DX推進」という号令のもと、SaaSを導入すること自体が目的化するケースです。多くの企業がDXに「コスト削減・生産性の向上」を期待しますが、「どの業務課題を、どのように解決するか」という現場レベルでの合意がなければ、ツールは使われません。
これは、DXを「レガシー刷新」という技術導入と誤解し、本来の目的である「収益向上」へのマインドセットが欠如している典型的な失敗です。
【理由2】現場の業務フローとの深刻なミスマッチ
既存の複雑な業務フローをSaaSに無理やり合わせようとしたり、逆にSaaSの標準機能から逸脱したカスタマイズを求めたりして、かえって業務が非効率になるケースです。
現場がSaaSを使いこなせない最大の理由は「システムの分かりにくさ」にあります。「前のExcelの方が早い」という不満は、このミスマッチから生まれます。
【理由3】推進体制の不在と「丸投げ」
導入を情報システム部門や特定担当者に「丸投げ」し、業務部門や経営層が活用推進にコミットしないケースです。
多くの企業でDX推進を担う専門人材は構造的に不足しています。結果として、推進担当者が孤立し、本来必要なチェンジマネジメントが機能不全に陥ります。
【理由4】現場のリテラシー不足と教育の欠如
ツールの使い方に関する研修が不十分で、現場が「使い方がわからない」状態のまま放置されるケースです。
従業員の約59%がSaaSを使いこなせていないと感じている(※)というデータは、教育・サポート体制の欠如がSaaSの定着しない大きな理由であることを示しています。
【理由5】費用対効果(ROI)のブラックボックス化
SaaS導入によって「どれだけの工数が削減されたか」「売上がどれだけ向上したか」を測定する基準(KPI)がなく、効果が見えないため、継続利用のモチベーションが低下するケースです。
経営層が期待する「コスト削減」に応えるためにも、ROIの可視化は必須です。例えば「人件費削減額」や「LTV(顧客生涯価値)」といった指標を用い、投資対効果を明確に定義しなかったことが失敗に繋がります。
【理由6】既存システムとの連携不全(データのサイロ化)
SaaSが既存の基幹システムや他のSaaSと連携できず、二重入力が発生するなど、業務が煩雑化するケースです。
特に中堅企業では無秩序なSaaS導入(SaaSスプロール)が進み、1割以上が50種類以上のSaaSを導入している実態があります(※)。この結果、システム間の連携が複雑化し、データのサイロ化を招いています。
【理由7】「オーバースペック」による機能疲弊
将来性や多機能性を重視しすぎた結果、現場のニーズに対して機能が過剰(オーバースペック)となり、UI/UXが複雑化して使いこなせないケースです。SaaSが活用されない最大の理由が「システムの複雑さ」(※)であることからも、多機能性がかえって現場の「機能疲弊」を引き起こし、定着を妨げていることが分かります。
失敗の根本原因はどこにある?SaaS活用失敗の診断チェックリスト【導入フェーズ別】
上記の7つの理由は、独立して存在するわけではありません。多くの場合、「導入計画」の失敗が「導入後」の定着失敗という結果に繋がっています。自社がどのフェーズで躓いたのか、以下のチェックリストで根本原因を診断してください。
フェーズ1:導入「計画」フェーズの失敗
最も多くの失敗が潜む、SaaS導入の「上流工程」です。ここでボタンを掛け違えると、後の努力がすべて無駄になる可能性があります。
- □「なぜ」導入するのか、解決すべき課題(AsIs/ToBe)を定義しなかった
- □ 現場の業務フローを詳細にヒアリングせず、推進部門だけでツールを選定した
- □ 導入効果を測るためのKPI(重要業績評価指標)を設定しなかった
- □ 既存システムとの連携要件を定義しなかった
フェーズ2:導入「実行」フェーズの失敗
計画は完璧でも、現場を巻き込む「実行力」が伴わなければ変革は進みません。特に「人」に関わるプロセスでの失敗が目立ちます。
- □ 経営層が「SaaSを導入し、業務を変革する」という強力なメッセージを発信しなかった
- □ 導入・運用ルールを曖昧にしたまま「とりあえず使い始めて」しまった
- □ 現場のキーマンや抵抗勢力を巻き込むプロセスを軽視した
- □ 使い方研修を「一度きりの座学」で終わらせてしまった
フェーズ3:導入「後・定着」フェーズの失敗
SaaSは導入してからが本番です。継続的な改善プロセス(=サービス運用)の欠如が、徐々に「使われない」状況を生み出します。
- □ 活用状況をモニタリングする仕組み(ダッシュボード等)がない
- □ 現場からの質問や要望に対応するヘルプデスク体制が機能していない
- □ 「使っている人」を評価する仕組みがなく、「使わなくても困らない」状態を放置した
SaaS活用失敗からでも間に合う! 停滞を打破する「再推進」の5ステップ

一度活用が停滞したSaaSを再浮上させるのは、新規導入よりも困難です。しかし、正しいステップを踏めばV字回復は可能です。「なぜ使われないか」を責めるのではなく、「どうすれば使いたくなるか」へ視点を転換する「再推進」の5ステップを解説します。
ステップ1:現状のアセスメントと課題の再定義
まずは現実を直視します。SaaSのログイン率、データ入力率、利用されていない「ゴーストアカウント」の数を定量的に把握してください。同時に、現場へのヒアリングを実施します。この際、Prosci社のADKARモデル(30)を参考に、「なぜ必要か分からない(認知の問題)」のか、「使いたくない(欲求の問題)」のか、原因の所在を特定します。
ステップ2:経営層の「再コミットメント」の獲得
推進担当者が最も苦労する点です。ステップ1のアセスメント結果を基に、「このまま停滞した場合の損失(高額なライセンス費用、DXの遅れ)」と「再推進した場合の期待効果」を資料にまとめます。
この時、感情論ではなく、具体的なROI計算式やLTV:CAC比といったKPIを用いて、「投資回収のシナリオ」を提示し、経営層に「再度、旗を振ってもらう」約束を取り付けます。
ステップ3:スコープ(対象)を絞り込み、「スモールウィン」を設計する
全社一斉の再推進は必ず失敗します。大きな変革を進めるためには、まずは目に見える成功が不可欠です。
最も協力的(または最も課題感が強い)な一部門・一業務にスコープを限定し、「SaaSを使えば、確実にこの業務が楽になる」という小さな成功体験(スモールウィン)を意図的に創出します。
ステップ4:現場の「活用ヒーロー」を特定し、横展開する
スモールウィンを達成した現場の担当者を「活用ヒーロー(アンバサダー)」として任命します。これは組織変革を推進する上で、現場に影響力を持つキーパーソンを巻き込んで強力な推進体制を築くアプローチに相当します。
推進部門が機能のメリットを語るより、現場のヒーローが「こう使ったら楽になった」と事例共有する方が、遥かに強力な伝播力を持ちます。
ステップ5:「クイック・レスポンス」体制の構築
再推進の過程で必ず出てくる現場の「わからない」という声に、即座に対応(レスポンス)する体制を構築します。チャットサポートや相談会に加え、デジタルアダプションプラットフォーム(DAP)の活用も有効です。DAPはSaaS画面上に操作ガイドを直接表示し、ユーザーの自己解決を促します。
実際にサントリービジネスシステムでは問い合わせを9割削減(※1)、日東電工では問い合わせを3〜4割削減(※2)する成果を上げており、「聞けばすぐ解決する」という安心感が定着を加速させます。
SaaS活用を軌道に乗せるために「推進担当者」が持つべき3つの視点
V字回復ロードマップの実行には、推進担当者自身のマインドセット変革も不可欠です。持つべきは「システムの番人」ではなく、「現場の変革パートナー」としての視点です。
視点1:ツール導入担当者から変革推進者へ
あなたの仕事は「SaaSを導入すること」ではなく、「SaaSを使って業務を変革すること」です。経済産業省も指摘するように、DXの真の障壁は技術ではなく「レガシーな企業文化」(※)です。ツールの機能説明ではなく、業務がどう変わるかの「価値」を語り、社内向けの「サービス提供者」として継続的に改善を行う視点が求められます。
視点2:現場の「抵抗」は「変化への不安」の裏返しと捉える
「前のやり方が良い」という現場は、敵ではありません。その言葉の裏には、新しいやり方への「不安」や、慣れたスキルを失うことへの「抵抗」、習得の「面倒さ」といった自然な感情が隠されています。彼らの不安を力で押さえつけるのではなく、共感し、取り除くコミュニケーションを最優先すべきです。
視点3:「完璧な運用」より「60点でも使い始める」文化を醸成する
SaaSは導入後に改善を繰り返す(アジャイル)ことが前提のツールです。最初から100点満点の完璧な運用ルールを目指す必要はありません。それはSaaS導入を一過性の「プロジェクト」と捉える古い考え方です。まずは60点で使い始め、データを見ながら改善する「サービス」としてのプロセスを経営層・現場と合意することが重要です。
まとめ:SaaS活用は「導入したら終わり」ではない。V字回復は必ず可能

SaaSを活用できない理由は、ツールそのものではなく、計画、実行、定着の各フェーズにおける組織的な課題にあります。多くの企業が導入に失敗している一方で、それは「よくある失敗」であり、決して挽回不可能ではありません。
重要なのは、失敗の原因を「導入フェーズ別」に正しく診断し、「なぜ使わないか」という過去の追求から、「どうすれば使いたくなるか」という未来の設計へと視点を切り替えることです。
本記事で解説したV字回復ロードマップは、現場の抵抗という「人の問題」と向き合い、経営層を「再説得」し、スモールウィンから変革の渦を広げていく実践的なプロセスです。推進担当者であるあなたが「システムの番人」から「変革のパートナー」へと役割を変革し、正しいステップを踏むならば、プロジェクトのV字回復は必ず可能です。
SaaS活用「V字回復ロードマップ」、実行する体制・リソースはありますか?

記事で解説した「再推進の5ステップ」。 しかし、多くの推進担当者様が直面するのは、以下のような「リソース不足」の壁です。
- 「アセスメントや経営層への説明資料を作る時間がない」
- 「そもそも、ツール間の手作業や入力業務に追われ、改善活動に着手できない」
- 「SaaS推進を任されたが、実質”一人情シス”で手が回らない」
SaaSの再推進(V字回復)を成功させるには、まず担当者が「改善活動に集中できる時間」を生み出す必要があります。
その時間を奪っている「ツール間の手作業」や「属人化したノンコア業務」こそ、 「AIエージェントによる “作業” の自動化」や「BPaaSによる “業務ごと” の外部化」で解決すべき課題です。
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